2014年2月27日木曜日

ニシノユキヒコの恋と冒険

平日夜の映画館もいいですね。品川プリンスシネマ川上弘美原作、井口奈己監督映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』を観ました。

松葉杖の女子が落としたリンゴを拾おうと車道に飛び出し、トラックに轢かれて死んでしまったニシノユキヒコ(竹野内豊)は幽霊になり、かつての恋人夏美(麻生久美子)を訪れる。夏美は数年前に家を出て、娘のみなみ(中村ゆりか)が父親(田中要次)と暮らしている。翌日はユキヒコの葬儀。坂道を上がって豪邸に集る女たち。そのなかのひとりサユリ(阿川佐和子)がみなみに語るユキヒコの女性遍歴。

真後ろの席に座った20代女子二人組の上映終了直後の会話「えー、何が言いたいんだか全然わかんないー」「何が言いたいとかそういう映画じゃないんじゃない?」。とまあそういうことでいいんだと思います。

井口監督の編集は、役者のアクションが終わったあと、数秒だけ長くシーンを流します。それが露出オーバー気味の画面に独特のスローなテンポを作り出す(成海璃子だけわずかに会話のレスポンスが早い)。僕はその遅さを心地良く感じましたし、そのリズムに身を任せるうちに、なんとなく竹野内豊(左利き)のことが好きになってしまいました。

ニシノユキヒコって人は、それはもう大変モテるわけですが、意外とひとつひとつの恋愛に対して丁寧に取り組んでいるんですよね。ただ実体がない。だから女性のほうから離れていく。

ライブのお客様や読者のみなさんから見たら僕なんか、夢の世界の住人みたいなもんじゃないか、作品を手離してしまったら何も残らないんじゃないか。時々そういう強迫観念に囚われる。ミュージシャンでも物書きでも、何かを創作して発表することを仕事にしている人は多かれ少なかれそういう気持ちを抱くことがあるのではないかと思います。

尾野真千子木村文乃、豪華女優陣もみんな魅力的に映っています。特に、温泉旅館の浴衣を雑に着たショートカットの本田翼の可憐なこと。鼻にがっつり斑がかかった「なう」という名の猫(湘南動物プロダクション)もそれはそれは可愛いです。


2014年2月23日日曜日

空飛ぶ同行二人・新生篇

朗読会のお知らせです。毎年春になるとやってくる村田活彦とカワグチタケシの朗読二人会「同行二人」 が5年目を迎えます。

畏れ多くも自らを芭蕉と曽良になぞらえたオトナ系男子二人旅。2010年春に深川から出発して谷中白山渋谷。西へ西へと進んできましたが、なぜか渋谷で足止め。なのに「新生」って。おっさんたちにいったい何が起こったのか。是非その目で耳で確かめにきてください!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

空飛ぶ同行二人・新生篇 A POETRY READING SHOWCASE V
日時:2014年3月23日(日) 18時半開場 19時開演
会場:渋谷・Flying Books
    渋谷区道玄坂1-6-3 渋谷古書センター2F
    03-3461-1254 http://www.flying-books.com/
料金:予約1,300円(当日精算)、 当日1,500円(どちらも1ドリンク付)
出演:村田活彦 http://blog.goo.ne.jp/inthenameofmyself/
    カワグチタケシ http://kawaguchitakeshi.blogspot.jp/

ご予約推奨!:ご予約の方には整理番号をご案内しますので、お名前、人数、電話番号をメール(info@flying-books.com)、電話(03-3461-1254)、facebookメッセージ(Flying Books宛)のいずれかでお知らせください。
※facebookの参加ボタンだけではご予約となりませんのでご注意下さい!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

会場は渋谷駅南口のお洒落なブックカフェ。デザイン系の洋書を中心に多彩でスタイリッシュなラインナップが魅力です。

早めの桜がほころび始める頃、みなさんに会えることを楽しみにしています!


2014年2月20日木曜日

Poemusica Vol.25

路肩に薄汚れた雪が積み上げられた下北沢南口商店街から左折してピュアロードを抜けた先。Workshop Lounge SEED SHIPで、25回目のPoemusicaが開催されました。

梨田真知子さんPoemusica Vol.1以来、2年ぶりの出演です。はじめて彼女が歌うのを聴いたのもSEED SHIP。2011年3月のチャリティライブ "Lights of Hope" でのことでした。一度聴いたら忘れられないその声にすっかり夢中になり、しばらくライブに通いました。とにかく無口でストイックな印象でしたが、3年経ってすこしだけ柔らかみが出たように思います。ギターにも安定感が増して、MCの声は相変わらず小さいけれど、それをネタにする余裕もできました(笑)。

中村ピアノさんが在籍し昨年末に解散したピアノトリオpiqueのライブにも何度かお邪魔したことがあります。彼女は2012年9月以来のPoemusicaです。清濁まぜこぜな乙女心をノスタルジックな旋律に乗せて、ポップにキュートにガーリィに歌うスタイルはソロに戻っても健在。不協和音の使い方にセンスがあって、ちょっと毒のある歌詞をよく引き立てる。パープルのサテンの大きなリボン、動物柄のアンティークのブラウス、ブラックチュールのスカート、振り切ったスタイリングもチャーミングでステージ映えします。

唄子さんは4回目のPoemusica。すっかりおなじみのメンバーになりました。ふざけて「準構成員」なんて呼んでいます。身のこなしが優雅で憂いがあって、でも意外なくらいピュアなところもあり、それがそのまま彼女の音楽になっています。今回は長調の曲が多かったせいか、風通しの良さはいままで聴いたうちでは一番でした。「糸」をテーマにした新曲ふたつも美しかった。表現に迷いがないっていいなって、彼女に会うといつも思います。

