2014年8月31日日曜日

アサガヤノラの物語

江東区でも杉並区でも先週から公立学校の二学期は始まっていますが、それでも8月31日は夏休み最後の日。阿佐ヶ谷のBarトリアエズノラオンナさんが日曜店長をつとめる「アサガヤノラの物語」でカワグチタケシの単独公演が行われました。ご来場のお客様、ノラさん、気に留めてくださったすべてのみなさんに感謝いたします。

普段は弾き語りのミュージシャン一組の演奏とノラオンナさんの美味しいお料理とお酒が楽しめる10名様限定のプレミアムディナーショーですが、今日は朗読の日。満員御礼です。ご来場者特典のカワグチタケシ訳詞集 "sugar, honey, peach +love" から4曲分の歌詞と自作の夏の詩をたっぷり聴いていただきました。

 1. Misty / Ella Fitzgerald
 2. (They Long To Be) Close To You / Carpenters
 3. If / Pink Floyd
 4. もしも僕が白鳥だったなら
 5. ANOTHR GREEN WORLD
 6. 離島/地下鉄を歩く
 7. 新しい感情
 8. 花柄
 9. すべて(新作)
10. Planetica (惑星儀)
11. 都市計画/楽園
12. 八月の光
13. 水の上の透明な駅
14. Allelujah / Fairground Attraction

この14篇を用意していったのですが、冨士山のスノードーム(画像)を当日にプレゼントしていただいたので、お礼に「スノードーム」の朗読を追加しました。「すべて」という新しい詩は、ちみんさん同名の曲の歌詞から4行引用させてもらって書きました。

何人かのお客様に非常に好意的なトーンで「変わったね」と言われました。タフな現場をコンスタントに経験して、今回はワンマンならではの心地良い緊張感とお客様のあたたかな姿勢を受容し、わずかずつかもしれませんが、ひとりひとりに声が届くようになってきたのではないかと自分でも感じます。集合体としてのオーディエンスではなく、別々の人格を持ったひとりひとりに。

終演後はお客様と出演者とみんなでノラさんの手料理を堪能しました。計7品供されたお料理はもちろん、飲み放題のハイボール、オプションの梨あんみつ、どれも丁寧できちんとした味なのはノラさんのお人柄ですね。

前日まで雨の予報でしたがよく晴れました。それはきっと吉祥寺qwalunaca caféで開催されていた Petit BOOKWORM meets MAGIC JOURNEY のおかげ。メインMCの山﨑円城さんが劇的なまでの雨男なのにも関わらず、17年前からBOOKWORMの日はなぜか必ず晴れるのです。



2014年8月23日土曜日

古川麦 × ノラオンナ @谷中ボッサ

前回、東日本大震災の年は中止になった諏訪神社の6年ぶりのお祭で、谷根千一帯の街路は赤い提灯がにぎやかです。日暮里駅から谷中ボッサに向かう道のりで子供神輿とすれ違いました。古川麦くんノラオンナさん。今年4月にPoemusica Vol.27で初共演したふたりのツーマンライブということで、これは見逃せません。

古川麦くんは、Doppelzimmer表現(Hyogen)の中心メンバーとして、またceroのサポートなど、八面六臂の大活躍中のギタリスト。ソロアルバム「far/close」をリリースしたばかりです。CDでは弦楽四重奏や管楽器を加えて、ダイナミック且つ優美な音楽を奏でていますが、ソロの弾き語りは力強くて端正。正確で精妙なガットギターと、ベルベットのような肌触りの唄声が魅力です。

対するノラオンナさんは洗い晒しの麻のような陰翳のある声。シャンソンやブルースの影響を感じさせるソングライティングに、日本語の可能性を追求しつつ、極限まで言葉を磨き上げた歌詞。独特のコード感を醸し出す繊細なウクレレ。

お互いがお互いの音楽に恋をしているような気持ちが店全体に満ちて、聴いている客席も幸福感に包まれました。大らかな麦くんの音楽は、遠い祭囃子や通り過ぎる自動車、キッチンで調理する音にもよく馴染みます。ノラさんが演奏を始めると皆が息を詰めて一音も聞き逃すまいとする。すると不思議なことに、生活音が自然と遠ざかって行く。

約30分ずつのソロ演奏のあと、それぞれのオリジナル2曲ずつとカバーを2曲、計6曲のデュオ演奏はふたりのユーモアが滲み出す楽しい時間でした。まだ歌詞のついていない麦くんの新曲をノラさんがスキャットしたのですが、これが一夜だけのことでなく、古川麦作曲、ノラオンナ作詞なんていう楽曲が生まれたらとても素敵だな、と思います。



