2013年3月31日日曜日

クラウドアトラス

年度末ですね。なにかと気忙しく、街がいらついているように感じます。みなさん大丈夫ですか? ユナイテッドシネマ豊洲で、ウォシャウスキー姉弟(お兄さん性転換したんですね)&トム・ティクバ脚本監督作品『クラウドアトラス』を鑑賞しました。賛否を呼んでいる問題作ですが、僕はこの映画好きです。

1849年南北戦争時代のアフリカ奴隷売買と搬送、1936年英国のゲイカップル(片方は別れたのちに「クラウドアトラス六重奏曲」を作曲)、1973年ヒッピームーブメントのサンフランシスコで原発開発を追う女性ジャーナリスト、2012年ロンドン出版セレブのビザールなパーティライフから一転して老人介護施設からのドタバタ逃走劇、2144年ネオソウルのクローン人間カフェ、文明崩壊の106年後2321年の原始化した離島。という6つの場面がスピード感溢れるカット割りで並行して進む。各話の中にひとりずつ出てくる彗星形の痣を持つ者が主人公。主要な役者たちがみな4~6役をこなします。

「我々は人生で何度も同じ道を通る」というカベンディッシュ(ジム・ブロードベント)の台詞(このあと「昔は電車内で詩をつくる若者だった、愛する人のために」と続く、笑)と「命はひとつではない。子宮から墓まで人は他人とつながる。すべての悪が、あらゆる善意が、未来をつくる」というソンミ-451ペ・ドゥナ)の後世に神格化されるスピーチが物語全体を象徴しています。

それぞれの物語の登場人物のひとりが別の物語に間接的に関わり、全体として大きなストーリーを構成しています。この関わり方が均等ではなく、フィルムの時系列もカットアップされて絡み合っているので判りづらい、メッセージも凡庸、というのが否定的意見。

でも、ひとつひとつのストーリーの中では時系列が逆転することはないので、そんなに苦労して筋を辿るようなこともなく。どこまでもクリアでスタイリッシュな映像美は両監督の真骨頂。

6つの物語のなかで一番魅力を感じたのは2144年ネオソウルです。無機質な新建築と猥雑な旧市街の対比、レトロフューチャーな兵器を用いたスリリングなアクションシーン、そしてなによりペ・ドゥナ。クローン人間が意志を獲得し、革命に殉じることで神格化されていく。彼女が画面に映るすべてのシーンがチャーミングです。最後の方の英国人役のヴィクトリア調コスプレも素敵でした。ハリウッド進出第一作としては大成功と言えるのではないでしょうか。主役のトム・ハンクスハル・ベリーを完全に食っています。あと、小狡い編集者カベンディッシュが登場するシーンはいちいち笑える。

レイ・ブラッドベリの「華氏451度」、『ソイレント・グリーン』やボブ・ディランの"Like a Rolling Stone"など、時代時代のカウンターカルチャーからの引用も楽しく、3時間近い大作ですがまったく退屈しませんでした。

 

2013年3月24日日曜日

空飛ぶ同行二人 御来場御礼

檸檬忌。花曇りの日曜日。渋谷Flying Booksにて、朗読二人会『空飛ぶ同行二人』が開催されました。2010年春、深川から出発したこの旅も4年目を迎え、西西へと渋谷までたどり着きました。当日だけでなく、いろいろな面で関わってくださったみなさん、どうもありがとうございます!

ふだんは自作のDTMトラックを使ってリーディングしている村田活彦さんですが、このシリーズだけはMagical Trampolineとアコースティック・セットで。ギターの松浦年洋さんとも2年ぶりに再会して相変わらずのイケメンぶり(画像参照)にリハーサルからテンションが上がる(笑)。

実はこのふたり、20年来の音楽仲間。おたがいの間合いがよくわかっているので、安心して聴くことができます。信頼関係っていうのともちょっと違って、年甲斐もなく張り切るカツヒコさんを、一学年下の松浦さんが、おいおい大丈夫?って感じに支える。

音程の無い朗読とメロディの往復もスムーズにこなれて、特に最近頻繁にライブの場数を踏んでいる成果が出ているなあ、と思いました。右手だけで奏でられた白いアコーディオンのアッコ(苦)の音色もローファイで、バカ男子丸出しっぷりが増幅していて面白かったです(笑)。

僕のセットリストは、まず長いイントロダクションとしてカール・サンドバーグ河野一郎訳「詩の暫定的定義(第一案)」、Flying Booksが登場する「Another Green World」、山路店主さいとういんこさんと編集してくれた『カワグチタケシ詩集』(2002)から「Planetica(惑星儀)」、今日発売の新詩集『新しい市街地』から「チョコレートにとって基本的なこと」「星月夜」「新しい感情」の3篇、村田活彦新CDのタイトル作「詩人の誕生」、Aztec Cameraの「We Could Send Letters」のカワグチタケシ訳、全8篇。

事前に演目の打ち合わせはしていなかったのですが、「詩人の誕生」「Planetica(惑星儀)」の2篇をふたりとも取り上げ、同じテキストを別々の声質とテンポと抑揚でお届けしました。客席のうしろのほうでカツヒコさんのを聴きながら、へえ、こんな詩だったんだ、いまさら発見。

このライブはWレコ発ということもあり、新譜、新刊も多くのみなさんに手に取っていただけました。カワグチタケシ新詩集『新しい市街地』は、引き続きFlying Booksで販売していますので、お近くにいらした際は是非お立ち寄りください。来週末以降、お世話になっている都内の別の古書店でも販売開始します!


