2013年2月24日日曜日

銀座のノラの物語

AUX BACCHANALESの角を曲がって、ときねがある銀座コリドー街の裏道に入ると、さっそくノラ猫たちが迎えてくれました。そして急な階段を降りた地下2階には、てきぱきと開店準備をするノラオンナさんの姿が。カワグチタケシ2年2ヶ月ぶりのソロライブは「銀座のノラの物語」にて、完全予約制10席限定の超プレミアムディナーショー(笑)。

ご来場のお客様、地球上の各々の持ち場で気に留めてくださった皆様、ノラさん、どうもありがとうございます。おかげさまで、とても実のある時間を過ごすことができました。

開演の時間になり、空調のスイッチを切ると完全な無音状態に。宇宙空間のような場所に、できるだけ丁寧に、言葉をひとつひとつ置く。そんなことをイメージしながら全14篇を朗読しました。当日のセットリストです。

 1. 無題(世界は二頭の象が)
 2. Doors close soon after the melody ends
 3. クリスマス後の世界
 4. 風の生まれる場所
 5. チョコレートにとって基本的なこと
 6. 無重力ラボラトリー
 7. 星月夜
 8. ボイジャー計画
 9. バースデー・ソング
10. 風の通り道
11. 虹のプラットフォーム
12. 新しい感情
13. 風のたどりつく先
14. (They Long To Be) Close To You

「銀座のノラの物語」にちなんで銀座の街が舞台の詩を2篇、この日スペシャルバージョンの先行リリースとなった新詩集『新しい市街地』から10篇、日曜音楽バーなのでカーペンターズが歌ったBacharach/Davidの名曲の邦訳カバー、という構成を考えました。

時折響くハイボールのグラスに氷が当たる音。開演前に受け取ってもらった詩集を開いて一文字ずつ追う人、ページを閉じて声に耳を傾ける人。音楽家、画家、詩人、歌人、俳人、ご自身も創作をする方の多い客席の受容の姿勢が演じるこちらにもひしひしと伝わってきて、なんだか感動的でした。

ひとりでステージに立つということは、準備段階から、集客、パフォーマンスのクオリティまで、すべてが自己責任ですが、時々こうしてきちんと自分をセットアップすることが心地良く、やはり必要なことなんだなと思います。

張りつめた感覚が終演とともにほどけ、ノラさんのお料理とお酒とおしゃべりを楽しむ時間も銀ノラならではのもの。毎週一流のミュージシャンが出演するこの会を是非多くの方に体験してもらいたい。来週3/3はノラオンナさん自らのステージです!


2013年2月21日木曜日

Poemusica Vol.14

昼間の日差しはずいぶん明るくなりましたが、夜はまだまだ冷えますね。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPにて"Poemusica Vol.14"が開催されました。

「女子シングル自由形ピヤノ弾き語り」の鈴木亜紀さん。こういう印象に残るキャッチフレーズっていいな。ピアノじゃなくてピヤノっていうのもいい。2年前に同じ会場で聴いたときはスレンダー眼鏡美人と思ったのですが、楽屋で隣に並んだら本当に小柄で華奢。でもピアノに向かって歌うと大きく見える。一曲目「ハムカツサンド」から客席の心を掴み、奄美竪琴をフィーチャーした「うらしまたろ子」、最終曲「人のいろいろ」まで、一気に聴かせる。軽やかで柔らかい音色のピアノに凛としたアルトがよく響いていました。

そして敬愛するエミ・エレオノーラさん(画像も)。各曲前のMCが「先日男子とデートしまして、」で始まり、そこから曲に滑らかにつなぐスキル。東京アンダーグラウンドシーン最高のエンターテイナーです。今夜のテーマはドM女の悲恋? なかでもひどかった(笑)のは「山」。恋人に山中に置き去りにされる女心をドラマチックに歌い上げた名曲です。シアトリカルなパフォーマーは、得てしてどこか演奏に妥協があったりするものですが、それが一切無いのがエミさんのすごいところ。クラシック、ジャズ、現代音楽、ルーツ・ミュージックをすべて包括してガツンと鳴らすピアノはどこまでもクリア。オリジナル訳詞の「センチメンタル・ジャーニー」「愛の讃歌」と2曲のカバーも完全にエミ・ワールドの構成要素になっていました。

インド帰りの松本暁さん11月に続いてPoemusicaは二度目の登場です。前半は静かなユーモアとインテリジェンスを湛えて。エミさんのあとのトリは難しい空気でしたが、一転してビートの効いたグルーヴィなリーディング、堂々たるパフォーマンスで座を締めくくりました。すとんと届く良い声で、言葉遊びを交えたリフレインと見せて、最後にふっと思考を異化させる。お見事でした。

僕はまずアカペラで、来月発売予定の新詩集『新しい市街地』から「星月夜」と「ボイジャー計画」。そしてエミ・エレオノーラさんのピアノに乗せて「Doors close soon after the melody ends」。実は2009年2月に初めて朗読したときもエミさんと共演していたという思い出深い詩です(地震や津波のことを書いたのかと訊かれることがありますが、東日本大震災より前の作品です)。

なんだか今月のPoemusicaはたくさんの愛を感じました。言葉に対する愛、音楽に対する愛、声に対する愛、いろんな愛が音になって、SEED SHIPの白い空間をきらきらと輝かせているみたい。幸福な夜でした。

さて、次回のPoemusicaは3月21日(木)です。2組のスペシャルなコラボレーションをお楽しみください!

