2017年6月24日土曜日

THE SPACE WE LIVE BY VOL.4 サトーカンナ "Make It Obvious"発売記念 ヤマグチヒロコ×サトーカンナ ツーマンライブ

よく晴れた土曜日のお昼時。下北沢440で開催された『サトーカンナ下北沢レコード PRESENTS "THE SPACE WE LIVE BY VOL.4" サトーカンナ "Make It Obvious"発売記念 ヤマグチヒロコ×サトーカンナ ツーマンライブ』に行きました。

カンナさんとは昨年1月に Poemusica Vol.46 で共演して以来。その時はアコースティックギターとのデュオで歌声をループマシンで多層に重ねた、どちらかというをダークな曲調が多かった印象です。器用さと洒脱なところは相変わらずですが、今回はドラムス、ベース、ギターにサウンドエフェクト、カンナさん自身のキーボードという編成でオーソドックスかつシンプルながら体温を感じさせる演奏で聴かせて、楽曲の良さが際立ちます。

1年半ぶりに彼女の音楽を聴きました。その間にはきっと迷ったり悩んだりしたこともあるのだと思います。そんな心情の揺れも音楽から伝わってきますが、全体的なトーンとしてはおしゃれで知的でポップ。例えば、 新譜の1曲目でライブでも最初に演奏された「ものごと」にはRADIOHEADの初期の隠れた名曲 "high & dry" のメロディをさりげなく挟み込む小粋な趣向。あえてなのか、ボーカルのピッチの少々甘めなところはポータブル・ロックを思い出させる。

カウンターカルチャーに基礎を置くが、メインストリームの流行もちゃんと押さえている。知識の引き出しが多く話していて飽きない。カンナさんみたいな子がクラスにいたらきっと、本やレコードやビデオを貸し借りする良い友達になれたんじゃないかと思います。

共演のヤマグチヒロコさん。アシンメトリーなマッシュルームカットに木綿のミニワンピースという姿で、ループマシンを駆使したソウルフルなポップミュージックをステージ上でリアルタイムに構築していく手際には、一流の職人芸を見る清々しさを感じます。ラップナンバー "Dance With You"が良かったです。アンコールの2曲、salyu × salyu の「続きを」、スタンダード "May You Always" のデュエットも素敵でした。

ということで、6月3本目のレコ発ライブでした。リリースパーティというのは特別な祝祭感があってやはりいいものですね。



 

2017年6月22日木曜日

mandimimi 1st EP "Unicorn Songbook: Journeys" リリース記念ライブ

夏日でも6月なので日が落ちると涼しい。渋谷サラヴァ東京へ。mandimimiさんの1st EP "Unicorn Songbook: Journeys" リリース記念ライブにお邪魔しました。

台湾系アメリカ人SSWの Mandyさんは、台湾高雄で生まれ、米国西海岸シアトルに家族で移住。その後、八戸、神戸を経て、現在は東京在住です。ソロプロジェクト名をmandimimiに改め、6曲入りのEPを発表。

そのライフスタイルはノマド的というより、もっと土地土地にしっかりとした生活の基盤と人間関係を築いているように思えます。CDタイトルのJourneysにちなんで、これまで暮らした地で綴った歌を唱うという構成でした。

彼女とは昨年4月に等々力の生花店Iriaさんで出会いました。笑顔で生まれてきてそのまま大人になる人がいるんだなあ、というのが第一印象。口角が常に上がっており、笑うと更に目が三日月型になる。ゆるふわな語り口とナチュラルなビジュアルには、同性が思わず「かわいい!」と言ってしまう要素が詰まっています。

敢えてタイム感やグルーヴを排除し、過剰なまでにレガートを重ねたノスタルジックなピアノの響きは、Harold Budd 的なアンビエンスで空間を浮遊する。

なんだろうこの懐かしさは、と思って聴いていましたが、アンコールで歌ったニール・ヤングの "Only Love Can Break Your Heart" に至ってやっと気づきました。ミディアム~スローテンポと語尾が微妙にフラットするスウィートな中音域のウィスパーヴォイスにコーティングされていますが、自作の楽曲の骨格はグランジ~ミクスチュア~エモ。彼らが時にはっとするような美しいバラードを歌う。その瞬間を濃縮還元したかのようです。やはり思春期をシアトルで過ごした影響が強いのかもしれません。昨夏のギャラリーイベント限定シングルでは Death Cab For Cutie の "Transatlanticism" をカバーしていました。

中国語、英語、日本語のトリリンガルなMandyさんですが、歌詞は英語が大半。完璧なイントネーションの日本語を話すのに、日本語詞を歌うとちょっとだけたどたどしくなるところも逆にチャーミングです。

途中から加わった照井陽平さんのガットギターとコーラスも終始優しく、mandimimiとしての出発を会場全体が静かに祝福していました。



2017年6月12日月曜日

MINAKEKKE "TINGLES" RELEASE PARTY

MINAKEKKEさんとは以前、2013年10月にPoemusica Vol.22で共演しています。当時はMinakoさんというお名前でした。その後MINAKEKKE になって、4月に1stフルアルバム "TINGLES" をリリースしたばかり。俊読2017のリハーサルと本番の間に渋谷タワレコでゲットしました。

芝浦インクスティックで観たThe Jesus And Mary Chain、後楽園ホールのCocteau Twins等々、折に触れて思い出すライブがありますが、この日のこともきっとこの先何度も思い出すと思います。

