2014年12月29日月曜日

インターステラー

新たなカルトムービーの誕生。ユナイテッドシネマ豊洲クリストファー・ノーラン監督作品『インターステラー』を観賞しました。

近未来のアメリカ中西部穀倉地帯。度重なる砂嵐と飢饉。いずれ植物が絶え、酸素と食糧不足で人類は滅亡の危機に晒されている。軍隊は解体され、表向き活動を停止していたNASAが秘密裏に進めていた他銀河惑星への移住計画。引退後農業を継いだクーパー(マシュー・マコノヒー)は砂嵐が起こしたモールス信号に導かれて宇宙飛行士に戻ることに。

「幽霊は科学的じゃないな」「未知を認めるのが科学よ」。父娘の絆を描いた泣かせる話という体の予告編だが、ノーラン監督のオリジナルストーリーは実際には量子物理学と相対性理論に立脚する硬派SF。そのうえで、ひとりひとりの登場人物の信念も醜悪さもしっかり描いた重厚なヒューマンドラマが展開する3時間の大作です。

「愛は人間が発明したものじゃない。観察可能な"力"よ」。クーパーも宇宙船乗組員のブランド博士(アン・ハサウェイ)も氷の星に先行したマン博士(マット・デイモン)も、人類の種の承継という大義と、生き延びたい、家族や恋人と再会したい、という個々の欲望とのあいだで揺れる。そのさまが宇宙空間にあってあまりにも人間臭い。

テレンス・マリック監督の名作『天国の日々』を思わせるカントリーサイドの乾いた風景やアンティークな家具調度、ピックアップトラック、コンバイン。スタリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』の石版(タブレット)が、埃をかぶったノートPCや直方体の人工知能TARSに重なります。

氷の星はアイスランドの実景。CGを使わない昔ながらの特撮技術が画面にもアナログで豊かな質感を与えている。ロボットのTARSCASEが有能な上にチャーミングで、そのユーモアがともすれば重苦しくなりがちなテーマに人間的な温かみを加えています。

申し訳ないぐらい郷土愛のない僕ですが、地球には帰って来たいかも、と思いました。


2014年12月20日土曜日

おためしになって

ポップな実験演劇という趣き。大崎のIZUMO GALLERYで、セカイ三大美女 上演会#01「おためしになって」を鑑賞しました。セカイ三大美女は戯曲家2人とコント作家、書家の演劇制作ユニット。「三大」なのにメンバーは女性が4人。このあたりから既にズラしが始まっています。

上演された演目は4つ。『アングラ☆リーガル』は杜若ユウキさんの作。地下アイドルと弁護士のカップルがアイドルユニットの相方をプロダクションの悪徳社長から助ける話。

『コント 解散ライブ』はその後日談。誕生日なのに興味のないアイドルのライブに連れて来られたコールリーダーの彼女が、実は特殊な能力を持っていた。

『コント 決めて』はコールリーダーがバイトしている焼き鳥屋の屋上喫煙所が舞台。優柔不断極まりない男(コールリーダー)が実は国家の重要事項に関与していた。この2篇のコントはヲガタアコカさん作

そして最後に五郎丸ミドリさんが書いた『おつかれでぃー!』。アイドルユニットの片割れ(実は司法修習生)が先輩OLに居酒屋でくだをまかれる話。元彼が焼き鳥屋のもうひとりのアルバイト。メモワール。

ギャラリーの白い壁一面に貼られた松崎修子さんの書。「社長、契約書を見せていただいてもいいですか」「電車が来たから」等々。はじめはシュールな日めくり風味か、なぜ演劇ユニットに書家? という疑問はお芝居が進むにつれて氷解します。科白の断片なのです。それがテロップのような、でも視界に残り続けるので、変な感じを醸し出す。

それ以外にも半紙に書かれた文字が法律の条文や登場人物の内声を効果的に表す演出です。4つのストリーの登場人物が薄く絡み合って、ひとつの空気を創造する。主宰の五郎丸ミドリさんの安定した演出の手腕。役者陣では、白勢未生さんオフィスプロジェクトM)と堀晃大さん(3days)の熱演が光ります。

2時間の上演があっという間に終わる頃には雨も上がり、大崎駅までの帰り道、目黒川護岸の桜並木にクリスマスのイルミネーションがピンク色に輝いていました。


2014年12月18日木曜日

Poemusica Vol.35

日本列島を寒波が覆った今週ですが、東京は快晴です。師走の下北沢はいつにもましてにぎやか。Workshop Lounge SEED SHIPで "Poemusica Vol.35" が開催されました。

過去ソロの弾き語りでPoemusicaに出演している古川麦くん関口将史さんとのデュオで(画像)。ガットギターとチェロの柔らかく優しい音色のなかにもスリリングなインタープレイが加わって、12月の夜らしいスペシャルな演奏です。出演決定後すぐにリクエストしたMel Torme の "The Christmas Song" も麦くんのしっとりと滑らかな声にぴったりでした。

ピアニスト/コンポーザーのはらかなこさん。彼女もいつもはソロで出演してもらっていましたが、今回はミニドラムジャーマン山根ポテトさんと丁々発止のアンサンブルで会場の温度を一気に上げました。ピアノインストに打楽器が加わることで彼女自身が持っているクリスプで溌剌としたリズム感が前面に。会うたびに新しい魅力を見せてくれます。

そんな2組とは対照的に、ちみんさんがひとりで歌い始めると凛とした空気が徐々に広がり客席全体を静かに蔽います。人の声を聴いたときに感じる美しさや心地良さというのはどこからやってくるのだろう、と彼女ののびやかで陰翳の深い歌声を聴きながら、僕はずっと考えていました。研ぎ澄まされたその音楽は言葉を軽々と越えて、どこか深い、でも適切な場所にすっと落ちる。

僕の出番は3回。はじめに故岸田衿子さんのクリスマスの詩「宿り木」と自作詩「チョコレートにとって基本的なこと」「新しい感情」。2回目は冬の詩3篇「」「舗道」「(タイトル)」。そして最後に、ちみんさんの「すべて」という曲にインスパイアされて書いた同名の「すべて」という詩を、ちみんさんご本人のギターに乗せて。そのまま彼女が歌いつないでくれました。

今回のミュージシャンは3組ともPoemusicaは3回目の出演です。僕としてはリラックスして接することができたのですが、彼らはそれぞれ初対面。お互いいい刺激になったようで、うれしく思います。

これで僕の2014年の詩のお仕事はおしまい。詩集を読んでくれた方々、朗読を聴いてくださったみなさん、素敵な出会いと再会に感謝します。おかげさまで充実した一年になりました。2015年最初のPoemusicaは1月15日。3周年ということで、スペシャルな回にしたいと思います。是非!

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Poemusica Vol.36 ポエムジカ 3周年
日時:2015年1月15日(木) Open18:30 Start19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円・当日2,600円(ドリンク代別)
出演:ノラオンナ(Vocal/Ukulele)
    アカリノート(Vocal/Guitar)
    The Letter(Vocal/Piano & Guitar/Chorus)
    三木聖香(Opening Act)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

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2014年12月14日日曜日

tico moon 「はじまりの鐘」リリースツアー~ファイナルコンサート~

会場のNAOT TOKYOは靴屋さん。ナチュラルで履き心地の良さそうなイスラエル産のレザーシューズを商っています。日の落ちた窓の下には隅田川がなみなみと水を湛えている。

tico moonはアイリッシュハープの吉野友加さんとアコースティックギターの影山俊彦さんのデュオです。7枚目のアルバム『はじまりの鐘』の1年間、全国36会場にわたるリリースツアーの最終日にお邪魔しました。

マイクスタンドに吊り下げられた小さなベルの音に導かれ、スローな3拍子の"predawn"で演奏が始まりました。短い休憩を挟んだ2部構成、アンコールの "Silent Night"まで全16曲。研ぎ澄まされ純度の高いふたりの音楽を堪能しました。

ハープの低音は、ソリッドな高音とは対照的にサスティンが長く柔らかで深みのある響き。ギターの低音弦も意図的にレガートで奏でられ、この2つの音が重なって会場全体を優しく蔽います。そこにかぶさる繊細なパッセージ。

ほぼ全曲がスローナンバーで、テンポを保つのも、空気を弛緩させないのも難しい構成だと思うのですが、まったく飽きることがなかったのは、彼らのアンサンブルにオルタナティブなグルーヴが内包されているからだと思います。

小さな白壁の会場全体をエレガントに響かせて、客席にいるひとりひとりが精巧なオルゴールの部品のひとつにでもなったかのよう。ただ椅子に座って目の前で紡がれる音に身を委ねているだけなのに、まぎれもなく音楽の創造に参加している感覚がありました。美しい体験をありがとうございます。

 

2014年12月7日日曜日

ノラオンナ・バラッドラリー VOL.30

音楽をスポーツにたとえるのは必ずしもしっくりいくことばかりではありませんが、ワンマンが長距離走、ブッキングイベントが中距離走だとしたら、このライブは100m走に匹敵するのではないかと思います。コンディショニングと集中力、使う神経と筋肉が違う。

のらっしー(O.A.)、水井涼佑唄子mayuluca松浦湊江村健アカリノート古川麦山田庵巳アサダマオ北山昌樹齊藤さっこほりおみわ倉谷和宏スーマー豊島たづみノラオンナ(出演順、敬称略)。

「~うたひとつ弾き語り17人による感謝祭~」という副題で、ノラオンナさんが声を掛けたキャリアもクオリティもある16人のシンガーソングライターが渾身の持ちネタを1曲だけ披露する一夜限りのショーを楽しみました。

生粋の歌謡曲育ちと公言して憚らないノラさんのことなので、この枠組みは『ザ・ベストテン』へのオマージュなのかもしれません。点数も順位もつきませんが、1曲で聴衆の心を捉えることに専心するという点において。

レースを走り終えたミュージシャンたちの達成感に満ちた表情にもそれが窺えます。ただ、競っているのは共演者ではなく、自分自身。そんな意味での緊張と弛緩と。それはソロプレーヤーがバトンをつなぐチームプレイでもあるのです。

故・大瀧詠一氏が最後のフルアルバムになってしまった『EACH TIME』発表後のインタビューで言っていたことを思い出しました。そのアルバムではピアニスト2人、ギタリスト4人をユニゾンで同録しています。ウォール・オブ・サウンズを構築する目的の他に、余計なアドリブを挟ませずに緊迫と充実を導き出すために。「ブースを出たミュージシャンたちが腕をぶんぶん振り回して、やり切ったって口々に言うから」と。

逆に、弾き語りというフォーマットは誰憚ることなく、自分のタイム感で空間を満たすことができる。しかし自由ゆえに高い技術と精神力が求められる。ノラさんはこの「1曲」という枠を当てることで出演者たちの「本気」を引き出したかったのかもしれません。

はじめてライブで聴いたみなさんもですが、特にPoemusicaやアサノラで接点の方々は僕にとっては自分の作品やパフォーマンスのクオリティを測る基準でもあります。彼らの作品に対して恥ずかしくない、きちんとしたものを創りたいと背筋が伸びる思いがしました。


 

2014年11月24日月曜日

天才スピヴェット

勤労感謝の日の振替休日は曇り空。シネスイッチ銀座で、ジャン=ピエール・ジュネ監督作品『天才スピヴェット』を観ました。

主人公は10歳の天才科学者T.S.スピヴェット(カイル・キャトレット)。米国西部モンタナ州の大草原にカウボーイの父(カラム・キース・レニー)、昆虫学者の母(ヘレナ・ボナム・カーター)、ミスUSAを目指す姉(ニーアム・ウィルソン)と暮らしている。二卵性双生児の弟(ジェイコブ・デイビーズ)を猟銃の暴発事故で亡くすが、失意のある日スミソニアン協会から一本の電話があった。永久運動機関の発明が認められたのだ。東部ワシントンD.C.の表彰式に出席するために家出したT.S.。アメリカ大陸横断の大冒険、そして一躍マスコミの寵児となる。