2013年3月23日土曜日

港に佐藤史朗

東京は桜が満開です。この季節に聴きたくなる「少しおとなになりなさい」。

ノラオンナさんが歌うのを僕がはじめて聴いたのは、ちょうど一年前の3月22日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで開催されたPoemusica Vol.3で共演させていただいたときでした。それから彼女の音楽にすっかり夢中になり、CDをコンプリートしたり、何度ライブを聴きに行ったり、先月は銀座のノラの物語でお世話になったり。

ノラさんが昨年結成した5人組バンド"港ハイライト"のライブを3度目にしてようやく聴きに行くことができました。

吉祥寺MANDA-LA2のステージに上がったノラさんはミッドナイトブルーのサテンのドレスで長い髪にはアートフラワー。ソロのウクレレ弾き語りやギターの見田諭さんとのデュオのときのカジュアルな感じとはだいぶ違います。

あたたかいひざ」で始まった港ハイライトのライブ。優しくうねる柿澤龍介さんトルネード竜巻)のドラム、どっしり後ノリな藤原マヒトさんのベース。モノクロームをイメージさせるRicoさんのピアノというギターレス・トリオの演奏に、倉谷和宏さん(旭荘201)のスモーキーなハイトーンボイスとノラさんの低い声が重なる。

実際に聴く前は、バンド編成ということで、ソロやデュオよりカラフルな音楽をイメージしていたのですが、ライドシンバル以外はすべての楽器が中低音を鳴らすオルタナティブな響きを持っており、特に前半のマイナースウィング中心の曲構成では、更に密室度の高いプライベートな音像です。

ゲストのアコーディオニスト佐藤史朗さんプラネタリウム)が加わって演奏に色彩を加え、リラックスしたワルツの「タクト」、カリプソ調のリズムの「リラのスカート」で一気に視界が開けるというステージ進行の妙。

アンコールで演奏されたノラさんの名曲「流れ星」以外はすべてバンド用に書き下ろされたオリジナル曲で、まだレコーディングされていない12曲はライブでしか聴けない。会場にいる人たちだけで秘密を共有するような甘美でゴージャスな時間が流れていました。

 

2013年3月21日木曜日

Poemusica Vol.15

すこしだけ寒さが戻ってきた春分の翌日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPにて"Poemusica Vol.15"が開催されました。

この日はいつものPoemusicaとはちょっと違う特別なコラボ祭。平井真美子さん神田サオリさんと、Little Woody Bandカワグチタケシと、それぞれがっぷり四つに組んで、一夜限りのショーをお届けしました。

今回のLittle Woody Bandは4人編成。ウッドベースLittle Woody、キーボードVi-Ta、カホン若山雅弘、ボイス&コンサーティーナmoqmoq(オカザキエミ)という豪華布陣。各々がピンでセンターを務められるつわものどもが集って、本気のインプロヴィゼーションを展開します。タイトなカホンにファットなベースのリフ、ドリーミィなエレピと天上の声に乗せて、僕は「Universal Boardwalk」というタイトルの12.5篇の連作ソネットをリーディングしました。なんかもう幸せでした。

休憩後、Poemusicaではすっかりおなじみピアニストの平井真美子さんが楽器の前に可憐に腰かけ演奏を始めると、すこし遅れて白いワンピース姿の神田サオリさんが満員の客席を縫ってステージへ登場。素手にウルトラマリンの絵具を乗せて画布にS字曲線を描く。その繊細な所作はコンテンポラリーダンスを思わせます。

ピアノ演奏の抑揚に呼応するように、ときに激しく、ときにリリカルに描かれる抽象的な渦巻き模様は星雲のよう。そこに黄色やピンクが加わり、画布上の季節は冬から春へ。まるで満開の桜並木を空から見下ろしているような気分になりました。ここまで40分弱。

そして10分のインターバルをはさんで後半。映画やTVなど映像系の音楽を多く手掛けている真美子さんだけあって、ビジュアルイメージを音像化するスキルに素晴らしく長けており、テンポや強弱だけでなく、暖色系も寒色系も、直線も曲線も、ピアノの音色で表現できる技術を持っています。

ステージが進むにつれ、サオリさんの背中がうっすら汗ばみ、肩甲骨の動きも、画の色彩もエロティックに。単純に音楽に反応しているだけではなく、本当の意味でのインタープレイがそこに表現されていました。抽象と具象を行き来し、最後は小さな白い花びらを画布に散らして。

生涯に一度の夜。365日どの夜も生涯に一度ですが、忘れ難い夜とそうでもない夜があるとしたら、この夜はまぎれもなく前者。明日で長い役目を終える下北沢の地上駅舎に向かって、ふわふわした足取りで帰途に着きました。

次回のPoemusicaは4月18日(木)。ところは同じく下北沢Workshop Lounge SEED SHIP唄子さんを静岡から迎えて開催。Little Woodyが3ヶ月ぶりにアニメーション作品を披露します。どうぞみなさんお見逃しなく!


