2016年11月27日日曜日

ねむのにわ

初冬の雨。東急大井町線に乗って等々力まで。坂を上り、坂を下る。上野毛通りのファニチャーショップ巣巣さんで開催中の『ishikawa ayumi exhibition GARDEN vol.9 ねむのにわ』を鑑賞しました。

イシカワアユミさんと知り合ったのは2000年頃。外部スタッフとしてお手伝いしていたウェブサイトPoetry Japanでイシカワさんのフィルム写真作品がメインビジュアルになっており、清涼でセンチメンタルな抒情性に惹かれました。2005年、経堂のギャラリ・カタカタの個展『呼吸』の印象はいまでも鮮明です。

GARDENシリーズは、vol.4 『根っこの記憶』、vol.5 『音庭』、vol.8 『おとしぶみ』を拝見しており、写真作品以外にもイラストレーション、ドローイング、木版画、空間インスタレーション、刺繍、人形、ポエトリーリーディング、鍵盤演奏、雑草食(?)など、数多くのメディアを用いた作品群に断続的に接してきました。

アウトプットが多岐にわたっても、シンプルでナチュラルでオーガニックなテイストがビシッと通貫しており、ゆるふわそうに見えて実はしっかり地に足を置いている。それは精密で確かな技術によってはじめて実現されるものです。そういうことを言うと彼女は「独学なんで」と笑いそうですが、人から教わるものよりも、自分の感覚を信じ、自ら手を動かし、試行錯誤しながら時間をかけて身につけた技術のほうがより強いものであってしかるべきでしょう。

今回の主役は木綿やウール、ニットやレザーで縫われた身長20cm前後の人形たち。人間と妖精の中間的な存在、あるいは人間の衣服を纏ったなで肩の妖精たちは、眠っているようにも耳を澄ましているようにも見える静かな表情。テーブル1卓と壁面1面という決して大きくはない展示スペースですが、枯れ枝や木の実を使って効果的に空間を構成しています。

ちょうどお伺いした時間は店舗の片隅にあるアップライトピアノでレッスン中。おかっぱの少女にピアノと鉄琴を教えるアユミ先生の優しい表情にほっこり。なんだか得をした気分です。


 

2016年11月26日土曜日

fall into winter 2 Poetry Reading Live by Pricilla Label

早過ぎる初雪が東京に降った2日後、凛と冷えた土曜日の午前、京王新線に乗って幡ヶ谷へ。fall into winter 2 Poetry Reading Live by Pricilla Label にご来場の皆様、準備に協力してくださった方々、jiccaさん、イベントスタッフのリュウくん、出演者の小夜さん石渡紀美さん、ありがとうございました。

音楽家の場合、レコード会社一社と専属契約することが多いですが、弊社は出版社ですので所属という概念はなく、あくまでも作家さんとは作品単位のおつきあいです。

とはいえ個人経営で、出したい作品を選び、編集や装幀に関わる以上、レーベルのカラーというものは自ずと出てしまうもの。お客様の前に生身を晒すライブイベントとなれば殊更です。

今回のライブに関しては、会場や日程、お客様にご提供するお料理やグッズ、料金などの外枠はレーベル主体で決めましたが、パフォーマンスの構成や作品の選定に関しては出演者ふたりにお任せしました。

紀美さんはフラットで散文的、小夜さんはエモーショナルで音楽的。声質も語り口も対照的なふたりが今日のために綴った新作連詩から始まり、互いの作品をカバーしたり、同時に発声を重ねたり。ふたつの色の境界線がぼやけて混然一体となり、且つ言葉と声だけのシンプルな素材なのに多義的で豊かで、ひとつのインスタレーションアートを鑑賞するような趣きがありました。小夜さんが紀美さん以外の詩人の作品の朗読を挟んだのも効果的だったと思います。

作品単位では、小夜さんの「てのなるほうへ」の朗読が特に印象的でした。12分超の長編詩を集中力をしっかり保って読み切る姿には余裕さえ感じられ、フィジカルの強さも垣間見せた。朗読でこれだけの時間をもたせるのって想像以上に大変なことなんです。

小夜さんの作品「はじめのなまえをわすれてしまった」の朗読に、時にオクターブユニゾン、時にカウンターメロディのように重ねられた紀美さんの声も繊細で美しかった。音楽と違い拍子が均等ではない朗読の特性を逆手に取った重層的な表現は目から鱗、創造的でした。

jiccaさんのおふたりにご提供いただいたランチプレートのお料理も、丁寧で思い切り良く、ウィットとアイデアに溢れていて素晴らしかったです。

無題/小夜』の制作から始まり、レコ発ライブ「やがて、ひかり」から今回の "fall into winter 2" まで、プリシラレーベルの2016年はおかげさまで充実した一年になりました。来年も良質な製品や興業をお届けできるよう日々精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。


2016年11月20日日曜日

ぼくのおじさん

よく晴れた暖かい日曜日。丸の内TOEI②で、山下敦弘監督作品『ぼくのおじさん』を観ました。

日向第一小学校4年1組春山雪男(大西利空)が、公務員の父(宮藤官九郎)、専業主婦の母(寺島しのぶ)、小学生の妹(小菅汐梨)、猫のニャム(たまお)と暮す都内の2階建一軒家には父親の弟で哲学の非常勤講師のおじさん(松田龍平)が居候している。

