2022年10月29日土曜日

天間荘の三姉妹

秋晴れ。北村龍平監督作品『天間荘の三姉妹』を観ました。

「ようこそ天間荘へ」老舗旅館の若女将で長女のぞみ(大島優子)のアップで映画が始まる。そこに入ってくる次女かなえ(門脇麦)との会話から、初対面の異母妹小川たまえ(のん)を迎えるために鏡に向かって笑顔の練習をしていることがわかる。タクシーの助手席にはガイド役のイズコ(柴咲コウ)。飲酒運転のトラックに轢かれて臨死状態のたまえの魂が現世と彼岸のモラトリアムである三ツ瀬町を訪れる冒頭部分には引き込まれます。真面目で慎重な長女、自由奔放な次女、天真爛漫な三女という人物造形も基本を外していない。

天間荘の長期滞在客である財前様(三田佳子)と若くして自死未遂した優那(山谷花純)の担当仲居となることを大女将天間恵子(寺島しのぶ)に命じられたたまえが、かたくなだったふたりの心をほぐし生きる決断をさせる。ここまでが90分。続く45分が三ツ瀬町民たちの鎮魂。最後15分が現世のたまえと優那の物語です。

宿の板前に中村雅俊、タクシードライバーの永瀬正敏、ほかにも大島容子不破万作平山浩行高良健吾柳葉敏郎と主役級の大物俳優たちが続々登場します。

150分という長い上映時間に比して、主要登場人物たちが衝突から和解に至る過程が性急過ぎる。このキャストならもっと表情で語らせることができたはず。ファンタジー世界を構築するうえでは世界観が必要だが、現世と三ツ瀬を往来する行程が、タクシー、漁船、人魂、門と一貫していないのは原作漫画通りだったとしても映画的文脈においては痛い。走馬灯のCGも不要。

のぞみ、かなえ、たまえの名前は欽どこわらべなのかな。三姉妹はいいお芝居をしています。柴咲コウの死神もはまり役。のんの扱いに『あまちゃん』オマージュが多々感じられたのはよかった。旧三ツ瀬水族館は天然の入り江でイルカを飼育している下田海中水族館、改装後のシーンは八景島シーパラダイスですね。

 

2022年10月22日土曜日

詩の朗読会 3K14

夏日。30年ぶりに江古田へ。Cafe FLYING TEAPOTで開催された詩の朗読会3K14に出演しました。

2000年6月に西荻窪のBookcafe Heartlandでカワグチタケシ、究極Q太郎小森岳史、イニシャルKの3人で始めた3K朗読会。2006年門前仲町天井ホール(現在は両国に移転)の3K11 featuring ワニラから12年の長いブランクを経て、2018年10月に千駄木古書ほうろう(現在は湯島に移転)の3K12で再開してから、50音順且つ年齢順のオーダーでお届けしています。

カワグチタケシは以下の8編を朗読しました(Qさんと小森さんのセットリストもnoteに掲載されています)。

2.
6. ノック(アウト)(小森岳史)
7. あんまり長いと読めないだろうから適当な長さの詩(究極Q太郎)

今年から始めたドキュメンタリーもしくは伝記映画を観て書く連作「過去の歌姫たちの亡霊」シリーズもアレサ・フランクリンで5篇になりました。あと何人分か書いたら冊子にしたいと思います。

二番手の究極Q太郎は、宮沢賢治の「春と修羅」の暗唱から、実はこれ2000年の3K初回のオープニングと同じ。エモい。人を食った筆名でパフォーマンスも好き勝手にやっているように見えてなかなか一筋縄ではいかない。どこまでが計算でどこからが天然なのか、よくわからないところが魅力でもあります。僕が朗読した「あんまり長いと読めないだろうから適当な長さの詩」はおそらく20代の終わり頃に書かれた詩ですが、親切とアイロニーの共存が絶妙です。

三番手の小森岳史(画像)とは、Qさん不在の12年間、共にTKレビュー(ふたりのイニシャルがTKなので)というゲストを2組入れたリーディングショーを開催してきました。レナード・コーエンルー・リードの歌詞や今回3K14のために現代歌壇界のプリンシパル飯田有子さんが書き下ろしてくれた短歌五首を朗読しました。最近数年書き継いでいる大雪でフライトが止まった大空港を舞台にした散文詩「空港3:スパイな二人」はウィット溢れるカンバセーション・ピース。続きが楽しみです。

