2012年5月27日日曜日

銀座のノラの物語

急に夏めいてきましたね。よく晴れた気持ち良い夕方。メトロに乗って銀座まで。楽しみにしていたライブ『銀座のノラの物語』に行ってきました。

会場は画家谷口仙太郎氏がオーナーのバー「ときね」。銀座コリドー街から一本入った雑居ビルの地下2階にある10席だけのカウンターバー。この店の日曜店長をノラオンナさんが務め、毎週ミュージシャンを呼んで弾き語りライブを開いています。

3月にPoemusica Vol.3で共演して以来、ずっと行ってみたかったのですが、今回はノラオンナさんご自身の出演ということで、銀座だしね、とちょっとだけおめかしして出かけました。

バーのドアを開けるとジャズが流れ出し、バーカウンターの中にはノラさん。早く着いたお客様と世間話をしながら、ハイボールを作る手つきも慣れたもので、格好良いです。

小一時間の談笑のあと、カウンターをくぐって出て、まずウクレレ一本による弾き語りのステージが始まります。「いいわけのスキャット」「港がみえない」「パンとひとつ」「やさしいひと」。そして豊島たづみさんの名曲「都会のゆううつ」のカバーをはさんで、ギタリスト見田諭さんが登場。

3坪ほどの小さい店なので、楽器も声もすべて生音、しかも演奏者と観客の距離が近い。僕が座ったカウンターの角席から約50cm先には、小さな音で精妙なリフを奏でるウクレレ。そして詞と声。つき過ぎず、離れ過ぎず、寄り添う繊細なギターの音色。氷がグラスにぶつかる音。お腹の鳴る音(笑)。

その音楽は、フォーク、シャンソン、ブルース、ボサノヴァ、ジャズ、これらのルーツミュージックをベースにしたシティポップス(死語?)なのですが、独特の低い声で歌われると、すべてを包含したノラオンナ・ミュージックとしか呼びようのないものになります。オリジナリティなんて簡単な言葉で形容したくなくなるほどに。

MCで、ご自身の故郷函館を「錆びた街」と言い、その「錆び」が音楽にも反映しているという。最後はウクレレを置いて見田さんのギターとノラさんの声だけで「コーヒー入れましょ」「流れ星」。1時間強の演奏は、これ以上ない贅沢なものでした。

終演後、再びカウンターに戻って、飲み物のおかわりを作るノラさん。はじめて会った同士がする、たったいま演奏されたばかりの音楽と、それにまつわるもろもろについての会話も心地良く、3品供されるお手製のおかず、〆の味噌汁までいただいて、気づけば入店して5時間半。すっかり長居してしまいました。

 

2012年5月24日木曜日

Pemusica Vol.5

日本中が金環日蝕に沸いた3日後、5月24日木曜日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPのPoemusica Vol.5。盛況のうちに終了しました。どうもありがとうございます。

今回の出演者もミュージシャン3組と映像作家と詩人。毎月定期的に開催していますが毎回違う雰囲気で、その違いも含めて楽しませていただいています。

藤田悠治さんは28歳のギター弾き語り。小柄で華奢で、足首なんかもう折れそうなくらい細くて、少年のようにチャーミングなヴィジュアルなのですが、その音楽は見た目からは想像もつかないほど強靭です。この日はカホンのKAZUさんとのデュオでしたが、ファンキーでクリスプなギタープレイに感心しました。まっすぐで正確で深みのある声と歌詞も魅力的です。

halosは秋田県在住の4ピースロックバンドです。今回はギター&ボーカルの草階亮一さんとベースの佐藤和也さんによるデュオ編成による全国ツアー中にSEED SHIPに立ち寄ってくれました。基本的にはダウナーなサイケデリアなのですが、ジャズやクラシックの素養を併せ持ち、演奏は確かなもの。時折聴かせるバロック的な対位法、ベースの和音を多用した音響/ポストロック寄りの空間処理。お見事でした。

