2018年4月30日月曜日

俊読2018

夏日。原宿クロコダイルで開催された桑原滝弥さんが主催する谷川俊太郎トリビュートライブ『俊読2018』に行きました。昨年は出演者として関わったこのショーをひとりの観客として堪能しました。

日本戦後詩のラスト・サヴァイヴァー谷川俊太郎氏は現在86歳。3000篇以上の詩作品を発表し、今尚枯れることなく旺盛な創作をし、複数の詩人賞を受賞している。

連帯を呼びかけたり集団に語りかけることを嫌い、あくまでも「個」と対峙し、また自身もどこまでも「個」であろうとするクールな存在感は十代で詩壇に颯爽と登場したときと変わらずにいて、このご時世においては天邪鬼ともいえますが、徹底したその姿勢は感動的でもあります。

僕が十代で彼の作品に触れた当時はそこまで孤高の存在ではなかった。田村隆一吉岡実もいたし、堀口大學でさえ存命だった。

桑原滝弥鈴木陽一レモンジョーダン・スミスAnti-Trench大島健夫森下くるみ馬野ミキ小林大吾暁方ミセイ、ジュテーム北村。20代から60代まで、性別も国籍もバックグラウンドもさまざまな10組の出演者がカバーする。作品のセレクションやアレンジの仕方もさることながら、ステージに上がり、マイクに向かい、声を発し、ステージを降りる、その振る舞いのすべてに、谷川俊太郎という名の「ポエジーのメートル原器」とでもいうべきものが当てられているように見えます。

小林大吾さんの明晰さ、暁方ミセイさんのテキストの正確さ、強さとチャーミングな表情のギャップ、ジュテーム北村氏の企まざる批評性、等々。どのアクトも見ごたえ、聴きごたえがありました。

それぞれがそれぞれの厚かましさ(誉めてます)をもって持ち時間を構成してくるなかで、完全に素の声と佇まいを置いた森下くるみさんに僕は一番好感を持ち、また感銘を受けました。100人以上の視線に至近距離で晒されながらなかなかできることではないし、一方で演劇や音楽など他の舞台芸術のプロトコルにおいては成立しづらい、朗読ならではの表現だと思います。

俊読2019は札幌で開催、出演者のオーディションライブも事前に開かれるとのこと。そして谷川俊太郎氏は今秋開催されるウエノ・ポエトリカン・ジャム6のヘッドライナーに決定。まさにリヴィング・レジェンド・オブ・ポエトリーと言えましょう。

 

2018年4月28日土曜日

同行二人#台東区寿二丁目 A POETRY READING SHOWCASE Ⅷ

4月最後の快晴の土曜日、田原町 Readin' Writin' BOOKSTOREにて『同行二人#台東区寿二丁目 A POETRY READING SHOWCASE Ⅷ』が開催されました。ご来場のお客様、Readin' Writin' 店主落合博さん、皆様ありがとうございました。

店主が吟味した本に囲まれ、マイクを通さない生声で、ひとりひとりの顔の見える空間へ言葉を放つ。それが僕にとってのポエトリー・リーディングの原点です。表参道PLAYBILL、赤坂Huckleberry Finn、西荻窪Heartland、渋谷Progetto、etc.. 1997年に初めてステージに立った頃に朗読をさせてもらった今となっては伝説的な書店とそこに集った人たちの記憶が蘇りました。

材木倉庫をリノベーションしたReadin' Writin' さんは、かつて朗読したそれらの店よりも広く天井も高いのですが、とても自然で柔らかく声が響く素敵な空間でした。

1. ANOTHER GREEN WORLD
2. スターズ&ストライプス
3. 名前
4. ケース/ミックスベリー
5. 永遠の翌日
6. Here's Where The Story Ends / The Sundays
**
7. 無題(薄くれない色の闇のなか~)
8. だから泣くなと言ったのに村田活彦
9. International Klein Blue
10. 新しい感情
11. Planetica(惑星儀)
12. We Could Send Letters / Aztec Camera

店名にちなんで、ザ・サンデーズの1stアルバム"Reading, Writing And Arithmetic" の2曲目"Here's Where The Story Ends" の歌詞を訳したのは、お店と店主に対するリスペクトを伝えたかったからです。

ラッパーFcrow氏、役者瀬戸口俊介氏、詩人道山れいん氏の演出で観客参加型のパフォーマンスを行った村田活彦さんの前半部分。複数者出演ライブの限られた時間枠でワークショップ要素を取り入れる難しさはありましたが、彼が毎回新機軸にチャレンジしてくれるおかげで、いつも通りにやっても僕のリーディングの前回や過去との違いが際立つ。そういう意味では悪くないコンビネーションなのかもしれません。

村田さんのアシスタント役も兼ねた道山れいん氏との二声朗読のグルーヴで僕の出番前の客席を温めてもらえたのも助かりました。夜中に水を撒く、オーイェー!

