2011年12月30日金曜日

Poemusica vol.00

西麻布Ojas Lounge、渋谷SPUMA、茅ヶ崎TOIYAA CAFEなど、東京のサブカルシーンで常に注目されるスポットを手がけてきた土屋友人氏が、今年の2月に下北沢にオープンしたWorkshop Lounge SEED SHIPは、ライブスペースとは思えない2面ガラス張りで陽光の差す明るい室内、白煉瓦と木の質感を生かしたシンプルな内装と柔かな音響が魅力です。

左の画像は出演者控え室の照明。白熱球の灯りが小さな円形の金属板に乱反射して壁をミラーボールのように照らしています。井上侑さんが「きれいですねえ」と感心していると「ここがこの店で一番きらきらしている場所。お客さんは入ることができない、出演者だけの場所だから」とはオーナーの土屋氏の弁。

そんな丁寧で細やかな気づかいが、お客様にも、出演するアーティストにも、それぞれに向けられている、素敵なハコです。

今回ご縁があってお声掛けいただき「Poemusica vol.00」と題する、詩を感じさせる音楽と音楽的な詩をテーマにしたシリーズのパイロット版に参加させてもらいました。

共演者を紹介します。

Makoto Tanaka Piano solo unit は作曲家の田中マコトさんのピアノソロ。たとえていうなら、単館上映されるヨーロッパ映画の架空のサウンドトラック。叙情的な旋律と和声、緩やかなテンポが、言葉にはならないストーリーを感じさせます。

井上侑さんはピアノ弾き語り。キュートなビジュアルでアイドル的な要素も持ちながら、Tom Waits ばりに曲を途中で止め客席やスタッフに語りかけるステージ度胸もあり。今年180本のライブをこなしたのも伊達じゃない。ドラマチックな表現力もあります。

yojikとwanda東京在住のyojikさん(女性vo)と大阪から深夜バスで来たwandaさん(男性g)の遠距離デュオ。Rickie Lee Jones meets Nick Drake。あるいは初期のEBTGTUCK&PATTIを思わせるような。ガットギターの優しい音色を生かした心地良い音楽です。なぜか途中からyojikさんがオノヨーコに見えてきて、歳末感満喫でした(笑)。

僕はそれぞれのセットの合間に3篇の詩を朗読しました。田中さんがドビュッシーの「月の光」をリハで弾いているのを聴いて、当日演目に加えた「無題(静かな夜~)」、その次に「Doors close soon after the melody ends」、井上侑さんの演奏をはさんで「クリスマス後の世界」。

一年の締めくくりにぴったりな心あたたまる時間を過ごしました。ご来場のお客様、共演者とスタッフのみなさん、どうもありがとうございました。そしていつもこのブログにお越しいただいているみなさんも、どうぞ良いお年をお迎えください!


2011年12月24日土曜日

サウダージな夜 第15夜

中村加代子さんといえば、僕にとっては小森岳史さんtrixistextsで毎月ショートストーリーを連載している、いわばレーベルメイト。チャーミングな文章を書き、美しい写真を撮り、「秋も一箱古本市」を主催する青秋部部長の肩書きを持つ多才な方で、しかも美人。10月に古書信天翁さんTKレビューにいらしてくださり、打ち上げでお話した際に「一番好きなのは歌うこと」とおっしゃっていました。

その中村さんが、千駄木の古書ほうろうさんで毎月開催されている吉上恭太さんの「サウダージな夜」にゲスト出演するとうかがって、いそいそと出かけて行きました。

まず恭太さんのソロ。ザ・ビートルズの“With a Little Help From My Friends”、ACジョビンのボサノバ・スタンダード、オリジナルと全6曲をガットギターで弾き語り。声を張らずに訥々と進む演奏は「レイドバック」なんていう懐かしい単語を思い出させるものでした。

そして「シノバズの歌姫」と紹介された中村加代子さんが登場。細野晴臣の「悲しみのラッキースター」のカバー。その第一声から引き込まれました。武満徹「死んだ男の残したものは」「」、メル・トーメの“The Christmas Song”、カルメン・マキの「アフリカの月」。聴くものに何も強要せず、ただそこにある声。ビタースイートなアルトに満員の客席が包み込まれました。

クリスマスイブにぴったりのしみじみとした良いライブでしたが、歌や演奏もさることながら、会場の古書ほうろうさんが不忍ブックストリートの中心のひとつとして、地域コミュニティに愛されていることが素晴らしいな、と思いました。恭太さんのオリジナル曲なんか歌詞がみんな谷根千ネタだし。お客さんたちの持ち込みの飲食物ものすごい物量だし(ごちそうさまでした!)。このお店の十数年の努力と工夫があってのことですが、みんな古書ほうろうが大好き、ってことが本当に伝わってきて。ちょっと感動的でした。

そんな年末。僕もライブが一本入りました。すこし急で、しかも年の瀬もかなり押し詰まった29日ですが、年末年始は東京で、野球もサッカーもオフシーズン(でもないけれど)、テレビは再放送と特番ばかりで退屈。そんな人は是非いらしてください。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

Poemusica vol.00
日時:2011年12月29日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
料金:前売り¥2,000/当日¥2,500(ドリンク代別)
出演:Makoto Tanaka Piano solo unit
http://jp.flavors.me/tanaka_makoto
井上侑 http://www.inoue-yu.com/
yojikとwanda http://www.yojik-wanda.com/
カワグチタケシ http://kawaguchitakeshi.blogspot.com/

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

今回共演する三組はいずれも気鋭のミュージシャン。ピアノソロ、ピアノ弾き語り、ギター&ヴォーカル。みなさんはじめましてなので、僕自身楽しみです。

今回がパイロット版となるSEED SHIPさんの「Poemusica」。2012年にシリーズ化されたあかつきには、僕もブッキングや出演で全面協力する予定です。お楽しみに!

2011年12月3日土曜日

ロータリー・ソングズ

東京が今年一番の冷え込みを記録した金曜日。地下鉄を乗り継いで渋谷まで。京都在住の画家足田メロウさんからお誘いをいただいて、UPLINK FACTORYで開催された「ゆーきゃん 3rd Album ”ロータリー・ソングズ”発売記念ライブ 東京編」へ。

ふわふわの茶髪に黒縁眼鏡、純白のシャツ、ベルボトム・ジーンズ、裸足で登場した今日の主役ゆーきゃんは京都西陣に暮すシンガーソングライター。生ギターを爪弾きながら、オフマイクでささやくように優しい声で歌うそのスタイルは、さしづめ大人になった星の王子さま。

旋律にも和声にも歌詞にも演奏にも、表面上どこを取ってもエッジの見あたらないその音楽が、逆に強靭なスタンスを感じさせるから不思議です。サポートするふたりの腕利きミュージシャン、エマーソン北村(key)、田代貴之(b、ex.渚にて)も、その柔かな空気を守るように大切に丁寧に音を紡いでいきます。

そして今回の新譜のジャケットと歌詞カードを描いた足田メロウのライブペインティング。曲の雰囲気に合わせて、あるいは歌詞のストーリーに寄りそうように、淡く儚い線と色を添えていきます。今回は生成りの画用紙に水彩とパステルで描き、それをビデオカメラとプロジェクターを使って、ステージ後方のスクリーンに投影するという手法でした。

メロウさんのライブペインティングを言葉で説明するのはとても難しいです。手のひらにしぼり出した白い絵の具を画用紙に置く。そこから偶発的に発生する白い面にパステルで線を加えて具象化する。たとえば鳥、たとえばウサギ、女性の横顔、小さな家。一本の線はあるときは木の幹となり、曲が進むのにつれて葉をつけ、花を咲かせる。あるときは地平線となり、愛犬の待つ我が家が建つ。

通常の絵画制作のように、画家の内部に完成形が存在し、そこに向って筆を加えていくというよりも、一枚の絵の過程のいくつかがそれぞれ複数の完成形であり、それを破壊することで次のヴィジョンに向かうというような。しかもそのひとつひとつがきゅんきゅんくるという。すみません、全然説明できてないですね。全くもって百聞は一見にしかずです。

共演した二組もよかったです。アニス&ラカンカは、ニュージャージーから来た幼馴染(嘘)二人組。大勢の羊や牛と暮していて、鍬ですくったかいばをぶつけあってふざけているときに作った曲(大嘘)を演奏します。実は、埋火見汐麻衣mmm(ミーマイモー)が組んだハードコア・アシッド・フォーク・デュオ。おっかなくてキュートでちょっと笑える。たとえて言うなら、歯車の外れた大貫妙子がふたり、ソニックユースを従えて歌っているような感じです。

長谷川健一さんも京都から。アコースティックギターでベースラインを正確にくっきりと響かせる技巧は本物でした。

_

2011年12月1日木曜日

梨田真知子フリーライブ

東京は遅い紅葉。12月の雨が上がって、気温が急激に下がりました。風邪など引いてはいませんか? どうかあたたかくしてください。

日暮里駅から雨上がりのゆるい坂道を上って下りて古書信天翁へ。今日は梨田真知子さんのフリーライブが開催されました。

10月22日のTachyonic Knuckleball Revueにゲスト出演していただいたのがご縁で今回のブッキングとなりましたが、これが事実上の初ソロライブ。それがライブハウスやホールやストリートではなく、書店で、というのがまず素敵。梨田さんの清潔で硬質な抒情を湛えた音楽にぴったりです。