そして小室みつ子さん。ステージ衣装のロイヤルブルーのミニドレスも素敵でしたが、普段着でリハーサルに登場したときから華やかなオーラを纏っていました。意外にも武骨なピアノと澄み切ったボーカルがお互いに引き立て合って、重いテーマの歌詞でもエンターテインメントに変えてしまうパワーがあります。ご本人の竹を割ったようなポジティブなキャラクターが客席にも伝わっていくのでしょう。

PoemusicaではおなじみLittle Woodyこと植木克己くん。今月の新作アニメーションでは、ネコ語、タコ語に続いて、ワニ語に挑戦(笑)。会場をエッジのある笑いで包みました。モノトーンでラフなタッチのパステル画に重ねられたユーモアとインテリジェンス。終演後、藤田悠治くんに「本当は言葉が大好きでしょう?」と尋ねられ、「わかっちゃった?」と照れ臭そうに笑う表情が印象的でした。

僕は今回出番が3回。まずザ・ビージーズの1971年のヒット曲「メロディ・フェア」の訳詞を。5月20日に62歳で他界したロビン・ギブ氏へ哀悼の意を込めて。

次に、東京スカイツリーのオープンにちなんで、東京タワー賛歌でもある(?)「International Klein Blue」。スカイツリー派か、タワー派か、といったら僕は断然タワー派です!

3つめは、Holly Cole Trio "I Can See Clearly Now"(Johnny Nashのカバー)のベースラインに乗せてくだらない休日の過ごし方」。この詩を朗読するのは10年ぶりぐらいです。

次回、Poemusica Vol.6は6月21日(木)19:30開演。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPでお待ちしています!

 

2012年5月19日土曜日

御来場御礼

本日は『新・同行二人 A POETRY READING SHOWCASE Ⅲ』にご御来場の皆様、Ustream中継をご覧いただいた皆様、この惑星のどこかそれぞれの場所で今日のことを気にかけてくださった皆様、会場を提供してくれたJAZZ喫茶映画館の吉田夫妻、共演者のお二人、どうもありがとうございました!

開演予定時間前後に、思いのほかたくさんの方にお越しいただいて、時間が押してしまったり、窮屈だったり、暑かったり、寒かったり、至らぬ点がございましたことをお詫びします。

まずリハーサル時間に会場に着いたら、出演者三人とも、申し合わせたように白シャツで苦笑い。そういうことってあるんですね。楽しくなりました。

「新」と銘打っただけあって、村田活彦さんの伴奏を務める新生Magical Trampolineの藤井脩大さん(ex.真昼間ノイズ)は、柔らかい音色と正確なタイム感を併せ持つギタリスト。活彦さんのバカ男子キャラをクールにサポートしていました。

同行二人』ではカズーのみだった活彦さんの楽器演奏も、昨年の『続・同行二人』でリコーダーとピアニカが、そして今回はアコーディオンが加わりました。技術云々はさておき、見た目も音色も面白いローファイぶり。とかく固くなりがちな朗読会の会場の雰囲気を和ませるのに一役買っていたと思います。

僕は7篇の詩を朗読しました。会場がJAZZ喫茶ということで、オープニングはエロル・ガーナーのスタンダードナンバー"Misty"のカワグチタケシ訳を。甘い甘いラブソングです。

自作詩「Planetica(惑星儀)」「Doors close soon after the melody ends」。故カオリンタウミのカバーで「RAMBLING IN THE RAIN」。ふたたび自作で「虹のプラットフォーム」「もしも僕が白鳥だったなら」。図らずも、天文と鉄道に関係する作品が揃ってしまいました。

そして最後に、村田活彦作品「うた」。

前回、前々回も、活彦さんとマジトラ(略称)にPlanetica(惑星儀)」をカバーしてもらったので、オリジナルバージョンも今回は披露したのですが、アンケートを読むとその違いを楽しんでいただけたようでよかったです。

