2016年4月30日土曜日

Prints!

昨年12月のカワグチタケシ詩集 "ultramarine" レコ発ライブ "fall into winter"。そのフライヤーのイラストを描いてくださった夏目麻衣さんの個展が、ライブの会場だった幡ヶ谷のカフェjiccaさんで開催されています。

"fall into winter" がご縁で展示が決まったこともあり、そういえばあの日は昼間のライブで打ち上げっぽいことしなかったよね、ならばお祝いがてら集ろうか、ということになりまして、出演者・スタッフ一同でお邪魔しました。

カフェのコンクリートの壁に直接貼られた展示作品はペン画に彩色を施した小品が中心。繊細な描線に三原色を中心とした鮮やかな色彩が載っている。"Prints!" というタイトルにもある通りポスターやポストカードなど、印刷されることを前提とした作りになっています。

彼女独特の描線には日本的な情緒がなく、乾いているのに懐かしさを覚える。たとえばアンディ・ウォーホルの商業デザイナー時代の初期作品にも通じるような。作品自体はデジタル処理されているのですが、電気製品が普及する以前の時代の甘美なノスタルジーと物語性があります。

平成生まれの夏目麻衣さん。「ひとつの絵をずっと描き続けるわけにはいかないから一枚一枚完結させてはいますが、私のなかではひとつの大きなストーリーの一部です」と言う。この日会場を訪れた友だちからプレゼントされたスズランの花のように可憐な方です。

お一人様でもグループでも入りやすいjiccaさん。旬の素材を活かした美味しいお料理。いまなら、たけのこ、空豆、アスパラガスなど。夏目さんの展示は5/28(土)まで。毎週木曜夜は作者在店とのことです。京王新線ユーザーの方もそうでない方も是非!


 

2016年4月21日木曜日

詞集「君へ」 ~ノラオンナ50ミーティング~

雨が降って、街はすこしずつ春から初夏へと向かっていきます。吉祥寺STAR PINE'S CAFEで、ノラオンナさんのアニヴァーサリーライブ『詞集「君へ」~ノラオンナ50ミーティング~』に参加しました。

今年50歳を迎えてなおチャレンジを続け、クオリティの高い音楽を創造しているノラオンナさん。ひとりの音楽家の半生を綴る長編舞台作品のような濃密な感触のライブでした。

第1部の幕開けは13歳のときに初めて作った歌「夜明けまで口笛」。ウクレレ弾き語りで9曲。静寂と緊張。そこに見田諭さんのギターのブライトなトーンが光を与える。

第2部はガットギター古川麦さん、ピアノ森ゆにさんとのデュオ。コーラスほりおみわさん、パーカッション/コーラスおきょんさんが加わり4声のハーモニー。そしてワタナベエスさんくものすカルテット)のフレットレスベース、田辺玄さんWATER WATER CAMEL)のグレッチ、港ハイライトのドラムス/パーカッション柿澤龍介さんとアコーディオン/ピアノ藤原マヒトさん。麦くんはデュエットボーカルにトランペットにとマルチな才能で魅せ、おきょんさんのゆるふわグルーヴが無骨なリズムセクションを優しく覆う。

3時間半、32曲。アンコールの最後にまたウクレレ弾き語りに戻り、ひとりでピンスポットを浴びながら歌う「やさしいひと」。独りで始め、パートナーを得て、パーマネントなバンドに多彩なサポートを加え、最後はまたひとりに。そんな覚悟さえにじませる姿は清々しく見えます。

ノラさんは作家性の強いソングライター。その歌は基本的にフィクションだと思います。が、ライブはドキュメンタリー。十代の作品も新曲も現在のクオリティで演奏するわけで、そこに生まれる捻じれが熱となって客席を包む。いま目の前で演奏されている音楽に、過去と現在の音楽人生を二重映しにし、エレガントな手際でメタフィクション化してみせました。

ノラさんは楽曲のアレンジに関して一切注文がない、と詞集のコメントに柿澤さんとマヒトさんが奇しくも寄せています。でもできあがったものは紛れもなくノラさんの音楽になっている、と。コントロールしないことでコントロールする。ノラオンナ・ミュージックかくあれかし、というメンバーや観客の集合的無意識に働きかけて個々のポテンシャルを引き出しているのではないか。その総体としての発現がライブという形式を取って展開されているように僕には感じられました。

僕は今回、ご来場者特典の冊子『詞集 君へ』の装幀と製本を担当しました。装幀とはフィジカルなもの。ページをめくる指の触覚と文字を追う視線の動きをテクストに寄り添わせる。1曲の歌詞が滑らかに読めること、曲間の無音部分を際立たせること、それがノラさんの音楽に最適と考えて制作しました。

各々の事情を抱えつつ今夜の公演を楽しみにご来場になったお客様全員に、入り口で一冊ずつ手渡しするのも楽しかったです。このような機会をいただけたことを心より感謝いたします。



2016年4月11日月曜日

さあ、どこへ行こうか?

mue the 15th anniversary 『さあ、どこへ行こうか?』。去年共演回数が一番多かったのがmueさん(画像)。毎年4月11日に吉祥寺MANDA-LA2で開催される周年ライブに参加するのも4回目です。本当に美しく、束の間現実を忘れさせてくれる夢のようなライブでした。

15年の音楽活動の集大成でもあり、新しいチャレンジの場でもあるこの日。熊谷大輔さん(dr)と伊賀航さん(b)の寸分の狂いもないのに柔らかなグルーヴに、タカスギケイさんのギターが色彩を添え、muupyさん(per)が遊び心を散りばめる。

バンドサウンドと一体化して歌うmueさんは、ソロやデュオ演奏時にも増して、音楽をのびのびと楽しんでいるように見えます。『ガラクタ』で切り開いたローファイな小曲群をループとパンデイロで弾き語ったあと、再びバンドセットに戻り、アンビエントな拡がりのある「Like A Wheel」から「ほんとうの夢を教えて」への流れはお見事でした。多様なアレンジで何度も聴いた「東京の夜」も今回がベストパフォーマンスだったと思います。

毎年同じ日に同じ店で同じミュージシャンの演奏を聴く。去年の今頃は、一昨年は、3年前は。と、自然と我が身を振り返ってしまいます。僕が知っているのはmueさんの15年のキャリアのうち4年だけですが、歌っている当人にも、客席のひとりひとりにも、良いことも悪いことも、おのおの去来するものがあり、それがうねりとなって、会場全体を大きな愛で満たしているように感じました。

長い旅に出るため、この日を節目に1年間ライブを休止するmueさんですが、しばしの名残りを惜しむように3度のアンコールを送った我々観客の誰一人としてその帰還を疑う者はいません。どうか良い旅を。そして旅の話を歌にしてまた僕らに聴かせてください。