ジュネ監督初の3D作品はガジェット感溢れるチャーミングな佳作として永く愛されるでしょう。幼い子供を失った悲しみから立ち直れない家族はそれぞれの方向へ逃避の先を向けるのだが、それが先鋭化され過ぎコミカルで客席の笑いを誘う。主人公が貨物列車の無賃乗車とヒッチハイクの道中出会う奇妙な人々を、ドミニク・ピノンらジュネ映画の常連俳優たちが素っ頓狂に演じています。

「科学の地平を拡げるのは詩人の仕事だ」「無限なものがふたつだけある。宇宙と人間の愚かさだ」「水滴が素敵なのは最も抵抗の少ない経路を辿るから」。

主人公は自宅のテラスから固定電話までの道筋を複数想定してSWOT比較するような理屈っぽいところがあって、僕も彼ほどではありませんが、子供の頃はそんな傾向があったので、痛くも共感できました。また演じるカイル・キャレットが上手い。壊れてしまった方位磁針と鳥の骨格標本を手放すシーンの微妙な表情なんかもう大御所感すら漂わせています。

3Dも独創的です。場面転換の飛び出す絵本や登場人物の脳内がホログラム的に宙に浮くヴィジョン、蛍火、紙吹雪、振り子、連結器。観客を驚かすのではなく、思考や妄想にリアリティを与える目的で使われているように感じます。

ジュネ監督ならではのジャンクでレロトフューチャーなマシンや水の描写、斜め下方から表情のアップに迫るカメラワークも健在です。『アメリ』でファンになった人にも、『ロスト・チルドレン』や『エイリアン4』が好きな方にもお勧めします。

 

2014年11月20日木曜日

Poemusica Vol.34

11月も後半に入り、晩秋というよりは初冬の雨。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで "Poemusica Vol.34" が開催されました。今回のPoemusicaはSEED SHIP初登場のミュージシャン3組との共演と相成りました

成瀬ブルックリンさん。今年の春に佐賀から東京に活動の拠点を移しました。オフステージではメタルフレームの眼鏡が似合う物静かな青年。目元にいつも穏やかな微笑を湛え知的な印象です。ところがひとたびステージに上がると、ハイパーイテンション。セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、と店名だけをドラマチックに連呼するスタジアムロック「コンビニ」。知性故に見えてしまう虚無をゴージャスなエンターテインメントに転換する才能の持ち主です。

対照的にツカダコージさんはまっすぐな歌を唄います。長野県松本市出身。全国各地のストリートライブで鍛えられた声とギターは強く安定感があるが、瑞々しさを失っていない。七分丈のパンツにワークシューズ、ボタンダウンにボウタイ、というファッションで、とても礼儀正しく、差し入れで持って行ったドーナツの食べっぷりの良さといい、藤田悠治くんを思い出して、ちょっぴりしんみりしてしまいました。今日も地球のどこかで唄っているのかな。

真夏に吉祥寺BAOBABではじめて聴いた森田崇允さん。お願いしてその時と同じトリオ編成で出演していただきました。グルーヴィなガットギターのリフにヴァイオリンとボタン・アコーディオンが重なる心地良いサウンドはエキゾチックで時々ノスタルジック。すこし頼りなげなボーカルがそのゆらぎゆえにソウルフルに響くという奇跡的なバランス。濃密な音響空間を創造しています。また今回めずらしく出演者が全員男子でしたが、五島奈美子さん(Vn)の美貌と竹廣類さん(Acc)の愛らしさが華を添えてくれました。

僕は「無題(静かな夜~)」、"Unversal Boardwalk"より「十一月」、数年ぶりにカセットテープのブレイクビーツを使って「山と渓谷」、「ANOTHER GREEN WORLD」と先月ハロウィンの夜に書いた新作「線描画のような街」の5篇を朗読しました。

今回のPoemusicaはびっくりするぐらいお客様が少なかった。雨の平日夜で、とかもあるのかもしれませんが、集客面ではもっと知恵を絞っていかないといけないなと思います。そんな中でもパフォーマンスのクオリティは間違いなく高かったし、来てくださったお客様は本当に熱かった。心から感謝します!

来月のPoemusicaはクリスマスバージョン。1年のしめくくりに相応しい最高のブッキングをしていただきました。レアなクリスマスソングが聴けるかも。年末の慌ただしい時期ではありますが、是非皆様お誘いあわせの上ご来場ください!

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Poemusica Vol.35 ポエムジカ*詩と音楽と聖なる夜に
日時:2014年12月18日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,400円・当日2,700円(ドリンク代別)
出演:古川麦(Guitar/Vocal)+関口将史(Cello)
    ちみん(Guitar/Vocal)
    はらかなこ(Piano solo)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

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2014年11月9日日曜日

マダム・マロリーと魔法のスパイス

霜月。小雨と小雨のあいだに時々晴れ間が覗く日曜日。角川シネマ有楽町で、ラッセ・ハルストレム監督作品『マダム・マロリーと魔法のスパイス』を観ました。

インドのムンバイでレストランを営んでいた家族が、政変の煽りを受けて暴徒に店を焼かれてしまい、ヨーロッパに移住する。ワゴンのブレーキ故障で天啓を受けた父親(オム・プリ)がインド料理店を開いたのは、マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)が経営する一流フレンチレストランの真向かいだった。

勃発する料理バトル、インド料理店の次男ハッサン(マニッシュ・ダヤル)とフレンチのスーシェフで八重歯がチャーミングなマルグリット(シャルロット・ルボン)の淡い恋。ハッサンはフレンチの非凡な才能を示し、レイシストがインド料理店に放火したのがきっかけになり、村道を渡ってライバル店に移籍する。

ハルストレム監督、いつのまにか巨匠になったんだなあ。スピルバーグ製作のディズニー映画ということで、目まぐるしい展開ですが、完成度の高い青春エンターテインメントになっています。演出はコメディタッチで、恋が成就すれば花火が上がり、ライバル心を燃やす表情をオーヴンの炎が赤く照らす。そんな大袈裟な照明や音楽と相俟って、ベテラン役者ふたりの丁々発止の応酬に、客席では何度も笑いが起きていました。

原題は "The Hundred-Foot Journey"。道路を挟んで30m先にある異文化への旅。安定(=停滞)したコミュニティに異分子が漂着し、軋轢を起こしながらも周囲と融和していく、というのは「ギルバート・グレイプ」「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」「砂漠でサーモン・フィッシング」などと共通する。ハルストレム監督のテーマなのでしょう。

「料理は生きものの命を奪う。料理することで幽霊が生まれる」。という、ハッサンに料理を教える亡き母の科白がありましたが、幽霊方面に物語を展開させても面白かったんじゃないかと思います。

2014年11月6日木曜日

Banda Choro Eletrico live @PRACA11

冬至前日、秋の一番最後の小雨の夜。ブラジル料理の名店、表参道PRACA11(プラッサオンゼ)へ。ベーシスト/コンポーザーの沢田穣治さん率いる大編成コンボ "Banda Choro Eletrico" のライブを聴きに行きました。

"Kitchen Table Music Hour vol.3" でもお世話になったまえかわとも子さん(左利き)。The Xangos、カツヲ、たきびバンド、まえまえから、ソロと彼女が現在関わっているプロジェクトはこれでコンプリートしたことになるのかな。どれも違って、しかもハイクオリティな音楽です。

スルド(ブラジルのジャンベ的な主にキック担当)ちっちさん、パンデイロ(見た目タンバリン)RINDA☆さん、その他打楽器(コンガ、クイーカ等)渡辺亮さん、3人のどっしりとしたブラジリアングルーヴ。そこに乗せるうわもの、ギター馬場孝喜さん、ピアノ堀越昭宏さん、フルート尾形ミツルさんの3人はジャズ由来。と、ここまでならまあ無くはない(とはいえ演奏スタイルは相当アブストラクトだが)。

更に沢田さんの8弦ベースと伊左治直さんのトイピアノというダブル倍音攻めが加わることで、自由でいびつな音像が創造される。そのアナーキズムはとても楽しく美しい。あえて喩えるとしたら、ピエール・ムーラン時代、トリプルパーカッション編成のゴングか。

ショーロという、一説によるとディキシーランドジャスよりも古いブラジル音楽に基盤を置きながら、そこで表現される音楽はハイパーフューチャリスティック。中盤のトイピアノのソロはこのうえなくドープでした。伊左治さんて、現代音楽の作曲家なんですね。YouTubeに上がっているピアノ曲も詩的です。

まえかわさんの歌声も倍音成分多め。インストゥルメンタル曲ではフルートとギターとの3声でスキルフルなスキャットを、ボーカル曲では生来の無邪気さでフロアを沸かせます。ゲストに若きウクレレの巨匠Rioくん(変声期)が加わり、沢田さんの還暦サプライズで終盤はお祭り状態へ。実験的でスリリングなインタープレイとダイナミックな高揚感を同時に体現した素晴らしいライブでした。



2014年10月16日木曜日

Poemusica Vol.33

東京の気温が急に下がり、下北沢は金木犀が満開です。Workshop Lounge SEED SHIPで、33回目のPoemusica が開催されました。

ろとれとろさんはリハーサルに現われたとき三つ編みで、既に心臓を鷲掴みにされました(三つ編み、眼鏡、ほくろ、左利きは僕的最強萌え要素です)。曲と曲のあいだを詩語りでつないでいくスタイルが、ライブ全体に物語性を添える。ピアノのタッチが丁寧で柔らかく、良く通る優しい声質といいバランスです。

宮沢賢治が平成に生まれていたらきっとゲーム制作かポップミュージックをやっていたと思うんですよね。みぇれみぇれさん(画像)はそんなマルチでファナティックな才能と童心を併せ持つ文字どおりのアーティスト(芸術家)です。広瀬達也さんのコントラバスとデュオ。飄々とした歌声、誰にも容易に想像のつかないようなスペイシーなサウンドで、はじめて聴いた人たちを驚かせていました。

まっすぐでつやつやな髪にロリータ服が似合う橋爪ももさん。楽屋では可憐な美少女ですが、ひとたび歌い出すと声量のあるドスの利いた低音の巻き舌で業の深い歌詞を繰り出します。そして早口のMCはひたすら笑いを取りに行く。滑っても滑っても取りに行く。二重三重のトラップにくらくらしました。最後に歌った猫になった男の子が徐々に記憶を取り戻す歌「今は猫」。よかったな。

ここまでの3組ははじめてでしたが、アカリノートさんはPoemusica 4度目のご出演です。前後のアクトに対する気配りが細かくていつも助けられます。この日も僕の「希望について」の主人公が好きな歌という設定の「メロディ・フェア」。それから僕の詩にアカリさんが曲をつけた「風の生まれる場所」はふたりで演奏しました。歌がどこまでも遠く届く。その光の道筋が見えるような声です。

僕は"10月"と"観覧車"をテーマに「星月夜」「月の子供」「観覧車」「希望について」「風の通り道」の5篇を選んで朗読しました。また今回はちょっとだけチャレンジを。Poemusica全体のイントロダクションとエンドロールに自作詩の一部をカットアップして置いてみました。気づいた方は少ないと思いますが、自分としてはなかなかうまくできたと思います。

次回のPoemusicaは11月24日(木)。森田崇允Trioさんをお招きします。フィドル五島奈美子さん、アコーディオン竹廣類さんの強力コンボで。そして成瀬ブルックリンさんとツカダコージさん。どうぞお楽しみに!

