2018年10月28日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

満月の3日後、再び西武新宿線に乗って、すこし乾いてひんやりした夜気を分け、西武柳沢ノラバーへ。日曜生うたコンサート「マユルカとカナコ」の回に行きました。

前半はmayulucaさんのギター弾き語りソロで6曲。1ヶ月前に声帯浮腫を患ったが、歌えるまで回復していました。「なので今日は、元気に歌わない感じの曲を」と言いますが、元々元気な曲がないから大丈夫。

ミニマルなギターのリフレインに水のように風のように流れる旋律を声を張らずに淡々と歌う。今夜は更に静けさを増し、ほとんど呼吸のような自然な歌声に。聴いている僕たちも音を立てずに呼吸している。

指定されたドレスコードは「白」。mayulucaさんは白の七分袖Tシャツにベージュのボアフリーススヌード。店主ノラオンナさんは生成の麻のワンピース。カウンターに並ぶ白いニットやシャツやキャップ。みんなじっと静かに息をしている。清潔で幸福な緊張と弛緩。

1年ぶりのライブに「声が出なくて歌い切れるか不安で」声を掛けた女優の西田夏奈子さん(ミュージシャンとしての名はエビ子・ヌーベルバーグ)と後半はデュオで。夏奈子さんとmayulucaさんは大学時代から面識のある先輩後輩。怪我の功名というか、この組み合わせも素敵でした。

2部冒頭の2曲「月の下 僕はベランダに」「花ヲ見ル」の2曲は夏奈子さんがリードボーカルをとり、「昼下がり」「覚悟の森」「ひかりの時間」「幸福の花びら」にはヴァイオリンとコーラスを加える。

mayulucaさんのソロ弾き語りは、mayulucaさんの音楽の緻密な展開図みたいに僕は感じていて、聴いている脳内でいくつかの音を無意識に補完していることに気づくことがあります。あえて表情を隠したmayulucaさんの声に、夏奈子さんのすこしざらっとしたヒューマンな感触の和声やカウンターメロディが重なることで、美しい展開図がおもむろに彫りの深い立体造形になって立ち上がるような感動がありました。

演奏後にはノラバーの秋の風物詩、梨フライタルタルにみんなで舌鼓を打ち、わいわいと賑やかに月夜は更けていくのです。
 

2018年10月25日木曜日

木曜ノラの日生うたコンサート

木曜夜の西武新宿線の帰宅ラッシュに揉まれ、駅を出ると東の空に満月。夜空にパンチ穴を開けたようなまん丸の月(©Tom Waits)がアスファルトをほのかに照らしている。

カウンターに席を取るとハイボールとサラダが供されます。西武柳沢ノラバー木曜ノラの日生うたコンサート」、mandimimiさんノラオンナさんのツーマンライブに行きました。

mandimimiさんの歌を聴くのは5月サラヴァ東京以来。その頃始動した毎月ひとつの花を選んで曲を書くというパーソナル・プロジェクトを継承したセットリストで、最新作はカスミ草をモチーフにした "Our Heartbeats"。日本在住歴の長い台湾系アメリカ人であるmandimimiさんの歌詞は、英語、日本語、中国語のミクスチャー。しかしその歌声にコスモポリタン的な厚かましさは欠片もない。彼女の歌詞に特徴的な単語 suffering、losing、separation、distance。ある種の断絶とそれゆえの切望、希求、祈り。

ノラオンナさんは11月発売の新譜『めばえ』の(ほぼ)全曲演奏という4月の「ノラオンナ52ミーティング」の二部に近い構成でしたが、スターパインズカフェの音響で聴くのとはかなり印象が違い、アンプラグドならではの声の近さに楽曲の輪郭がより際立つ。「めばえ」(曲名)のスキャットと「大好きなの/生きることが」という歌詞のholyな響き。声質は全く異なりますがVirginia Astleyの "Melt The Snow" に重なり、冬が終わるんだな、と思いました。10月なのに。

最後に3曲をデュエットで。mandimimiさんの同郷のスター故テレサ・テンの「時の流れに身をまかせ」中国・日本二ヶ国語バージョン、さらさ西陣を描いたmandimimiさんの "Antique Tiles"、ノラオンナさんのバンド港ハイライトの「やさしさの出口で」。ノラさんが上のパートという意外性もあり、ふたりのハーモニーがやさしく美しかったです。