倍音を多く含んだその声は、声量が豊かで音域が広いだけでなく、同じピッチでも歌詞に合わせて地声とファルセットを使い分けたりと、実はとてもスキルフルなのですが、それ以上にエモーションがまっすぐに聴衆の心臓に届くのは、歌うことに対する彼女の純粋な衝動が強く表れているからだと思います。

今回は書店ということを意識してか、いつもよりミディアム~スローテンポの多い選曲で、苦手だというMCも長め。そのぎこちなさがむしろチャーミングで、はじめ固かった客席の空気を図らずも和ませていました。

演奏されたのは全部で8曲。ワルツのオリジナル曲「くらげ」や2つのカバー曲、フィッシュマンズの「いかれたBABY」、アンコールで歌われた長澤知之の「狼青年」では、抑えた表現が逆に歌い手としての力量を表わしていました。どちらも良い曲です。

冬の海風を含んだような誰にも似ていない特別な声、叙情的で美しいメロディ、無駄のない歌詞とその歌詞以上に物語を感じさせる歌唱。音楽を聴く喜びを無心に味わった40分間でした。

2011年11月6日日曜日

妄想中華雑貨店/ステキな金縛り

11月だというのにこのあたたかさ。僕の好きな11月はもうちょっと乾いてきりっと冷えた空気なのですが、今年に限っては寒くならなくてもいいかな。新しいマフラーを買ったのに、しばらく使う機会がなさそうです。

すこし朝寝坊した土曜日は、メトロに乗って飯田橋へ。神楽坂を徒歩で上って横寺町まで。ギャラリーうす沢「場 横寺」で昨日から開催中のハラダノリ帽子展『妄想中華雑貨店』におじゃましました。

今年4月の春夏コレクションでは、triolaさんといっしょに震災復興支援ライブを開催させていただきました。うす沢のマダムは今日もチャーミングな大人の和装、緑色のアンティーク着物でお出迎え。

ノリ先生の作品は春夏も素敵でしたが、やはり秋冬物は落ち着きますね。そして、手に取るとびっくりするぐらい軽い。「頭に乗せるものだから」とノリ先生。フェルトづかいのリバーシブルベレーやキャップ、マフラーや今年注目のポンチョなど、お洒落女子必見のアイテムが目白押しです。11月9日(水)まで開催中!

それから地下鉄で豊洲に戻り、ユナイテッドシネマで三谷幸喜監督作品『ステキな金縛り』の夕方の回を鑑賞しました。

グランドホテル、ギャング、法廷劇と、古き良きハリウッド映画のフォーマットを借りて、ウェルメイドなコメディを豪華キャストで丁寧に紡いでいます。主演女優深津絵里の野暮ったい髪型にはときめきました。もうひとりの主役、落武者役の西田敏行とデュエットした主題歌"Once in a Blue Moon"。ふたりとも歌がとても上手なんですね。

深津絵里が赤いコートを着てバスを降りる「落ち武者の里」のシーンでは、道祖神がみんな前のめり。

とてもよくできたお話でしたが、最後の5分は要らなかったかも。中井貴一が法廷の階段を去るところで終わって、あとはエンドロールのスチールで見せるぐらいのあっさりした感じで充分じゃないでしょうか。

今夜CX系地上波で放送していた関連番組『ステキな隠し撮り』も楽しかったです。竹内結子が特によかったな。キッチンの濡れた床で滑るシーンは本気だったと思います。


 

2011年10月23日日曜日

御来場御礼

DOUBLE TAKESHI PRODUCTION PRESENTS T.K.REVUE05 TACHYONIC KNUCKLEBALL REVUE タキオニック・ナックルボール・レビュー
~詩の朗読とうた~ 終了しました。

御来場いただいた皆様、遠くで気にかけてくださった皆様、会場の古書信天翁のおふたり、ありがとうございました!

明け方激しく降った雨も午後には上がり、曇っていて残念ながら夕陽は見えませんでしたが、楽しい晩になりました。

今回はゲストの梨田真知子さんのパフォーマンスが素晴らしかった。僕はステージに近い場所で、時々客席を眺めていたのですが、みんないい表情で梨田さんの歌を聴いていました。

彼女にとって人生初だというアンコールも含めて6曲。その魅力を存分にお伝えすることができたのではないでしょうか。信天翁さんで単独ライブも決まり、近々詳細発表があるはずです。

小森さん、僕たちもがんばらないとね。

僕の今日のセットリストは以下の通りです。まだ詩集に載せていない作品が増えてきました。

1. クロース・トゥ・ユー(Hal Davidの歌詞のカワグチタケシ訳)
2. 星月夜
3. バースデー・ソング
4. チョコレートにとって基本的なこと
5. 虹のプラットフォーム(新作)
6. 声(新作)

 
 

2011年10月10日月曜日

Dear John

三連休の最終日は早起きしてユナイテッドシネマ豊洲へ。ラッセ・ハルストレム監督の新作『親愛なるきみへ』(原題"Dear John")の初回上映を鑑賞しました。

春休みに実家に帰省した米陸軍特殊部隊員ジョン(チャニング・テイタム) は、両親の別荘に友達と遊びに来ていたサヴァナ(アマンダ・サイフリッド)がボードウォークから落としたバッグを、素潜りで海底から拾い上げたのがきっかけで、恋に落ちる。

2週間の休暇が終わり、ジョンは任地へ、サヴァナは大学へ戻る。1年後に除隊して再会することを約束して。ジョンの任地は、アフリカ、中央アジアなど、ネットワーク環境のないところ。ふたりは毎日手紙を書き送る。そして9.11。

やや影のあるイケメンマッチョと天真爛漫なブロンド美女が、想い合い、すれ違うフツーの恋愛映画です。が、映像は終始うっとりする美しさ。浜辺を吹く風。一度だけあるセックスシーンでヒロインの金髪の一本一本を輝かせる照明。中東米軍キャンプの乾いた風景。再会シーンで農場の逆光にシルエットだけうかびあがるヒロイン。

主人公ふたりの衣装も素敵。タッタソールチェックのシャツにネイビーのクルーネックセーターのジョン、一夜明けるとそのセーターをサヴァナが着ている。ヘンリーネックの白ロンTにカーキショーツのジョンと生成りのルーズなケーブルニットのサヴァナがビーチを並んで歩くシーンなんかは、L.L.ビーンの通販カタログを眺めているようでした(笑)。

脇役ですが、ティムを演じたヘンリー・トーマス(E.T.のエリオット少年の30年後)と、自閉症の息子アラン役のブレーデン・リード(左利き)の芝居はお見事です。

マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985)の印象があまりにも鮮烈過ぎて、ハリウッドに渡ってからのハルストレム監督の評価はもうひとつですが、『ギルバート・グレイプ』(1993)、『サイダーハウス・ルール』(1999)、『ショコラ』(2000)と、少なくとも3本の傑作を撮っていると思います。がんばれ、ハルストレム監督!

 

2011年9月25日日曜日

タキオニック・ナックルボール・レビュー

暑さ寒さも彼岸まで。屋外で過ごすのが楽しい季節になりました。

さて、詩の朗読会のお知らせを。2007年10月24日に千駄木の名店古書ほうろうで開催されたEvergreen Knee-High Revueから二年。TKレビューが満を持して谷中芸工展に帰ってきます!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
芸工展2011参加企画
DOUBLE TAKESHI PRODUCTION PRESENTS T.K.REVUE05

Tachyonic Knuckleball Revue タキオニック・ナックルボール・レビュー 
~詩の朗読とうた~

日時:2011年10月22日(土)17:00開演
出演:小森岳史、カワグチタケシ、梨田真知子
料金:1500円(1ドリンク付)
会場:古書信天翁(荒川区西日暮里3−14−13-202)03-6479-6479
   http://www.books-albatross.org/

ダブルタケシプロダクションが贈るポエトリーリーディングショー。
秋の黄昏に夕陽の綺麗な古書店で、詩の朗読とアコースティック・
ナンバーのひと時を。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

今回のゲスト梨田真知子さんは平成生まれ。22歳のシンガーソングライターです。地震直後の3月20日下北沢SEED SHIPで開催されたチャリティライブに出演した際に、オープニングアクトを勤めていたのが梨田さん。その歌声に衝撃を受けました。

ステージ上のMCは最小限で、無愛想なまでのストイックさ。曲も詞も一切の無駄を省いたミニマルなものでありながら、豊かに饒舌に、音楽そのものが心に直接刺さります。いまだ発展途上にある原石の輝きを、この機会に是非見届けてください。

会場は、今年三月の「続・同行二人」に続いて、古書信天翁(あほうどり)さん。JR・京成日暮里駅西口を出て道なりに徒歩5分。谷中銀座商店街の入口、夕やけだんだんのちょっと手前の左手二階。にぎやかで楽しい一角にある古書店です。開演時間を日没時刻に合わせて設定しました。

10月8日(土)~23日(日)が芸工展2011の開催期間です。会場周辺の谷中・根津・千駄木エリアではアートイベントが目白押し。ちょっと早めに到着したら、ガイドマップをゲットして、下町散策も素敵です。

どうぞ皆様お誘いあわせのうえ、是非ご来場ください。お待ちしています!