「身近な大人について作文を書きましょう」。みのり先生(戸田恵梨香)から出された宿題に雪男は悩んだ末、おじさんのことを書き始める。

せこくて、やる気もお金もなくて、屁理屈をこねてばかりで、何も成し遂げないおじさん。それでもチャーミングに映るのは人の言葉を素直に受け取るからでしょうか。松田龍平のいつもどこか遠くを見ているような焦点の合わない目。

原作は1972年刊行の北杜夫の少年小説で、映画の舞台は現代に置き換えられていますが、台詞まわしは原作のまま。先月観たばかりの同じ山下監督の『オーバー・フェンス』はモノローグがまったくなく、役者の動きと表情で感情の襞を表現していました。対して本作には、雪男が作文を朗読する体裁でナレーションが入り、それがコミカルな味わいを醸し出しています。

特に東京を舞台にした前半は、おじさんのスローペースが周囲のスピード感とまったく合っておらず、そのギャップがいちいち面白い。画廊経営者役のキムラ緑子の下町出身らしい前のめりでせっかちさが溢れる芝居が光りますが、その光が照らす先はおじさん。後半のハワイロケは現地の時間の流れがゆっくりなせいか、おじさんが画面に馴染んでしまって少々間延びして見えましたが、風景はきれいです。

テレ東系深夜ドラマ、山田孝之主演『東京都北区赤羽』とはまた感触の異なるオフビートコメディの隠れた佳作として数年後にカルト化しそうな気がします。


 

2016年11月19日土曜日

つつみとくるみ

雨上がりの千駄木。しっとり湿った秋の土曜日の午後、団子坂を上って(団子坂、菊坂、三崎坂。このあたりの坂の名前を聞くと漱石を思い出します)。フリュウギャラリーさんで昨日から開催中のねもとなおこ個展『つつみとくるみ』を鑑賞しました。

ねもとさんの好きなものは、マレーグマと鉱石。もふもふとキラキラ。対照的なテクスチュアが共存し、且つ融和しているのがその作品の魅力です。そしてインテリジェンスとたくまざるユーモアがある。なによりも色彩が素晴らしい。ソフトなグリーン系の中間色も、印刷されることを意識した明快な原色も、品良く、バランス良く収まり、デザインとアートの隙間を軽々と往来します。

『つつみとくるみ』と題された今回の展示の主題は包装でしょうか。つつまれること、くるまれることによって得られる安心が感じられるとともに、くるみは胡桃でもあり。白インクでドローイングを施された胡桃の実が秋の画廊の壁のいたるところに貼り付けられており、その姿にくすっとさせられる。

ことほどさように、言葉のセンスも併せ持つ方なのです(僕の詩作品「風の通り道」ではねもとさんの言葉からの引用が重要な位置を占めています)。

ファブリック/テキスタイルにも挑戦し、あのエレガントな描線と色彩が布帛になり、加工されてロゼットやワンピースになる。あんな素敵なカシュクールをふんわり纏った女の子に出会ったらきっと片想いしちゃうだろうな。

平面作品では「思っていたこと」とキャプションのついた星空に浮かぶ百葉箱と入り口右手に展示されていた鉱物の原石を想像させる抽象画群の画面の硬質な輝きが印象に残りました。


 

2016年11月5日土曜日

fall into winter 2

Pricilla label (プリシラ・レーベル)というインディーズ出版社をやっています。1998年にポエトリーリーディングのカセットテープをリリースしてから18年、詩集を中心とした書籍や朗読CDを制作したり、ライブイベントを主催したりしています。

そのPricilla label が主催し昨年12月に開催しご好評をいただいたポエトリーリーディングライブ "fall into winter" の第二弾が11月26日(土)に同じく幡ヶ谷jiccaさんで、メンバーを変えて行われます。

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"fall into winter 2"
Poetry Reading Live by Pricilla Label

2016/11/26 Sat. open/start 12:00
charge ¥2,500(ランチプレートつき ~ベジ対応可/20名限定 要予約)

〇presents:
 石渡紀美
 小夜

◎幡ヶ谷jicca http://fromjicca.com/
 tel.03(5738)2235
 東京都渋谷区西原2-27-4 升本ビル2F
 →京王新線 幡ヶ谷駅南口より徒歩4分
 (改札出て右マクドナルド側出口より地上へ、商店街を直進)

※ご予約、お問い合わせ pricilla.label@gmail.com

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今回の出演者は女性詩人ふたり。石渡紀美さんは昨年詩集『十三か月』を、小夜さんは今年リーディングCD『無題/小夜』をそれぞれプリシラレーベルからリリースしました。派手なアクションや過剰な感情表現はありませんが、作品とパフォーマンスの本質的なクオリティが高く、自信を持ってお勧めできます。

そして当日僕はフロアDJを担当します。1990年代の英国インディーズ音楽を中心に選曲してランチタイムのBGMをお届けする予定。お楽しみに!

美味しいお食事付のスペシャルなライブです。農家直送野菜をたっぷり使ったランチプレートは天然酵母の自家製パン付、ベジ対応も可能です。

秋から冬へ。移り変わる季節の中のほんの数時間ではございますが、皆様と共に過ごすことができましたら幸いです。ご予約は、お名前、人数、お電話番号を(ベジ希望の方はその旨も)pricilla.label@gmail.com まで、お知らせください。皆様のお越しをお待ちしています!

*2016/11/20追記:おかげさまで満席となりました。ご予約のお客様ありがとうございます。当日お待ちしております。