2017年1月29日日曜日

アサガヤノラの物語

1月とは思えないようなあたたかい夕方、中央線で阿佐ヶ谷まで。真冬の夜に大きなガラス窓から洩れる蜂蜜色の灯りが向かえてくれます。Barトリアエズでほぼ毎週開かれている生音ライブ、日曜音楽バー『アサガヤノラの物語』に出演しました。

昨年アニバーサリーライブの特典『詞集 君へ』の編集製本や港ハイライトアルバムライナーノーツにも携わらせていただいた、リスペクトする音楽家ノラオンナさんが手料理でおもてなししてくれる小さなディナーショーです。

終始言葉と声だけで全15篇。約1時間のプログラムをお届けしました。

 1. 無題(世界は二頭の象が~)
 2.
 3. Winter Wonderland
 4. コインランドリー
 5. Doors close soon after the melody ends
 6. 永遠の翌日
 7. スターズ&ストライプス
 8. 冬の旅
 9. 新しい感情
10. 希望について
11. 観覧車
12. 水玉
13. 花柄
14. Post-Christmas World
15. クリスマス後の世界

新作の「永遠の翌日」と「スターズ&ストライプス」はタイトルからご想像いただける通り、昨今の国際情勢に対峙した感情を描いた作品です。ポスト・トゥルースとかオルタナティブ・ファクトとかって、マスの側にいる人間が一番言ったらだめな言葉だと思います。大晦日にNHK紅白歌合戦で欅坂46の「サイレント・マジョリティ」を聴いたときにも感じた矛盾なのですが。

今回のアサノラ限定特典は『naï ~essay or prose poetry~』。2002年から2017年の間に書いた散文作品9篇を収録した冊子(書名の意味はご来場の皆様だけにお伝えした秘密です)。その中から「希望について」(2014)と「Post-Christmas World」(2002)の2篇の朗読を聴いていただきました。

干支にちなんで親子丼メインのアサノラ弁当は相変わらず惚れ惚れするような美味しさだし、酉年最初のライブをトリアエズでできたこともうれしかった。終演後にお客様みんなとお食事しながら楽しくおしゃべりして、直接感想も聞けて。ひとりひとりをノラさんとお見送りしたのち、終電一本前で帰宅しました。

ご来場のお客様、ノラさん、皆様、ありがとうございました。このような機会をいただけて、同じ時間と空間を共有することができるのは幸福なことです。鬱屈していた十代の自分に教えてあげたい。人生は君が思うほど酷くはないよ、と。反抗的な十代が大人のそんな言葉なんかに耳を貸さないだろうってことも容易に想像がつくけれど(笑)。

写真は芦田みのりさんからご提供いただきました。いつもありがとうございます。

 

2017年1月22日日曜日

MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間

小春日和の日曜日。日比谷TOHOシネマズシャンテで、ドン・チードル制作・監督・脚本・主演映画 『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』を観ました。

ビバップ、シンフォニックジャズ、モード、フリージャズ、16ビート、HIPHOPと、1940年代末から65歳で亡くなる1990年代初頭まで、あらゆるロジックとアクションでブラックミュージックの歴史を塗り替えた音楽家マイルス・デイヴィスだが、1975年から5年間のブランクがある(PangaeaThe Man With The Horn の間ですね)。

その1979年のとある数日間に焦点を当てたフィクションです。半引退状態のマイルスをたまたま取材に訪れたRolling Stone誌の記者デイヴ・ブレイデン(ユアン・マクレガー)を巻き込み、盗まれたマスターテープを取り戻すために繰り広げられる派手なカーチェイスとガンアクション。その合間に挿入される1950年代の回想シーン。この二つを軸としつつ錯綜する時系列。寓意に満ちた設定。

マイルス自身の演奏とロバート・グラスパーのオリジナルスコア、パンを多用したカメラワークの95分で、観賞後には酩酊したような感触が残ります。

「俺の音楽をジャズと呼ばないでくれ。ソーシャル・ミュージックなんだ」。ショパンストラヴィンスキーへの言及や「D9でFフラットは使うな」と若いプレーヤーを罵倒したり、神経質で傲慢な性格のピークを過ぎた芸術家像をチャーミングに魅せているのは、ユアン・マクレガーや妻フランシスを演じたエマヤツィ・コーリナルディ、ジュニア役キース・スタンフィールドら、脇役の力でしょうか。