2014年8月21日木曜日

Poemusica Vol.31

大雨や土砂災害のニュースが毎日流れてきます。どうか皆様ご無事でいらっしゃいますように。東京は連日の猛暑です。そんな寝苦しい真夏の夜。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.31が開催されました。

この日の朝、大阪から到着したいおかゆうみさん。6月1日、日曜お昼のVol.29につづいて、Poemusicaには2度目の出演です。一見シンプルなフォークソングなのですが、内面に深く深く降りていくような歌詞と少女のような唄声が一転して硬質に響き渡る瞬間の鳥肌の立つ感じは他に似る者がない。作品の提示の仕方や会場の空気の掴み方には、わずか2ヶ月のあいだに明らかな成長が見られます。

臼井ミトンさんを初めて聴いたのは今年3月渋谷7th Floor。その後何度かオファーしていたのですが、ようやくスケジュールの調整がつき、SEED SHIPに初登場しました。アメリカンルーツミュージックを独自のフィルターでポップに解釈した彼の音楽。躍動感溢れるピアノ、リリカルなギター、粘りと伸びのある心地良い唄声。おもちゃ箱のような楽しい音楽です。新譜『真夜中のランブル』も良いアルバム。

山田庵巳さん(画像)はSEED SHIPには度々出演していて、アサノラなど接点も多いのですが、意外にも初Poemusicaです。8弦ギターに乗せて物語を即興的に綴っていく。他の出演者の作品やMCの言葉を巧みに織り込んだ語りから切れ目無く曲に入り、澄み切ったハイトーンヴォイスでロマンチックなメロディを聴かせる。唯一無二の存在感。楽屋で右手の爪を時間をかけて丁寧に整える姿にプロフェッショナリズムを強く感じました。

僕は、2005年頃何度か共演し、先頃お亡くなりになったdj yukarhythmさんにちなんだ3篇の詩、「無題(出会ったのは夏のこと~)」「無題(薄くれない色の闇のなか~)」「都市計画/楽園」を3組の合間にに朗読しました。

次回のPoemusicaは9月18日。そのころには涼しくなってるのかな。夏が終るのがさびしいのと、秋が待ち遠しいのと、そんな気持ちに揺れてしまうこの頃です。

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Poemusica Vol.32
日時:2014年9月18日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,400円(ドリンク代別)
出演: 山﨑円城Little Woody duo *Music
      カワミツサヤカ *Music
      三柏スイ *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading

*9/10追記
  松本佳奈さんは急病のため、残念ながら出演できなくなりました。 
  三柏スイさんに代ります。どうぞよろしくお願いします。

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2014年8月15日金曜日

ジゴロ・イン・ニューヨーク

終戦記念日。蝉時雨。新宿武蔵野館で『ジゴロ・イン・ニューヨーク』を観ました。ウディ・アレンが出ているし『ミッドナイト・イン・パリ』『恋のロンドン狂騒曲』『ローマでアモーレ』に続く地名シリーズ4部作かと思いきや、ジョン・タトゥーロ監督脚本主演作品です。

舞台はNYCブルックリンのユダヤ人居住地域。古書店の三代目マレー(ウディ・アレン)は店を閉じることに。かかりつけの皮膚科のドクター(シャロン・ストーン)に男を紹介して欲しいと言われ、つい「いい男がいるが安くない。1000ドルだ」と答えてしまう。そこで白羽の矢が立ったのは、かつてマレーの古書店に強盗に入り、いまは生花店でバイト中の友人フィオラヴァンテ(ジョン・タトゥーロ)。彼がジゴロとして非凡な才能を発揮し、ふたりは「ヴァージル&ボンゴ」というユニット名で荒稼ぎする。

しかしフィオラヴァンテは、厳格なユダヤ教徒の未亡人アヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)と本気の恋に落ちてしまう。そのことで窮地に陥ったヴァージル&ボンゴの運命や如何に。

原題は"Fading Gigolo"。色褪せつつある、黄昏の、消えゆくジゴロ。

秋のニューヨーク郊外の風景が美しく、上品なジャズがよく似合う。ジゴロ役のタトゥーロは聞き上手でよく気が利いてセクシーだし、ウディ・アレンは神経質で落ち着きがない。ベテラン俳優達のいぶし銀の技が光る、大人のオフビートコメディです。ジューイッシュ・コミュニティの独特な風習も「へぇ、こんなんなんだあ」と興味深い。