◎梨田真知子(ナシダマチコ)
山口県出身のシンガーソングライター。
18歳で上京し、都内・下北沢などのライブハウスを中心に活動している。
http://nashidama7.exblog.jp/
http://twitter.com/74dama

◇小森岳史(コモリタケシ)
ダブルタケシのデカいほう。ネット古書店トリクシス・ブックス店主。
京都府出身。西荻から千駄木、いまは筑波山のふもとに住んでいる。
http://www.trixisfactory.org/books/
http://twitter.com/shiomizaka

◇カワグチタケシ(カワグチタケシ)
ダブルタケシのちっちゃいほう。2011年は毎月家電が壊れる残酷極まる年。
千葉県出身。豊洲運河と東雲運河の交差するあたりに住んでいます。
http://kawaguchitakeshi.blogspot.com/
http://twitter.com/rxf13553

 

2011年9月9日金曜日

ハンナ

ずいぶん日が短くなってきました。そんな初秋の夕暮れ時に、ジョー・ライト監督の『ハンナ』を鑑賞。北欧戦闘美少女ロードムービーです。

主人公ハンナ(シアーシャ・ローナン)は、金髪、ソバカス、空色の瞳の16歳。 恐れや哀れみの気持ちを抑制し、武術、射撃、語学に優れた殺戮マシンとして、雪深いフィンランドの森で育てられた。母親の仇敵であるCIAエージェントのマリッサ(ケイト・ブランシェット)を殺すために、CIAに潜入するが、逆に追われる身となり、モロッコ、スペイン、ドイツと逃亡の旅を続ける、というストーリー。

主人公ハンナがとにかく強い。もう笑っちゃうぐらい強いです。華奢な身体で、屈強な野郎共を殴る、蹴る、投げる、絞める、撃つ、刺す。そして、よく走る。速くて、フォームがきれい。ランニングに限らず、アクション全般が美しく、特に冷徹な目で撃鉄を引く射撃シーンは記憶に残ります。

ひょんなことからヒッピー家族(両親、姉弟)のキャンピングカーに同乗することになりますが、この一家とのやりとりが軽妙で楽しいです。特にハンナと同世代の姉は「サッカー選手と結婚してセレブ暮しがしたい」とか言ってて、ちょっとおバカなのですが、最後の最後に友情を裏切らないのが泣かせる。

カメラワーク/編集もスタイリッシュで、サウンドトラックを担当したケミカル・ブラザースの複雑なキック音に合わせてめまぐるしくカット割りが変る戦闘シーンなど、音楽と映像のリズムが完璧にシンクロして、重低音の効いた映画館のドルビーサウンドで聴くと、テンション上昇。

ちなみに、ヒッピー家族のカーステレオでかかるのは、ケミカル・ブラザースではなく、デイヴィッド・ボウイの"Kooks"。そういう細かいところも丁寧に作られています。

シアーシャ・ローナンと同い年の川島海荷初主演のTBSドラマ『ヘブンズフラワー』の主人公アイのビジュアル・イメージは、おそらくハンナから来ているのでは。3.11後、放送中断したままになっていましたが、現在第1話から再放送中です(関東ローカルのみ)。
 

2011年9月4日日曜日

Spirale vol.1 viola & piano Duorecital

台風の進路が東京を逸れて、湿度の高い9月最初の日曜日。荻窪の老舗 名曲喫茶ミニヨン で、triolaのヴィオラ奏者手島絵里子さんがピアニストの明利美登里さんと開催したクラシックのデュオリサイタル"Spirale vol.1"を鑑賞しました。

triolaでは、安定したクールなタイム感で脇を固める役割の多い手島さんは「引きの芸」の名手。彼女がセンターに立ったらどんな音楽が生れるのだろうという興味も。

ふたりにとってはじめての単独公演ということもあって、おそるおそるという感じの出だし。緊張がボウイングに出てしまった前半でしたが、後半はふたりの演奏の温度がじわじわ上がり、手島さんはtriolaではあまり出すことのない情熱的な一面も垣間見せ、新鮮でした。

特に最後の2曲、リストとブラームス、そしてアンコールの武満徹のリラックスした演奏は聴いていて心地良く、楽しかったです。 客席数約30の最前列は演奏者の体温まで感じられるようで、正午開演というのも自然光の良く入る会場に合っていました。続編にも期待しています!

クラシック音楽の世界には、ヴィオラ・ジョークというのがございまして、オーケストラのなかでも一番影の薄いパートを揶揄したものなのですが、ヴィオリスト自身もヴィオラ・ジョークが好きなんですよね。おそらく自虐的な意味も含めて(笑)。たとえばこんなものです。

Q.ヴァイオリンを盗まれないようにするには?
A.ヴィオラのケースに入れておきます。

Q.ヴァイオリンとヴィオラの違いは?
A.ヴィオラの方が長く燃えます。
  ヴィオラの方がたくさんビールが入ります。
  ヴァイオリンは調弦できます。

確かにヴィオラは地味な存在の楽器ですが、逆にその地味さ、渋さを愛したブラームスみたいな作曲家もいて。 僕も好きです。

1. F.P.トスティ  夢
2. W.A.モーツァルト  ピアノソナタ ハ長調 K330
3. G.エネスコ  演奏会用小品
4. F.クライスラー  愛の悲しみ
5. E.グラナドス  スペイン舞曲集op.37より 第5番アンダルーサ~祈り~
6. F.リスト  コンソレーション第3番より第3番 ため息
7. J.ブラームス  ヴィオラソナタ第2番 変ホ長調op.120-2

 

2011年8月27日土曜日

僕には光が見えはじめている

八月最後の土曜日は地下鉄に乗って。外苑前neutron tokyoで今日から始まった石川文子写真展「僕には光が見えはじめている」のオープニング・パーティへ。

2003年にtrade mark kyotoで開催した3K7 というポエトリー・リーディングで会場スタッフをしていただいたのがご縁。その後古書ほうろう京詩人東上ガル千駄木入ル に、石川さんが詩人の豊原エスさんと組んでいるユニット水窓(当時は車窓)を観に行ったりしましたが、実際にお会いするのは実に6年ぶり。

石川さんの写真は、光そのもの。無音の光。風や光という誰もが知っているけれど言葉で説明するのがとても困難な事象。その一瞬を切り取るのが写真芸術なら、その根源的な姿を生のまま提示して見せるのが石川さんの作品だと思います。 そしてそこには、淡い死の匂いが漂っています。

人物のポートレートでも良い仕事をたくさん残していますが、今回の展示は風景のみ。それも植物や水、波、といった自然を中心に、実に丁寧に。木蓮や睡蓮などの花が被写体となった作品が特に印章に残りました。

数枚だけあった人工物の写真のうち、展覧会タイトルになっている「僕には光が見えはじめている」の「僕」は、逆光の窓に向って立つ人体骨格標本です。

neutronの前に立ち寄ったGALLARDA GALANTE表参道店のtriola無料インストアライブもよかったです。洋服屋さんの店内といういことで、優しい和声の曲で始まったメドレーですが、後半は不協和音をがっつり響かせて約40分。triolaの音楽って、いろんなシチュエーションに似合うんだな、と思いました。おふたりが着ていたGALLARDA GALANTEの秋物ワンピースも素敵でした。

 

2011年8月20日土曜日

ハッピー・ジャーニー

雨が上がり、急に気温が下がった土曜日の昼下がり。下北沢OFFOFFシアターで、劇団フライングステージ第36回公演『ハッピー・ジャーニー』を鑑賞しました。

30歳のゲイを息子に持つ母親が主人公。祖父の法事に出るために、母子いっしょに東京から母の実家のある札幌まで、鉄道とレンタカーの旅をする。息子の彼氏、元彼、元彼の今彼が絡んで楽しくも切ない珍道中に。

カミングアウトしているゲイの劇団。今回のお芝居のテーマは、家族との葛藤、そして理解と受容。何度か取り組んできたものですが、以前は当人目線で描かれていたのが、今回は母親の視点が中心に。作・演出の関根信一さんが、若いゲイたちを見守るような立場になったということなのかも。

そのせいか全体の印象は、フライングステージの舞台としては薄味です。上演時間もコンパクト。ウェルメイドでハートフルなお芝居と言っていいと思います。役者さんたちは見るたびに上手になって、細かな感情表現や、笑いを誘う軽妙なやりとりが随所に。最小限のセットを活かす照明もお見事でした。

僕の右隣の客席には、10代の男の子とお母さんの二人連れ。目の前の舞台で繰り広げられるストーリー。そしてお隣の母子の関係。そのふたつが交錯して、なんだか心温まりました。

 

2011年8月17日水曜日

ツリー・オブ・ライフ

残暑と呼ぶには真夏過ぎます。早起きしてユナイテッドシネマ豊洲へ。2011年度カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作、テレンス・マリック監督『ツリー・オブ・ライフ』を鑑賞しました。

予告編を見ただけだと、父子の葛藤と家族を描いた心温まるお話なのかと思いますが、それは半分。残りはなんというか、太陽系の誕生から生命の進化と死をすべて網羅し、圧倒的な映像美で表現しようとした意欲作です。