来年のことを話すにはまだ早い5月ですが、次の『同行二人』はどこで、どんなスタイルで開催しようかといまから楽しみ。僕らのゴー・ウェストにしばしお付き合いいただけたら幸いです。

 

2012年5月5日土曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012 ②

朝すこしゆっくりめに目が覚めたら、窓の外は快晴。今日は降らないでね。と願いつつ、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012 最終日も有料公演をふたつ。

■公演番号:312 
ホールA 12:00-12:45
交響曲第6番 ロ短調 op.74「悲愴」
小泉和裕指揮 東京都交響楽団

チャイコフスキーが没年に作曲した最後の交響曲。「悲愴(Pathetique)」という表題は弟がつけたものらしいのですが、僕はこの曲にちっとも悲愴感を感じなくて。美しさ、甘さ、楽しさ、てんこ盛りじゃないかと思うんですよね。特に、奇数拍子のダンスミュージックの第2楽章、派手な行進曲風の第3楽章は楽しい。だから逆にフィナーレの尻すぼみ感が強調されるのか。やるな、チャイカ(かもめの意)。

東京都交響楽団の演奏をはじめて聴きましたが、メリハリがあってよかったです。燕尾ではなく普通のスーツにネクタイなのも、このフェスのカジュアルな雰囲気に合っていました。女性楽団員はパンツスーツの方が多かったです。常任指揮者小泉和裕のタクトは、自己表現よりも作品へのリスペクトが勝った確かなものでした。

■作品番号:316 ホールA 21:00-22:00
チャイコフスキーイタリア奇想曲 op.45
ボロディン:だったん人の踊り(オペラ「イーゴリ公」より)
ラフマニノフピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
ドミトリー・リス指揮 ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
カペラ・サンクトペテルブルク(合唱)
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)

フェス全体のグランド・フィナーレに相応しい濃厚な熱演でした。ロシア人によるロシア音楽としかもう言いようがありません。第一音から日本のオケとは別物です。こういうのを聴くと、音楽は国境を越えるとか、雇用のグローバル化とか、軽々しく口にできなくなります。ピロシキもボルシチも好きだけど、三食全部だとちょっと、ってなるでしょ。そんな感じ(笑)。

指揮者のリス氏のタイム感が超タイトで、動きはテルミン奏者みたい。ヴィジュアル的にも面白かったです。

ちなみに、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第2楽章は、同じくエリック・カルメンの全米2位の大ヒット曲"All By Myself"の元ネタ。

オーケストラを聴きに行くといつも、知らないうちに目がとても疲れていることに、演奏が終わってから気づきます。今回運良く前方の席ばかり取れたこともありますが、演奏家ひとりひとりの表情や指揮者の細かな動きを全部見逃したくないって思っちゃうんですよね。バンドなら4~5人、多くてもまあ10人ぐらいじゃないですか。それが70~80人ですから。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン というフェスは、僕にとっては毎年一回だけ会う従姉妹みたいな存在です。来年のテーマはフランスとスペイン。ビゼーからブーレーズまで。そのときはまた、有楽町で逢いましょう。

 

2012年5月4日金曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012 ①

明るい空に雨が降ったり止んだり。5月だというのに、不安定なお天気です。それでも気温は上がって、だんだん初夏らしくなってきました。

東京メトロ有楽町線に乗って、有楽町東京国際フォーラムへ。GW恒例のクラシック音楽フェス " ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012"。今年のテーマは"Le Sacre Russe"(ロシア祭)。

今日は 有料公演をふたつ鑑賞しました。

■公演番号:221 ホールB7 10:45-11:45
チャイコフスキー弦楽セレナード ハ長調 op.48
プロコフィエフピアノ協奏曲第3番 ハ長調 op.26
アレクサンドル・ルーディン指揮 ムジカ・ヴィーヴァ
クレール・デゼール(ピアノ)