回想シーンに登場するビル・エヴァンスジョン・コルトレーンは似ていないのですがさして気にならないのは、随所に散りばめられたファンタジー色やフェイク感のせいだと思います。それが凝縮されているのがラストの演奏シーン。ウェイン・ショーター(SS)とハービー・ハンコック(Pf)は本人が年老いた現在の姿で登場し、チードル演じるマイルス(Tp)は1979年のまま(音はキーヨン・ハロルドの当て振り)、リズムセクションの4人、グラスパー(Key)、エスペランサ・スポルディング(EB)、ゲイリー・クラーク・ジュニア(Gt)、アントニオ・サンチェス(Dr)は現在売出し中の実力派。

そしてマイルスの衣装の背中には「#socialmusic」の刺繍。1979年にはハッシュタグなんか存在しなかったわけじゃないですか。更にスクリーンにはテロップで「May 26 1926-  」と誕生日のみを表示し、没年月日は空欄という念の入れよう。もしもマイルスが映画のままの姿で現代に飛び出して来たら、存命中のレジェンドたちと活きの良い若手、国籍や人種、性別、年齢を問わず、自分の音楽を実現する力のあるミュージシャンを起用しただろう。そんなメッセージを感じる爽快感のあるエンディングでした。

 

2017年1月8日日曜日

アサガヤノラの物語

冷たい雨の降る日曜日。中央線に乗って阿佐ヶ谷まで。Barトリアエズでウェルカム七草粥。日曜音楽バー『アサガヤノラの物語』松浦湊さん(左利き)の回にお邪魔しました。

ゴールディ・ホーンメグ・ライアンキャメロン・ディアス。大口で笑い常に口角が上がっているのは、優れたコメディエンヌの共通項だと常々思っているのですが、松浦湊さんもその系譜です。そして、どんなにネジの外れた役を演じてもインテリジェンスが滲み出てしまう。高い知性と品性を隠し持つコメディエンヌ。

湊さんがどこまで自覚的なのかはわかりません。それでも彼女の音楽が持つ美しい旋律と半歩ずれたような和声感、一弦一弦を綺麗に響かせるギタープレイ、底知れない語彙と豊かな物語性を持つ歌詞、はすっぱに見えて実はとても繊細な歌声、その才能が本人にもアウトオブコントロール、なのに全体の印象がポップ。それを楽しむという妙に捩れた共犯関係が観客との間に成立する。

頭蓋骨が砕け散る5分後に君が来た、という歌い出しの「コパン」から始まったライブ。今朝買ったウクレレに初挑戦した佐藤GWAN博さんのカバー「ハロームーン」。ライブの定番曲、サビの巻き舌がエグい「フォールインタヌキ」。

20分超の長尺スポークンワード作品「アーバン・ミス半魚人」では自らの発した物語(歌詞の中では「お話」)がひとり歩きし、尾ひれがついて、都市伝説化していくのに、まったく追いつけないカフカ的とも言える状況を、地声の独白、声色とテンポを変えた対話、アニメやCMからの引用、ギターリフのカットアップなど雑多な要素で構築していく。これは所謂レヴィ=ストロース言うところの「野生の思考」、ブリコラージュの手法では。

ノラオンナさんの提供する一月のメニューが酉年にちなんで親子丼というのに配慮して「タマゴのキミ」と卵の独白曲「言えたらな」という全6曲。曲数こそ少ないものの充実したライブでした。

終演後はお客様から差し入れられた2本の一升瓶で盛大な酒盛りに。立ち飲み屋状態の店内。チャーミングに酔っぱらう湊さん、それにつっこみを入れるノラさん。新年らしい賑やかな会に参加できてうれしかったです。

 

2017年1月4日水曜日

アサガヤノラの物語

今年の東京はあたたかいお正月ですね。そろそろ落ち着いて先のことを考える余裕が出てきた頃ではないでしょうか。

カワグチタケシ7ヶ月ぶりワンマン、2017年最初のライブは、真冬の底の阿佐ヶ谷で。リスペクトするミュージシャン、ノラオンナさんが日曜店長をつとめる「アサガヤノラの物語」にて。完全予約制先着10名様限定の超プレミアムディナーショー!