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Poemusica Vol.34
日時:2014年11月20日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円・当日2,600円(ドリンク代別)
出演:森田崇允Trio *Music
    ~森田崇允(Vo/Gt)、五島奈美子(Vn)、竹廣類(B. Acc.)~
    成瀬ブルックリン *Music
    ツカダコージ *Music
    カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年10月11日土曜日

ジャージー・ボーイズ

秋晴れ。ユナイテッドシネマ豊洲で『ジャージー・ボーイズ』を観賞しました。1960年代の人気バンド The Four Seasonsのメンバーが実名で登場するブロードウェイ・ミュージカルをクリント・イーストウッドが映画化。実にクオリティの高いエンターテインメントに仕上がっています。

「この町から出て行く方法は3つだ。軍隊に入って殺されるか、マフィアになって殺されるか、有名になるか。俺らはあとの2つをやっている」。

米国ニュージャージー州の貧しいイタリア移民街。盗品売買で生計を立てながら、夜はクラブで仲間のニック(マイケル・ロメンダ)と演奏するトミー(ビンセント・ピアッツァ)が見出した奇跡的な美声と歌唱力を持つ16歳のフランキー・カステルッチオ(ジョン・ロイド・ヤング)は後のフランキー・ヴァリ。そこにインテリジェンス溢れるピアニストでソングライターのボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)が加わり、ゲイのプロデューサー兼作詞家ボブ・クルー(マイク・ドイル)と組むことで、バンドはスターダムを駆け上がる。

1951年の出会いから1990年のロックの殿堂入りまで約40年の物語ですが、細部が丁寧に描かれており性急な印象はありません。だらしなくて喧嘩っ早いギタリスト、天才肌のボーカリスト、知的でバランス感覚に優れたピアニスト、どんなトラブルも右から左に受け流すベーシストというバンドマンあるあるも、ひとりひとりのキャラが立ち過ぎるぐらい立っていてステレオタイプに陥っていない。

メンバーのモノローグがいちいちカメラ目線で(つまり映画館の客席に向かって)話しかけてくるのも面白い。映画に参加しているような錯覚。

作曲担当のボブ・ゴーディオ(The Four Seasons加入前に書いた"Short Shorts"は、タモリ倶楽部のオープニングテーマ!)を演じたエリック・バーゲンは商業映画初出演とは思えない落ち着きと瑞々しさを兼ねて備えています。

君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」はフランキー・ヴァリのソロシングルですが、ボブ・ゴーディオとボブ・クルーが、娘をドラッグ禍で失ったフランキーを慰めるために書いた歌。僕ら80'sディスコ世代にはBoys Town Gangカバーバージョンのほうが馴染みがあります。あの狂騒的な中にも底知れない悲しみを湛えた音楽にはそんな誕生の背景があったんですね。



2014年10月10日金曜日

風の舞

もう15年以上お世話になっているというのに、JAZZ喫茶映画館で映画を観るのははじめてです。ここのマスターはドキュメンタリー映画を撮っているのですが、その先輩格にあたる宮崎信恵監督の2003年作品『風の舞』の一夜限りの上映会に行ってきました。

昨年亡くなった詩人塔和子さんは1929年愛媛県生まれ。12歳でハンセン病に罹り、83歳で亡くなるまで瀬戸内海に浮かぶ小さな島の療養所大島青松園で暮らした。H氏賞に3回ノミネートされ、1999年には高見順賞を受賞しています。病いや謂われのない差別に対して声高に叫ぶことはなく、明快で新鮮な語彙で淡々と生を綴っています。

非常に感染性の低いウィルスでありながら、外見に大きなダメージを与えることから、らい予防法と根強い偏見により、多くの自由を奪われた状態で隔離されたハンセン病患者。現在では薬物投与で完全に治癒します。その過酷な生活と解放の歴史、そしてひとりの詩人の足跡を描くドキュメンタリー作品です。

「1日に3つ書けることもあれば、1つも書けないこともある。詩の神様は気まぐれやね。でもその気まぐれが魅力的なのね」。

映像で一番印象に残ったのは教会のシーンです。ハンセン病療養所には必ず各宗派の寺院が設置されている。それは政策的な意図を持つエスケープポッドだったのかもしれませんが、祈りを捧げる患者たちの姿は美しく、高い窓から射し込む陽光に救いを見ました。

上映後、小夜さん(画像)が塔さんの作品を朗読しました。映画の中の吉永小百合さんの安定感のある朗読とはまた違って、塔さんのテクストの裏側にある呼吸の揺れ、不規則な律動を浮かび上がらせるような素晴らしい朗読でした。

最後に監督のトークで、晩年の塔さんの人間臭いというにはあまりにも生々しい一面が垣間見られました。天才とは実生活においてはかくもはた迷惑な存在なのか。繊細で美しい作品群の通奏低音としてのディーモン。だからこそ作品の美しさが際立つのかもしれません。

タイトルになっている「風の舞」とは、かつて島中に打ち捨てられていた患者の遺骨を集めて制作された巨大な円錐状のモニュメントの名前です。

 

2014年10月5日日曜日

アジア オーケストラ ウィーク2014

神無月。強い雨が降っていますが、東京オペラシティは京王線初台駅地下コンコースに直結しているので快適です。アジア オーケストラ ウィーク2014の初日公演を聴きに行ってきました。

ホーチミン市交響楽団
指揮 チャン・ヴォン・タック
ヴァイオリン グエン・フー・グエン
ド・ホン・クァン/オーケストラのための夜想曲「こだま~いにしえからの~」
チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲ニ長調
ベートーヴェン交響曲第7番イ長調作品92

ド・ホン・クァンは1956年ハノイ生まれ。今日演奏された曲は、繊細な弦楽が調整と無調性の間を幻想的に漂い、ハープがベトナムの伝統的な旋律をなぞる。そして時折戦火を想像させる打楽器のフォルテシモが響く、というドラマチックなものでした。英題は "Nocturne for Orchestra Echo From The Past"。

チャイコフスキーのコンチェルト。ソリストのグエン・フー・グエン氏は小柄で、そのせいかときどき音量が足りないように感じることがありましたが、難曲を正確に弾きこなしていました。というより、オケの音が全体にデカかった。でも僕みたいにポップミュージックに慣れた耳にはこれぐらいが心地良いです。

ベートーヴェンの7番は、第1楽章は『のだめカンタービレ』、第2楽章は『陽の当たる教室』で使われています。ホーチミン市立オペラハウスに所属しているこのオケには、ベトナム人らしい几帳面さがあり、またそれを自らの美点として誇りに感じていることが演奏から伝わってきて爽快です。

そしてアンコールのマスカーニカヴェレリア・ルスティカーナ」の可憐な美しさといったら! 細かいミスはライブにはつきものですし、アラを探したらキリがないですが、僕にはとても楽しめました。女性楽団員の衣装が全員黒のアオザイというのもよかった。

ベルリンやウィーンから見たらトーキョーもホーチミンもたいして変わらない。でも、それぞれの街にオーケストラがあって、人々に音楽を聴く喜びを提供しているというのはとても素敵なことに思えます。それは宮廷から大衆に音楽を譲渡したいと願ったベートーヴェンが描く理想の世界だったんじゃないでしょうか。

このライブイベントのことは今回初めて知りましたが、公益法人日本オーケストラ連盟の主催で2002年から毎年開催されているそうです。公演プログラムによると過去15ヶ国48団体を招聘しているとのこと。是非また来てみたい好企画です!


2014年9月27日土曜日

Kitchen Table Music Hour vol.3

東京湾岸の金木犀が咲いた秋の土曜日の午後、都営地下鉄三田線に乗って白山へ。JAZZ喫茶映画館Kitchen Table Music Hour vol.3が開催されました。

僕が普段キッチンテーブルで聴いている音楽を生演奏でお届けしましょう、という小さな音楽会の第三弾。mueさんまえかわとも子さんの歌とギターを聴いていただきました。お付き合いくださいましてありがとうございます!

髪をゆるめに編んだmueさんは秋の装い(画像)。1曲目の「音楽がやってきた」はこのライブイベントのオープニングにはうってつけの選曲です。細かいパッセージのギターは正確なのに柔らかい。普段はラインで取ることが多いのですが、今日は会場のアンティークな雰囲気に合わせ、あえてマイクで拾ってみました。声もとても素敵ですが、mueさんの口笛が僕は大好きです。「TRAIN-TRAIN」「地獄巡り」「(They Long To Be)Close To You」。3曲披露したカバーも含め、ラストの「東京の夜」まで、この日のための特別な選曲をしてきてくださいました。

まえかわとも子さん(左利き)は往く夏を惜しむように素足にサンダル。転換でかけていた蛙たちの鳴き声を収録したCDに重ねて「」で始まりました。まえかわさんの音楽には自然音や生活音が似合います。力強い歌声ですが、圧迫感がまったくなくて、ナチュラルに空間を満たす。ギターもmueさんのようなきらびやかさとは違いますが、ゆったりとアンビエントな拡がりがあって心地良い。宮沢賢治の「星めぐりの歌」のカバーも好き。vol.1のときに作ってきてくれた「キッチンテーブルミュージックアワーのテーマ」にBメロが追加されていました!

ブラジル音楽という共通のバックボーンを持ちながら、独自の発展を遂げた音楽を奏で、キャリアの長いふたりですが、意外なことに今日が初対面でした。その場が"Kitchen Table Music Hour" であったことをうれしく思います。mueさん、まえかわさん、ありがとうございました!

そして、準備段階からいろいろなアドヴァイスをいただき、本番では不慣れな僕の進行をいつもあたたかく見守ってくださるJAZZ喫茶映画館の吉田ご夫妻にも感謝します。

こんな感じで半年に1回ぐらいのペースでのんびり続けていけたらいいな、と思っています。ということで次回は2015年の早春に。坂道のある街のジャズ喫茶でまたお会いしましょう!


 

2014年9月21日日曜日

舞妓はレディ

気持ちの良い秋晴れの半日を映画館で浪費する贅沢。ユナイテッドシネマ豊洲周防正行監督作品『舞妓はレディ』を鑑賞しました。

京都の伝統ある花街、下八軒には舞妓がひとりしかおらず、もう29歳。その百春(田畑智子)のブログを見て、舞妓になりたいと訪ねてきた春子(上白石萌音)はOSHKOSHのオーバーオールにゴム長靴姿。幼い頃に両親を亡くし、津軽弁の祖父(高橋長英)と鹿児島弁の祖母(草村礼子)に育てられた方言バイリンガルでした。

一度は断られたが、言語学教授の京野(長谷川博己)が呉服屋の若旦はん(岸部一徳)と彼女の訛りを完璧な京言葉に直して一人前の舞妓に育てられるか賭けをしたことで百春の母(富司純子)の置屋の仕込みさん(見習い)になる。というストーリー。オードリー・ヘップバーンの『マイ・フェア・レディ』を下敷きにしたミュージカル・ファンタジーです。

舞妓の三大必須単語「おおきに」「すんまへん」「おたのもうします」。「あない、そない、こない、どない?」。「京都の雨はたいがい盆地に降るんやろか」。立春に始まり翌年の節分で終わる一年の物語です。

ミュージカルでは、登場人物の感情の昂ぶりによって、台詞から歌に移行するというテンプレートがあり、この映画にも当てはまりますが、それ以外に花街の風習を解説することを歌でやっています。周防監督がこれまでに撮った、僧侶、学生相撲、競技ダンスといった一般的には認知度の低い世界を観客に説明する際に登場人物(主に竹中直人)に喋らせることがともすれば説明的でくどくなりがちだったところを回避しています。これは上手いなあ、と思いました。

主人公の淡い恋も一応描かれていますが、恋愛自体の存在感は極めて薄いです。それよりも女同志のつながりにより、伝統芸を継承していくなかで、それぞれが成長していく。それを見まもる富司純子の目が優しい。主人公の上白石さんは歌とダンスがとっても上手。ミュージカルシーンで俄然輝きが増します。パパイヤ鈴木が振り付けた冒頭とエンディングの群舞は大変愛らしく、華やかで、夢に溢れています。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『私の優しくない先輩』なんかにも通じる楽しさ。

現実の京都という町も、僕ら「よそさん」から見たらテーマパークみたいな感じがします。しばらくご無沙汰しているので、そろそろ行ってみようかな。

 

