2015年9月22日火曜日

ちょっとだけロマンチック東京編

Poemusicaを終えた足で小田急線に乗って祖師ヶ谷大蔵へ。ノラオンナさんの新譜『なんとかロマンチック』のレコ発ライブ『ちょっとだけロマンチック東京編』に行きました。

会場のムリウイはビルの屋上にちょこんと乗っかった海の家みたいに開放的なカフェ。夏の名残りの風が吹き抜け、テラスに面した大きな窓から遠い花火が見えます。

まずノラさんがひとりで登場し、ウクレレ弾き語りで1st『少しおとなになりなさい』から3曲、『カモメのデュオさん』から2曲。最小限に切り詰められた声と言葉と音楽と。次の「こくはく」から古川麦さんのギターが重なると会場の空気がふわりと膨らみます。そして港ハイライトのメンバー、キーボード藤原マヒトさん、ドラムス柿澤龍介さんが加わり『なんとかロマンチック』全8曲を「詩集『君へ』」の朗読から始まるLP盤の曲順で。

ノラさんがMCで言っていたように、ライブはシンプルな編成でも聴き手がそこに自分で必要な音を足していく。それは記憶であったり願望であったりするのですが、そうしてはじめてひとりひとりの内側で音楽が完成する。その孤独なプロセスと場を共有するという相反する行為の調和がライブ演奏を聴く醍醐味なのだと思います。

ノラさんの音楽は、その声質や曲調からモノクロームの欧州映画のような印象があります。それは弾き語りだとより際立ちますが、他のミュージシャンが奥行を付け加えることで、陰翳がより深くなると同時に間口が広がり風通しが良くなる。レコ発ということで制作秘話(?)のMCも多め。

デュオ曲の「シャバダバダ」と「港ハイライトブルーズ」で倉谷和宏さんの歌声が会場の祝祭感を高め、そしてアンコール最終曲はふたたびウクレレ弾き語りで「やさしいひと」。ちょっと感傷的な気分になって、2015年の夏の良いしめくくりができました。

 

2015年9月21日月曜日

Poemusica Vol.42

長いお休みを頂戴しました。6月以来、3か月ぶり42回目のPoemusicaが、敬老の日の午後に下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで開催されました。

2月のVol.37ではループマシンを用いて重層的な構築性を聴かせたmayulucaさん。今回はギターと声だけで。その正確なリズム、午後の明るい空気に完全に同化する自然で滑らかな発声。「聴く人や観る人が積極的に受け取っていかないと感じられないことが多いかなと思って」。シンプリシティゆえに際立つ美がそこにありました。

中田真由美さんの歌声は装飾音や発声がとてもアジア的だなと常々感じています。最後の「希望のカケラたち」で感極まりいくつかのフレーズが涙で塞がってしまいました。中田さん自身にそのとき去来していたものは知る由もないのですが、客席のみんなそれぞれが感情の高ぶりを憶え、僕は僕なりに昨今の社会的・個人的状況を重ね合せていました。それは彼女の持つ音楽の力に他ならないのでしょう。

昨年11月の出産以来、ひさしぶりに聴くエリーニョさん(画像)もそのひとりとしてピアノに向かい、彼女にしか出せない声で、彼女にしかできない方法で、彼女自身と身の回りの今というリアルを切り取って丁寧に差し出していました。母親になって表現に包容力が出たみたいな紋切型では割り切れない、夜泣きで眠れない苛立ちも湧き上がる愛情もないまぜにしながら、未来を見据え、ジャジーでソリッドでプログレッシブな拡がりのある音楽に昇華しています。

古代ギリシア人の考える4つのエレメント、アース、ウィンド、ファイヤ&ウォーターでいったら、3組のミュージシャンは僕にとっては「風の人」。なので「風の生まれる場所」「風の通り道」「風のたどりつく先」の三部作、初秋の乾いた風の吹く「もしも僕が白鳥だったなら」を朗読、mayulucaさんの歌詞の一節を引用した「森を出る」にはギター伴奏をつけていただきました。

今回のPoemusicaは、個々の音楽やパフォーマンスというよりも、出演者同士の関係性、時間帯や天気、差し込む陽射し、コーヒー豆を焙煎する香り、客席のざわめき、通りのノイズ、すべてが調和し、自然と感謝の気持ちが生まれ、そこに居合わせた人みんなの記憶に深く刻まれるような、美しい時間でした。

来月10月のPoemusicaは第三木曜日の夜に戻ります。またまた素晴らしいミュージシャンをブッキングしてもらいました。どうぞお楽しみに!