シャルロット・ゲンズブールと並び、1990年代にはフレンチロリータの代表格だったヴァネッサ・パラディも40代に。成熟した大人の女性にちゃんと変貌しているのは、若さに拘泥しないお国柄を反映しているのでしょうか。でも挿入歌の唄声が往時のままで、そのギャップには心臓を鷲掴みにされました。

 

2014年8月14日木曜日

Kitchen Table Music Hour vol.3

満員御礼だった7月のKitchen Table Music Hour vol.2に続いて、とんとんとんとvol.3を開催します。僕が普段自宅や移動中聴いている音楽を「いかがですか」と、親しい人たちに丁寧に手渡すような小さな音楽会。僕は出演せず、企画とプロモーションのみで。

まえかわとも子さんmueさん。ブラジル音楽をベースとして独自の表現を広げてきた才能溢れる二人と共に、秋の午後のひとときをお楽しみいただけたら幸いです。

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カワグチタケシ presents "Kitchen Table Music Hour vol.3"

日時:2014年9月27日(土) Open 15:00 Start 15:30
出演:まえかわとも子 歌とギター
    mue 歌とギター
会場:JAZZ喫茶映画館
    〒116-0013 東京都文京区白山5-33-19
    03-3811-8932 http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/
料金:無料(1drink order)+投げ銭
※会場の地図はこちら

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まえかわとも子(画像)
オルタナボッサトリオ "The Xangos" のボーカル、たきびバンド、ベーシスト沢田譲治とのデュオ「カツヲ」等。CD "roda" The Xangos、「冬の街」まえかわとも子、他。横浜生まれ大磯在住。⇒YouTube「夜明けのサンバ

mue
ギター弾き語りと並行して、ら・ら・ら、FUTTONG×mue、irodori?等、多くのミュージシャンとユニット活動をしている。CD「Closet」「タイムカプセル」etc.. 千葉生まれ東京在住。⇒YouTube「東京の夜

JAZZ喫茶映画館
都営地下鉄三田線白山駅下車A3出口裏徒歩1分。1978年開店の老舗ジャズ喫茶。マスター手作りの真空管オーディオシステムとネルドリップコーヒー。壁にはヌーベルバーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている。猫もいます。

"Kitchen Table Music Hour"は投げ銭制ですので、ご予約は不要です。おしまいまで聴いても夕飯のお支度に間に合う設定になっています。お誘いあわせの上、是非いらしてください!

2014年8月2日土曜日

思い出のマーニー

ジブリ映画は夜の最終回に観るのが好きです。ユナイテッドシネマ豊洲米林宏昌監督作品『思い出のマーニー』を鑑賞しました。

杏奈(声:高月彩良)は札幌在住、ショートカットの中学1年生。幼い頃両親を事故で亡くし、施設で暮らした後に里親(松嶋菜々子)に引き取られたが、自分にも周囲にも同化できないでいる。夏休みのすこし前、呼吸器系疾患の転地療養で訪れた釧路湿原で金髪の美少女マーニー(有村架純)と出会う。

「またわたしを探してね。それから誰にも言わないで。約束よ」、「自分の絵を描いてもらったのは初めてよ。わたし今までに会ったどの女の子よりあなたが好き」。

干潮時には歩いて渡れる湿地帯の向うの洋館で夜な夜な繰り広げられるパーティはさながらグレート・ギャツビーのよう。しかしその館は実は廃墟であり、夜にだけ現われる人々はゴースト。シャイニング。あるいは女子たちの集団的無意識が生んだ幻想か。

岸辺にキャンバスを広げる老婦人久子(黒木瞳)、第3の少女さやか(杉咲花)の登場により解き明かされるのは、杏奈の記憶に遠く刻まれた祖母の物語。杏奈は彼女自身を祖母の物語の中に入れてしまった。

鉄道が湿原を割って進んでいく冒頭の俯瞰シーンから、郵便局への近道を行くときに夏草の鋭い葉が裸の脛を擦る感触、足裏を滑らせる水藻、古いガラスに歪んで見える室内、鉛筆削りのカッターが芯に当たるとき、すいかに包丁を入れる瞬間の微かな抵抗感。

映画前半はフィジカルな、特に皮膚感覚に訴えるような描写がとても丁寧で心地良いです。ああ、夏ってこういう感じだった、と。反面、物語が動き出す後半は演出がいささか性急な印象を受けました。高畑勲の繊細な描線や、宮崎駿のメカニカルな動作の面白さはありませんが、夕方から夜にかけての湿原の風景はとても美しい。月明かりに照らされるボート。

丘の上、曇り空の下の煉瓦造りのサイロ。下草が強い風になびき、やがて雨が降り始める。これは幼少時より僕の夢にしばしば現れるモチーフです。