2014年9月27日土曜日

Kitchen Table Music Hour vol.3

東京湾岸の金木犀が咲いた秋の土曜日の午後、都営地下鉄三田線に乗って白山へ。JAZZ喫茶映画館Kitchen Table Music Hour vol.3が開催されました。

僕が普段キッチンテーブルで聴いている音楽を生演奏でお届けしましょう、という小さな音楽会の第三弾。mueさんまえかわとも子さんの歌とギターを聴いていただきました。お付き合いくださいましてありがとうございます!

髪をゆるめに編んだmueさんは秋の装い(画像)。1曲目の「音楽がやってきた」はこのライブイベントのオープニングにはうってつけの選曲です。細かいパッセージのギターは正確なのに柔らかい。普段はラインで取ることが多いのですが、今日は会場のアンティークな雰囲気に合わせ、あえてマイクで拾ってみました。声もとても素敵ですが、mueさんの口笛が僕は大好きです。「TRAIN-TRAIN」「地獄巡り」「(They Long To Be)Close To You」。3曲披露したカバーも含め、ラストの「東京の夜」まで、この日のための特別な選曲をしてきてくださいました。

まえかわとも子さん(左利き)は往く夏を惜しむように素足にサンダル。転換でかけていた蛙たちの鳴き声を収録したCDに重ねて「」で始まりました。まえかわさんの音楽には自然音や生活音が似合います。力強い歌声ですが、圧迫感がまったくなくて、ナチュラルに空間を満たす。ギターもmueさんのようなきらびやかさとは違いますが、ゆったりとアンビエントな拡がりがあって心地良い。宮沢賢治の「星めぐりの歌」のカバーも好き。vol.1のときに作ってきてくれた「キッチンテーブルミュージックアワーのテーマ」にBメロが追加されていました!

ブラジル音楽という共通のバックボーンを持ちながら、独自の発展を遂げた音楽を奏で、キャリアの長いふたりですが、意外なことに今日が初対面でした。その場が"Kitchen Table Music Hour" であったことをうれしく思います。mueさん、まえかわさん、ありがとうございました!

そして、準備段階からいろいろなアドヴァイスをいただき、本番では不慣れな僕の進行をいつもあたたかく見守ってくださるJAZZ喫茶映画館の吉田ご夫妻にも感謝します。

こんな感じで半年に1回ぐらいのペースでのんびり続けていけたらいいな、と思っています。ということで次回は2015年の早春に。坂道のある街のジャズ喫茶でまたお会いしましょう!


 

2014年9月21日日曜日

舞妓はレディ

気持ちの良い秋晴れの半日を映画館で浪費する贅沢。ユナイテッドシネマ豊洲周防正行監督作品『舞妓はレディ』を鑑賞しました。

京都の伝統ある花街、下八軒には舞妓がひとりしかおらず、もう29歳。その百春(田畑智子)のブログを見て、舞妓になりたいと訪ねてきた春子(上白石萌音)はOSHKOSHのオーバーオールにゴム長靴姿。幼い頃に両親を亡くし、津軽弁の祖父(高橋長英)と鹿児島弁の祖母(草村礼子)に育てられた方言バイリンガルでした。

一度は断られたが、言語学教授の京野(長谷川博己)が呉服屋の若旦はん(岸部一徳)と彼女の訛りを完璧な京言葉に直して一人前の舞妓に育てられるか賭けをしたことで百春の母(富司純子)の置屋の仕込みさん(見習い)になる。というストーリー。オードリー・ヘップバーンの『マイ・フェア・レディ』を下敷きにしたミュージカル・ファンタジーです。

舞妓の三大必須単語「おおきに」「すんまへん」「おたのもうします」。「あない、そない、こない、どない?」。「京都の雨はたいがい盆地に降るんやろか」。立春に始まり翌年の節分で終わる一年の物語です。

ミュージカルでは、登場人物の感情の昂ぶりによって、台詞から歌に移行するというテンプレートがあり、この映画にも当てはまりますが、それ以外に花街の風習を解説することを歌でやっています。周防監督がこれまでに撮った、僧侶、学生相撲、競技ダンスといった一般的には認知度の低い世界を観客に説明する際に登場人物(主に竹中直人)に喋らせることがともすれば説明的でくどくなりがちだったところを回避しています。これは上手いなあ、と思いました。

主人公の淡い恋も一応描かれていますが、恋愛自体の存在感は極めて薄いです。それよりも女同志のつながりにより、伝統芸を継承していくなかで、それぞれが成長していく。それを見まもる富司純子の目が優しい。主人公の上白石さんは歌とダンスがとっても上手。ミュージカルシーンで俄然輝きが増します。パパイヤ鈴木が振り付けた冒頭とエンディングの群舞は大変愛らしく、華やかで、夢に溢れています。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『私の優しくない先輩』なんかにも通じる楽しさ。

現実の京都という町も、僕ら「よそさん」から見たらテーマパークみたいな感じがします。しばらくご無沙汰しているので、そろそろ行ってみようかな。

 