2014年9月18日木曜日

Poemusica Vol.32

2週間ぶりの更新です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.32が開催されました。

急病で残念ながら出演キャンセルとなってしまった松本佳奈さん(どうやら復帰の目途が立ったようで安心しました!)に代って急遽出演してくださった三柏スイさんは、上京して半年。大きな瞳のベイビーフェイスに、少し鼻にかかってややハスキーなキャンディヴォイス。なのにギターがソリッドでシャープ。フィンガーピッキングもカッティングも正確で華やかです。MCも天然で面白い。大器の予感。

石垣島生まれのカワミツサヤカさんもギター弾き語りです。歌声もギターも安定感があって豊かで美しい。SEに波の音を薄く流している以外には島のテイストを全面に出すような感じではないのですが、「十九の春」が歌詞に忍ばせてあったり、ときどき混じる島唄の節回しが自然で、正統派のソングライティングによく調和していました。MCになると完全なウチナーグチで、ダイナミックな歌唱とのギャップにみんなほっこり。ゆったりとした時間が流れます。

山﨑円城さん(画像)とは20世紀からの旧知の仲。Little Woodyとふたりだけで演奏するのは初めて。2台のカセットテープレコーダーに収録されたトランペットのインプロヴィゼーションや赤ちゃんの笑い声、電話の時報、ブレイクビーツ。拡声器。ウッドベース、ギター、声。模造紙とマジックインキ。シンプルな素材で豊かな味わいのある音楽を奏でます。Bob Dylan "All I Really Want To Do" と Tradsong の "Cotton Fields"。カヴァーも円城さんらしい選曲でした。

僕は「九月」「月」をテーマに詩を選びました。イントロダクションに "Universal Boardwalk" から「九月(reprise)」、「水の上の透明な駅」。三柏スイさんの「満月」につなげて「虹のプラットフォーム」。そうしたら、カワミツサヤカさんも1曲目に月の歌を持ってきてくれました。そして、山﨑円城詩集『紙よさらば』から「*24」、新作「すべて」を朗読しました。

次回10月のPoemusicaはいつにもまして、ひらがな、カタカナの多い回になりました(主演者名に)。どんな夜になるのかな。僕自身楽しみです。

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Poemusica Vol.33
日時:2014年10月16日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,100円・当日2,400円(ドリンク代別)
出演: みぇれみぇれ *Music
      アカリノート *Music
      橋爪もも *Music
      ろとれとろ *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading


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2014年9月6日土曜日

犬猫

昨日と今日は東京に夏が戻ってきました。東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅の長いエスカレーターに運ばれて地上へ。ブックカフェESPACE BIBLIOで、井口奈巳監督の『犬猫』8mm版を鑑賞しました。

同棲をある日突然解消したスズ(塩谷恵子)は中学からの旧友ヨウコ(小松留美)と木造平屋で同居することに。ふたりは昔から仲が悪い。いつも同じ男子を好きになってしまうから。

人のセックスを笑うな』『ニシノユキヒコの恋と冒険』の井口監督がアマチュア時代の2000年に撮ったこの8mm映画は、2005年に自身の手でリメイクされており、その35mm版ではスズを藤田陽子、ヨウコを榎本加奈子が演じているそうです(すみません、観てません)。

8mmと35mm、あるいは、自主映画と商業映画。予算や技術の違いはもちろんですが、演技に関しても違いがあって、商業映画は作られた自然さ、たとえて言うならば、デジタルリヴァーヴのルームシミュレーションみたいな感じがあると思うんですよね。

この8mm映画は、主役ふたりの演技がとてつもなく無添加です。画面に時折登場する犬や猫に匹敵するほどに。1年半という長い期間、毎日朝から晩まで撮っていたということで、そこには作為や意図が当然あるわけですが、演技の反復によってある種のオートマティズムが生まれ、結果的にOKテイクのナチュラルさを生んでいるのではないでしょうか。

井口監督のカメラは低い位置から対象を捉えます。そして斜めの画角や斜線が強調される。十字路を対角線の位置から撮ることで、分岐点に見せる手法。雨に打たれるクローバーの群生や朝露のついた蜘蛛の巣の長回し。光の移ろいを丁寧に見せます。

エンディング近く、雨が急に降り出して、スズが黒いタンクトップとボクサーショーツ姿のまま洗濯物を取り込むシーンの鉛筆みたいに可憐な脚線美。

終映後、井口監督と主演の塩谷さんが登壇して、大島依提亜氏を聞き手に40分程のトークがありました。映画撮影の技術的な側面についての話が中心でしたが、僕も普段から内面や観念よりも「方法」について考えて創作する傾向が強いので、監督の話には共感するところが多かった。

最後に客席の若くて愛らしい女の子から「この映画で言いたかったこと、テーマは何ですか?」という質問が出て、おいおい、この流れでそこを聞く? と思いましたが(笑)、まっすぐに答えた井口監督が格好良かったです。


2014年8月31日日曜日

アサガヤノラの物語

江東区でも杉並区でも先週から公立学校の二学期は始まっていますが、それでも8月31日は夏休み最後の日。阿佐ヶ谷のBarトリアエズノラオンナさんが日曜店長をつとめる「アサガヤノラの物語」でカワグチタケシの単独公演が行われました。ご来場のお客様、ノラさん、気に留めてくださったすべてのみなさんに感謝いたします。

普段は弾き語りのミュージシャン一組の演奏とノラオンナさんの美味しいお料理とお酒が楽しめる10名様限定のプレミアムディナーショーですが、今日は朗読の日。満員御礼です。ご来場者特典のカワグチタケシ訳詞集 "sugar, honey, peach +love" から4曲分の歌詞と自作の夏の詩をたっぷり聴いていただきました。

 1. Misty / Ella Fitzgerald
 2. (They Long To Be) Close To You / Carpenters
 3. If / Pink Floyd
 4. もしも僕が白鳥だったなら
 5. ANOTHR GREEN WORLD
 6. 離島/地下鉄を歩く
 7. 新しい感情
 8. 花柄
 9. すべて(新作)
10. Planetica (惑星儀)
11. 都市計画/楽園
12. 八月の光
13. 水の上の透明な駅
14. Allelujah / Fairground Attraction

この14篇を用意していったのですが、冨士山のスノードーム(画像)を当日にプレゼントしていただいたので、お礼に「スノードーム」の朗読を追加しました。「すべて」という新しい詩は、ちみんさん同名の曲の歌詞から4行引用させてもらって書きました。

何人かのお客様に非常に好意的なトーンで「変わったね」と言われました。タフな現場をコンスタントに経験して、今回はワンマンならではの心地良い緊張感とお客様のあたたかな姿勢を受容し、わずかずつかもしれませんが、ひとりひとりに声が届くようになってきたのではないかと自分でも感じます。集合体としてのオーディエンスではなく、別々の人格を持ったひとりひとりに。

終演後はお客様と出演者とみんなでノラさんの手料理を堪能しました。計7品供されたお料理はもちろん、飲み放題のハイボール、オプションの梨あんみつ、どれも丁寧できちんとした味なのはノラさんのお人柄ですね。

前日まで雨の予報でしたがよく晴れました。それはきっと吉祥寺qwalunaca caféで開催されていた Petit BOOKWORM meets MAGIC JOURNEY のおかげ。メインMCの山﨑円城さんが劇的なまでの雨男なのにも関わらず、17年前からBOOKWORMの日はなぜか必ず晴れるのです。



2014年8月23日土曜日

古川麦 × ノラオンナ @谷中ボッサ

前回、東日本大震災の年は中止になった諏訪神社の6年ぶりのお祭で、谷根千一帯の街路は赤い提灯がにぎやかです。日暮里駅から谷中ボッサに向かう道のりで子供神輿とすれ違いました。古川麦くんノラオンナさん。今年4月にPoemusica Vol.27で初共演したふたりのツーマンライブということで、これは見逃せません。

古川麦くんは、Doppelzimmer表現(Hyogen)の中心メンバーとして、またceroのサポートなど、八面六臂の大活躍中のギタリスト。ソロアルバム「far/close」をリリースしたばかりです。CDでは弦楽四重奏や管楽器を加えて、ダイナミック且つ優美な音楽を奏でていますが、ソロの弾き語りは力強くて端正。正確で精妙なガットギターと、ベルベットのような肌触りの唄声が魅力です。

対するノラオンナさんは洗い晒しの麻のような陰翳のある声。シャンソンやブルースの影響を感じさせるソングライティングに、日本語の可能性を追求しつつ、極限まで言葉を磨き上げた歌詞。独特のコード感を醸し出す繊細なウクレレ。

お互いがお互いの音楽に恋をしているような気持ちが店全体に満ちて、聴いている客席も幸福感に包まれました。大らかな麦くんの音楽は、遠い祭囃子や通り過ぎる自動車、キッチンで調理する音にもよく馴染みます。ノラさんが演奏を始めると皆が息を詰めて一音も聞き逃すまいとする。すると不思議なことに、生活音が自然と遠ざかって行く。

約30分ずつのソロ演奏のあと、それぞれのオリジナル2曲ずつとカバーを2曲、計6曲のデュオ演奏はふたりのユーモアが滲み出す楽しい時間でした。まだ歌詞のついていない麦くんの新曲をノラさんがスキャットしたのですが、これが一夜だけのことでなく、古川麦作曲、ノラオンナ作詞なんていう楽曲が生まれたらとても素敵だな、と思います。



2014年8月21日木曜日

Poemusica Vol.31

大雨や土砂災害のニュースが毎日流れてきます。どうか皆様ご無事でいらっしゃいますように。東京は連日の猛暑です。そんな寝苦しい真夏の夜。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.31が開催されました。

この日の朝、大阪から到着したいおかゆうみさん。6月1日、日曜お昼のVol.29につづいて、Poemusicaには2度目の出演です。一見シンプルなフォークソングなのですが、内面に深く深く降りていくような歌詞と少女のような唄声が一転して硬質に響き渡る瞬間の鳥肌の立つ感じは他に似る者がない。作品の提示の仕方や会場の空気の掴み方には、わずか2ヶ月のあいだに明らかな成長が見られます。

臼井ミトンさんを初めて聴いたのは今年3月渋谷7th Floor。その後何度かオファーしていたのですが、ようやくスケジュールの調整がつき、SEED SHIPに初登場しました。アメリカンルーツミュージックを独自のフィルターでポップに解釈した彼の音楽。躍動感溢れるピアノ、リリカルなギター、粘りと伸びのある心地良い唄声。おもちゃ箱のような楽しい音楽です。新譜『真夜中のランブル』も良いアルバム。

山田庵巳さん(画像)はSEED SHIPには度々出演していて、アサノラなど接点も多いのですが、意外にも初Poemusicaです。8弦ギターに乗せて物語を即興的に綴っていく。他の出演者の作品やMCの言葉を巧みに織り込んだ語りから切れ目無く曲に入り、澄み切ったハイトーンヴォイスでロマンチックなメロディを聴かせる。唯一無二の存在感。楽屋で右手の爪を時間をかけて丁寧に整える姿にプロフェッショナリズムを強く感じました。

僕は、2005年頃何度か共演し、先頃お亡くなりになったdj yukarhythmさんにちなんだ3篇の詩、「無題(出会ったのは夏のこと~)」「無題(薄くれない色の闇のなか~)」「都市計画/楽園」を3組の合間にに朗読しました。

次回のPoemusicaは9月18日。そのころには涼しくなってるのかな。夏が終るのがさびしいのと、秋が待ち遠しいのと、そんな気持ちに揺れてしまうこの頃です。

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Poemusica Vol.32
日時:2014年9月18日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,400円(ドリンク代別)
出演: 山﨑円城Little Woody duo *Music
      カワミツサヤカ *Music
      三柏スイ *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading

*9/10追記
  松本佳奈さんは急病のため、残念ながら出演できなくなりました。 
  三柏スイさんに代ります。どうぞよろしくお願いします。

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2014年8月15日金曜日

ジゴロ・イン・ニューヨーク

終戦記念日。蝉時雨。新宿武蔵野館で『ジゴロ・イン・ニューヨーク』を観ました。ウディ・アレンが出ているし『ミッドナイト・イン・パリ』『恋のロンドン狂騒曲』『ローマでアモーレ』に続く地名シリーズ4部作かと思いきや、ジョン・タトゥーロ監督脚本主演作品です。