信心深く厳格で威圧的な父(ブラッド・ピット)、優しく天真爛漫で少女のような母(ジェシカ・チャステイン)、三人兄弟の長男ジャック(ハンター・マクラケン)。 1950年代の米国西部中流家庭の輝かしくも鬱屈した日々を大人になったジャック(ショーン・ペン)が回想するというのが前者の骨格。

超新星爆発から小惑星衝突、火山の噴火、水の生成、螺旋状のDNA、ミトコンドリアの誕生、海藻、魚類、爬虫類(恐竜)の発生と憐憫の感情の獲得。それぞれの位相で現れるぼんやりとした光に象徴される神(創造主)。これが後者。

台詞のほとんどがモノローグで、それも創造主への問いかけ(旧約聖書ヨブ記を下敷きにしている)。

カンヌでの上映後、スタンディングオベーションとブーイングが同時に起きたというのも納得です。

家族の場面は、どのカットをとっても一枚の泰西名画のよう。宇宙創造の場面は、ハッブル宇宙望遠鏡から送られてくる画像データを想わせます。映像はいずれも、果てしなく残酷なまでに美しく、これは映画館のスクリーンでないと味わえないものだと思います。※恐竜のCGだけはちょっと安いです。

母親役のジェシカ・チャステインが終始可憐で、レーヨンのワンピースを中心としたノスタルジックな衣装も素敵。暴力的な父親役との対比を見るにつけ、マザコンってのはこうやって日々の積み重ねで形成されていくものなんだなあ、ということが本当によくわかり、世のマザコンのみなさんに対する理解が少し深まりました。

テレンス・マリック監督作品『天国の日々』(1978)は好きな映画。学生のころ何度もビデオを借りて観ました。こちらは諸手を挙げてお勧めできます。

 

2011年8月8日月曜日

triola presents "Resonant #5"

下北沢letetriolaのライブを聴くのは5回目。木造モルタルの会場がそのときどきで微妙に違う響きがして、毎回楽しみにしています。が、今回は痛恨の遅刻1時間。21時に到着したときは、後半が始まるところでした。

大島輝之さんをゲストに迎えて3人で奏でる「ヒドラ」。弧回(こえ)の2曲「逆回転時計」「ユメで会えたら」。大島さんと波多野敦子さんのフリーセッション。そしてカバー曲「上を向いて歩こう」。

大島さんのガットギターと声の訥々とした響きに呼応してか、波多野さんのヴァイオリンがいつもより優しく聴こえました。手島絵里子さんのヴィオラは普段と変らぬ落ち着きで、これまでで一番やわらかなtriolaだったかもしれません。

最後にふたりのtriolaに戻って「新世界のタンゴ」「クジラの駆け落ち」。うってかわって、ガツガツとタテノリの演奏。

7曲を聴くことができました。

いつもステージではゲッタグリップの10ホール・スチールキャップ(安全靴)を履いている波多野さんが、今日は裸足でした。はじめてまじまじと見たその素足がとてもきれいで、3人で腰掛けて演奏しているとき、つまさきをきちんと揃えて、かかとをすこし浮かせていたのが、しみじみとチャーミングでした(添付画像参照)。

triolaの次はライブは秋。チェロを加えた編成も聴けるそうです。9月4日(日)には荻窪の名店名曲喫茶ミニヨンで、手島さんのライブも。こちらはクラシック。僕も大好きなブラームスのヴィオラソナタが演目に入っています。楽しみ。

 

2011年7月31日日曜日

ブックワーム

7月も今日で終わり。東京メトロ千代田線で代々木公園へ。coruri/cafe 家で開催されたオープンマイクBOOKWORMに参加しました。前回の浜松はフィクショネスのワークショップと重なって行けなかったので、昨年9月の葉山以来10ヶ月ぶり。

当日エントリーで誰でも10分間、好きな言葉を参加者みんなに手渡すことができるフリースタイルの会。好きな小説やエッセイを読んだり、歌詞や自作の詩、テクストを持たずただしゃべるだけでもOKです。真夏だというのに上がりきらない気温のせいか、フジロックと重なったせいか、開催間隔が割合狭かったからか、いつもより参加者が若干少なめでしたが、逆にゆったりと贅沢な時間の流れに。

冒頭のコイワズライ(バンド名)の三宅さんの「どんどんよくなる法華の太鼓」、爆音エロぶるーず(ソロユニット名)の遠藤コージさんの「The Water is Wide」、さかいあおさんが紹介した津村記久子の『ミュージック・ブレス・ユー』、梨田真知子さんのフィッシュマンズのカバーとミドルテンポの自作曲という、前半のゆるやかな流れが特に心地よく感じられました。

僕は5月21日の朝日新聞夕刊に載っていた、詩人岸田衿子さん(4/7没)の追悼記事を紹介しました。「新聞もテレビもない、浅間山麓・六里ヶ原(群馬)での山小屋暮しが長かった。ある日、久しぶりに東京へ出ると、見慣れない文字が目に。『平成って何だろう』と思ったそうだ」。

ほかにも、菊地ひとみさんが朗読した幸田文のエッセイ、山崎円城さんの真木村の話、藤田文吾さんのちょっと笑える自作の短詩などが印象に残りました。カリフラワーの食感も楽しい冷やしベジタブルカレーもおいしかったです。

梨田真知子さんは現在22歳。終演後先に帰宅した本人不在の中、22歳当時の自分たちがどんなだったか、という話になりました。円城さんと遠藤さんは22歳のクリスマスイブをバーカウンターでおそろいのギブソンのフルアコを抱えてブルージィに酔いつぶれて過ごしたそう。僕は22歳の夏休みにこんな詩を書いていました。

2011年7月24日日曜日

来るべき世界

すこし湿度が上がりました。東京メトロを乗り継いで、外苑前のギャラリー neutron tokyo でグループ展『来るべき世界』を鑑賞しました。

関西を中心に活躍する27組の若手作家が3.11以降に制作した作品群。足田メロウ三尾あすか&三尾あづちの作品については以前このブログでも紹介しましたが、今回も素晴らしいものでした。

それ以外に、特に印象に残ったものをいくつか。

中比良真子overthere No.6
このグループ展のDMにもなった上の画像です。真っ白なバックにところどころ点在しているのは、ピクニックをする家族やカップル。それを俯瞰で描いています。それぞれのグループ間の距離が、あえて干渉し合わない現代を描写しているよう。ハガキやPC画面ではわかりませんが、実物は1メートルを超す大作です。

西川茂「oizumi」
細密画といってもいい具象的な風景画の中空部分に磁場の乱れのような抽象表現が重ねられ、空だけが歪んで見えます。控えめで調和の取れた色彩が一見画面に落ち着きを与えてシックといっても差し支えない程ですが、滲み出す狂気が鑑賞する者を不安にさせます。

大和由佳土地/嚥下
今回の展示の中では震災の直接的な影響を最も感じました。瓦礫の破片が銀のスプーンとともに、水や牛乳の満たされたグラスの中を占めています。4点のオブジェを撮影した写真作品。最後のひとつは、瓦礫に付着した赤い染料が水に溶け出しています。

強大な自然災害とそれがもたらした人災。これらに対してアートが持つ直接的・具体的・短期的効用は、ほとんど無いと僕は思います。災害時でなくても、特に役立つものではないので、ことさら騒ぎ立てる必要もないのですが。

それでも作家は制作し、表現し続ける。インプットし、アウトプットする。そういう基本的な動作/行為を自覚し、体現している作家たちの作品の強さ・美しさは、必ず鑑賞する僕たちに伝わってきます。 それを受け取ることがアート鑑賞の楽しさなんだな、と再認識しました。 会期は8月14日(日)までです。

 

2011年7月23日土曜日

コクリコ坂から

台風のあとの過ごしやすい数日も今日まででしょうか。ちょっとした勘違いで思わぬ時間ができたので、ユナイテッドシネマ豊洲にて、スタジオジブリ作品『コクリコ坂から』のレイトショーを観ました。

昭和30年代の港町にある共学高校を舞台にした青春ドラマ。ジブリ映画はいつも街並み、建築物、遠景が魅力的です。この作品でも、おさげ髪の主人公メル(本名松崎海、声:長澤まさみ)が祖母や妹弟たちと暮す海岸線ぎりぎりまで迫った丘の上の女子寮、祖母の部屋から臨む海の眺め、思い切り昭和な地元商店街、坂道と港町、新橋の繁華街、など素敵な背景がたくさん。

特に、高校の部室棟「カルチェラタン」明治建築の吹き抜けの木造洋館は、この映画の主役と言っていいほどの存在感です。僕が大学時代のほとんどを過ごしたと言っても過言ではない部室棟は、やはり学生の自主管理に任され、黎明会館という詩的な命名に反して、それはそれは汚なかったですが、居心地の良い場所でした。

説明的な要素を最小限にした脚本は大人向けで、小さな台詞を聞き逃すと設定がわかならなくなってしまうかもしれません。親切過ぎず、僕には好ましく思えました。

ヒロインの表情が固いなあ、と最初思いましたが、キャラクター設定なんですね。時代は無愛想女子か。

ジブリ映画のサウンドトラックといえば久石譲ですが、この映画の音楽は武部聡志。時計の音にテンポをとったジャジーなオープニング曲。ピアノの単音で主人公の心の揺れを表現し、そのまま分散和音に流れていくところ。劇中のふたつの合唱曲。など、よかったです。