2014年9月18日木曜日

Poemusica Vol.32

2週間ぶりの更新です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.32が開催されました。

急病で残念ながら出演キャンセルとなってしまった松本佳奈さん(どうやら復帰の目途が立ったようで安心しました!)に代って急遽出演してくださった三柏スイさんは、上京して半年。大きな瞳のベイビーフェイスに、少し鼻にかかってややハスキーなキャンディヴォイス。なのにギターがソリッドでシャープ。フィンガーピッキングもカッティングも正確で華やかです。MCも天然で面白い。大器の予感。

石垣島生まれのカワミツサヤカさんもギター弾き語りです。歌声もギターも安定感があって豊かで美しい。SEに波の音を薄く流している以外には島のテイストを全面に出すような感じではないのですが、「十九の春」が歌詞に忍ばせてあったり、ときどき混じる島唄の節回しが自然で、正統派のソングライティングによく調和していました。MCになると完全なウチナーグチで、ダイナミックな歌唱とのギャップにみんなほっこり。ゆったりとした時間が流れます。

山﨑円城さん(画像)とは20世紀からの旧知の仲。Little Woodyとふたりだけで演奏するのは初めて。2台のカセットテープレコーダーに収録されたトランペットのインプロヴィゼーションや赤ちゃんの笑い声、電話の時報、ブレイクビーツ。拡声器。ウッドベース、ギター、声。模造紙とマジックインキ。シンプルな素材で豊かな味わいのある音楽を奏でます。Bob Dylan "All I Really Want To Do" と Tradsong の "Cotton Fields"。カヴァーも円城さんらしい選曲でした。

僕は「九月」「月」をテーマに詩を選びました。イントロダクションに "Universal Boardwalk" から「九月(reprise)」、「水の上の透明な駅」。三柏スイさんの「満月」につなげて「虹のプラットフォーム」。そうしたら、カワミツサヤカさんも1曲目に月の歌を持ってきてくれました。そして、山﨑円城詩集『紙よさらば』から「*24」、新作「すべて」を朗読しました。

次回10月のPoemusicaはいつにもまして、ひらがな、カタカナの多い回になりました(主演者名に)。どんな夜になるのかな。僕自身楽しみです。

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Poemusica Vol.33
日時:2014年10月16日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,100円・当日2,400円(ドリンク代別)
出演: みぇれみぇれ *Music
      アカリノート *Music
      橋爪もも *Music
      ろとれとろ *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading


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2014年9月6日土曜日

犬猫

昨日と今日は東京に夏が戻ってきました。東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅の長いエスカレーターに運ばれて地上へ。ブックカフェESPACE BIBLIOで、井口奈巳監督の『犬猫』8mm版を鑑賞しました。

同棲をある日突然解消したスズ(塩谷恵子)は中学からの旧友ヨウコ(小松留美)と木造平屋で同居することに。ふたりは昔から仲が悪い。いつも同じ男子を好きになってしまうから。

人のセックスを笑うな』『ニシノユキヒコの恋と冒険』の井口監督がアマチュア時代の2000年に撮ったこの8mm映画は、2005年に自身の手でリメイクされており、その35mm版ではスズを藤田陽子、ヨウコを榎本加奈子が演じているそうです(すみません、観てません)。

8mmと35mm、あるいは、自主映画と商業映画。予算や技術の違いはもちろんですが、演技に関しても違いがあって、商業映画は作られた自然さ、たとえて言うならば、デジタルリヴァーヴのルームシミュレーションみたいな感じがあると思うんですよね。

この8mm映画は、主役ふたりの演技がとてつもなく無添加です。画面に時折登場する犬や猫に匹敵するほどに。1年半という長い期間、毎日朝から晩まで撮っていたということで、そこには作為や意図が当然あるわけですが、演技の反復によってある種のオートマティズムが生まれ、結果的にOKテイクのナチュラルさを生んでいるのではないでしょうか。

井口監督のカメラは低い位置から対象を捉えます。そして斜めの画角や斜線が強調される。十字路を対角線の位置から撮ることで、分岐点に見せる手法。雨に打たれるクローバーの群生や朝露のついた蜘蛛の巣の長回し。光の移ろいを丁寧に見せます。

エンディング近く、雨が急に降り出して、スズが黒いタンクトップとボクサーショーツ姿のまま洗濯物を取り込むシーンの鉛筆みたいに可憐な脚線美。

終映後、井口監督と主演の塩谷さんが登壇して、大島依提亜氏を聞き手に40分程のトークがありました。映画撮影の技術的な側面についての話が中心でしたが、僕も普段から内面や観念よりも「方法」について考えて創作する傾向が強いので、監督の話には共感するところが多かった。

最後に客席の若くて愛らしい女の子から「この映画で言いたかったこと、テーマは何ですか?」という質問が出て、おいおい、この流れでそこを聞く? と思いましたが(笑)、まっすぐに答えた井口監督が格好良かったです。