舞台はNYCブルックリンのユダヤ人居住地域。古書店の三代目マレー(ウディ・アレン)は店を閉じることに。かかりつけの皮膚科のドクター(シャロン・ストーン)に男を紹介して欲しいと言われ、つい「いい男がいるが安くない。1000ドルだ」と答えてしまう。そこで白羽の矢が立ったのは、かつてマレーの古書店に強盗に入り、いまは生花店でバイト中の友人フィオラヴァンテ(ジョン・タトゥーロ)。彼がジゴロとして非凡な才能を発揮し、ふたりは「ヴァージル&ボンゴ」というユニット名で荒稼ぎする。

しかしフィオラヴァンテは、厳格なユダヤ教徒の未亡人アヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)と本気の恋に落ちてしまう。そのことで窮地に陥ったヴァージル&ボンゴの運命や如何に。

原題は"Fading Gigolo"。色褪せつつある、黄昏の、消えゆくジゴロ。

秋のニューヨーク郊外の風景が美しく、上品なジャズがよく似合う。ジゴロ役のタトゥーロは聞き上手でよく気が利いてセクシーだし、ウディ・アレンは神経質で落ち着きがない。ベテラン俳優達のいぶし銀の技が光る、大人のオフビートコメディです。ジューイッシュ・コミュニティの独特な風習も「へぇ、こんなんなんだあ」と興味深い。

シャルロット・ゲンズブールと並び、1990年代にはフレンチロリータの代表格だったヴァネッサ・パラディも40代に。成熟した大人の女性にちゃんと変貌しているのは、若さに拘泥しないお国柄を反映しているのでしょうか。でも挿入歌の唄声が往時のままで、そのギャップには心臓を鷲掴みにされました。

 

2014年8月14日木曜日

Kitchen Table Music Hour vol.3

満員御礼だった7月のKitchen Table Music Hour vol.2に続いて、とんとんとんとvol.3を開催します。僕が普段自宅や移動中聴いている音楽を「いかがですか」と、親しい人たちに丁寧に手渡すような小さな音楽会。僕は出演せず、企画とプロモーションのみで。

まえかわとも子さんmueさん。ブラジル音楽をベースとして独自の表現を広げてきた才能溢れる二人と共に、秋の午後のひとときをお楽しみいただけたら幸いです。

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カワグチタケシ presents "Kitchen Table Music Hour vol.3"

日時:2014年9月27日(土) Open 15:00 Start 15:30
出演:まえかわとも子 歌とギター
    mue 歌とギター
会場:JAZZ喫茶映画館
    〒116-0013 東京都文京区白山5-33-19
    03-3811-8932 http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/
料金:無料(1drink order)+投げ銭
※会場の地図はこちら

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まえかわとも子(画像)
オルタナボッサトリオ "The Xangos" のボーカル、たきびバンド、ベーシスト沢田譲治とのデュオ「カツヲ」等。CD "roda" The Xangos、「冬の街」まえかわとも子、他。横浜生まれ大磯在住。⇒YouTube「夜明けのサンバ

mue
ギター弾き語りと並行して、ら・ら・ら、FUTTONG×mue、irodori?等、多くのミュージシャンとユニット活動をしている。CD「Closet」「タイムカプセル」etc.. 千葉生まれ東京在住。⇒YouTube「東京の夜

JAZZ喫茶映画館
都営地下鉄三田線白山駅下車A3出口裏徒歩1分。1978年開店の老舗ジャズ喫茶。マスター手作りの真空管オーディオシステムとネルドリップコーヒー。壁にはヌーベルバーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている。猫もいます。

"Kitchen Table Music Hour"は投げ銭制ですので、ご予約は不要です。おしまいまで聴いても夕飯のお支度に間に合う設定になっています。お誘いあわせの上、是非いらしてください!

2014年8月2日土曜日

思い出のマーニー

ジブリ映画は夜の最終回に観るのが好きです。ユナイテッドシネマ豊洲米林宏昌監督作品『思い出のマーニー』を鑑賞しました。

杏奈(声:高月彩良)は札幌在住、ショートカットの中学1年生。幼い頃両親を事故で亡くし、施設で暮らした後に里親(松嶋菜々子)に引き取られたが、自分にも周囲にも同化できないでいる。夏休みのすこし前、呼吸器系疾患の転地療養で訪れた釧路湿原で金髪の美少女マーニー(有村架純)と出会う。

「またわたしを探してね。それから誰にも言わないで。約束よ」、「自分の絵を描いてもらったのは初めてよ。わたし今までに会ったどの女の子よりあなたが好き」。

干潮時には歩いて渡れる湿地帯の向うの洋館で夜な夜な繰り広げられるパーティはさながらグレート・ギャツビーのよう。しかしその館は実は廃墟であり、夜にだけ現われる人々はゴースト。シャイニング。あるいは女子たちの集団的無意識が生んだ幻想か。

岸辺にキャンバスを広げる老婦人久子(黒木瞳)、第3の少女さやか(杉咲花)の登場により解き明かされるのは、杏奈の記憶に遠く刻まれた祖母の物語。杏奈は彼女自身を祖母の物語の中に入れてしまった。

鉄道が湿原を割って進んでいく冒頭の俯瞰シーンから、郵便局への近道を行くときに夏草の鋭い葉が裸の脛を擦る感触、足裏を滑らせる水藻、古いガラスに歪んで見える室内、鉛筆削りのカッターが芯に当たるとき、すいかに包丁を入れる瞬間の微かな抵抗感。

映画前半はフィジカルな、特に皮膚感覚に訴えるような描写がとても丁寧で心地良いです。ああ、夏ってこういう感じだった、と。反面、物語が動き出す後半は演出がいささか性急な印象を受けました。高畑勲の繊細な描線や、宮崎駿のメカニカルな動作の面白さはありませんが、夕方から夜にかけての湿原の風景はとても美しい。月明かりに照らされるボート。

丘の上、曇り空の下の煉瓦造りのサイロ。下草が強い風になびき、やがて雨が降り始める。これは幼少時より僕の夢にしばしば現れるモチーフです。

 

2014年7月26日土曜日

日曜音楽バー「アサガヤノラの物語」

梅雨が明けたと思ったら、東京は立て続けの猛暑日です。体調を崩したりしていませんか? 夏の終わりのライブのお知らせです。

カワグチタケシ2014年唯一となるソロライブは、リスペクトするミュージシャン、ノラオンナさんが日曜店長をつとめる「アサガヤノラの物語」にて。完全予約制先着10名様限定の超プレミアムディナーショー! 「銀座のノラの物語」が阿佐ヶ谷にお引っ越しして一年。おかず2品と炊き込みご飯が増えて、しかも500円お得になりました。中央線特価!

JR中央線阿佐ヶ谷駅南口徒歩4分35秒「Barトリアエズ」にて。生声の朗読とノラオンナさんの絶品手料理をお楽しみください!

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日曜音楽バー「アサガヤノラの物語」

出演:カワグチタケシ
日時:2014年8月31日(日)
   17時開場、18時開演、19時~バータイム
会場:Barトリアエズ 東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-43-1 NKハイツ1F
料金:4,500円
   ライブチャージ
   5種のおかずと炊き込みご飯のアサノラ弁当(味噌汁付)
   ハイボール飲み放題(ソフトドリンクはウーロン茶かオレンジジュース)
   スナック菓子3種
   以上全部込みの料金です。

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更に御来場の皆様には、もれなくアサノラ限定カワグチタケシ新作訳詞集 "suger, honey, peach +love" (CD付)を差し上げます。

2011年3月11日の東日本大震災以降、詩を書かない期間がありました。しばらく経って自分が言葉を強く欲していること、それも甘い言葉を欲していることに気づきました。

でも自分のなかにはしょっぱい言葉しか見つけられなかった。それで自分の外側にある言葉を採集することに。ジャズのスタンダードからサイケデリック、ソフトロック、パンク。1950~90年代のポップミュージックの歌詞をリハビリをするように翻訳しはじめました。

自作詩の創作を再開したいまも訳詞を並行しており、50曲程仕上げています。そのうち厳選した10曲の訳詞を冊子にまとめました。

昨年はソロライブを3回開催しましたが、今年はこの1回のみにする予定です。夏休みの最後の一日をみなさんと一緒に過ごせたら幸いです。

*完全予約制、先着10名様限定です。
 ご予約は nora_onna@hotmail.co.jp まで。お名前、人数、
 お電話番号をお知らせください。
 お席に限りがございます。どうぞお早目に!

*8月7日追記:おかげさまでご予約で満席になりました。
 どうもありがとうございます。キャンセルが出ましたら
 またお知らせします!

 

2014年7月21日月曜日

Kitchen Table Music Hour vol.2

僕が普段、自宅のキッチンテーブルで、本を読んだり、お菓子を食べたり、詩を書いたり、詩集の製本をしたりしているときに聴いている音楽を生演奏でお届けしましょう、というライブ "Kitchen Table Music Hour"。前回に引き続きJAZZ喫茶映画館さんで、本日vol.2を開催させていただきました。

素晴らしいウクレレ奏者でもあるシンガーソングライターのおふたりに海の日の祝日を彩ってもらおうという趣向。奏でる楽器は同じでもいろんな意味で対照的なふたりの音楽をお楽しみいただけたのではないでしょうか。

原色に近い赤でルーズシルエットのワンピース姿のmoqmoq(オカザキエミ)さん(画像)。ソリッドでハードエッジなウクレレ。弦一本一本の音がシャープに立っています。彼女の書くメロディは、R&Bに憧れた白人音楽をアジアの感性でもうひとひねりしたようなところがあり、歌詞に描かれた風景や植物もくっきりとした輪郭を持っています。一般的な美声の価値観からはすこし外れますが、どうしても耳に残るソウルフルな歌声。右肩には小鳥が乗っています。

ノラオンナさんは黄色のストライプのタイトなワンピース。ピアニシモからメゾフォルテまでウクレレの持つレンジをフルに使っていますがあくまでもソフトタッチでさざなみのよう。硬質で言葉数を切り詰めた歌詞がこのウクレレと低い歌声に乗ると、途端に柔らかな抒情性を帯びるマジック。楽器を弾いています、という感じがしない。彼女が発するすべてが渾然一体となって、音楽としか呼びようのないものになります。

ふたりに共通しているところはオーソドックスなのに誰にも似ていないところ。それを誠実に正確に丁寧に届けようという意思の強さ。新しいスタンダードナンバーはこのようにして生まれるんじゃないかと思います。

僕自身とても楽しめましたし、お客様もきっとそうだと思います。いつも快く会場を提供してくださる映画館のマスターご夫妻に感謝します。看板猫の虎太郎くんも終演後に姿を見せてくれました。

vol.1とvol.2のあいだが10ヶ月も空いてしまったのですが、次回vol.3は2ヶ月後。9/27(土)に同じくJAZZ喫茶映画館さんにて、mueさんとvol.1にもご出演いただいたまえかわとも子さんをお招きしてお届けします。ブラジル音楽をベースにしながら独自の進化を遂げつつあるふたりの音楽をどうぞお楽しみください。

ようやく秋らしくなったころ、土曜日の午後。坂道のある街のジャズ喫茶で、またみなさんにお会いできたらと思います。


2014年7月20日日曜日

フィクショネス詩の教室 最終回スペシャル

1998年秋、僕がNYの詩人シャロン・メズマーの詩集の書評を書いたAMERICAN BOOK JAMで広告を見つけて下北沢を訪れたのが、書店フィクショネスと店主藤谷治氏との出会いでした。そして1年半後の2000年3月、詩の教室が始まりました。

曜日や時間は何度か変わりましたが、14年間毎月続けてきました。最少催行人割れの流会は別として(笑)、休講はたしか、台風と父の葬儀と僕のインフルエンザの3回だけだったと思います。