カルチェラタンの中でも特に汚い現代詩研究会で、学生が朗読する宮澤賢治の「生徒諸君に寄せる」。

  新しい時代のコペルニクスよ
  余りに重苦しい重力の法則から
  この銀河系統を解き放て

黄色い表紙の『チボー家の人々』を愛読書にする主人公メルが毎朝掲揚する信号旗。旗を揚げるという行為は、控えめでありながらひとつの強いメッセージで、しかもロマンチックだなあ、と思いました。

 

2011年7月9日土曜日

奇跡

東京が梅雨明けした明るい土曜日の朝、ユナイテッドシネマ豊洲で。是枝裕和監督の映画『奇跡』を観ました。

九州新幹線全線開通の日、一番電車が交叉する瞬間に奇跡が起こる。その瞬間を目撃するために、7人の小学生が旅をするロードムービー。

両親(オダギリジョー大塚寧々)の別居で、兄(まえだまえだの前田航基)は母と鹿児島に、弟(同じく前田旺志郎)は父と福岡に暮しています。火山灰の降りしきる封建的な空気の鹿児島に暮す屈託ありまくりの兄と、自由で開放的な感じの福岡で女子にちやほやされて暮す能天気な弟。同じ九州でも全然雰囲気違うんですね。小学生たちがやたらと走るところは共通していますが。

兄の「家族4人でまたいっしょに暮したい」という願いを、他の家族3人がたいして望んでいないという現実。

死んだ愛犬は蘇らず、図書の幸知先生(長澤まさみ)とも結婚できず、 彼らが願ったような奇跡は結局起こらない。でも、新幹線一番列車がすれ違う時と場所は、歴史上、地理上ひとつだけ。その場所に辿り着き、その瞬間に立ち会えたことが奇跡です。

その瞬間に爆発する5人の友だちの感情と、爆発させなかった兄弟の想い。かるかんの味がわかるようになり、家族より世界を選んだ兄。で、世界って何だ?

主題歌、挿入歌はもちろん、劇中のインストナンバーを含めて、くるりの音楽が、鉄道への愛に溢れていて、とてもよかったです。

 

2011年6月26日日曜日

SUPER8 スーパーエイト

お天気もいまいちで、遠出する気も起こらず、近所のシネコンで、『SUPER8 スーパーエイト』。J・J・エイブラムス監督の映画を初めて観ました。『スタートレック(2009年劇場版)』や『ミッション・インポッシブル3』を撮った人なんですね。さすがはスティーブン・スピルバーグ制作。料金分はきっちり楽しませてくれる内容だと思います。

全く事前情報を持たずにフラットな気持ちで観ました。8ミリ映画製作に夢中なローティーン男子5人組が主人公ということで、『スタンド・バイ・ミー』みたいな感じなのかな?⇒お、金髪の美少女ヒロイン登場、父親同士が不仲でボーイ・ミーツ・ガール?⇒列車大炎上のパニック映画?⇒超常現象が起きましたよ!⇒エイリアンものか! という息をもつかせぬ展開。ちょっと、いやだいぶ盛り過ぎです(笑)。

主人公ジョーとヒロインのアリスが出会ってから、お互いに好意を持ち、次第に心が通い始める映画前半は本当に魅力的。アリス役のエル・ファニング12歳の美しさと演技力が光ります。ショーン・ペン主演の大名作映画『アイ・アム・サム』(2001)のあの美少女子役ダコタ・ファニングの実妹ですから、間違いないです。

物語の舞台は1979年の合衆国オハイオ州。劇中流れる音楽も、シック「おしゃれフリーク」、ブロンディ「ハート・オブ・グラス」、ザ・ナック「マイ・シャローナ」、ザ・カーズ「バイ・バイ・ラブ」など、当時のB級ヒット曲満載で懐かしい。うちに帰って調べてみたら、J・J・エイブラムス監督は僕の1歳下でした。。

それからこの映画、エンドロールがすばらしくチャーミングです。ストーリーが終わったと思っても、あわてて席を立たないようにしましょうね!

 

2011年6月10日金曜日

TRANS FORMATION

梅雨の晴れ間、上弦の月が夕空に映える一昨日の水曜日。外苑前のギャラリーneutron tokyoへ。三尾あすか&三尾あづち 双子の姉妹展2011"TRANS FORMATION"のオープニング・パーティにおじゃましました。

昨年末neutron tokyoのグループ展に姉妹共作を出展していましたが、質・量ともにこれだけの作品をまとめて東京で観られるのは、おそらく今回がはじめて。

オープニング・パーティということで、3階建のギャラリーのソファのある2階、作家本人たちのいる3階にほとんどの来客が集中していましたが、そのために1階に展示されている大きくて迫力のある作品が、ゆっくり見られました。

アウトサイダー・アートとkawaii系のミッシング・リンク。透明度の高い画材が幾層ものレイヤーを構成して、複雑な奥行きを持ちながら、鮮やかな色彩によって、全体の印象はポップなもの。 時折書き込まれる文字が、レイヤーの合間から見え隠れしている。まるで感情の表出とその隠蔽が同時に行われているかのように。

そして圧倒的な情報量とスピード感。混沌と均整。

姉のあすかさんは右利き。星をモチーフにした抽象表現、光る糸を使った繊細な刺繍作品も美しく。妹のあづちさんは左利き。「でも学生の頃から、(利き手ではない)右手で描く線が好きになったんです」。それでいまは、主に右手でフォルムを描き、左手で色彩をつけているそう。へんてこキュートなクリーチャーたちはあづちさんが描いています。

ふたりはまだ25歳。neutron代表石橋圭吾氏によると「いまだ発展途上」ということですが、旬の作家だけが放つキラキラした輝きで会場が一杯です。会期は6月26日(日)まで。そのあと、名古屋、神戸と巡回します。コンテンポラリーの先にあるもの。その予兆を体感したい方は是非会場へ!

 

2011年6月4日土曜日

マイ・バック・ページ

よく晴れた6月らしくない土曜日の午後、ひさしぶりに映画館へ。ユナイテッドシネマ豊洲にて、『マイ・バック・ページ』を鑑賞しました。 川本三郎の自伝的小説を、山下敦弘監督が映画化したこの作品。妻夫木聡松山ケンイチのダブル主演という話題性もあって、単館ではなく、シネコンでも公開となった模様。

優柔不断な泣き虫を演じたら当代一の妻夫木聡がナイーブで感傷的な駆け出しジャーナリスト、いまやコミック原作映画には欠かせなくなった松山ケンイチが口ばかり達者で思想も行動力も無いなんちゃって革命家。そのふたりの友情と裏切りを、学生運動全盛期の1969~72年、東京を舞台に描いています。

同じ山下敦弘監督の最近作、『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』は、よくできた青春アイドル映画で、どちらも好きな作品です。前者だとペ・ドゥナ、後者では夏帆(左利き)。今回は忽那汐里の魅力を最大限に引き出していると思います。

妻夫木聡演じる雑誌記者沢田が、その雑誌の表紙モデル倉田眞子役の忽那汐里を誘って、ジャック・ニコルソンの『ファイブ・イージー・ピーセス』を観に行くシーン。前夜酒場で同僚と喧嘩して顔じゅう痣だらけの沢田は、先に席についた眞子との間をひとつ空けて座り、空席に鞄を置きます。その鞄をどかして、沢田の隣に席を詰める眞子。映画のあと喫茶店で言う「男の人の泣く姿が好き」という台詞。日曜日の無人のオフィスで再会したときの事件に対するコメント。いわゆる男子が思い描く理想の女子像とはちょっとずれているかもしれませんが、こういうことされたら、言われたら、ぐっときちゃうだろうな、と。

勤め人時代の妻夫木聡のネイビースーツ姿の居住い正しさ。フリーランスになってからのスイングトップとチノパン姿の貧相さ。この対象的な衣装も印象に残りました。

それから、ワンシーンだけ登場する東大全共闘議長唐谷義朗役長塚圭史の格好良さといったらないです。

それにしてもこの時代の男たちの、よく汗をかき、よく煙草を吸うこと。制汗デオドラントどころか冷房すらなかった時代の男だらけの真夏のオフィスはさぞかし汗臭かったことでしょう。そして、1970年に煙草を吸って彼らがつぶしていた手持ち無沙汰な時間を、2011年の僕たちは何に置き換えているのか。携帯電話かなあ。


 

2011年5月23日月曜日

13の水

午後の激しい雨も夕方には小降りになって、下北沢のleteさんへ。triola波多野敦子さんのソロアルバム『13の水』REMASTERED EDITION リリース記念ライブを鑑賞しました。

『13の水』に収録されている全曲の収録順演奏と並行して、CDジャケットを手がけた染色家の吉田容子さんが布のインスタレーションをライブ制作していくというライブ。CDではピアノやアコーディオンが演奏するパートもtriolaのヴァイオリンとヴィオラで再アレンジされています。

元々は2003年にCD-Rで制作された『13の水』は、いまのtriolaのダイナミズムとはすこし異なり、ビートレス中心でどちらかといえばアンビエント寄りの音楽です。8年の歳月を経て、とても丁寧に大事に演奏された9曲。静かなメロディと相まって、波多野さんのロマンチックな一面を垣間見た反面、どんなにゆっくりと静かな音楽にも、正確で強靭な内的ビートの痕跡とでもいうようなものをくっきりと浮かび上がらせるのが、波多野さんと現在のtriolaの個性なんだな、とあらためて気づかされました。

純白のワンピースで、会場をふわふわと飛び回る吉田容子さんは、さながら繊維の森の妖精といったところ。triolaのふたり、波多野さんと、手島絵里子さんが着ていたのも吉田さんが染めた、繊細で美しい衣装。夕陽のような、乾いた血のような橙色は、梨木果歩の小説『裏庭』の主人公テルミィがパラレルワールドの貸し衣装屋で選んだ、それ自体が傷であり、治癒でもあるような特別な服を思い起こさせるものでした。

ちょっとセンチメンタルないい気分で帰宅して、いろいろ検索していたらこんな動画が。楽しい!

