2017年5月28日日曜日

日曜音楽バー ラストアサノラ

リスペクトする音楽家ノラオンナさんが日曜日だけ店長を務める『日曜音楽バー アサガヤノラの物語』。毎週一組のミュージシャンの食事付ワンマンライブが開催されてきましたが、会場のBarトリアエズの閉店により、今回がラストアサノラ

もともと銀座コリドー街のバーときねで2011年末に始まった『銀座のノラの物語』にはじめてお邪魔したのが2012年5月のノラミタ(ノラオンナと見田諭)の回。同じ年の春先に下北沢SEEDSHIPでノラオンナさんと初共演した直後のことです。

それから銀座で2回、2013年7月に阿佐ヶ谷に引っ越してから6回、計8回も出演者としてお世話になり(銀座の2回目はラスト銀ノラでした)、観客としてもしばしば訪れて、音楽と食事とハイボールを楽しみました。

ラストアサノラのバイキングは、これまでのアサノラ弁当の集大成ともいえる内容で素晴らしかったです。「おいしい。もう一口食べたい」という長年の願望がビュッフェスタイルで叶えられました。

古川麦くんはカバー多めのセットリストで生来の優しさと知性を丁寧に手渡すような演奏。はじめて聴いたストラトキャスターの音色がクリアで柔らかかった。ノラさんはほろ酔いな雰囲気で、普段は空気がちょっとピリっとするようなところも魅力なのですが、今夜は超リラックスモード。それでも最終回の感傷だけに浸ることなく、麦くんは「LOVE現在地」、ノラさんは「都電電車」と、各々最新曲で締めたあたり、これからを感じさせるライブだったと思います。

銀座の地下3階のしんと静まり返った密室感と、住宅街の通りに面して大きなガラス窓から人々の営みを望む阿佐ヶ谷。対象的なシチュエーションではありましたが、そこで提供される音楽とノラさんの心づくしの手料理はいつもクオリティのあるものでした。

7月からは西東京市の西武柳沢に自分の店ノラバーを持つノラさん。日曜音楽バーも2度目のお引っ越しです。敬愛する詩人、故田村隆一氏がかつて暮らした保谷で、紡がれる新しい物語を楽しみにしています。


 

2017年5月27日土曜日

夜明け告げるルーのうた

夏日。T・ジョイ PRINCE品川湯浅政明監督作品『夜明け告げるルーのうた』を鑑賞しました。

舞台は、フカヒレと人魚の町日無町。入り江の奥に寂れた漁港と水産加工場があります。主人公・足元海(声:下田翔大)は鬱屈した中学3年生。両親の離婚により釣舟屋と傘製造を営む父親の実家に引越してきた。宅録を動画サイトにアップして高評価を得ている。

中学の同級生の遊歩(声:寿美菜子)と国夫(声:斉藤壮馬)にバンドに誘われ、練習場の島で、人魚の女の子ルー(声:谷花音)に出会う。人魚を忌み嫌う者と町おこしに利用したい者、大人たちの思惑と大浸水で小さな町は大混乱になってしまう。

先月公開した同監督の『夜は短し歩けよ乙女』が良かったので、帰りに窓口で前売を購入したのでした。湯浅監督らしい斬新なアニメーション表現が随所に見られて僕はとても楽しめました。『夜は短し~』のビールの描かれ方に「おおっ」ってなりましたが、今作も海水をキューブ状にして宙に浮かせる描写が素晴らしいです。動きを通じて質量がしっかり感じられる。回想シーンの切り絵みたいなフラッシュアニメーションも美しかった。

一方で、カイやユウホなど主要なキャラクター気持ちがどのような理由あるいは出来事で変化したかが充分に描かれていないように思えました。ルーや端役の心理描写には一貫性があるので、よけいにそう感じてしまうのかもしれません。そのため、登場人物に感情移入しないと気が済まない、または物語への共感の度合いが唯一の価値基準になっているタイプの観客には訴求しないつくりだと言ってもいいと思います。