その間、百名以上の詩人の数百篇の詩作品を紹介してきました。また参加者の作品には毎回感心されられつつも、みんなで修正ポイントを探し出してアドヴァイスし合いました。教室の準備も含めて、僕にとっても多くの詩を深く読み込んだ豊かな時間でした。

店主が小説家として正念場を迎え(?)、店舗(といってもほぼ書斎)を閉めることになり、これに伴って詩の教室も終了することになりました。

最終回は僕のわがままで、いままで教室で紹介した詩作品のなかから、特に好きなものや何かの契機になったものを選んで朗読させてもらいました。

宮沢賢治春と修羅 序」(1924)
室生犀星はる」(1916)
西脇順三郎「眼」(1933)
伊東静雄わがひとに與ふる哀歌」(1934)
金子光晴落下傘」(1938)
草野心平」(1940)
村野四郎体操」(1939)
田村隆一腐敗性物質」(1966)
吉岡実過去」(1955)
長谷川龍生理髪店にて」(1957)
吉本隆明「恋唄」(1958)
那珂太郎「秋の・・・」(1959)
中江俊夫「地球」(1952)
岸田衿子「音無姫」(1957)
長田弘「言葉と行為のあいだには」(1965)
茨木のり子自分の感受性くらい」(1975)
伊藤比呂美「アウシュビッツ ミーハー」(1985)
カオリンタウミ「RAMBLING IN THE RAIN」(1997)
究極Q太郎「あるホームレス」(2000)
田口犬男菜食主義者のために」(2002)

これ以外にも、アポリネールシュペルヴィエルをすこし、過去の参加者の作品も一篇取り上げました。

参加費分のエンターテインメントを提供しなくてはならないと、14年の途中にはそれなりのプレッシャーもありましたが、これだけ長く続けてこられたのは、参加者のみなさんと店主の藤谷氏のおかげです。どうもありがとうございました。Poetry is everywhere, anywhere. とシャロン・メズマーも言っていました。今日会えた方も会えなかった方も、どうかこれからも詩を忘れずに。



2014年7月19日土曜日

PRESENT

ひと月ぶりの更新です。梅雨明け間近の土曜日の昼下がり。下北沢OFFOFFシアター劇団フライングステージ第39回公演『PRESENT』を鑑賞しました。

フリーターの太陽(澤口渉)と地方公務員坂井(阪上善樹)は同棲3年目の30代ゲイカップル。ある休日の朝、太陽はHIV検査で陽性が出たことを坂井に告げる。

フライングステージはカミングアウトしているゲイの劇団です。このお芝居の初演は2003年。たぶんそのときにも観たはずなのですが、まったく筋を覚えておらず、新鮮な目で楽しめました。

テーマは重いのですが、全体にコメディタッチな演出で、ふたりを取り巻く人々も皆お人よしの善人ばかり。石関準さん演じるトイプードルのブリーダーのみっちゃんのおネエならではの毒舌とおせっかいの暴走ぶりは笑えます。

作・演出の関根信一さんは主人公の母親役。(ノンケの)おばさん役が板につき過ぎてもう男性を演じる姿が想像つかないほどです。「孫がいるようには見えないでしょ?」という台詞が客席の一番の笑いどころでした。役の設定は52歳。実年齢は僕と同じ49歳。見た目の大御所感は還暦オーバー(笑)。

唯一の女性出演者(生物学上の)HIV陽性者のサポートボランティア役の木村佐都美さんおちないリンゴ)の3パターンの衣装の鮮やかな色合いと金髪のヅラがとてもよく似合っていました。

タイトルの"PRESENT"を字義通りに取ればラストシーンのクリスマスの贈り物につながりますが、それは同時に「提案」「現在」「存在」でもあり、更に"GIFT"であれば「才能」「個性」という意味も含まれているのだなあ、と思いました。




2014年6月21日土曜日

Kitchen Table Music Hour vol.2

ご好評を戴いた昨年9月のKitchen Table Music Hour vol.1に続いてvol.2を開催します。僕が普段自宅や移動中聴いている音楽を「いかがですか」と、親しい人たちに丁寧に手渡すような小さな音楽会。僕は出演せず、企画とプロモーションのみで。僕の好きな音楽にどれくらいみんな興味を持って集まってくれるだろう。

第2回まで思いのほか時間がかかってしまいましたが、急がず、クオリティの高いショーをお届けできることをうれしく思います。海辺生まれの素晴らしいウクレレ奏者でもあるふたりのソングライターの歌を海の日に聴いていただくことになりました。夏、砂浜、波、太陽、星。どうぞお楽しみください!

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カワグチタケシ presents "Kitchen Table Music Hour vol.2"

日時:2014年7月21日(月・祝) Open 15:00 Start 15:30
出演:ノラオンナ 歌とウクレレ
    moqmoq(オカザキエミ)うたとウクレレ、ときどきカリンバ。
会場:JAZZ喫茶映画館
    〒116-0013 東京都文京区白山5-33-19
    03-3811-8932 http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/
料金:無料(1drink order)+投げ銭
※会場の地図はこちら

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*ノラオンナ http://noraonna.jpn.org/
ウクレレ弾き語りのほか、ギタリスト見田諭とのデュオ、5人編成バンド “港ハイライト” 作詞作曲ボーカル。CD「いいわけイレブン」「かもめのデュオさん」etc.. 函館生まれ阿佐ヶ谷在住。 ⇒YouTube「あの海に行きたい」 

*moqmoq(オカザキエミ)  http://hatomugyu.net/
小さな生楽器と声だけで独自の音楽を創造する。ex.HAREM、あしのなかゆび、等。CD「海とうた」「るすばん」moqmoq、「あしのなかゆび」あしのなかゆび、etc.. 川崎生まれ横浜在住。 ⇒YouTube「波乗りと太陽」 

■JAZZ喫茶映画館 http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/
都営地下鉄三田線白山駅下車A3出口裏徒歩1分。1978年開店の老舗ジャズ喫茶。マスター手作りの真空管オーディオシステムとネルドリップコーヒー。壁にはヌーベルバーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている。猫もいます。

"Kitchen Table Music Hour"は投げ銭制ですので、ご予約は不要です。おしまいまで聴いても夕飯のお支度に間に合う設定になっています。お誘いあわせの上、是非いらしてください!




2014年6月19日木曜日

Poemusica Vol.30

夏至の2日前。日照時間の長いこの季節の東京で、リハーサルの途中からゆっくりと陽が傾き、日没と開演がほぼ同じ時間です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.30が開催されました。

水戸から長距離バスで来た芦田ちえみさん(画像)。空間処理を意識したコンテンポラリーな音像。あえてまばらに配置されたウクレレの分散和音が心地良い。「どうしてだろう、ここに来ると話したいことが話せない」と笑う。周囲数百メートルの世界への違和感の表明をモチベーションの原点にしながら、一周半廻って柔らかく響く歌声。人の声が息で出来ていて、肺から咽喉を通って発せられるという当たり前のことをもう一度思い出させてくれます。

齊藤さっこさんの描く世界はロマンチックでドラマチック。古き良きハリウッド映画の主題歌のような安定感と絢爛さのある懐の深い音楽です。音圧の高いピアノ、全帯域で澄み渡った歌声には、過ぎた恋や愛犬のことを歌っていても、恋の始まりのそのまた予感みたいなときめきがあって、聴いていてそわそわしてしまいます。潔く刈られたスキンヘッドの下に鎖骨やうなじがよく見えて、女の人の首って美しいものだなあ、と思いながら聴いていました。

僕にとって今回一番のサプライズははらかなこさんのピアノでした。2012年のクリスマスにPoemusica Vol.12 ~音の葉・言の葉・柊の葉~で共演したときは、溌剌として楽しくもどこかとっ散らかった演奏に好感を持ちましたが、1年半ぶりに会い容姿が美しく洗練されていたのにもまして、演奏が格段に上達し、持ち前の躍動感に加えて緻密さや一音一音の粒立ちの美しさが加わり、その表現力に驚きました。伸び盛りの姿が眩しかったです。

記念すべき30回目のPoemusicaに僕が選んだのは、夏至の詩「ガーデニア Co.」、世界の人口の12分の1存在する6月生れの人たち(僕もそのひとりです)に「バースデーソング」、そして「」の3篇です。丁寧に、抑制された表現を心がけましたが、伝わりましたでしょうか?

Poemusicaは7月はお休みして、次回vol.31は8月21日(木)。素晴らしいミュージシャンにお声掛けしております。どうぞお楽しみに!

僕の次のライブは7月20日(日)。下北沢の書店フィクショネスが7月22日で閉店するのに伴い、14年半毎月続けてきた詩の教室も終了することになりました。最終回はこれまでの感謝を込めて、教室で紹介した数百篇の詩作品のなかから厳選した20篇をカバー朗読するスペシャル版です。作品の合評はハードルが高いと尻ごみされていた方も、是非この機会に。下北沢のレジェンド(笑)を見届けにきてください! 

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フィクショネス詩の教室 最終回スペシャル

日時:2014年7月20日(日) Start 18:00
会場:書店フィクショネス
    世田谷区北沢2-12-2 翔鶴ビル2F
    小田急線・京王井の頭線下北沢駅南口徒歩2分
    03-5430-6352 
料金:1,620円
出演:カワグチタケシ

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2014年6月14日土曜日

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

梅雨の晴れ間。日比谷TOHOシネマズシャンテで、2013年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員特別グランプリ受賞作品『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』を観ました。コーエン兄弟監督映画を劇場で観るのは1996年の『ファーゴ』以来です。

舞台は1961年のニューヨーク。主人公ルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)は住所不定のフォークシンガー。マイク&ルーウィンというデュオでメジャーデビューしたものの、相方の飛び降り自殺によって解散。

ひょんなきっかけから猫一匹とギターケースを抱えて放浪が始まり、恋人(?)に妊娠を告げられ、元恋人が秘かに自分の子を産んでいたことを知り、素頓狂なコミックソングのレコーディングを経て、雪のシカゴへ奇妙な長距離ドライヴ。レコードレーベルのオーナーには「金の匂いがしない」と評価してもらえず、ニューヨークに戻りいつものライブカフェで冒頭のシーンにループ。対バンは若きボブ・ディラン

クールでスタイリッシュな映像ですが、主人公以外の登場人物の行動がどこかしら過剰でズレており、物語の時系列も微妙に乱れ、なんとも言えず不安定な後味なのですが、これらがすべて、ライブ中に飛ばした野次のせいでヤクザ者にフルボッコされたルーウィンが見た一夜のナイトメアだとすれば合点のいく話です。

"Inside Llewyn Davis" はソロデビューアルバムのタイトルですが、彼の脳内で起こったこと(=夢オチ)とのダブルミーニング。まんまとコーエン兄弟の手玉に取られました。お見事。そして、ルーウィンの歌とギターも、T-ボーン・バーネットのサウンドトラックも、音楽はどのシーンでも心地良く素敵です。

華麗なるギャツビー』で世間知らずのお嬢様デイジーを可憐に演じたキャリー・マリガンがこの映画でもヒロインですが、タートルネックを着たフォーキーなビッチ、ジーン・バーキー役を好演。台詞の約半分は"fuck"と"shit"です。

ジーン「人には2種類いて、上を目指す者と負け犬。あなたはいつも負け犬よ」、ルーウィン「俺が考えるに人は2種類だ。人を2種類に分けたがる奴と…、」、ジーン「負け犬よ!」、で客席爆笑。




2014年6月1日日曜日

Poemusica Vol.29

東京は月をまたいで2日続きの真夏日です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.29が開催されました。2014年1月以来の昼間のPoemusicaです。

大阪から来たいおかゆうみさん(画像)。2年前、彼女がはじめて東京で歌った場所にたまたま居合わせて、すっかりその音楽の虜になり、いつか共演したいと思っていたのですが、ようやく念願が叶いました。半歩踏み外したら二度と戻って来られないような危うさと、その危うさをソングライティングにおいてもパフォーマンスにおいても高い精度で表現する強靭なスキル。これだけ胸に刺さる言葉と声を持つ23歳はなかなかいないのではないでしょうか。

今泉沙友里さんは佐賀県出身。曲調は王道のポップソングなのですが、キャラクターが微妙にズレていて、そのギャップが面白い。オチの無い小芝居と自ら銘打って、本当にオチの無い小芝居をして、きちんと滑らせる(笑)。一瞬のちに真顔で切ない青春片思いポップチューンをガツンとかます。サポートギタリストのもやし(川部宏昭)さんの好演と客席の温かさにも助けられ、ユルくも楽しいステージを展開しました。

漲るテンションで会場の空気をガラリと変えた菅田紗江さん。東京のアコースティックシーンでは知らない人のいない実力派です。確信的な低音から強気な高音までレンジの広い声で、決してキャッチーなわけではないのに妙に耳に残る旋律、正確な内的律動に裏打ちされた高速ギターカッティング。挑発的な瞳の戦闘美少女が時折見せる繊細さ、心細さ。そのバランスもギャップも含めてロック。アコースティックパンク。たったひとりでThe Woodentopsや初期 RADIOHEADなんかを思わせる格好良さです。

リハーサルを聴いて今日はそれぞれのアクトにぶつけるような方向で作品を選びました。いおかゆうみさんには僕なりのブルーズ解釈でもある「ANOTHER GREEN WORLD」を、今泉沙友里さん(と数名のお客様)のスカートに合わせて「花柄」を、そして菅田紗江さんの高速フローに響かせるような気持ちで「International Klein Blue」を朗読しました。

なんとありがたいことに、6月はPoemusicaがもう一回あります。記念すべき30回目はいつもの木曜夜に。間違いなく楽しめます。是非!