 

2011年5月14日土曜日

メイル・オーダー

気持ちの良い五月晴れの午後、ゆりかもめに乗って東京ビッグサイトへ。第33回デザインフェスタに行ってきました。お目当てはA-26ブースのatelier Bacchusこと田代幸正さん。 20世紀の終わりに、American Book Jamというリトルプレスのパーティで出会った銅版画家です。

銅版の端切れを再利用したアクセサリを当時から制作していましたが、最近はむしろそちらが本業になっているみたい。おたがいの近況など、しばし作者ご本人と談笑。爬虫類や昆虫、化石などをモチーフにした繊細な作品群を白い壁面に並べたブースには、若い女の子たちがひっきりなしでした。

デザインフェスタは明日(5/15)まで開催中です。お出掛けの予定の方はA-26にお立ち寄りください!

そして、ご報告。4月11日のエントリーでご紹介した『続・同行二人』のライヴ盤が、僕の詩集3タイトルとあわせて、古書信天翁さんから通信販売でお求めいただけるようになりました。遠方の方も是非よろしくお願いします! 詳細はこちらから⇒http://booksalba.exblog.jp/15524289/

 

2011年4月22日金曜日

レクイエム

一昨日は、震災復興支援チャリティライブ re:generations(仮)@場 横寺inうす沢でした。お越しくださった皆様、この惑星のどこかで気にかけていてくれた皆様、ありがとうございました!

このような機会を提供していただいた帽子作家の原田紀さん、ギャラリーのオーナーご夫妻、共演者のtriola波多野敦子さん、手島絵里子さんにも深く感謝したいです。

会場の古い一軒家の造りがとてもかわいらしく、弦楽の響きも素敵でした。ドリンクとともにふるまわれた天然酵母パンもおいしく、終演後にお買い求めになるお客様も多数。

このお話を最初にtriolaの波多野さんに持ちかけたときに、震災で犠牲になった方たちへのレクイエムとして、ジョン・レノンの"Happy Xmas (War Is Over)"をまったく季節外れと知りながらリクエストしました。波多野さんの歌声が手島さんのヴィオラに乗ってきっと届いたはずです。

僕は当初はいつもどおりに、と思っていたのですが、存命の詩人では最も敬愛していた岸田衿子さんが4月7日に82歳で亡くなったことがあり、衿子さんの「忘れた秋Ⅳ」を急遽演目に加え、波多野さんに伴奏をつけてもらいました。

そんなふたつのレクイエムが響きましたが、けっして神妙な会ではなく、会場のお客様、みなさん笑顔で聴いてもらえたと思います。

今回の入場料7,000円、それに加えて、帰宅したら当日会場に来られなかった旧友から「feeとして」と1,000円が送られてきており、合わせて8,000円を、被災地で活動するNPO/NGOを支援しているThink The Earth基金に寄付。昨日口座に振り込んできました。

みなさんの想いが届きますように。一日も早い復興を願っています。


 

2011年4月11日月曜日

ライヴ・レコーディング

東京の桜はいまが満開。週末あたりから気温も上がり、ようやく春らしくなってきました。前回前々回のエントリーでも紹介した『続・同行二人』3月26日のライヴ録音をCD化し、当日の会場である古書信天翁さんに納品してきました。

当日都合がつかなくて、泣く泣く御来場を断念した皆様、ライヴも観たけれどもういちど聴きたいなっていう皆様、お茶の間でお楽しみいただけるようになりました。

ディスクには当日の演目20篇すべてが高音質ステレオ録音で収録されています。松浦年洋さんのキレのいいギター、中村"ルイーザ"真美さんのパーカッションの豊かな響きも堪能できます。もちろん村田活彦さんのピアニカとアルト笛も!

お値段は当日の入場料と同額の1000円(税込)、同じくそのうち半額をThink The Earth基金を通じて東日本大震災の被災地に寄付します。

6月末まで古書信天翁の店頭のみの限定販売です。どうぞお買い逃しなさいませんように!

 

2011年4月2日土曜日

re:generations(仮)@妄想中華雑貨店

エイプリル・フールも大過なくやりすごし、東京の桜はようやく一分咲きといったところです。 みなさんいかがお過ごしでしょう。僕は元気です。『続・同行二人』のライブ音源の編集もひと段落つきました。

ところで。次のライブのお知らせです。

二十歳のころからの友人で、帽子作家の原田紀(ハラダノリ)さんが、YASUMI-YA名義で半年毎に開催している『妄想中華雑貨店』。ノリ先生の作品が好きで、何度かおじゃましているのですが、今回2011春夏コレクションの展示会場で、チャリティライブのお声掛けをいただきました。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
震災復興支援チャリティライブ
re:generations(仮)

2011年4月20日(水)19:00開演
音楽 triola(波多野敦子vn、手島絵里子va)
朗読 カワグチタケシ
料金:1000円(1ドリンク付)
会場:うす沢「場 横寺」東京都新宿区横寺町47
   03-5228-6758 http://usuzawa.com/
   都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅A2出口徒歩3分

会場の地図はこちら↓
http://usuzawa.com/outline.html ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

原田紀さん(YASUMI-YA)は、このブログでも何度か紹介していますが、自然素材を使用したチャーミングで実用的な帽子と鞄、服飾雑貨を制作販売しています。お洒落女子必見!

triolaさんとは昨年夏以来の共演です。ヴァイオリンとヴィオラのデュオで、他に類のないグルーヴィかつ繊細で美しいアンサンブルを奏でます。作曲、ヴァイオリン、ヴォーカルの波多野敦子さんは先月ソロアルバム『13の水』をリリースし、各方面で高い評価を得ています。僕自身triolaの音楽が大好きなので、この共演が本当に楽しみです。今回は節電のため、完全アンプラグド。レアなアレンジが聴けるかもしれません。

会場のうす沢さんは陶器のギャラリーです。神楽坂の奥座敷的なロケーションになりますので、是非ウェブサイトの地図をご参照のうえ、迷子にならないようにいらしてください。

なお、今回のライブチャージは東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付します。どうぞよろしくお願いします!

 

2011年3月27日日曜日

御来場御礼

昨日は、日暮里古書信天翁の『続・同行二人』に御来場いただきありがとうございました。それぞれ普段通りの生活ができず大変なときに、たくさんのお客様に集まっていただきました。

夕暮れから夜へ。会場をご提供いただいた信天翁さんの大きな窓から見える西空の色彩の移り変わりを感じながら、楽しく朗読することができました。あたたかく拍手で迎えてくださったお客様、古書信天翁のおふたり、共演した村田活彦さん、ギターの松浦年洋さん、パーカッションの中村"ルイーザ"真美さん、ありがとうございました。

今年の1~2月に書いた言葉も、何年も前に書いた言葉も、なぜか現在の困難や不安に接続して自己の内部に反響し、それが客席に伝わっていくような、いままでにない経験をしました。こういう特別なときに、舞台に立って言葉を手渡すことができるという幸運に感謝したいです。

詩集も多くの方に手にとっていただき、入場料収入と合わせて、震災被災地への義援金も思った以上にあつまりました。ご協力ありがとうございます!

また、いろいろな事情で来たくても来られなかった方のために、昨日のライブ録音をCD化し、古書信天翁さんで販売します。たぶん来週か再来週には。できあがりましたら、こちらで告知させていただきます。

僕のセットリストは下記の通りです。

・チョコレートにとって基本的なこと
・無重力ラボラトリー
・星月夜
・ボイジャー計画
・バースデーソング
(以上新作)
・予言(ジュール・シュペルヴィエル作、安藤元雄訳)
ANOTHER GREEN WORLD
都市計画/楽園
水の上の透明な駅
・ミルク創世記(村田活彦作)

これ以外に、村田さんが僕の「Planetica(惑星儀)」をアルト笛の演奏付きで読んでくださいました。ありがとうございます。

次のライブは、4月20日(水)に、神楽坂のギャラリーうす沢「場 横寺」で、triolaと半年振りの共演です。詳細はまたあらためてお知らせします!