前回の清澄白河どうぶつしょうぎcafeいっぷくさんでふりだしに戻り、北北西に進んだ8回目の同行二人。来年は更に西に進むのか、それとも北へ? みなさんにとっても我々にとっても愉快な旅路でありますように!



2018年4月21日土曜日

ノラオンナ52ミーティング ~声とウクレレ~

夏日。レコードストアデイ。吉祥寺 STAR PINE'S CAFE で開催された『ノラオンナ52ミーティング ~声とウクレレ~』に行きました。ノラオンナさんが2004年に風待レコードからCDデビューした日、4月21日に毎年開催されるワンマンライブ。一昨年50歳になったのを機に会場がMANDA-LA2からSTAR PINE'S CAFEに移されました。

2016年の『詞集「君へ」 ~ノラオンナ50ミーティング~』、2017年『港ハイライト「抱かれたい女」リリースパーティ ”踊りませんか?”』は港ハイライトのメンバーにゲストミュージシャンを多数加えたフルバンド編成で魅惑のエンターテインメントを繰り広げましたが、今年は一転ひとりウクレレ弾き語りです。

というと原点回帰みたいなことになりますが、回帰どころか真の意味でクリエイティブかつ甘美なショータイム。魅了されました。

第一部は2014年のデビュー作『少しおとなになりなさい』全5曲と現時点の最新作である港ハイライト『抱かれたい女』から、歌詞の朗読とソプラノウクレレと歌。朗読によって浮彫りになる機微。この歌のこのフレーズは疑問形だったんだ! この連はここで句切れか! このシーンはこんなテンポ感なのか! という具合に何度も耳に馴染んだ曲が新しい意味合いで再生される。

二部は現在制作中の次回作『めばえ』全15曲をMCやインターバルを挟まず立て続けに惜しげもなく披露。テナーウクレレと歌声だけがそこで鳴っている。全編スキャットで構成されたアルバムタイトル曲「めばえ」が特に素晴らしかった。感傷的で神聖な響き。濃密な音空間。たったひとりで表現し続けること。音楽にうっとりしながらも、その覚悟に同じ舞台人として背筋が伸びる想いがします。

小西康陽さん。開場時は古い欧州映画のサウンドトラック、インターミッションにはオルタナティブなフレンチポップ、終演後は子供の合唱でThe Beach Boys "God Only Knows"。完璧な選曲とDJプレイでこのショーに美しい額縁を添えていました。
 

2018年4月14日土曜日

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男

雨の予感。COREDO室町2 TOHOシネマズ日本橋ジョー・ライト監督作品『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』を観ました。

ナチスドイツがヨーロッパを蹂躙し、ベルギーとオランダが陥落した。1940年5月9日、英国議会では戦時挙国一致内閣への協力条件として左派労働党がチェンバレン首相(ロナルド・ピックアップ)の退陣を要求、保守党がこれに応じる。保守党は外相ハリファックス子爵(スティーブン・ディレイン)を推したが、労働党が容認する次期首相は第一次世界大戦中オスマントルコとの戦いで失策したウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)しか選択肢がなかった。

翌5月10日、チャーチルはバッキンガム宮殿に召喚され英国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)から首相に任命される。それからナチスに包囲され孤立した30万人超の英仏陸軍兵をダンケルクから救出したダイナモ作戦までの約3週間を描く。映画の原題は "Darkest Hour"。

躁鬱質で切れやすく、英国人らしく捻じれたユーモアを持ちながら粗野。そんなチャーチル像をゲイリー・オールドマンが迫真の演技で魅せます。イギリスでは当時既に女性参政権が獲得されていましたが、国会議員は男性ばかり。国民の生死を左右する重要な意思決定がホモソーシャルな価値観のみに基づいてなされることに違和感を持つ一方、チャーチルの妻クレメンティン(クリスティン・スコット・トーマス)やタイピストのミス・レイトン(リリー・ジェームズ)は自立した大人の女性として魅力的に描かれています。