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Poemusica Vol.30
日時:2014年6月19日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,100円・当日2,500円(ドリンク代別)
出演: はらかなこ *Music
      齊藤さっこ *Music
      芦田ちえみ(水戸) *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年5月25日日曜日

Viola & Piano Duoconcert vol.5

日曜日も晴れ。山手線に乗り換えて大塚へ。音楽堂 ano ano手島絵里子さん明利美登里さんの室内楽リサイタル Viola & Piano Duoconcert vol.5 を鑑賞しました。

ヴィオラの手島絵里子さんは蓮沼執太フィルの新譜リリースツアーを終えたばかり。triolaなどのオルタナティブなユニットの活動と並行して、オーセンティックなクラシック音楽の演奏会をピアノの明利美登里さんとともに定期的に開いてます。今回のテーマは「出会い、そして自由への旅立ち」。

シューマン 詩人の恋 op.48より 第1曲 素晴らしく美しい5月に
        おとぎの絵本 op.113
ブラームス ラプソディ op.79-1 ロ短調
        幻想曲集 op.116
         IV.間奏曲 ホ長調
         VII.奇想曲 ニ短調
ラフマニノフ プレリュード op.32-12 嬰ト短調
         プレリュード op.3-2 嬰ハ短調
ヒンデミット ヴィオラソナタ op.11-4

後半のふたりの作曲家の共通点は政変によってアメリカ合衆国に亡命したこと。ラフマニノフはロシア革命、ヒンデミットはナチスドイツ独裁時に。というようなMCを交えて、演奏会の雰囲気は和やかです。

半地下の小さな会場は観客で一杯です。ピアノとヴィオラのダイナミックな音圧が、集った全員の鼓膜を同時に震わせているさまを想像していました。

ヒンデミットは後期ロマン主義と無調性音楽の端境期の作家です。前世代に対するリスペクトと反感という端境期ならではの揺れる感じと、その環境下で自分の表現を極めようという意志の強さ、相反する要素がその音楽から滲んでいるようで面白かった。いままであまり気に留めていませんでしたが、もっと聴いてみようかなと思いました。

 

2014年5月24日土曜日

WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~

日差しのまぶしい土曜日の午後。ユナイテッドシネマ豊洲三浦しをん原作矢口史靖監督作品『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』を観ました。

大学入試に落ちた主人公平野勇気(染谷将太)は、カラオケ帰りに偶然目にした林業体験のパンフレットで微笑む美少女(長澤まさみ)に心を奪われ、ローカル線を乗り継いで研修プログラムに参加する。

テンポの良い映画です。集合研修中に仲間が脱落していくところや、ヒロインとの距離を詰めるところなど、普通だったらもっと時間をかけて描くと思いますが、矢口監督はそれをしない。主人公の内面を掘り下げないからストーリーがどんどん進む。そのスピード感がこの映画の一番の魅力です。

ニッチな世界にたまたま飛び込んだ主人公(たち)が、そこに自分の居場所を見出しやがて熱中していく、という物語の基本的な構造は同監督の『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』と同じですが、この2作と異なるのは同級生の仲間がいないこと。最終的に作品を発表することもなく、最後までドタバタと駆け抜ける。

樹木の深い緑色と相俟って、森林浴をしたような爽快な後味が残ります。土着的な山岳信仰とテクノロジーのバランス感覚も好印象。

そしてなにより強烈なのは林業の天才飯田ヨキを演じる伊藤英明の激マッチョな存在感です。画面に映るだけで可笑しい。『愛をください』(2000)とか『天体観測』(2002)などCX系のドラマに出ていた頃はこんな展開になるとは思ってもいませんでした。迷わず突き進んでもらいたいです。

 

2014年5月22日木曜日

Poemusica Vol.28

東京は初夏を通り越してもはや雨期です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.28が開催されました。お昼前後の雷雨が、リハーサルの時間にはすっかり上がり、「晴れましたね」なんて話していたのに、開場とともに稲光、そしてバケツをひっくり返したような雨。下北沢駅で足止めされたお客様もいたのではないでしょうか。

今回共演したミュージシャン3組はみなさんギターの弾き語り。ソングライティングも演奏も歌声も三様で、このスタイルの幅広さを味わうことができました。

鳥井さきこさんはこの若さで、身の回りや別の街で起こったことを伝える吟遊詩人としてのフォークシンガーという役割を現代に継承しているひとりです。歌詞は叙事的な色彩が強く、心情をドラマチックに唄い上げるというよりも、出来事や感じたことを淡々と伝える。その歌詞と歌声はシンプルに研ぎ澄まされている。フラットな感触のなかにも、以前に増して解放感や柔らかさが加わり、聴き手の心により響くようになったと感じます。

今年に入ってライブの日は必ず雨が降るというちみんさん3月4月、今回とお会いするたびに髪が短くなり、ショートボブがよく似合っています。ソウルミュージックをベースにフォーキーなアジアンテイストを軽くまぶした旋律。派手さはなくてもチャレンジングでエレガントなギター。そしてすべての痛みや悲しみを内包し且つ、光に向かって手を差し伸べているようなあの歌声。真に美しい音楽を音楽そのものとして存在させる力を持つ人です。

小野一穂さん(画像)。成熟した大人のロックンロールをギターとハープと声で表現します。世界を切り取る視点が柔軟で優しく、苦しい状況や答えのない現実を唄うときでも、どこか楽観的な響きを帯びるのは、彼のあのすこしだけかすれた重層的で豊かな歌声のおかげでしょうか。繊細なアルペジオもゴリゴリとオーバードライブをかけたストロークも過剰になることなくコントロールされていて、それは一穂さんの育ちの良さを表しているように思えます。

僕は3人それぞれの呼び出しに詩を添えるような気持ちで朗読しました。鳥井さきこさんには宮沢賢治の「この森を通りぬければ」と自作の「離島/地下鉄を歩く」。ちみんさんに「雨期と雨のある記憶」。一穂さんには47年前のこの日が命日だったラングストン・ヒューズの「助言」「ブルース」「太鼓」を。

最後にみんなで英国トラッドの"The Water Is Wide"(鳥井さきこ訳詞)を演奏しました。鳥井さんのギター、ちみんさんと鳥井さんのボーカル、一穂さんのブルースハープ。僕も間奏にラングストン・ヒューズの「夢の番人」の朗読で参加しました。

あんなに激しく降った雨も終わる頃にはすっかり止んで、SEED SHIPを出たら、雲の切れ間に星が小さくまたたいていました。

次回のPoemusicaはもう来週。いおかゆうみさんを大阪から招いて、日曜のお昼に開催します。平日はなかなかね、っていう方も是非!

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Poemusica Vol.29
日時:2014年6月1日(日) Open 12:30 Start 12:50
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,300円(ドリンク代別)
出演: いおかゆうみ(大阪) *Music
      菅田紗江 *Music
      今泉沙友里 *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年5月4日日曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014 ②

今日もお天気。『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014』 2日目はピアノのプログラムを2つ聴きました。

■公演番号:231 ホールB5(カフカ) 11:00~ ブラームス16のワルツop.39シューマンの主題による変奏曲op.23ハンガリー舞曲第11番第21番
クレール・デゼール(ピアノ)、エマニュエル・シュトロッセ(ピアノ)

連弾というのは幸せな光景だなと思います。最前列のチケットが取れたのですが、ステージを囲みU字型に配置された客席の演奏家の真後ろで、1台のピアノに向って並ぶふたりの背中を眺める格好。これがよかった。ブラームスに連弾の曲が多いのは、クララ・シューマンの隣で弾きたかったからに違いない。ときおり触れるふたりの肩。男性ピアニストの右手と女性ピアニストの左手が交差するときに女性の脇下に男性の腕が通る。クララが中音域のスローで甘い旋律を弾くとブラームスにしなだれかかるように作曲されている。そんな発見がありました。しかも変奏曲の主題は彼女の夫の作品からという屈折。ブラームスってなんかかわいいな。

■公演番号:273 よみうりホール(ダ・ポンテ) 15:00~
ブラームス:3つの間奏曲op.117
シューマン交響的練習曲op.13
仲道郁代(ピアノ)

ビックカメラ有楽町店7階のよみうりホールは1957年竣工。曲線を活かしたスペイシーで昭和感溢れるたたずまいは新しいコンサートホールにはない味わいがあります。「3つの間奏曲」はブラームスのピアノ曲のなかで一番好きです。シューマンの夭折から30数年後、息子を亡くしたクララを慰めるために作曲されたララバイ。クラシックの演奏会としてはめずらしくMCが入り、ピアニスト自ら解説しました。ヒューマンエピソードだけでなく、和声の特徴と表現について演奏者としてしっかりとした考えを述べているのに好感を持ちました。

明日もフェスは続きますが、僕のLFJ2014はこれでおしまいです。今年も楽しませてもらいました。どうもありがとうございます。また来年会えますように。


2014年5月3日土曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014 ①

憲法記念日。9条! 東京メトロ有楽町線に乗って、有楽町東京国際フォーラムへ。GW恒例のクラシック音楽フェス "ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014"。今年で10回目ということで、例年のようにひとつのテーマを設けていません。僕はベートーヴェンの室内楽、ブラームスとシューベルトのピアノ曲を選びました。

■公演番号:123 ホールB7(ゲーテ) 14:15~15:20 ベートーヴェン弦楽四重奏曲第11番ヘ短調op.95「セリオーソ」弦楽四重奏曲第7番ヘ長調op.59-1「ラズモフスキー第1番」
プラジャーク弦楽四重奏団

結成1972年、チェコのべテランカルテット。いぶし銀の技が光る。40年以上ずっといっしょに演奏しているだけあって、タイム感が完全に揃っています。室内楽を間近に聴くとメンバーのキャラクターや関係性が見えてきます。上機嫌なトム・ウェイツといった感じの風貌のチェロ奏者ミハル・カニュカ氏がムードメイカー。アクションも大きい。

■公演番号:184 よみうり大手町ホール(プルースト) 16:15~17:00
シューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調D960
アダム・ラムール(ピアノ)

今年3月に完成したばかりの新しいホールです。アダム・ラムール氏は猫背のイケメン。アーティキュレーションが独特で、その演奏姿勢と相俟って、グレン・グールドを思わせます。遺作ソナタを弾くにはまだ若いなあ、と思いましたが、シューベルトって31歳で亡くなってるんですよね。いまのラムール氏とほとんど変わらないんじゃないでしょうか。

