2013年6月30日日曜日

華麗なるギャツビー

6月最後の日曜日。ユナイテッドシネマ豊洲で、バズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演映画『華麗なるギャツビー』を観賞しました。このフランシス・スコット・フィッツジェラルド原作のアメリカの国民的恋愛小説は、1974年にもフランシス・フォード・コッポラ脚本、ロバート・レッドフォード主演で映画化されており、大学生のときにシネスイッチ銀座のリバイバル上映を観ました。デートなのに立ち見でまいった思い出があります。

ギャツビー(ディカプリオ)の隣人ニック・キャラウェイ(トビー・マグワイア)が話者なのですが、5年前に自分を裏切り他の男と結婚した恋人デイジーを一途に追い求めるギャツビーとは対照的に、誰とでも一定の距離を置き、その距離感ゆえにいつも周囲の人々に悩みを打ち明けられ、巻き込まれそうになってしまう。終始困った表情です(笑)。

大学生の僕はギャツビーよりもニックに強いシンパシーを感じていました。これはいまも基本的には変わりませんが、ギャツビーの想いやデイジーの気持ちの揺れを理解できるぐらいには大人になりました。

アルコール依存症で入院しているニックが、大恐慌後から1922年の夏を回想し、セラピーとして書き留めているという体裁をとっていますが、これは原作にはない設定。物語の枠組みとしては悪くないと思います。視覚的には、目まぐるしいカット割りとの相乗効果で、ゴージャスなハリボテ感がありますが(あ、2Dで観ました)、この時代のきらびやかさの裏の薄っぺらい悲しみを表現しているんじゃないでしょうか。

コミカルなシーンもいくつかあって、ギャツビーがニックの家でデイジーに再会するときにわざわざ大雨の中からずぶ濡れで登場するところ、ふたりの逢瀬に気遣ったニックが自分ちの庭先でレインコート姿でこれまたずぶ濡れになるところ、いい加減家に戻ったニックにはアウトオブサイトで見つめ合い囁き合うふたりに気づかれようとキッチンシンクにボウルやフライ返しをガチャガチャぶつけるところなんかは館内大爆笑でした。実はこのシーン、原作に忠実です。

デイジー役は、カズオイシグロの『わたしを離さないで』のキャリー・マリガン。前作のミア・ファローのようなエキセントリシティはありませんが、とにかくかわいいです。僕がほくろ美人に弱いってことを差し引いても。愛らしくて、可憐で、エレガント。正直ミア・ファローのときは、そこまで入れ込む女か? と思っていましたが、このデイジーなら納得(笑)。miu miuPRADAのドレスが素晴らしく似合っています。このイギリス人女優を鑑賞するためだけでも映画館に行く価値があります。

ラストシーンのすこし前、マンハッタンに舞い降りる雪片たちがタイプライターのアルファベットに変る映像も美しかった。

あと、音楽はどうなんでしょう。JAY-Zビヨンセの旦那ね)がんばってたし(Q-TIPも1曲参加)、階下のダンスフロアの重低音が図書室に響くところとかリアルでしたが、普通にビッグバンド・ジャズでよかったんじゃないかなあ、と思いました。


2013年6月23日日曜日

銀座のノラの物語

たった三度しか訪れたことのないお店でも、終わるときはさびしい気持ちになります。1年半のあいだ、毎週ここで奏でられた音楽が積み重なっているからでしょうか。そのあいだずっと、台風の日も、大雪の日も、この場所で、特別な夜を待つお客様とミュージシャンを迎えてきたノラオンナさんにしてみたら、尚更だと思います。

出演のお話を戴いたのちにそのことが決まりましたが、プログラム構成やプロモーション手法に影響はありませんでした。直接的には。前回2/24の銀ノラと演目が重ならないこと。ブッキングライブイベントではあまり取り上げない1篇10~20分の長い作品を朗読すること。などを決めて。

1.
2. 雨期と雨のある記憶
3.
4. 四通の手紙
5. 世界の渚
6.
7. 星月夜
8. バースデー・ソング
9. 都市計画/楽園
10. Melody Fair(訳詞)