崖の上のポニョ』『リトル・マーメイド』、更に遡れば『魔法のマコちゃん』、実写なら『スプラッシュ』とマスターピースたちが存在する人魚ものに敢えてチャレンジした湯浅監督の勇気を讃えたい。その深層には3.11以後の津波に対する恐怖を乗り越えたいという強い意思があるのではないでしょうか。

主題歌は斉藤和義の「歌うたいのバラッド」。1990年代のJ-POPを代表する名曲中の名曲です。1992年、メジャーデビュー直前のライブを渋谷エッグマンで観たことがあります。誘ってくれた友だちは翌年他界しました。生きていれば斉藤和義と同じ50歳です。



2017年5月20日土曜日

胎動 Poetry Lab0. vol.6

ザ・ファースト・デイ・オブ・サマー。西荻窪 ALOHA LOCO CAFE で開催された『胎動Poetry Lab0. vol.6』に出演しました。

ハードコアやヒップホップを中心にCD制作やイベント企画をしている 胎動レーベルさんが主催するポエトリーライブ。プリシラレーベル枠をいただき、 石渡紀美さん小夜さんと3人でお呼ばれしたというわけです。

4時間近い長尺イベントでしたが、出演者がバラエティ豊かな芸達者揃いなのに加え、 ガチャ山口さんの端正なMCとアクトの間に挟まる 000(Zer0)さんのDJタイムも良い切り換えに。ポエトリーリーディングのライブはどうしても進行が間延びしがちなのですが、ヒップホップのパーティにも通じるテイストで、ほとんど長さを感じませんでした。

オープニングアクト、ポエトリーラップの ザマさん。熱かった。短歌の 桜望子さんは連歌(独吟百韻)。ふたりとも大学生です。

Fcrow(ふくろー)さんもポエトリーラップだけど、ザマさんに比べると軽妙で余裕があるなあ。ちょっとコミカルで唄要素が強い。でも意外と芯を捉えていて「言葉の力とか言ってたんですけど、言葉そうでもないなあって」。伝えたいようには伝わらないことを知り、次の一歩を踏み出した人はきっと強くなる。

オープンマイクを挟んで、 木下龍也さん。歌人ですが、短歌朗読ではなく、観客にカンペを持たせ脱構築且つ超脱力な 杉田玄白ラップをかまし、最後は切なくも笑える恋愛詩で締める。貴公子。

Anti-Trench向坂くじらさん(Poetry)と 熊谷勇哉さん(EG)。エモい。くじらさんの詩は技巧的というか、客観的で対象から一歩引いたようなところがあって好感を持っていたのですが、声に出すととてもエモい。結構これは両刃なんじゃないでしょうか。

そして、石渡紀美さん、小夜さんと続きました。身びいきではなく、小夜さんの朗読は会心の出来だったと思います。最後の出番が僕でした。

1. 無重力ラボラトリー(feat. 小夜)
2. International Klein Blue
3. ANOTHER GREEN WORLD
4. スターズ&ストライプス
5. 永遠の翌日
6. (feat. 石渡紀美 & 小夜)

デュオ、トリオ入れて全6篇。これ以外に石渡紀美さんが「 森を出る」を朗読してくれました。年代的な要因もあるのかもしれませんが、作品あるいはパフォーマンスと演者の距離が遠いのがプリシラなのかな、と思いました。創作や発表の結構早い段階で自己表現には興味がなくなってしまった。むしろ感覚的には、作品に表現させられている。そしてその作品を創っているのがたまたま自分。というぐらいが心地良いし、読者やオーディエンスにできるだけ余地を残したいのです。

ご来場のお客様、会場スタッフさんたち、オープンマイク参加者と共演者の皆様、DJ000さん、司会のガチャ山口さん、主催者胎動レーベル ikomaさん、どうもありがとうございました。



2017年5月6日土曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017 ③

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017』3日目の最終日、有料公演は3つ聴きに行きました。

■公演番号:364 
G409(ヌレエフ
15:15~16:00
梁美沙(ヴァイオリン)
広瀬悦子(ピアノ)
シューベルトヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第3番 ト短調 D.408
モーツァルトヴァイオリンソナタ第21番 ホ短調 K.304
ストラヴィンスキーイタリア組曲(バレエ「プルチネルラ」から)