そしてPoemusicaには初登場の二瓶寛史さん(画像)。素晴らしかった。溢れるエモーションをそのままに、叩きつけるような歌詞と歌。ブルージィでワイルドでスケール感のある演奏。ギター1本と声だけでラウドなロケンローを体現しています。かといってやかましいだけではなく、泣かせどころをわきまえたソングライティング、少年ならではのシャイなセンチメンタリズムも心地良く、客席を惹きつける。僕もどきどきしながら聴いていました。ステフアンドジミーというスリーピースバンドのフロントマンです。是非注目してもらいたい。

僕は「クリスマス後の世界」「」「Winter Wonderland」「新しい感情」を朗読しました。Poemusicaはお客様にとっては新鮮な表現に触れる場所であると同時に、出演者同志の出会いの場所でもあり、そこにいるひとりひとりが自分の中に新しい感情を見つける場所であってほしいと願っていますが、今回ひさしぶりに共演した2人が空間に馴染んでいるのを見て、ここにまた戻ってくるのを楽しみに思ってもらえるような場所であれたらいいな、と思いました。

次回、Poemusica Vol26は3月20日(木)です。これまた素敵なブッキング。是非!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Poemusica Vol.26
日時:2014年3月20日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円 当日2,500円(ドリンク代別)
出演: まえかわとも子 with Rie *Music
     ちみん *Music
     桂有紀乃 *Music
     カワグチタケシ *PoetryReading
    他

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

※2/28追記:昨年末Enishipで共演した桂有紀乃さんが出演者に加わりました。うれしい。


2014年2月15日土曜日

ゼロ・グラビティ

東京は2週続きの積雪です。ユナイテッドシネマ豊洲にてアルフォンソ・キュアロン監督映画『ゼロ・グラビティ』を観ました。

2013年12月の公開からかなり日が経っていますが、昨年1月に『フランケン・ウィニー』を観たときの3Dメガネをその後使う機会がなかったので、遅ればせながら。

ロシアがもう使わなくなった自国のスパイ衛星をミサイルで粉砕したため、その破片が衛星軌道上に飛び散り、スペースシャトルを襲った。ハッブル望遠鏡の通信不調をメンテナンスしていたライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とマット・コワルスキー中尉(ジョージ・クルーニー)は大破したシャトルから切り離され、宇宙空間に放り出される。酸素は残り少なく、地上との音信が途絶え、ふたりをつなぐ無線通信だけが頼り。

というと、レイ・ブラッドベリの短編小説「万華鏡」を思い出すSFファンは多いと思います(あるいはそれに影響を受けたと言われる石ノ森章太郎の『サイボーグ009』のラストシーンを)。それらが書かれてから長い時を経て(「万華鏡」は人類が月に行く以前の作品です)、テクノロジーは変化しましたが、宇宙空間の絶望的なまでの拡がり、残酷さ、美しさは何も変わっていない。

90分というコンパクトなサイズで、科白のある登場人物は前述の2名のみ(後半1時間はサンドラ・ブロックの完全な一人芝居)。99%は宇宙空間のシーンで、その構成要素の少なさはハリウッド映画としては異色です。

映像による宇宙酔いを心配している人も大丈夫。カメラワークが安定しているので(というよりほぼCG)落ち着いてスリルを味わえます(?)。

僕もかつて取り残された宇宙飛行士が主人公の詩を書いたことがあります。「答え」というソネットです。「舗道」「夕陽」と3部作になっており、いずれも9.11同時多発テロとその後の宗教戦争(とあえて言います)に対する理不尽な気持ちをベースにして書きました。

「万華鏡」の主人公は宇宙服のまま大気圏に再突入して燃え尽きます。「答え」では腐敗せずに宇宙空間を漂い続け、「ゼロ・グラビティ」は最後に再び重力を感じることができます。

2014年2月11日火曜日

街の子猫の乗換案内

先週末の積雪がまだ残る東京に今朝も粉雪が舞いました。銀座七丁目のギャラリー、シャトン・ド・ミューで開催中の佐久間真人展『街の子猫の乗換案内』を鑑賞しました。

佐久間さんは愛知県在住のイラストレーター。毎年2月に銀座の画廊で個展を開きます。お知らせの葉書が届くと、今年の冬も後半だなあ、と思います。

会場のシャトン・ド・ミューは銀座の裏通りにある猫専門のギャラリーです。昨年まではボザール・ミューという名前でした。オーナーがご高齢で引退し、閉廊を惜しんだ猫画の作家さんたちが共同出資して引き継いだそうです(ギャラリーのスタッフも作家さんが交代で担当しています)。

佐久間さんは、書籍の表紙や雑誌の挿画を多く手掛けているので、その名はご存じなくても本好きの方なら彼の作品はどこかで目にしていると思います。個展ではそれらの原画に加え描き下ろしの大判の作品を観ることができます。ノスタルジックな街並み、路面電車、猫。ソフトな中間色を用いた、リリカルで細密な表現が魅力です。

最近は電子書籍の表紙絵の発注もあるそうです。時代ですね。本との違いをご本人に尋ねると「帯がかかることを気にしなくていいから、下まで目一杯使って描くことができますねー」とおっしゃっていました。電子書籍リーダーの仕様なのでしょうか。通常の書籍の判型とは縦横比が異なるんですね。

書籍という枠組み、同じ構図で昼夜2枚の作品、毎年決まった時期に決まった場所で開く個展。敢えて自他からの制約を設けたなかで、表現を継続的に追求するスタンスには強いシンパシーを感じます。

佐久間真人展『街の子猫の乗換案内』は2月16日(日)まで。お近くにお出かけの方は是非!