地下二階。拍手もためらわれるような静寂の空間で、一音一音を丁寧にお客様に手渡すことができたように思います。30年間酷使に耐えたAIWAのカセットテープレコーダーがついに壊れて、最後に流したビージーズが感度の悪いAMラジオみたいにとぎれとぎれになってしまったのも、地下室っぽかった。

そんな偶然が重なって、終わってみれば、この「銀座のノラの物語」という特別な会のしめくくりにはうってつけな夜になりました。終演後にみんなで笑ったふなっしーの話も全部、きっといつまでも忘れないことでしょう。ノラさん、お疲れ様でした。みなさん、ありがとうございました。

このようにしめやかに幕を閉じた「銀座のノラの物語」ですが、2週間後には中央線に場所を移し、ノラさんの手料理の品数も増えて「アサガヤノラの物語」として再スタート。7/14(日)がノラオンナさんのウクレレ弾き語りソロ、7/21(日)がアカリノートさん。新たな一歩を踏み出します!





2013年6月20日木曜日

Poemusica ~詩的にメロディアス~

サマータイム。東京は雨が降ったり止んだり。夏至前夜、下北沢Workshop Lounge SEED SHIPにて"Poemusica ~詩的にメロディアス~"が開催されました。雨のなかご来場のお客様、どこかで気にかけてくれていた人たち、共演者のみなさん、SEED SHIPの土屋さん、どうもありがとうございました。

黒髪のベリーショートに黒のワンピース、黒のヒールの右足だけ脱いで、黒いグランドピアノに向かう瀬里奈さん。ひとりの若い娼婦を主人公にした物語を、ときおりナレーションを挟みながら組曲風に表現して、まるで古いモノクロームのショートフィルムを観ているみたい。けっして明るい曲調ではないのですが、朗々としたベルカントで完璧な音程を紡ぐさまは爽快感すらおぼえます。ピアノがまた確かな腕前で、硬軟強弱を自在に操り、その欧州的な構築美は、どこまでもドラマチックでした。僕ら世代だと、ニナ・ハーゲンシンニード・オコナーなんかを連想してしまいます。

アナンくんは大学を卒業したばかり。見た目シャイな数学男子って感じですが、その音楽はファンキーでエモーショナル。アコースティックギターのカッティングに、ボディをタップしたキック音、オクターヴァー経由のベースライン、アナログオシレーターの発振音をループマシンを駆使して即興的に組み立てていく様子は科学実験に夢中になっているティーンエイジャーのよう。そこに被せるハスキーなウィスパーヴォイスはどこかノスタルジック。レトロ・フューチャー・ミュージック。スライとか好きなのかな。訊いてみればよかった。

そんなふたりとは対照的に、倉沢桃子さん(画像)にはお姉さんらしい落ち着きがあって、どこまでもナチュラルでした。伝えたいことがはっきりしていて、自分の表現に確信を持っている人の醸し出す安定感と、世間擦れしていない瑞々しさが奇跡的に同居している。丁寧なフィンガーピッキングで緩急をつけて正確に奏でられるギター、絶妙な距離感の歌詞、静かに心に沁みこんでいくような歌声は、ボーイッシュでクールな容貌と相俟って心地良く、いつまでも聴いていたくなる。初夏の涼風のような魅力を持つ人。

そして、Little Woody はいつものLittle Woody。なんだけど、ちょっと違った新しい試みも。それは会場に集ってきてくれた人たちだけの秘密(笑)。そうそう、Little Woodyは、金佑龍くんのバンドメンバーとして、FUJI ROCK FESTIVAL '13 に出演が決まりました。これマジで快挙。心からおめでとうと言いたい!