いつになく(?)女子率の高い客席から、ノラ婆カレーのおいしさに華やかな嬌声が上がり、楽しくおしゃべりしているうちに終電間際。慌てて店を出ると、満月は天頂近くまで上っていました。


2018年10月13日土曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

この数日でようやく気温が落ち着いてきました。焚き火の煙の匂いが遠くから漂ってくると、秋だな、と思います。これからの1ヶ月半が一年のなかでも一番好きな季節です。

そして11月、しし座流星群の過ぎた後、満月の2日後に西東京市保谷町(最寄は西武柳沢駅)のノラバーで、生声の朗読と美味しいお食事をお楽しみいただける完全予約制先着11名様限定のワンマンライブがございます。只今ご予約受付中です!

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ノラバー日曜生うたコンサート

出演:カワグチタケシ
日時:2018年11月25日(日) 17時開場、18時開演、19時~バータイム
会場:ノラバー 
   東京都西東京市保谷町3-8-8
   西武新宿線 西武柳沢駅北口3分
   ○吉祥寺からバスもあります。
料金:4,500円
   ●ライブチャージ
   ●6種のおかずと味噌汁のノラバー弁当
   ●ハイボール飲み放題(ソフトドリンクもあります)
   ●スナック菓子3種
   以上全部込みの料金です。
   
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銀座のノラの物語アサガヤノラの物語でお世話になり、超リスペクトしているミュージシャンのノラオンナさんが、昨年7月にご自身のお店ノラバーを持ちました。とても落ち着いた雰囲気のあるお店です。こちらには今年3月に続いて3度目、銀ノラ、アサノラと通算すると11回目の出演になります。

西武柳沢? どこそれ遠そう、ってお思いの方、高田馬場から約20分です。うちからだと阿佐ヶ谷まで行くのと10分しか変わりません。

恒例のご来場者全員プレゼントは、ノラバー限定カワグチタケシ訳詞集の第5弾 "suger, honey, peach +love Xmas mix"(CD付)。クリスマスソングの名曲をカワグチタケシ訳で。2015年12月に古書信天翁さんでmueさんと開催したクリスマスライブをベースに新作も加えます。あっという間に師走ですから、少し早めのクリスマスプレゼントということで!

そしてお料理は必ずご満足いただけるクオリティ。ノラバー弁当は季節ごとの素敵なメニューをノラさんが考えてくださいます。

*銀ノラ、アサノラより1人増えた先着11名様限定の完全予約制です。
 ご予約は rxf13553@nifty.com まで。お名前、人数、お電話番号を
 お知らせください。お席に限りがございます。どうぞお早目に!


2018年10月7日日曜日

3K12 ~3人のKによる詩の朗読会~

10月の真夏日。東京メトロ千代田線で千駄木まで。芸工展期間中の三連休はお天気にも恵まれて賑わう谷根千界隈。古書ほうろうさんで『3K12 ~3人のKによる詩の朗読会~』が開催されました。

実に12年ぶりの3Kでしたが、奇跡のリユニオン! みたいな風にはしたくなかったので、ほうろうミカコ画伯デザインのフライヤーも2部構成のタイムテーブルも当時からの継続性を重視しましたが、ありがたいことに初めて3Kに来たというお客様が半数以上でした。

一番手は小森岳史。2015年のTEENS KNOT REVUE以来、3年ぶりに聴く朗読は、スタート時こそ若干の戸惑いが見られましたが、最近にないエモーショナルなパフォーマンスで「あー、これが3Kだよ」という感じ。新作の長編散文詩「空港(ターミナル)」の淡々とした中に苛立ちを滲ませる描写は彼の最も得意とするところだと思います。

二番手は究極Q太郎。昨年秋のTQJ、今年1月の「銀河鉄道の昼」では、どちらかというと朗唱的な抑揚あるパフォーマンスでしたが、意識的なのか無意識なのかかつての3Kに寄せるようにストレートな朗読に回帰している。散歩依存症もあり身体を絞ってきたQさん。全て新作でセットを構成しているのもライブ復帰後の充実度を物語っています。