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Poemusica Vol.43 ポエムジカ*詩と音楽の夜

日時:2015年10月22日(木) Open19:00 Start19:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,200円・当日2,500円(ドリンク代別)
出演:ちみん
    潮崎ひろの
    桂有紀乃
    カワグチタケシ (PoetryReading)

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2015年9月20日日曜日

あかね詩の朗読会

早稲田大学文学部正門前にある「あかね」は、1990年代後半にだめ連の活動拠点となり、今も(ファッションではなく)リアルなストリートカルチャー、エッジを生きる人々の交差点のような役割を果たしています。

その店で不定期開催されている詩の朗読会に参加しました。かつて小森岳史と3人で「3K」というリーディングシリーズを展開していた究極Q太郎がメインMCを務めていましたが、現在はあかねスタッフのひとりであるガテマラさんがフリーエントリーのオープンマイクを仕切ります。

参加者は常連客のうち創作志向のある方が中心。ひとり1作ずつ何周か回していく形式です。朗読された作品ひとつずつに対して文学的、人文科学的、イデオロギー的な視点から批評が交わされるのが特徴です。

お店の性格上、イデオロギー色の強い作品が複数提示されましたが、リベラルなものもあれば、パトリオットなエコノミズムに基づくものもある。アベノミクスに反対する勢力を揶揄する作品はストレートゆえにアイロニィを帯びる。そんな転換の面白さもあって。

スケッチブックを用いたフリップ芸調のストーリーが回文に帰結するユーモラスな作品。現代俳句のカウンター且つ正統的な継承者たる廃人餓号氏の独特の息づかい。他所では聞けないオルタナティブな表現があります。

僕は、究極Q太郎「蟇蛙のブルース」、カオリンタウミ「RUMBLING IN THE RAIN」、自作の「ANGELIC CONVERSATIONS」「水の上の透明な駅」「都市計画/楽園」の5篇を朗読。

昨今の安保法案を巡る国会情勢を反映し、終盤はガチな討論に。マスメディアやSNSによくある聞く耳持たずの罵倒合戦に陥らないのが、ファシリテーターでもあるガテマラさんのスキルと、あかねという場が本来持つ懐の深さなんだろうな、と18年のその歴史に思いを馳せました。


 

2015年9月6日日曜日

ピース オブ ケイク

長月。ユナイテッドシネマ豊洲ジョージ朝倉原作、田口トモロヲ監督作品『ピース オブ ケイク』を観ました。

失恋と同時に失業した意志薄弱な恋愛体質の主人公志乃(多部未華子)が引っ越した先の木造モルタルアパートの隣室に恋人あかり(光宗薫)と同棲している優柔不断なレンタルビデオ店長京志郎(綾野剛)にひとめぼれ。すったもんだの挙句にどうにかなるお話です。

a piece of cake (ケーキのひときれ)転じて「とるに足りないこと」「たやすいこと」という慣用句。予告編はティーンズ向けの恋愛映画という体だったので、トモロヲ監督がどんな風に撮ったのか興味本位で観に行きましたが、予想に反して面白かった。

高円寺や阿佐ヶ谷(ロフトAの店長役がクドカン)下北沢の見慣れた街並み、OFFOFFシアターからザ・スズナリそして本多劇場というアングラ劇団めばち娘(実際に演じているのは劇団鹿殺しfeat.峯田和伸&松坂桃李)のサクセスストーリー(といっても全部下北沢駅徒歩5分以内)、トモロヲさんらしいサブカルネタをちょいちょい放り込んできますが、この映画の魅力は主演女優の力に負うところが大きい。

キレ顔の邪悪さは当代随一、若手女優で多部ちゃんの右に出る者はいないといっても過言ではないでしょう。居酒屋で泥酔してバイトの先輩に絡むシーンは超ナチュラルでキュートだし、過剰に多いキスシーンも骨ばった背面ヌードも適度にエロく、適度に爽やか。全体に「演じてます!」というドヤ感が皆無で好感度急上昇。

オネエの劇団員を演じた松坂桃李と情緒不安定な作家志望(のちに芥川賞受賞)の光宗薫の好演。志乃の勝ち組の友人役の木村文乃もよかったです。