初日の無伴奏(ソロ)、2日目の弦楽アンサンブル、3日目はピアノとデュオ、と3形態の梁美沙さんの演奏を聴きました。シューベルトとモーツァルトは短調の楽曲でしたが、上へ上へとどんどん伸びていくようなヴァイオリンの音色、それにつれて爪先立ちになって演奏する姿を記憶に刻みました。スラヴィンスキーの終盤でアンサンブルが少々乱れたのは3日間で6公演と大活躍の疲れもあったのでしょう。

■公演番号:345 
ホールC(バランシン) 19:00~19:45
パスカル・ロフェ指揮
フランス国立ロワール管弦楽団
ラヴェル古風なメヌエット
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

今回唯一のフルオーケストラプログラムは、典雅な中世の舞曲と見せかけて実はレプリカントなラヴェル(上述のストラヴィンスキーのイタリア組曲と似た位置付け)とアコースティック楽器によるノイズ/インダストリアルの元祖「春の祭典」という攻めのセットリスト。フランス人の指揮でフランスのオケが演奏すると、ロシアのルサンチマンともドイツのコンストラクションとも違う、八方破れな狂気が炙り出されます。

■公演番号:367 
G409(ヌレエフ)
20:45~21:30
ドミトリ・マフチン(ヴァイオリン)
ミゲル・ダ・シルバ(ヴィオラ)
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏 ト長調 K.423
ヘンデルハルヴォルセン編):パッサカリア

LFJ2017の最終プログラムはヴァイオリンとヴィオラという最小単位弦楽アンサンブルでした。ロシア人とスペイン人のおっさんふたり(でもおそらく年下)。共通点は眼鏡で小太り。わずかにピッチが甘いところがあったものの、それを帳消しにするハイテンションで楽しい演奏でした。もはやこのプログラムのどこがダンスなのかはアレですが(笑)。

昨日は市民階級の台頭により、宮廷舞踏会が演奏(観賞)会に、つまりお金を払えば身分に関係なく音楽が楽しめるようになったかわりに、ダンスミュージックの機能が失われたというところまででしたが、宮廷舞踏が一方ではバレエという形式に洗練され専門職化する過程を今日は辿りました。ダンスは踊るものから観賞するものに。ここにもうひとつのパラダイム転換があった。

では一般市民からダンスの習慣が完全に失われたのかというと、そういうことではない。ホールEの無料プログラムで途中から観たテリー・ライリーの「in C」はミニマルミュージックの古典であり記念碑的作品です。地下の円形ステージを周回しながら踊る老若男女の姿は全く洗練されておらず東洋人らしい不器用なものでしたが、この不器用で好き勝手な身体表現の衝動こそダンスの本質ではないか、と思いました。


2017年5月5日金曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017 ②

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017』at 東京国際フォーラム。2日目も晴天です。3公演聴きに行きました。

■公演番号:241 
ホールC(バランシン
9:45~10:30
上野星矢(フルート)
ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮
オーベルニュ室内管弦楽団
J.S.バッハ管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
ヘンデル:「アルチーナ」から
テレマン組曲ト短調「ドン・キホーテのブルレスカ」

ドイツ・バロック3大巨匠を朝一で聴く。平成生まれのソリスト上野星矢さんが超絶技巧なのに柔らかい音色で素晴らしかったです。上野さんが吹き振りしたバッハはオケも優しい演奏。指揮者が代ると同じオケが明晰で垂直的な響きを帯びるのが面白い。超弱音が特に美しく、ヘンデルは華やかに、テレマンは軽快で愉快に、メリハリをつけた演奏でした。

■公演番号:225
ホールB7(パヴロワ) 17:15~18:00
ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮
オーベルニュ室内管弦楽団
ボッケリーニマドリードの通りの夜の音楽 op.30-6(G.324)
テレマン:組曲ト短調「ドン・キホーテのブルレスカ」
レスピーギリュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲

朝と同じオケで別の会場。今度はスペインがテーマ(作曲家は独伊)です。ボッケリーニは自身がチェリストだっただけにチェロの聴かせどころを知っている。レスピーギの流麗な小曲ではヴィオラにスポットが当たります。バレンシア出身のヴェセス氏は指揮棒を持たず、指先の繊細な動きで音楽をコントロールし、舞曲のリズムを明確に描き分けます。

■公演番号:227
ホールB7(パヴロワ) 20:45~21:30
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ)
アルデオ弦楽四重奏団
ドヴォルザーク「糸杉」B.152から 第11番第12番
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 イ長調 op.81

ここで200年が経過しまして、19世紀末最大のメロディメーカーの登場。第1ヴァイオリン梁美沙さんの音色の輝きと躍動感が突出しています。実際演奏時間の半分以上は腰が椅子から浮いているし、三割は片足の靴底が舞台に着いていない(笑)。2曲目からペレス氏のコロコロしたピアノの音色が加わり、更に音楽が踊り出しました。

バロックの楽団では各楽器のリーダーが掛け合いをするパートがあり、それを切り出したものがハイドン以降弦楽四重奏曲に発展しました。

ダンスがテーマの今年のLFJですが、バロック時代はヘンデルやテレマンが最新のパーティチューンとして貴族の舞踏会で演奏されていた(そしてJ.S.バッハは「格好良いけどいまいち踊れない」とdisられていたんじゃないかと思う)。ハイドンやモーツァルトあたりが端境期で、フランス革命を経て一般市民が料金を支払って演奏会を聴きに行くようになり、ロマン派、印象派と進む中で、舞曲のリズムは形式化していった。

貴族階級がダンスナンバーとしての機能性を重視し、市民階級は音楽の感傷的側面や知的興奮に傾注した。いまの感覚からすると逆のような気がするのが興味深く、一考の価値があると思います。

 

2017年5月4日木曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017 ①

5月の連休の恒例イベントはラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラムで開催されるクラシック音楽フェスです。昨年は地方のお座敷と重なってしまったため2年ぶり、10回目の参加です。

今年のテーマはダンス。初日の5/4は有料公演をふたつ観賞しました。

■公演番号:122 ホールB7(パヴロワ) 11:45~12:30
ダニエル・ロイス指揮
ローザンヌ声楽アンサンブル
ブラームス:「2つのモテット op.74」第1番 何ゆえに悩む者に光が与えられたのか
ブラームス:愛の歌 op.52
ブラームス:運命の歌 op.54

重厚な才能に隠されてしまいがちですが、つくづくブラームスって人はバカ男子として人生を全うしたのだなと思います。人妻クララ・シューマンへの思いを妄想で切々と綴った全18番の男女掛け合いチューンが「愛の歌」。独唱者がアルトっていうのもブラームスっぽい。あと連弾も好きね。モテットの中間部の6声のカノンも美しかった。ローザンヌ声楽アンサンブルは男女30名編成で、ソプラノとメゾソプラノにそれぞれ1名ずつ男声カウンターテナーがいました。

■公演番号:165 G409(ヌレエフ) 17:00~17:45
梁美沙(ヴァイオリン)
J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004
イザイ無伴奏ヴァイオリンソナタ第5番 op.27

一昨年のLFJで初めて演奏を聴いて魅了された梁美沙さんはパリで活動する在日コリアンです。今年は難曲に挑戦しました。欧州人の声楽家を大勢観た目にはあまりに小柄で華奢ですが、技術はもとより、音色の明るさと躍動感が最大の魅力です。実際曲の弾き始めと終わりとで舞台上のポジションが2mぐらい移動していた(笑)。G409は普段は会議室、超ドライな音響ゆえ、シャコンヌのダブルストップや分散和音ではやや苦戦を強いられたかと思います。

ガラス棟Eホールの無料サプライズ公演で聴いたホアン・ラモン・カロ氏のギターも素晴らしかった。リリカルで透明感があってややモーダルで、フラメンコ界のパット・メセニーといった風情です。