小森さんが朗読した飯田有子さんはじめ、さいとういんこさんますだいっこうさん豊原エスさん村田活彦さん石渡紀美さんという錚々たる執筆陣からnoteにもらったコメントは一生の宝物です。村田さんがtwitterで「大人な朗読」と書いてくださいましたが、三者三様の大人げなさがあって、これからもその大人げなさを前面に出していきたい所存でございます。ご来場のお客様、FLYING TEAPOTさん、ありがとうございました。

 

2022年10月21日金曜日

クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男

夏日。新宿シネマカリテニック・モラン監督作品『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』を観ました。

1970年代後半、大英帝国スコットランドの小都市グラスゴー。十代のアラン・マッギーレオ・フラナガン)はデイヴィッド・ボウイに憧れ、妹の化粧品でメイクしてラケットをギター代わりに自室で踊っているところを父親(リチャード・ジョブソン)に見とがめられる。

テレビに映ったセックス・ピストルズに衝撃を受け、街角で新聞売りをしているときに声をかけてきたボビー・ギレスピーキアラン・ロウレス)、同級生のアンドリュー・イネスジャック・ピーターソン)とパンクバンド The Drainsを結成する。

The Jesus and Mary ChainPrimal ScreamMy Bloody ValentineTeenage FanclubOasisを見出したクリエイション・レコーズ代表アラン・マッギー(ユエン・ブレムナー)がインタビューで当時を回想するという設定のノンフィクションムービー。冒頭に「ほとんど実話だが、犯罪者保護のため変えた人名もある」と案内があり、登場人物は役者が演じていますが、音楽は実際の音源を使用しています。

ミュージシャンではなく裏方を主役に据えているわけですが、マッギー自身、Primal Screamの前身となったThe Drains以降、The Laughin' AppleBiff Bang Pow!等のバンドで演奏しており、レーベルの初期スタッフはTelevision PersonalitiesThe Timesのメンバーが務めている。

僕自身はクリエイションより一世代前のラフ・トレード4ADファクトリーがジャストな世代ですが、クリエーションには前述のビッグネーム以外にもいいバンドが多数いて、The LoftThe Wheather Prophetsなんか好きだったな。

ダニー・ボイル製作総指揮らしいドラッグ・ムービーでもあり、ありとあらゆる薬物に手を染めたマッギーは自宅トイレでアレイスター・クロウリーの幻影に怯える。クリエイションの株式をソニーに売却した後の英国労働党に傾倒したマッギーと監督ニック・モラン自身が演じるマルコム・マクラーレンの初老の男ふたりが公園を散歩し、マルコムが「すべての創造と文化は退屈への反作用だ」と説くシーンにしみじみ。

フリーメーソン会員の父親役を同郷の先輩バンド The Skidsのボーカリスト、リチャード・ジョブソンが演じているのも熱いです。

 

2022年10月14日金曜日

四畳半タイムマシンブルース

にわか雨。ユナイテッドシネマアクアシティお台場にて夏目真悟監督作品『四畳半タイムマシンブルース』を観ました。

下鴨幽水荘は貧乏学生たちが暮らす京都市左京区のヴィンテージアパート。三回生の「私」(浅沼晋太郎)は、映画サークルMISOGIで監督としてB級作品を大量生産する1年後輩の明石さん(坂本真綾)に恋心を抱いている。

「私」が下鴨幽水荘で唯一クーラーのある209号室に引っ越した数日後、歯科衛生士羽貫さん(甲斐田裕子)が栓をせずに置いたコーラを悪辣な同級生小津(吉野裕行)がリモコンにこぼしてクーラーは動作しなくなる。8月12日、真夏のボロ下宿で暑さに耐えかねた仲間たちはタイムマシンで1日過去に遡り、壊れる前のリモコンを奪回することを思いつく。

TVアニメ化された森見登美彦の小説『四畳半神話大系』の貧乏臭い設定と自堕落な登場人物たちが、2005年に瑛太上野樹里実写映画になった京都の劇団ヨーロッパ企画の舞台『サマータイムマシンブルース』のストーリーでサイエンスSARUの色彩豊かで平面的な意匠に乗って好き放題する爽快なバケーションムービーです。