三番手はカワグチタケシ。1部は3K11以降に書いた詩を中心に6篇を朗読しました。

1. 無題(出会ったのは夏のこと~)
2. ケース/ミックスベリー
3. 風の通り道
4. 無重力ラボラトリー
5. 花柄
6. 風のたどりつく先
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7. 童話(究極Q太郎)
8. キャッチアンドリリース(小森岳史)
9. fall into winter

インターバル明けの2部はQさんの新詩集『秋津の散歩 ~散歩依存症~』と小森さんの詩集『みぞれ』、自作『ultramarine』から1篇ずつ。

そしてQさん、小森さんとバトンを繫ぐ。タイムキープを気にしてどんどん早口になり詩行を端折るQさん、2000年のオレたちのアンセム「アムステルダム」でテンションにフィジカルが追いつかずつんのめる小森さん。そのリアルな姿には、感慨や懐古よりも現在を生きる詩と詩人の声のアクチュアリティを強く感じました。

2000年当初から、私生活で特に仲が良いわけでもなく、ライブ当日以外に顔を合わせることもない2人ですが、作品とパフォーマンスは本当にリスペクトしており、心底信頼できます。

ひとり(もしくは複数)の知性と情熱が注がれ、また読者から次の読者へ手渡されるのを待つ書籍たちに囲まれて朗読できるのは最高です。快く会場を提供してくれた古書ほうろうさん、ありがとうございます。

そして熱心な眼差しと機智を持って3Kの詩を受容してくださったお客様、どうもありがとうございました!


2018年10月6日土曜日

アジア オーケストラ ウィーク 2018

神無月。台風25号が朝鮮半島に抜けて、フェーン現象で東京は夏日です。

京王新線初台駅下車、東京オペラシティで開催中の平成30年度(第73回)文化庁芸術祭主催公演アジア オーケストラ ウィーク 2018 に行きました。

フィリピン・フィルハーモニック管弦楽団
指揮:福村芳一
ギター:荘村清志
独唱:ネリッサ・デ・フアン

ロドリーゴ / アランフェス協奏曲
ロッシーニ / 歌劇「セミラーミデ」序曲
ファリャ / バレエ音楽「三角帽子」

クラシックのオーケストラといえばヨーロッパかアメリカという印象ですが、極東日本の各大都市にもあるように、あらゆる国々にオーケストラがある。そんな当たり前のことに気づかされたのは、2007年に来日したビルバオ交響楽団を聴いたときのことでした。ビルバオ交響楽団の演奏は、少々大雑把なところもありますが、盛り上がるときのテンションが尋常ではなく、ドイツやロシアのオケの「クラシックやってます」というしかつめらしい感じがなくて、終始楽しい。それ以降、機会があれば西欧圏以外のオケを聴きに行くようにしています。

アジア オーケストラ ウィークでは、2014年にベトナムのオーケストラを聴いたことがあります。今年は、フィリピン・フィル、中国の杭州フィル、そしてホストに群馬交響楽団が、東京公演は各1日ずつ、というプログラムの2日目に行きました。

荘村清志氏はクラシックギター界のレジェンド。正確無比な技術と豊かなパッション、可憐で美しい音色を存分に響かせていました。指揮の福村芳一氏はフィリピン・フィルの音楽監督も兼ねています。まるで酔拳みたいにトリッキーで柔軟なタクト。

オケはお揃いのバロンタガログ(バナナの繊維で織って無彩色の刺繍を施したフィリピンの伝統衣装)を着て、細部まで神経が行き届いた生真面目で緻密な演奏。長髪の男性団員がいない。金管が若干おとなしめですが、ロッシーニ・クレシェンドも指揮によくついていってがんばっていました。演奏直後のコンサートマスター氏の安堵とも満足とも見える満面の笑顔が印象的でした。

「三角帽子」のメゾソプラノのアリアとアンコールでフィリピンの作曲家ニカノール・アベラルド歌曲を唄った二十歳のネリッサ・デ・フアンも堂々として美しかった。

ロドリーゴとファリャはスペインの作曲家です。米西戦争でアメリカに売却されるまで、16世紀の東インド会社の時代からスペインはフィリピンの宗主国。現在でもフィリピン人にはスペイン風の名前が多い。団員の顔立ちも南欧系、南アジア系、中国系と様々。このオケ自体が1970年代当時の独裁者夫人イメルダ・マルコスによって再編されたという。歴史に翻弄されながら美しい音色を奏でてきたことを想像すると胸に迫るものがありました。