 

2011年3月21日月曜日

そして ここまで 来てみると

細かな雨の降る春分の日、京浜東北線で北浦和まで。フリースクール彩星学舎の演劇公演第15番「そして ここまで 来てみると」を鑑賞しました。 卒業式も兼ねたこの公演にお邪魔するのは、昨年に続いて二回目です。

震災後の公演でしたが、開演前の案内がとても行き届いていました。例えば、通常時は「携帯電話の電源をお切りください」ってとこが「緊急地震速報の可能性があるのでマナーモードでお願いします」というように。

昨年は歌あり、ダンスありだった演目は、そんな影響もあってか、朗読に焦点を絞ったミニマリズム。それが逆に、このカンパニー(?)のパフォーマンスの特異性を際立たせていたように思います。

群読というのは、個々の出演者の内面表現を一旦排除したところから出発します。特に彩星学舎の場合はリフレイン多用且つ徹底したタテノリなので、より一層。しかしながら、どうしてもはみ出てしまうパフォーマーの内面は、過剰な抑揚よりもずっと雄弁にその人となりを客席に伝えます。

開演前の舞台で、椅子に座って、客席と対峙する出演者(≒生徒)たちの不安げな表情が、第一声とともに責任感を帯びて、引き締まり、輝く。その瞬間だけでも、大人の鑑賞に値する見事なエンターテインメントといって差し支えないでしょう。

ゲストでは、ジャズサックス奏者のMiwakoさんの演奏がよかったです。「見上げてごらん夜の星を」「虹の彼方に」「スマイル」という、どれも好きな音楽でした。美しく感傷的なサックスの音色とハードコアパンクな群読のコントラストにハートを射抜かれました!

というわけで、僕も負けずに。震災の影響でライブが次々に中止や延期になるなか、3月26日(土)の『続・同行二人』は予定通り開催します。先日のエントリーで、僕の詩集の売上を全額被災地に寄付するお知らせをしましたが、会場の古書信天翁さんのご好意により、入場料収入の半額も募金することに決定しました。

こんなときだからこそ、みんなで集まって小さな声に耳を澄ますことが必要なのではないでしょうか。それに、なによりも僕が、みなさんの元気な顔を見たいから。昨日、下北沢SEED SHIPで開催されたライブ"Lights of Hope"に参加して、その想いを更に強くしました。

交通事情等、困難な要素もあるかとは思いますが、幸運にも開演時間が早めに設定してあります。可能な方は是非いらしてください。たとえお客様がひとりでも、現在僕たちに可能な、最上のエンターテインメントを提供します。
 
 

2011年3月19日土曜日

サラエボ, 希望の街角

震災後初のブログ更新です。大変な思いをしている方はたくさんいると思いますが、僕は元気です。一昨日、昨日とは打って変わって、東京はあたたかい土曜日になりました。

神保町の岩波ホールで、ボスニア・ヘルツェゴビナのヤスミラ・ジュバニッチ監督、ズリンカ・ツヴィテシッチ主演の映画『サラエボ, 希望の街角』を観ました。

サラエボといえば、世界史の教科書では、第一次世界大戦の開戦契機となったオーストリア皇太子暗殺、所謂「サラエボ事件」の起きたところ。また、1994年に出版された『サラエボ旅行案内―史上初の戦場都市ガイド』は折に触れページを開く愛読書です。

ボスニア紛争から15年経って、いまのサラエボはどれだけ復興したのだろう。新聞の片隅に載ったこの映画の広告を見て興味を抱き、震災の影響で予定がひとつキャンセルになったことも重なって、観に行ったわけですが。

街が主役の映画という期待に反して、内戦で心的外傷を負ったイスラム教徒のカップルが、信仰観の相違ですれ違う、というヒューマンドラマでした。主役のズリンカ・ツヴィテシッチはとても魅力的だし、脚本も演出も丁寧に練られたいい映画だと思います。ただ、僕の期待の方向が間違っていたというだけで。

ところどころ映るサラエボの旧市街は、とても美しく復興していました。

 

2011年3月6日日曜日

三尾あづち 個展 “Spring has come with Rabbits ??”

ぽかぽか陽気の日曜日。地に足の着かない感じも春らしく。渋谷西武B館で開催中の西武渋谷店&neutron presents 三尾あづち 個展 “Spring has come with Rabbits ??”。週末は公開制作というDMに誘われ、雑踏を分けて覘きに行ってきました。

岐阜県出身の25歳、主に関西で活躍する三尾あづちさん(左利き)の作品は、昨年末neutron tokyoのグループ展で拝見していました。今回の展示も、スカルやゴーストのようなヘンテコでキュートな立体作品と、対照的に実は正確な技巧に裏打ちされた平面作品。どちらも彼女のスタイルで貫かれて、ポップでやわらかく楽しい世界を構成しています。

百貨店の婦人服フロア、上りエスカレーターのすぐ前の人通りの多いエリアにブースを構え、ときどきお客さんと談笑しながら、楽しげに制作する姿が印象的でした。

会場にいらしたニュートロン代表の石橋圭吾さんと短い時間ですが話しました。京都と東京とアジアのアートシーンのこと、ニュートロンの今後の展開のこと。石橋さんのお話をうかがうといつも、夢を現実にする力を感じます。楽しみがまたひとつ増えました。ありがとうございます!

 

2011年3月2日水曜日

続・同行二人 A POETRY READING SHOWCASE Ⅱ

今夜は冷えますね。三寒四温。詩の朗読会のお知らせです。

昨年春、清澄白河そら庵さんで開催してご好評をいただいた、村田活彦さんとの朗読二人会『同行二人』の続編を開催します。

畏れ多くも、芭蕉と曾良にみずからをなぞらえた、男ふたり旅。大川端は深川芭蕉庵から西に向って出発し、一年かかってようやく日暮里まで辿り着きました。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

続・同行二人 Zoku Dogyo-Ninin A POETRY READING SHOWCASE Ⅱ
2011年3月26日(土)17:00開演
出演:カワグチタケシ、村田活彦、松浦年洋(g)、中村“ルイーザ”真美(per)
料金:1000円
会場:古書信天翁 〒116-0013 東京都荒川区西日暮里3−14−13-202 
    03-6479-6479 http://www.books-albatross.org/

JR・京成日暮里駅西口出て道なり徒歩5分夕やけだんだん手前左側二階

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

会場の古書信天翁(あほうどり)さんは、元古書ほうろうのスタッフが昨年初夏にオープンした素敵なお店。書棚を見ればきっとみんな、好きになっちゃうと思います。谷中銀座商店街の入口のちょっと手前。にぎやかで楽しい一角です。

村田活彦さんは前回に引き続きギター(イケメン)とパーカッション(美女)をバックに、グルーヴ全開で。僕は今年に入って書いた新作中心のラインナップになる予定です。

谷中は桜の名所。本日(3/2)現在の東京の桜開花予想は奇しくも3月26日。当日は早めの開演時間にしていますので、お天気がよければ、終演後にみんなでお花見しましょう。

二年目も早春の午後に。ご家族連れもおひとりさまも、春の下町散歩のついでに、ふらりとご来場ください!

◇村田活彦(ムラタカツヒコ)
出版社の宣伝営業マン、たまにポエム詠み。平均寿命も折り返し地点。
隅田川は永代橋のほとりに住んでます。『月刊ポエム係長』創刊。
http://blog.goo.ne.jp/inthenameofmyself
http://twitter.com/katsuhikomurata

◇カワグチタケシ(カワグチタケシ)
つぶあん派。というよりも、つぶあん原理主義者。
詩集が大好き。豊洲運河と東雲運河の交差するあたりに住んでいます。
http://kawaguchitakeshi.blogspot.com/
http://twitter.com/rxf13553

※3月13日13:11追記
当日会場で販売するカワグチタケシ詩集の売上を全額、東北関東大震災の被災地に募金します。対象は「twenty-two sonnets and some prose(s)」「都市計画/楽園」「ユニバーサル・ボードウォーク」の3タイトル。すこしでも困っている人たちの役に立てるように。こちらもよろしくお願いします!