監督は『ハンナ』のジョー・ライト。『ハンナ』とは異なり派手なアクションシーンはありませんが、おっさんばっかりの地味な画面を飽きさせずに見せるテンポの良い編集はお見事です。ただ勇壮なオーケストレーションが全編に被さってくるのはちょっとうるさく感じました。


2018年4月13日金曜日

第二回花本武物産展

花冷えがすこしだけ戻ってきた金曜日の夜。中央線通勤快速で西荻窪へ。サブカル酒場SWAMPで開催中の『第二回花本武物産展』にお邪魔しました。

戦後詩の五大ヒロシ(関根弘吉野弘川崎洋岩田宏長田弘)と並び称される(?)2000年代トーキョーポエトリーシーンの四大タケシの一人にして吉祥寺ブックスルーエのカリスマ書店員花本武

鹿取洋子LP盤が大音量で流れる店内のそこかしこに置かれたノート、ファイルやスクラップブック。ほとんどすべてのメディアは紙。膨大な物量。

「花本武作品」「花本武のスクラップブック」「花本武の軌跡」「花本武コレクション」。そして一冊一冊の冊子にはタイトルが付与されている。これだけ自分の名を冠しているのにも関わらず、そこには自己愛も自己嫌悪も感じられない。そして何より感動するのは「作品をつくろう」という意思が綺麗に拭い去られているところだ。

「捨てない」をコンセプトにした、これは一種のアウトサイダーアートと言ってもいいのだと思う。一冊毎には明確なテーマ性があり、制作の過程が几帳面過ぎて、男子の性的妄想の入り込む隙間がない。そのことによって無粋なマッチョイズムからすり抜けて図らずも超ドライでスーパーフラットな視点を獲得しており、観る人みんなを笑顔にする。

そのなかで異彩を放っていたのが「空プロジェクト」というスナップ写真アルバム。映画『スモーク』に触発されて毎日同時刻に空をフィルム撮影した一冊からは、花本武の詩作品にも通じるセンチメンタリズムが滲み出しています。

小学一年生の夏休みの「えにっき」も素晴らしかったです。「きようはおとうさんととこやにいきました。そのあとせぶんいれぶんにいきました」。すべてのセンテンスが過去形で、その究極のシンプリシティに打たれました。



2018年4月11日水曜日

私の好きな。

風の強い水曜日。吉祥寺MANDA-LA2へ。mueさんのアニバーサリーワンマンライブ『私の好きな。』に行きました。毎年4月11日に同じ店で開催されるこのライブは今年が18回目とのこと。そのうち2013年以降、6回続けて来ています。

普段の弾き語りやデュオとは異なるフルバンド編成で年に一度のスペシャルなライブ。今年のメンバーは伊賀航さん(b)、タカスギケイさん(g)、muupyさん(per)とカルテット編成です。

二部構成の前半はジャズボサノバR&Bカバーから。「私の好きな。」というタイトル通り、本当に好きで歌いたい曲を選び、ギターを置いてハンドマイクスタイルで、オリジナル曲より高い跳躍を持つ旋律も伸びやかに澄んだ声でmueさんらしく歌う。

二部後半は高田渡カバー1曲以外はオリジナル曲で構成。最近1年で書いた曲と久しぶりに歌う初期作品中心のセットリストで、はじめて聴く楽曲も多く、楽しめました。ずっと前に書いたというめずらしくストレートなラブソングを歌う前にしきりに「恥ずかしい」と言っていて、ポップなシェルに収まっているから見えづらいだけで実は私小説的且つドキュメンタリー志向のソングライターなんだなあ、と思いました。

僕自身も恋愛をモチーフにした作品をほとんど書いていないのですが、それは恥ずかしいというよりも、自分の感情の動きを作品化することに興味がないからです。mueさんは逆の意味で誠実に自分と向き合って音楽を作ってきたのでしょう。でも歌にしてしまった時点でどんな実話もフィクショナルな性質を帯びるもの。恥ずかしがらずに歌いたい歌を歌ったらいいと思います。

去年一昨年の4.11ワンマンのぱーん! と開いた感じとは一味違って、My Favorite Thingsというテーマ性とドラムセットが入らない編成からか、プライベートな感触の残るライブでした。過去の自分もいて、迷っている自分もいて、いまは自身を見つめる時期。それをしっかり表現した結果、カラフルなアウトプットになったのもmueさんの誠実さのなせる術。心洗われるライブでした。