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Poemusica Vol.15
日時:2013年3月21日(木) Open 18:45 Start 19:15
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
料金:予約2,800円 当日3,000円(ドリンク代別)
出演:平井真美子(Piano) × 神田サオリ(LivePainting)
    LittleWoody Band(Music) × カワグチタケシ(PoetryReading)

※今回は開場開演時間が変則的です。ご注意ください。
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2013年2月11日月曜日

きのうの街あしたの猫

祝日の月曜日、東京は快晴。銀座七丁目にある猫専門ギャラリー、ボザール・ミューで開催している佐久間真人展『きのうの街あしたの猫』の最終日におじゃましました。

ミステリ小説を中心に、書籍の表紙や雑誌の挿絵を多く手掛ける佐久間さん。最近では角川文庫のジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』の表紙なんかも描いていますので、そのお名前はご存じなくても、書店で作品を目にしている人は多いはずです。

今回の個展も装幀の原画が中心で、それ以外の作品にも、猫と本と鉄道と機械と古い町並みが描かれており、すこしくすんだノスタルジックな色調と細密な描線が魅力です。

作品に添えられた「猫が謎解き?」「いろんな本があります」といったような短いキャプションが、描かれた作品のヒントになっていて、鑑賞者も細部に目をこらしながら、謎解きをする楽しみがあり、絵画鑑賞という娯楽のあり方のひとつを、控えめに示してくれていました。

最終日ということで、普段は愛知県にお住まいの作者ご本人も在廊していらっしゃって、作品にまつわるサイドストーリーや本の中身と作品の関係などを楽しそうに話す姿が印象的でした。佐久間さんのきっちりとした丁寧な仕事にぶりには、いつも共感してしまいます。

さて、もう来週ということになりますが、2月のPoemusicaの詳細が下記の通り決まりました。今回も間違いなく楽しい夜になります。どうぞお誘いあわせの上、みんなでいらしてくださいね!

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Poemusica Vol.14 ポエムジカΦ詩と映像と音楽の夜

日時:2013年2月21日(木) Open 19:00 Start 19:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
   世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
   03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
   yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,000円 当日2,500円(ドリンク代別)
出演:エミ・エレオノーラ *音楽  
   鈴木亜紀 *音楽 
   松本暁 *ポエトリー  
   カワグチタケシ *ポエトリー

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2013年2月2日土曜日

SHORT SHORT SHORT STORY

今週の土曜日も小春日和。というよりむしろ初夏。2月だというのに都心の気温が20℃を超えました。そんな気持ちの良い午後、中央線に乗って西荻窪まで。zakka & gallery bon bonsで開催中のねもとなおこさんの個展『SHORT SHORT SHORT STORY』にお邪魔しました。

商店街の片隅にぽつんと佇むカフェギャラリーの白い壁面にバランスよく配置された十数点の平面作品は、しっかりした画面構成力とエレガントかつ自由なイマジネーションで、静かに主張しています。

画布、画用紙、ボール紙など、複数の異なるメディアに柔らかい色彩のアクリルを使って描かれた作品は、それぞれ独立した小さなストーリーを持ちながら、全体が調和してひとつの季節を切り取っっているように感じました。

「どうしよう、と思っているけれど、答えはわかっている。ぽつんとしているけれど、周りが見えている。一艘の舟にひとり。いっしょには乗れない」(「何といえば」)。「この子が長い眠りから覚めたら、周りが進化し過ぎて、ひとりぼっちになっていた」(「黄色い恐竜」)。

「こうして話すことではじめて自分が何を描きたかったのかがわかる」と、風邪の鼻声で、普段よりももっとスローなペースで、お客様に説明するねもとさんの声をカフェのソファーから聴いていました。

一番印象に残ったのは、ベージュのメモ用紙に鉛筆と水彩で描かれた田園風景です。人は描かれていませんが、水田を区切る道路を点々と照らす街灯が確かに人の営みを示し、観ていて愛おしい気持ちになりました。

昨年10月にアカリノートさんのライブイベント「あのかぜのゆくえ」で共演した際に、僕の詩「風の生まれる場所」をモチーフにねもとさんが描いた5枚の絵画作品は、詩のテキストとともにこんな感じに展示されています。陽光の射し込むギャラリーで観ると、風の痕跡がより鮮明に映るように思えました。

この可愛らしく、ユーモラスで、ちょっぴりビターな作品展は明日2月3日(日)の17時まで。中央線ユーザーのみなさんは是非!