 

2011年2月27日日曜日

ふたつの声

初夏のような金曜日から、すこしだけ冬に戻った土曜日。マイクスタンドを担いで、山手線で日暮里まで。古書信天翁で開催された『信天翁倶楽部詩人の部Vol.0 ふたりの朗読会』を鑑賞しました。

3KからTKレビューと、10年来いっしょに朗読イベントを開催してきた小森岳史プロデュースのこの会には、これまた10年来のファンである飯田有子さんプリシラ・レーベルの盟友佐藤わこが出演。会場の信天翁さんは、谷中銀座商店街の入口、夕やけだんだんのすぐ上のビルの2階にある、夕陽のきれいな古書店です。

小森さんの紹介で、まず登場したのが佐藤わこさん。ゆったりとした、でも時々エッジの効いたMCをはさんで自作の詩を数篇朗読。1997年5月に江東区文化センターではじめて彼女の声を聞いたときの衝撃を、いまでもはっきりと思い出せます。小さな金属片がぶつかりあうときにたてるような美しい声の響き。そして正確な呼吸に裏打ちされた圧倒的な描写力。14年前と変わったところ、変わらないところ。当時横組みだった朗読テキストは、今回は縦組みになり、それが発声により安定感を与えていたように思います。

わこさんの詩には、食べものや食事のシーンがよく出てきます。それが、ディスコミュニケーションや戦争や殺戮を主題にした詩作品にも、光とあたたかみを与えています。

飯田有子さんは歌人です。短歌という定形のなかをこれだけ自由に行き来する人を他に知りません。容姿の美しさ、殊に口紅をつけていてもいなくても真っ赤な口唇は、腕利きの職人が細工したお菓子にも似て、内側から光を放っているよう。その口唇から発せられる声は、わこさんとは対照的に不規則に揺れ、その揺らぎが心地よく会場の空気を満たしていきます。

書店の本棚の背表紙に印刷されたタイトルが、隣の本と全く関連なく、しかも等価に並んでいる状態が好きだというアリコさんの羅列フェティシズム全開の演目。自作の短歌も、多和田葉子の短編小説も、ツイッターのTLも、徒然草も、アリコさんの内側では同階層にクラシファイされているのでしょう。

ひとつの事象を複数の視点から切り取ることで詩的現実を立ち上げようとするわこさん、多様な事象を事象のまま並列することを勇気を持ってやりきろうとするアリコさん。対照的なコンセプトとパフォーマンスが響き合い、冬から春に移ろう季節にぴったりな、美しい朗読会でした。

同じ古書信天翁さんで、ちょうど一ヵ月後の3月26日(土)に、村田活彦さんとカワグチタケシの朗読二人会『続・同行二人』を開催します。会場のすぐそばに、大きな染井吉野の古木があります。老朽化のため今年を最後に伐られてしまうこの桜が、来月の朗読会当日に咲いているといいな、と思っています!


 

2011年2月12日土曜日

猫の駅

積雪の予報が外れた三連休。銀座7丁目のギャラリーボザール・ミューで開催中のイラストレーター佐久間真人さんの個展『猫の駅』を鑑賞。

愛知在住の佐久間さんは、毎年この時期に東京で個展を開きます。去年うかがったときも雨が降っていました。

佐久間さんが描く猫の足跡のついた雪の風景が好きなので、ちょうど会場にいらしていたご本人に「雪が積もったら、絵によく合って素敵だったんですけどねー」と言ったら、「それだとお客様が来てくれませんからねえ」と笑っていました。

集英社の『青春と読書』の表紙が気に入って 一昨年、原画を購入して自宅の壁にかけています。佐久間さんは、毎回作品のスタイルが大きく変わるタイプの作家ではありませんが、作品自体の持つノスタルジックなトーンと相まって、その変わらなさも魅力のひとつになっていると思います。

この投稿の添付画像の個展のDMですが、たくさんの猫たちのなかに一匹だけネズミがいます。「カメラ目線のネズミを初めて描きました」と笑う佐久間さん。変わらなさのなかにも微小な変化を置いて、それが何年か後にはまったく違う作品群になっていくのかと、観ている僕もゆっくり時間をかけて楽しんでいきたいな、と思いました。

 

2011年2月6日日曜日

呼吸

立春を過ぎて、寒さがだいぶやわらぎました。二月最初の土曜の夜、下北沢のleteさんへ。triola弦楽コンサート"Resonant #3"を鑑賞しました。

昨年夏、ニュートロン東京で共演して以来、10月12月、今回と2ヶ月毎にtriolaを聴いていますが、毎回微妙に異なる表情を見せて楽しませてくれます。

昨年末の関西東海ツアーは連日連夜のハードな日程でした。また都内でも数々のステージをこなしていますが、それらを経て、アンサンブルが以前より更に強固なものになってきたように感じます。ブレークのタイミングひとつとってみても明らかに。たとえていうならば「対話」から「呼吸」へと。

以前のライブでは、波多野敦子さん(AB型)のヴァイオリンがとにかくタテノリで、手島絵里子さん(A型)のヴィオラが均した土台にガツガツとツルハシを打ち込んでいるような印象でしたが、今回の何曲かで波多野さんは、意識してか、無意識か、ところどころタメの効いたリズムも使いながら、より大きなグルーヴをつかもうと模索しているかのよう。

今回は歌ものも2曲。自作のワルツとバート・バカラックの"(They long to be) Close to you"。カーペンターズのヒット曲のカバーです。雨の日に外で遊べなくてすねている子どもみたいなヴァイオリンの音色とは打って変わって、波多野さんの歌声には不思議な包容力があります。息の多いウィスパーヴォイスでありながらソウルフル。そして、暖炉に当たりながら静かに本を読んでいるような、安定感のある手島さんのオブリガート。

波多野さんのバリシルクのサテンのカーゴ・スカートのマリンブルーと、手島さんの真赤なカットソーの色彩の対比の鮮やかさそのままに、肖像音楽をはさんで12曲が演奏されました。

次回leteのライブは3月19日(土)。波多野さんのソロアルバムのリリースパーティということで、ジャケットを手がけた染色作家吉田容子さんも加わって、いつものtriolaとは違うパフォーマンスが見られそう。楽しみです!

 

2011年1月30日日曜日

あどけない話

気づけば1月もそろそろ終わり。東京は乾燥した日々が続いています。京浜東北線で日暮里まで。昨年オープンした古書信天翁さんで初めての詩のイベント『Pippoのポエトリーアワー 平田俊子×Pippo ~詩のトークと朗読の夕べ』におじゃましました。

第一部は「高村光太郎とあそぼう」と題して、Pippoさん平田俊子さんが『智恵子抄』から好きな詩をそれぞれ3篇ずつ朗読し、それにまつわるトークをするという趣向。 高村光太郎に対するPippoさんの直球の愛情、平田俊子さんのアンビバレンツがまぶしく対照的で、客席も交えてなかなかの盛り上がり。

平田さんの「レモン哀歌」評。「トパアズいろの香気の向うに嘘の匂いを嗅ぐ」。「人に」には、「そんなこと作品にしないで本人に言えばいいじゃないか」。切れ味鋭く、かつユーモアも交えてばっさりと、爽快でした。才気溢れる方です。

生前、高村光太郎は、千駄木界隈にアトリエを構えていたそうです。古書ほうろうさんの裏の坂を上がったあたりだとか。3K6の開演前に、Qさんと小森さんとギターの練習をした公園のへんかな。

第二部は、平田さんとPippoさんがそれぞれ自作の詩を朗読。ここでもふたりのコントラストが鮮やかでした。ストレートな言葉をシンプルに発声するPippoさん、客席へ語りかけているのに、いつのまにか詩が立ち上がっていく平田さん。ゴッホの「アルルの寝室」に描かれた家具を家族に見立てた平田さんの「私見、ゴッホの「寝室」」 が特に印象に残りました。

打ち上げのお料理は階下の中華料理店深圳さんからのケータリング。たいへんおいしくいただきました!

今日の会場古書信天翁さんで、3月26日に村田活彦さんと僕とで『続・同行二人』を開催します。こちらの詳細はまたあらためて。

 

2011年1月4日火曜日

海炭市叙景

2011年最初に劇場で観た映画は、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、渋谷ユーロスペースにて。年のはじめに良い映画を観ました。

1990年に41歳で自殺した作家、佐藤泰志の遺作となった『海炭市叙景』は、作家の故郷函館をモデルにした海炭市という架空の町を舞台とする18編の連作短編小説集。そのうちの5編「まだ若い廃墟」「ネコを抱いた婆さん」「黒い森」「裂けた爪」「裸足」を中心に物語を再構成して152分の映画にしています。

閉鎖される造船所の作業員、再開発のため立ち退きを迫られる老女、妻の不貞に苦悶するプラネタリム職員、家庭崩壊しているガス屋の若社長、売れない浄水器のセールスマン。登場人物のいずれも、小さな街のなかで、孤独で、失敗を繰り返し、前途が見えず、それでも生き続けるしかない。救いのない暗い話ですが、鑑賞後には不思議と豊かでさっぱりした感触が残ります。

おそらくそれは、ロケ地函館の、フィルム撮影され、すこしざらついた美しい風景と、だめな登場人物たちを「いいんだよ。大丈夫だよ」と見守るようにやわらかく包み込むジム・オルークの音楽の力が大きいのでは。 ラストシーンの路面電車を中心にかすかに交錯する登場人物たちの人生、そして老猫グレコの背を撫でる老女の皺々の手のアップに、エレピ、アコギ、ビブラフォンが重なって、登場人物たちも、観ている僕も、大きな赦しを得たような感じがしました。残念ながらサウンドトラック盤は出ていないようですが、音楽の断片が聴ける予告編はこちら

役者では、失業した造船所員の妹役を谷村美月が好演。若い女優さんですが、すくない台詞とわずかな表情の変化で多くを伝える力を持っていると思います。 それと、加瀬亮は作業服姿がものすごく似合う。「ありふれた奇跡」といい、「おとうと」といい。

僕が佐藤泰志の存在を認識したのは二年前。福間健二が1990年(佐藤泰志の没年)に出した詩集『地上のぬくもり』を読んで。『海炭市叙景』の18の章題は、親友であった福間健二の詩のタイトルから採られていると小学館文庫の解説で福間さん本人が書かれていました。僕の持っている三冊の詩集には収録されていませんでしたが、「まだ若い廃墟」という素晴らしいタイトルの詩を是非読んでみたいものです。

そんなこんなで、2011年。どうぞよろしくお願いします!