2011年8月27日土曜日

僕には光が見えはじめている

八月最後の土曜日は地下鉄に乗って。外苑前neutron tokyoで今日から始まった石川文子写真展「僕には光が見えはじめている」のオープニング・パーティへ。

2003年にtrade mark kyotoで開催した3K7 というポエトリー・リーディングで会場スタッフをしていただいたのがご縁。その後古書ほうろう京詩人東上ガル千駄木入ル に、石川さんが詩人の豊原エスさんと組んでいるユニット水窓(当時は車窓)を観に行ったりしましたが、実際にお会いするのは実に6年ぶり。

石川さんの写真は、光そのもの。無音の光。風や光という誰もが知っているけれど言葉で説明するのがとても困難な事象。その一瞬を切り取るのが写真芸術なら、その根源的な姿を生のまま提示して見せるのが石川さんの作品だと思います。 そしてそこには、淡い死の匂いが漂っています。

人物のポートレートでも良い仕事をたくさん残していますが、今回の展示は風景のみ。それも植物や水、波、といった自然を中心に、実に丁寧に。木蓮や睡蓮などの花が被写体となった作品が特に印章に残りました。

数枚だけあった人工物の写真のうち、展覧会タイトルになっている「僕には光が見えはじめている」の「僕」は、逆光の窓に向って立つ人体骨格標本です。

neutronの前に立ち寄ったGALLARDA GALANTE表参道店のtriola無料インストアライブもよかったです。洋服屋さんの店内といういことで、優しい和声の曲で始まったメドレーですが、後半は不協和音をがっつり響かせて約40分。triolaの音楽って、いろんなシチュエーションに似合うんだな、と思いました。おふたりが着ていたGALLARDA GALANTEの秋物ワンピースも素敵でした。

 

2011年8月20日土曜日

ハッピー・ジャーニー

雨が上がり、急に気温が下がった土曜日の昼下がり。下北沢OFFOFFシアターで、劇団フライングステージ第36回公演『ハッピー・ジャーニー』を鑑賞しました。

30歳のゲイを息子に持つ母親が主人公。祖父の法事に出るために、母子いっしょに東京から母の実家のある札幌まで、鉄道とレンタカーの旅をする。息子の彼氏、元彼、元彼の今彼が絡んで楽しくも切ない珍道中に。

カミングアウトしているゲイの劇団。今回のお芝居のテーマは、家族との葛藤、そして理解と受容。何度か取り組んできたものですが、以前は当人目線で描かれていたのが、今回は母親の視点が中心に。作・演出の関根信一さんが、若いゲイたちを見守るような立場になったということなのかも。

そのせいか全体の印象は、フライングステージの舞台としては薄味です。上演時間もコンパクト。ウェルメイドでハートフルなお芝居と言っていいと思います。役者さんたちは見るたびに上手になって、細かな感情表現や、笑いを誘う軽妙なやりとりが随所に。最小限のセットを活かす照明もお見事でした。

僕の右隣の客席には、10代の男の子とお母さんの二人連れ。目の前の舞台で繰り広げられるストーリー。そしてお隣の母子の関係。そのふたつが交錯して、なんだか心温まりました。

 

2011年8月17日水曜日

ツリー・オブ・ライフ

残暑と呼ぶには真夏過ぎます。早起きしてユナイテッドシネマ豊洲へ。2011年度カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作、テレンス・マリック監督『ツリー・オブ・ライフ』を鑑賞しました。

予告編を見ただけだと、父子の葛藤と家族を描いた心温まるお話なのかと思いますが、それは半分。残りはなんというか、太陽系の誕生から生命の進化と死をすべて網羅し、圧倒的な映像美で表現しようとした意欲作です。

信心深く厳格で威圧的な父(ブラッド・ピット)、優しく天真爛漫で少女のような母(ジェシカ・チャステイン)、三人兄弟の長男ジャック(ハンター・マクラケン)。 1950年代の米国西部中流家庭の輝かしくも鬱屈した日々を大人になったジャック(ショーン・ペン)が回想するというのが前者の骨格。

超新星爆発から小惑星衝突、火山の噴火、水の生成、螺旋状のDNA、ミトコンドリアの誕生、海藻、魚類、爬虫類(恐竜)の発生と憐憫の感情の獲得。それぞれの位相で現れるぼんやりとした光に象徴される神(創造主)。これが後者。

台詞のほとんどがモノローグで、それも創造主への問いかけ(旧約聖書ヨブ記を下敷きにしている)。

カンヌでの上映後、スタンディングオベーションとブーイングが同時に起きたというのも納得です。

家族の場面は、どのカットをとっても一枚の泰西名画のよう。宇宙創造の場面は、ハッブル宇宙望遠鏡から送られてくる画像データを想わせます。映像はいずれも、果てしなく残酷なまでに美しく、これは映画館のスクリーンでないと味わえないものだと思います。※恐竜のCGだけはちょっと安いです。

母親役のジェシカ・チャステインが終始可憐で、レーヨンのワンピースを中心としたノスタルジックな衣装も素敵。暴力的な父親役との対比を見るにつけ、マザコンってのはこうやって日々の積み重ねで形成されていくものなんだなあ、ということが本当によくわかり、世のマザコンのみなさんに対する理解が少し深まりました。

テレンス・マリック監督作品『天国の日々』(1978)は好きな映画。学生のころ何度もビデオを借りて観ました。こちらは諸手を挙げてお勧めできます。

 

2011年8月8日月曜日

triola presents "Resonant #5"

下北沢letetriolaのライブを聴くのは5回目。木造モルタルの会場がそのときどきで微妙に違う響きがして、毎回楽しみにしています。が、今回は痛恨の遅刻1時間。21時に到着したときは、後半が始まるところでした。

大島輝之さんをゲストに迎えて3人で奏でる「ヒドラ」。弧回(こえ)の2曲「逆回転時計」「ユメで会えたら」。大島さんと波多野敦子さんのフリーセッション。そしてカバー曲「上を向いて歩こう」。

大島さんのガットギターと声の訥々とした響きに呼応してか、波多野さんのヴァイオリンがいつもより優しく聴こえました。手島絵里子さんのヴィオラは普段と変らぬ落ち着きで、これまでで一番やわらかなtriolaだったかもしれません。

最後にふたりのtriolaに戻って「新世界のタンゴ」「クジラの駆け落ち」。うってかわって、ガツガツとタテノリの演奏。

7曲を聴くことができました。

いつもステージではゲッタグリップの10ホール・スチールキャップ(安全靴)を履いている波多野さんが、今日は裸足でした。はじめてまじまじと見たその素足がとてもきれいで、3人で腰掛けて演奏しているとき、つまさきをきちんと揃えて、かかとをすこし浮かせていたのが、しみじみとチャーミングでした(添付画像参照)。

triolaの次はライブは秋。チェロを加えた編成も聴けるそうです。9月4日(日)には荻窪の名店名曲喫茶ミニヨンで、手島さんのライブも。こちらはクラシック。僕も大好きなブラームスのヴィオラソナタが演目に入っています。楽しみ。