セレナードは小夜曲の意ですが、朝一番にぴったりのハ長調。オーケストラの弦楽器だけで演奏されるチャイコフスキーのこの曲。砂糖菓子のように愛らしいワルツの第2楽章、朝霧の湖にすこしずつ陽が射してくるような第3楽章。モスクワの若いオーケストラから瑞々しく且つ安定感のある演奏を引き出すロシア人指揮者の手腕に聴き惚れました。

プロコフィエフのソリストは、ジェーン・バーキン似の四十路。肋骨の浮いたスレンダー金髪美女クレール・デゼール(直訳すれば「砂漠のひかり」)。螺旋階段のアパルトマンで黒猫を飼い、恋人は哲学科教授(あくまでもイメージです、笑)。演奏もさることながら、衣装が素晴らしかった。黒いヴェルヴェットのジャケットにミラースパンコールのストライプ。鍵盤を強く叩くごとに照明が反射し、まるでピアニストの身体の内側から発した光が点滅しているようです。

■公演番号:242 ホールC 12:15-13:15
ラフマニノフ交響曲第2番 ホ短調 op.27
下野竜也指揮 読売日本交響楽団

エリック・カルメンの1976年のヒット曲「恋にノータッチ」の元ネタとしても有名な この曲の第3楽章の旋律と和声は、20世紀に人類が作った芸術のうちで、最も甘美なもののひとつじゃないかと思います。演奏はヴィオラパートが良かったです。

レディオヘッドやコールドプレイだけがロックバンドじゃないように、ベルリン・フィルやウィーン・フィルだけがオーケストラじゃない。もしかしたら「超」はつかないかもしれないけれど、それでも「一流」と呼んで差支えない。そんなアーティストに出会えるのもこのフェスならでは。明日も2公演行ってきます!

2012年5月3日木曜日

bar PORTO 前川朋子(vo)、 前原孝紀(g)

先月、下北沢Workshop Lounge SEED SHIPPoemusica Vol.4で共演させていただいた"たきびバンド"のG&Voまえかわともこさんのライブがあることを前日にfacebookで知り、日暮里のbar PORTOに聴きに行きました。

bar PORTOは生演奏が聴けるブラジル音楽のお店です。今夜のまえかわさんは、ギタリストの前原孝紀さんとのデュオで。自身ギターは持たず歌に専念し、ゆったりと聴かせます。

「春は出会いと別れの季節。今日は失恋ソング特集で」と、2ステージで演奏されたのはアンコールを含めて全14曲。アントニオ・カルロス・ジョビンミルトン・ナシメントカエターノ・ヴェローゾらのブラジリアン・スタンダード・ナンバーが半分。残り半分が、沢田譲治シバリエのカバー、谷川俊太郎谷川賢作の『さようなら』、まえかわさんが所属するバンドThe Xangosのオリジナル曲など。

前原さんのリリカルなギターに乗せて丁寧に旋律を紡ぐまえかわさんの歌声は、基本的にはMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)のマナーに則ったソフトなもの。同じ南米圏でもスペイン語を使う他国と異なり、ポルトガル語の本来持っている柔らかな響きを活かしています。

それが、『出会いと別れ』の頭韻を踏んだリフレイン、『夜明けのサンバ』の「悲しみが消えないから、きっとここにサンバがあるんだろう」と唄うサビ、何曲かで聴かせたスキルフルなスキャット。そのところどころで使う喉声にはモンゴルのホーミーにも似た複雑な倍音があり、突然アジアが響く瞬間。その転換がスリリングで、他の唄い手には無い魅力になっています。

3月にリリースされたばかりのThe Xangosのセカンドアルバム"roda"は最近の僕のヘビロテ・ディスクですが、その中でも好きな曲『あした』『夜明けのサンバ』が聴けたのもうれしかった。

まえかわさんの次のライブは、5月6日(日)に高円寺meu notaで。その後、沖縄、富山、大阪とツアーが続くそうです。お近くの方は是非。