■公演番号:137 ホールB5(カフカ) 21:30~22:45
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調op.59-2「ラズモフスキー第2番」弦楽四重奏曲第10番変ホ長調op.74「ハープ」
プラジャーク弦楽四重奏団

交響曲やピアノソナタみたいにキャッチーなサビがないためとっつきにくい印象のベートーヴェンの弦楽四重奏曲ですが、視覚的な面白さもあるので是非ライブで観てもらえたらと思います。サッカーで言ったらディフェンダーのマークの受け渡しとか、ダイレクトパスをつないでゴール前に迫るとか、そんな感じのやりとりが随所にあります。そして、響いてくる音楽は間違いなく美しい。

明日はブラームスの日です。それではまた、ごきげんよう。


2014年4月30日水曜日

ちみんLIVE@青山PRACA11

雨のウェンズデイ。表参道ブラジル料理の名店PRACA11(プラッサオンゼ)へ。先月下北沢SEED SHIPPoemusica Vol.26で共演したちみんさんワンマンライブを聴きに行きました。

Poemusicaではギター弾き語りでしたが、この日は、ピアノ野本晴美さん、フィドル大久保真奈さんJohn John Festival)、パーカッションokyonさん(ex.musey etc..) という女子4人編成。雨の歌からはじまりました。ときおり弾き語りをはさんで、2ステージ、約2時間で16曲をゆったりと演奏します。

ちみんさんの歌声は、温かみがあって、正確で、おだやかなのに、力強い。それは豊かに耕された牧草地のよう。なのになぜだろう、その向こう側に時折風の吹きすさぶ荒涼とした地平を僕は見てしまうのです。それは彼女が通ってきた道なのでしょうか。

たとえば「茶の味」というマイナースウィングでは「私はきれいな手でお茶を淹れる」と歌います。ここだけ聴けば何気ない歌詞なのですが、彼女のエモーショナルな声に乗ると、きれいに洗う前のその手はどれだけ汚れていたのだろう、なぜ汚れたのだろう、泥? 血? と際限なくイマジネーションを喚起させられるのです。

そんなふうに美しく鋭利な断面を持つ音楽を、一夜限りのバンドメンバーがやわらかな空気で包んで、丁寧に客席に差し出していました。特にokyonさんのパーカッションがすごかった。確信犯的にエッジを排除した不規則さでかすかなアクセントを刻む。ゆるふわグルーヴ。音楽の芯を掴むっていうのはこういうことなんだな、と思いました。

ちみんさんがひとりで弾き語りしたフィッシュマンズのカバー曲も、シンプルな旋律の良さを引き出す見事な手腕に感心しました。

5月22日に下北沢SEED SHIPで開催されるPoemusica Vol.28に、ちみんさんの出演が決まっています。この日は再び弾き語りで。その歌声が僕のなかにどんな景色を映し出すのか。とても楽しみです。

 

2014年4月29日火曜日

そこのみにて光輝く

昭和の日。ヒューマントラストシネマ有楽町で、故・佐藤泰志原作、呉美保監督映画『そこのみにて光輝く』を観ました。上映後、ゴールデンウィークで浮き足立つ街に出たときに感じるスクリーンとの温度差にめまいを覚える。

真夏の函館。採石場の爆破事故で部下を亡くし無為な生活を送る佐藤達夫(綾野剛)は、パチンコ屋でライターを貸したことがきっかけで、仮釈放中の陽気なヤンキー拓児(菅田将暉)と知り合う。拓児が家族と暮らす海辺のバラックで出会った姉の千夏(池脇千鶴)は安い娼婦だった。

救いのない物語。拓児と千夏と両親が暮らす家の物干し竿には洗濯物のとなりにコンブが干してある。貧困とセックスと暴力。負のスパイラルから抜け出すことを諦めかけた者たちが関わることで生まれる衝突。

スクリーンの中に何か「救い」を見出そうと無意識のうちに目を凝らしてしまう。拓児が育てる小さな花鉢は山で抜いてきたホタルブクロ。真夏なのに咲き誇る紫陽花のブルー。そして達夫の部屋にある十数冊の文庫本とCDプレーヤー。そこに本と音楽があるということ。夜明けの光り。

この映画に描かれたようなぎりぎりの生活を送っている人たちはおそらく、この映画を観ないし原作小説も読まないでしょう。観るとしたらもっと豊かな暮らしを描いたハリウッド映画に違いない。その事実と矛盾を自分のなかで消化するすべをいまの僕は持っていません。

呉美保監督の前作長編『オカンの嫁入り』は僕には残念でしたが、この映画ではリアルで重厚で緊張感の途切れない見事な演出をしています。そして主役の3人が素晴らしい。草を食むキリンのようにうなだれた綾野剛の首筋、池脇千鶴の背中と二の腕のたっぷり感、菅田将暉の笑顔の明るさ。絶望的な環境にあってもかすかな品を失わない役者の肉体に希望を見つけました。


2014年4月17日木曜日

Poemusica Vol.27

若葉の頃。よく晴れて気温が上がった木曜日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.27が開催されました。

古川麦くん昨年9月のVol.21以来、二度目のPoemusica出演です。ガットギターの演奏技術が確かで、オリジナル曲のちょっと面白い和声進行も小刻みで複雑なパッセージも几帳面に弾きこなすのですが、歌声には青さと成熟が同居している。その絶妙なバランス。音楽そのものにスピード感とグルーヴがあるから飽きさせない。「音楽は風みたいなもの」と語っていたのが印象的でした。

朝香智子さん。普段は自身のバンドINUUNIQやソロミュージシャンのサポートピアニストとして活躍していますが、今回はレアなソロ演奏で。スケール感のある演奏で、かつ一音一音の粒立ちがくっきり聞こえます。ヒグチアイさんとの共作曲を歌ってくださいました。ヒグチさんのシャープな切れ味とは違う柔らかい声で、曲本来の持つ繊細な優しさが全面に出ていました。ボーカルが本業じゃない人の唄う歌の良さです。そこに初期衝動を聴くからでしょうか。

ここ数年よくライブに行ったり、銀ノラやアサノラでお世話になっているので、僕はひさしぶりな感じがしませんが、ノラオンナさんがPoemusicaに出演するのは2012年3月以来。冒頭、僕の詩「風のたどりつく先」を朗読してくださいました。この詩は2012年秋に開催されたアカリノートさんの企画ライブ「あのかぜのゆくえ」のために書き下ろした作品です。ぐっときました。いつも変わらぬ集中した演奏で、今夜ならではの風を届けてくれました。

最後はアカリノートさん(画像)がにぎやかに、そしてしっとりと締めました。彼と僕の共作曲がふたつあります。「メロディ・フェア」はアカリノートソロ演奏で。「風の生まれる場所」には僕も参加させてもらいました。この歌と「風のたどりつく先」と三部作として書いた「風の通り道」の一部も間奏に乗せて朗読しました。腰まで伸びた髪を去年切ってさっぱりした見た目になりましたが、声はますます届くようになったように思います。

僕はそれ以外には「ホームカミング」、宮沢賢治の「告別」、そしてビージーズの「メロディ・フェア」について書いたショートストーリー「希望について」を朗読しました。全体を通して、何本かの糸がからまったりほどけたりしながら風になびいているような、そんなライブになりました。

次回のPoemusicaは5月22日(木)。ポエジー溢れる夜になるのは必至。
是非いらしてください!

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Poemusica Vol.28
日時:2014年5月22日(木) Open 19:00 Start 19:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
     yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,300円(ドリンク代別)
出演:小野一穂 *Music
    ちみん *Music
    鳥井さきこ *Music
    カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年4月11日金曜日

その形から飛び出せ

葉桜の候。吉祥寺MANDA-LA2で開催されたmueさんの活動13年記念感謝祭ワンマンライブ『その形から飛び出せ』に行きました。

ステージに近い席で聴きました。ループマシンを導入した1曲目の途中からmueさんは尋常でない発汗で、大丈夫かな、と思っていました。案の定体調最悪とのこと。そして3曲目では機材トラブルでPAからギターの音が出ない。

満員の観客を前にして、普通ならパニックになりそうなところを逆に、客席の一体感を作ることに向ける。それも言葉ではなく、音楽で。愛らしい容姿からは想像がつかない度量の大きさを感じました。

mueさんの音楽を言葉で説明するのは難しい。オリジナル曲ではオープンチューニングのギターをガシガシ弾くかと思えば、アンコールで披露された「トレイントレイン」のカバーのサビのベースラインなんか複雑過ぎてどうなっているのか何度聴いてもわからない。それに象徴されるように、多面的でエッジの深い構造を持つ音楽でありながら、シンプルで無理のない旋律とあの温かくて柔らかい歌声ですべてを心地良く包み込んでしまう。

ステージ後半の「ジャンピングジャックフラッシュ」「サティスファクション」「悪魔を憐れむ歌」「無常の世界」と続くストーンズメドレーで完全に流れを掴んで、そこから2曲のアンコールまで、冒頭のアクシデントなど微塵も感じさせない見事な演奏でした。

昨年同日のワンマンライブは、ドラムス、ベース、チェロが入ったカルテット編成でしたが、今年は2時間、全曲をmueさんひとりで演り切りました。確かに舞台の上には小柄な女の子がひとりいるだけですが、実は、PAやモギリやキッチンスタッフや、もちろんわれわれ観客たちも、みんなでひとつの大きな音楽を奏でていたのではないでしょうか。

 

2014年3月30日日曜日

BOOKWORM 3/30 “17th Anniversary” at Bar Chit-Chat

春の嵐。小田急線を降りた頃には傘がさせないほどの強い風。新百合ヶ丘のBar Chit-Chatで開催されたBOOKWORMに参加しました。

オープンマイクというシステムはおそらくNYアポロシアターのアマチュアナイトあたりが起源ではないかと思います。誰でも一定時間マイクの前で好きなことを話したり、歌ったり、踊ったり、演じたりできる。

ヒップホップカルチャーの隆盛とともにポエトリー・リーディングにもそのシステムが取り入れられ、1997年から東京の複数個所で同時多発的に始まりました。そのなかで、場所を変えながら最も長く続いているのがこのBOOKWORMです。

この日は20人がマイクのまえに座って、それぞれの声で語りかけ、みんなが耳を傾けました。

「人は自分の好きなものについて語る時、とても上手く語る事が出来る」。BOOWORMは、このミヒャエル・エンデの言葉を理念に掲げています。自作は半分、残り半分は自分の好きな本の紹介や気になる出来事についての話です。ひとりひとりが異なる視点と語り口を持ち、10分という枠のなかで伝える。自己主張よりも共有(相違点も含めた)に軸足を置いていることが、このオープンマイクの居心地の良さであり、また長く愛されてきた理由ではないかと思います。

どの方の声も話もその人だけが持つという意味では等しく興味深いものですが、特に印象に残ったものをいくつか。

コイワズライのGt/Vo三宅善久さんが実家で発掘した5歳のときの自分と弟さんの日記。遠藤コージさん爆音エロブルーズ)のBOOKWORMの定義。何かの幼虫。メインMC山﨑円城さんのハンドクラップ・ポエトリー。しえろ文威さんリュウくんのそれぞれの歌。小夜ちゃんが読んだイシダユーリさんの「パレード」。藤田文吾さんDouble Famous)の正しい野糞の仕方。初登壇したLittle Woody(画像)の十代のエピソード。etc..。そして今日披露された十数名のパフォーマンスを即興的にカットアップした坂井あおさんの見事なワード・コラージュ作品。

僕は先頃亡くなった安西水丸さんの著書『スノードーム』(1996)から故淀川長治さんのエッセイ「雪の降るガラス玉」と自作の詩「スノードーム」を朗読しました。

気づけば5時間が過ぎ、雨がすっかり上がっていました。BOOKWORM17周年おめでとうございます!