僕はオープニングに米国人作家レイ・ブラッドベリの一周忌に寄せて、彼の短編小説『霧笛』の一節、つづけて自作詩"International Klein Blue"。そして倉沢桃子さんのギターのアルペジオに乗せて、夏至の朝昼夜を描いたトリプルソネット「ガーデニア Co.」を朗読しました。

そんなストーリー性のある夏至前夜のPoemusicaでした。来月はちょっと早めの第二木曜日の開催です。雨季が明けているといいな。

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Poemusica Vol.19
日時:2013年7月11日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円 当日2,500円(ドリンク代別)
出演:矢野あいみ *Music
    QooSue *Music
    Little Woody Band *Music
    カワグチタケシ *PoetryReading

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2013年6月16日日曜日

ハル

新宿ピカデリーで単館公開中の牧原亮太郎監督の中編アニメ『ハル』を観ました。

舞台は近未来の京都。恋人ハルを飛行機事故で亡くし、引きこもるくるみのもとにケアセンター孤狸庵から派遣されてきたのはハルの姿に改造された介護ロボット「Q01(キューイチ)」。ルービックキューブの色を合わせるとふたりの願い事が現われ、ロボハルはそれをひとつずつ叶えようとする。

なんといっても木皿泉脚本のオリジナルストーリー。『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』、なかでも2010年の日テレ系秋ドラマ、佐藤健前田敦子主演の『Q10』は生涯に観たテレビドラマのなかでもかなり上位にランクインします。で今回「Q01」ってことですから期待が大きくて、やや大き過ぎたのかもしれません。

芸術家(と敢えて言いますが)には、各々の才能を表現するのに適した尺があるんじゃないでしょうか。草野マサムネなら3分半、アンドレイ・タルコフスキーなら3時間半(笑)。木皿さんの場合は3ヶ月クール、計8~10時間の枠で、丁寧過ぎるぐらい丁寧に時間をかけて感情のひだを綴っていくのが一番向いているのだと思います。70分じゃ全然足りない。

アニメーションの水の描写は素晴らしく、その技術と根気には心から敬意を表したいです。洋服のボタン型の破損したメモリーチップを再生したときのデジタル画像のノイズ描写も繊細だった。また大島ミチルの音楽も、その曲調が高まると声をミュートしてくちびるの動きと表情で台詞を伝える牧原監督の演出もよかったです。


2013年6月15日土曜日

Viola & Piano Duoconcert vol.3

雨季です。しばらく降り続いた雨がようやく上がった土曜日。山手線に乗り換えて大塚へ。音楽堂 ano ano で開催された手島絵里子さんtriola蓮沼執太フィル)、明利美登里さんの室内楽リサイタル "Viola & Piano Duoconcert vol.3" を鑑賞しました。

荻窪のvol.1vol.2も聞きに行きましたが、回を重ねるごとにふたりのアンサンブルの精度が高まっているように感じます。聞けば、ランチをしたり、明利さんのお子さんを手島さんが面倒見たり、もちろん練習も重ねたのだとは思いますが、音楽外の諸々も大事。

・フォーレ シシリアーノ op.78
・シューベルト 4つの即興曲集D899 op.90 第1番 ハ短調
・ベートーヴェン ノットゥルノ op.42
・ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ
・ドビュッシー 2つのアラベスク
・プーランク 15の即興曲集より 第12番:変ホ長調 シューベルトを讃えて
                    第15番:ハ短調 エディット・ピアフを讃えて
・ミヨー 四つの顔 
-アンコール-
・サン=サーンス 動物の謝肉祭より 白鳥

ベートーベンとシューベルト、ドビュッシーとラヴェル、ミヨーとプーランク、そしてサン=サーンスとフォーレ。それぞれ同時代でどのような交流があったのか、演奏者自身からのお話も交えて。クラシックの演奏家では終始演奏家は無言ということが多いのですが、このMCは効果的だと思います。このサイズの会場だと、客席も意外と緊張するので。ほぐれます。

料理ユニット「3番テーブル」が提供するハンドメイドのドリンク&スナックも、会場のリラグゼーション効果に一役買っていたのではないでしょうか。

いままでプーランクの音楽の魅力がよくわからなかったのですが、そんな気遣いのせいなのか、今日の演奏は素敵でした。少人数のサロンで親しい人たちに向けて聴かせるために書かれた音楽なのかもしれませんね。

あと、インドネシアの金色のシルクでクリムトのような柄の手島さんのドレスがとてもきれいでした。