2013年3月16日土曜日

空飛ぶ同行二人

春ですね。今日もいいお天気でした。 朗読会のお知らせです。

来週3月24日(日)渋谷フライングブックスにて。 

毎年春になるとやってくる村田活彦とカワグチタケシの朗読二人会「同行二人」 が4年目を迎えました。◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

空飛ぶ同行二人 A POETRY READING SHOWCASE IV
日時:2013年3月24日(日) 18時開場 18時半開演
会場:渋谷・Flying Books
    渋谷区道玄坂1-6-3 渋谷古書センター2F
    03-3461-1254 http://www.flying-books.com/
料金:予約1,300円(当日精算)、 当日1,500円(どちらも1ドリンク付)
出演:村田活彦 http://blog.goo.ne.jp/inthenameofmyself/
    カワグチタケシ http://kawaguchitakeshi.blogspot.jp/

ご予約推奨!:ご予約の方には整理番号をご案内しますので、お名前、人数、電話番号をメール(info@flying-books.com)、電話(03-3461-1254)、facebookメッセージ(Flying Books宛)のいずれかでお知らせください。
※facebookの参加ボタンだけではご予約となりませんのでご注意下さい!

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村田活彦とカワグチタケシの朗読二人会「同行二人」。畏れ多くも芭蕉と曽良になぞらえたオトナ系男子二人旅。深川から出発して谷中、白山、そして今年は渋谷、西へ西へと進んでいきます。

村田活彦さんのバックバンドMagical Trampolineは、オリジナルメンバーのギタリスト松浦年洋さん(←ガチでイケメン)が戻ってきたアコースティック・デュオ編成です。僕は例のごとく声一本で。

しかもこの日、奇しくもWレコ発となりました。活彦さんの新リーディングCD「詩人の誕生e.p.」とカワグチタケシ新詩集『新しい市街地』が偶然にも同日リリースされます。ということで、祝いにきてください(笑)。ライブも新作満載のセットリストになるはずです。こちらも乞うご期待!

会場は渋谷駅南口のお洒落なブックカフェ。デザイン系の洋書を中心に多彩でスタイリッシュなラインナップが魅力です。

早めの桜がほころび始める頃、みなさんに会えることを楽しみにしています!



2013年3月6日水曜日

bar PORTO 前川朋子(vo,g)、rie(per)

東京湾岸の木蓮が咲き始めました。日暮里のbar PORTOまえかわとも子さん(左利き)の歌を聴きに。Poemusica Vol.4で共演して以来、『冬の街』はヘビロテ・ディスクとなり、ライブにも何度かお邪魔しましたが、前原孝紀さんとのデュオだったり、The Xangosだったりで、ソロの弾き語りを生で聴くのははじめて。

しかも今回は「たきびバンド」のパーカッショニストrieさんもご出演ということで、いやがおうにも期待が膨らみますが、それを上回る見事な演奏で、いつまでも聴いていたくなるような濃密で贅沢な2時間のステージでした。

以前同じ店で聴いたときはポルトガル語のMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)中心の選曲でしたが、「夜には冷たい雨が」「冬の街」、新曲「春だね」と日本語の曲が続きます。まえかわさんの歌声の素晴らしさは、このブログでは何度も紹介してきましたが、自身で作詞作曲している日本語の歌詞も、厳選された最小限の単語で透明感のある情景を描写した、とてもしっかりしたものです。

そしてギター。ちょうど一年前に下北沢のWorkshop Lounge SEED SHIPで聴いたときは、派手さはないけれども、ピッキングが安定していて丁寧でいい演奏をするなあ、と思いましたが、実はそのときはギターを弾き始めてまだわずか1年。それまではボーカル一本だったのを、東日本大震災を機に、ひとりでも歌を届けられるようにと考えギターを覚えたとのこと。それからさらに1年経って、ギタリストとしても大きく成長した姿を見せてくれました。

右手の正確さは更に増し、左手の特にベースラインの響きが豊かで、レガートで鳴らされるときには、ドローン(通奏低音)的な効果が出て、ガットギター1本とシンプルなパーカッションだけなのに、まるで音響派のような深く陰影のある空間を構成します。オーガニックな完全人力アンビエント。その上に、レンジの広い声で、時にふわりと、時に力強く乗せられる情感溢れる歌唱は、歌というより虫の鳴き声や鳥のはばたきのよう。ボサノバ・ベースでありながら2013年の現在を映した音楽が天然の空気を纏って奏でられます。

後半は石垣出身の25歳、カナミネケイタロウさんのベースが加わり、カエターノ・ヴェローソの"Lua Lua Lua"、谷川俊太郎/賢作の「さようなら」などのカバー曲も美しく。宮澤賢治作詞作曲「星めぐりの歌」(←リンクは細野晴臣・裕木奈江バージョンです)を一年ぶりに聴けたのもうれしかったです。