"TINGLES" レコーディングメンバー全員(&IKILLU 神田愛実さん)による演奏。更にPAにはレコーディングエンジニアの葛西俊彦さん、VJにジャケ写を撮った丹澤由棋さん。アルバムの全11曲だけを収録順に演奏しました(最終曲 "TINGLES" がアンコール)。アルバムに絶大な自信を持っていることが伝わってくるし、なによりアルバムを気に入って聴きに来ているオーディエンスにとって一番のギフトだと思います。

元来彼女は表情豊かなほうではなく、感情の起伏もおそらく少ない。MCは最小限。その歌声にはElizabeth FrazerHarriet Wheeler の残響があります。自己愛、自己嫌悪、自己表現や自己言及よりも、1990~2000年代UKロックに対する憧憬とリスペクト(そして少々のコンプレックス)が優っており、陰鬱な曲調でも聴いていて息苦しくならないのは、そのあたりに秘密があるのかも。

アルバムでは地味な存在に思えた "MARIAN" が強烈な四つ打ちのキックに乗ってフロア映えするソウルフルなダンスチューンになっていたり、アルバムを忠実に再現するのではなく、今日しかないエモーションがところどころではみ出して聴こえて来るのはライブならではの醍醐味です。

ゲストの高井息吹と眠る星座のアクトも素晴らしかった。ソングライティングの確かさ、声の力、演奏技術、アイデア、ダイナミズムとグルーヴ。どこを取っても振り切れています。そして手がつけられないほどの生命力に溢れている。これからもっとずっと高いステージに上がっていくことは間違いないでしょう。


2017年6月11日日曜日

ことばーか10 ~ザ・ファイナル

空梅雨。晴天の日曜午後、東京メトロ東西線15000系に乗って早稲田まで。ブックカフェCAT'S CRADLE蛇口さんが年一回主催しているポエトリ-・リーディング・ショー『ことばーか』の第10回目にして最終回にお邪魔しました。

蛇口さんには同じ棒読み派詩人として勝手に親近感を抱いています。かといってのっぺり無表情かというとそんなことはなく、彼の選ぶ言葉の連なりにはエモーションがあり、リーディングにはグルーヴがある。

石渡紀美さんの最近のパフォーマンスの充実ぶりには目を瞠ります。以前はもっとがちゃがちゃしたところがあって、それはそれで面白かったのですが、静けさのなかに単語を置くようないまの朗読の凄み。庶民的なのに何か人を寄せつけないところ。

馬野ミキさんがロン毛(というよりマッシュルームカットか)になっていました。スキンヘッドの印象が強かったので。この詩人はどんな汚い言葉を使っても喚起する映像が澄んでいます。いくつになっても幼児の目を失わない人。

今回の出演者ではギタリストのヤスオ・トゥワープ氏だけが初めてでした。ひとりジャグ。粗野に見せかけて超リリカル。彼と蛇口さんと石渡さんの3人で始めたイベントだということも、そのあとふたりが抜けて蛇口さんだけ残ったことも初めて知りました。

さいとういんこさんも強力でした。「S・R・H」(白髪、老眼、閉経)。なんていうか、若いミュージシャンや詩人が等身大とか言ってるのがちゃんちゃら可笑しくなるぐらい。リアルとはこういうこと。そしてチャーミングな方法で提示すること。

桑原滝弥さんは自叙伝風の散文詩。彼の声は大まかに2種類あるのですが、鋭くて硬質な声を中心に置き、時折テンポダウンして倍音混じりの深い低音に転じる。この2声のバランスと転換の鮮やかさが今日は絶妙に決まって。

15年以上前から共に場数を踏んできた盟友たちの名人芸に聴き惚れた日曜日の午後でした。


2017年6月3日土曜日

カフェ・ソサエティ

水無月。日比谷TOHOシネマズみゆき座で、ウディ・アレン脚本監督作品『カフェ・ソサエティ』を観ました。

舞台は1930年代ゴールデン・エイジ。NYブロンクス出身のユダヤ人青年ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)はキャスティングエージェントとして成功した伯父フィル(スティーブ・カレル)を頼ってハリウッドに出る。フィルの秘書ヴォニー(クリステン・スチュワート)に恋をするが、彼女は伯父の愛人だった。

一度はヴォニーの心を掴んだボビーだが、結局ヴォニーはフィルと結婚してしまう。失意のボビーはニューヨークに帰り、兄ベン(コリー・ストール)の経営するナイトクラブのマネジャーになって成功する。そして数年後の再会。

「片想いは結核よりも多く人を殺す」。得意のロマンティックコメディをアレン監督が職人芸で魅せます。ストーリーが斬新でなくても、ギャグやスラップスティックがなくても、随所にセンスが光る。

ヴォニー「夢は夢よ」、ボビー「永遠に続く感情もある」。気の利いた台詞ときめ細かい演出で登場人物の揺れる心情を描き、映画の後半にはきっとみんな主人公ボビーを応援したくなると思います。

ただのよくあるラブストーリーに終わらないのは、ボビーの実家のユダヤ人一家のひとりひとりがエキセントリックで面白いから。興奮するとイディッシュ語になるけれど「こちらは雨よ。美しいけれど物悲しい」と息子に詩的過ぎる手紙を書く母親。理屈っぽい哲学者の義兄。そして息をするように自然に気に入らない者たちを銃殺する実兄。カリカチュアライズされた描写が最高に笑えます。

全篇に流れるノスタルジックなジャズVince Giordano And The Nighthawks の"The Lady Is A Tramp" がメインテーマ)、シャネルが提供したハリウッドセレブたちのゴージャスな衣裳。名匠が肩の力を抜いて、手を抜かずに創ったチャーミングな工芸品を堪能しました。