そもそもの話、『四畳半神話大系』も同原作者の『夜は短し歩けよ乙女』もアニメ化に際してヨーロッパ企画の上田誠が脚本を執筆しているので、特別なコラボレーションというよりは必然の流れと言っていいでしょう。

「私たちは未来を知ることはできない。知らないということは何でもできるということ。つまり自由ということです」。登場人物全員が不完全で愛おしく、金は無いけれど、時間だけはふんだんにある(と当時は信じていた)青春のモラトリアムを経験した我々にとっては、イタさとシンパシーを伴うノスタルジーを90分間楽しめる一本になっていると思います。

板塀の影の暗さが京都の真夏の日差しを強調する。鴨川の流れ、疎水、銭湯、シャツを絞った汗など、サイエンスSARUらしい水の描写。こちらも『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』と同じ大島ミチルの管弦楽を中心とした劇伴がとにかく素晴らしいです。

 

2022年10月10日月曜日

CUICUIのTENMEI

スポーツの日。下北沢へ。CLUB251にて開催された CUICUIのTENMEIに行きました。

CUICUIがライブ演奏するのは2年半ぶり。コロナ直前の2020年2月2日の高円寺ShowBoatHUMAN TAIL企画『漂流者たちの夜 vol.3』以来です。CUICUIのメンバーの別プロジェクトと対バンというのがこの日の趣向。残念ながらAYUMIBAMBIさん(B、Vo)がコロナ陽性で急遽出演が叶わなくなってしまいました。

AYUMIBAMBIさんとマキ・エノシマさん(Gt)が普段別名でサポートしているApril in 85は、アベユウイチさん(Vo&G)のソロプロジェクトでエレクロニカを土台に置いたノイジーなエイトビートロック。KokiさんNAMELESS)の高めのスネアが絶妙に気持ち良く入る。手弾きっぽいベース音が聞こえていたのは、サンプリングでしょうか。

IIOTERIE-GAGAさま(Key&Vo)が別名で展開するポストロックバンド。エリーニョさんのハードエッジなオルタナティブサイド。高橋ケ無さんSOUR)のソリッド且つエモーショナルで鬼気迫る縦乗りドラムプレイがサウンドのコアか。曲間も激しくリズムキープしている。この日が二度目のライブ。2020年11月29日のデビューを見たので全通です。

瑞穂玲(ルィスィリュー)さん(Dr&Vo)が別名で在籍しているResponseは、パーティ感もあるギミック多めのロックンロールを聴かせます。21年間メンバーチェンジなしというまとまりが、みづほさんの手数が多くて豪快でヘヴィなタイム感のドラムを中心にした堅固なバンドアンサンブルにはっきりと表れている。1曲ゲスト参加したマキさんのシューゲイジングなギターもよかったです。

最後にCUICUI。出囃子がまさかのシンディ・ローパー(前回ライブはFGTHRelax)。AYUMIBAMBIさんの穴を埋めたのはルィスィリューさんのパートナーでもあるベーシストRyosukeさん。サポートを前日に決めたとは俄かに信じがたい安定感とグルーヴでしたが、一方でCUICUIのパンキッシュで破天荒な勢いはAYUMIBAMBIさんのベースとボーイッシュな歌声とMC込みのステージングあってのものだと再認識させられました。

またこの日はマキ・エノシマさんの生誕祭も兼ねており、虎柄のアロハ(April in 85)、シルバーのTシャツ(Response)、そしてCUICUIの白衣装と三度のお色直し、CUICUIではセンターマイクで貴重なボーカルを取りましたが、ご本人は「真ん中に立ちたくないし、歌いたくないし、喋りたくない」という。承認欲求や顕示欲、自己肯定感とは異なる地点で音楽を楽しみたいというCUICUIの発案者でリーダーでもあるマキさんのpurityがバンドのattitudeに与えるもの。

新曲「ぼくたちのナツ」もERIE-GAGAさまのソングライティングが冴えわたり、「サマーガールニッポン」にも比肩する新たなサマーアンセムが誕生しました。