日曜音楽バー「銀座のノラの物語」が阿佐ヶ谷に引っ越して4年目に。おかげさまで8回目の登場です。生声の朗読とノラオンナさんの絶品手料理をお楽しみください!

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日曜音楽バー「アサガヤノラの物語

出演:カワグチタケシ
日時:2017年1月29日(日)
   17時開場、18時開演、19時~バータイム
会場:Barトリアエズ 東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-43-1 NKハイツ1F
料金:4,500円
   ライブチャージ
   5種のおかずと炊き込みご飯のアサノラ弁当(味噌汁付)
   ハイボール飲み放題(ソフトドリンクはウーロン茶かオレンジジュース)
   スナック菓子3種
   以上全部込みの料金です。

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☆更に御予約のお客様にはもれなくアサノラ限定カワグチタケシ散文詩&エッセイ集『naï』をプレゼント。エッセイや評論など散文のご注文をいただくことが時々あるのですが、いくつかの小さなメディアに書いたものと書き下ろしの新作を冊子にして。レアなコレクターズアイテムといえましょう(当社比)。

2016年後半からライブの本数を減らしたのと、いまのところ次のライブまで3ヶ月空く予定なので、皆様に聴いてもらいたい作品がたくさん。新旧とり混ぜ冬の詩をたっぷりお届けしたいと思います。

1月末といえば一年で一番寒い時期ですが、いまより30分日没が遅くなっているはず。こじんまりした会場で、生声の朗読と温かく美味しいお料理をお楽しみいただけるインティメイトな夜、真冬の宵のひとときを皆様と過ごすことができたら幸いです。

*完全予約制、先着10名様限定です。
 ご予約は nolaonna@i.softbank.jp まで。お名前、人数、お電話番号を
 お知らせください。お席に限りがございます。どうぞお早目に!

 

2017年1月3日火曜日

ラサへの歩き方

正月3日の中央線は点検で20分遅れでもガラ空き。ユジク阿佐ヶ谷チャン・ヤン監督の『ラサへの歩き方~祈りの2400km』を観ました。

チベット自治区の最東端、雲南省と四川省に隣接したマルカム県プラは放牧の村、険しい雪山の谷間の集落です。兄を亡くした老人がチベット仏教の聖地ラサに巡礼に行きたいと言う。厄を落としたい、生れてくる子供を祝福したい、それぞれの理由を持つ同行者が増え、総勢11名でラサへ、そして聖峰カイラス山へ、片道2400 km、1年間の旅を描くロードムービーです。

昨夏渋谷シアターイメージフォーラムの上映を見逃していたこの映画。2011年 "Doors close soon after the melody ends" という詩を書くときに、鳥葬の文献を当たっていて、ラサ巡礼と五体投地についての知識は持っていたのですが、読むと観るとではだいぶ異なります。

五体投地というのは、頭上、顔前、胸の前、3回合掌してからうつ伏せになって、両手両足と額を地面に着け、頭上で合掌して立ち上がる。それを繰り返して進んでいくわけです。尺取虫的なものを想像していたのですが、実際にはヘッドスライディングに近い。両手に装着した板でアスファルトを滑って進む感じです。前半身を保護するために着ける厚い皮革製のエプロンもスニーカーのつま先もあっという間にボロボロになる。

「巡礼とは他者のために祈ることだ」。五体投地とは祈りそのものであり、全行程においてこれを遂行することこそが巡礼の目的なのです。基本テントで自炊、それらを積んだトラクターが先導します。事故で車軸が折れると荷台を押して進むのですが、進んだ分戻って五体投地し直す。冠水した道路も泥濘も砂利道も五体投地で進む。とはいえ、スマホで故郷の家族と会話もしますし、怪我人が出れば無理せずに数日休み、資金が底をついたら日雇い仕事をします。

僕自身は宗教法人に金銭を落としたくないという理由で、もうかれこれ30年以上おみくじを引いたり賽銭を投じるということをしていないハードコアな無神論者ですが、祈りを中心とした生活や信仰に一点の疑いも持たない彼らの生き方には、ひと回りしてシンパシーを感じました。

冬に出発した11人に満開の桜や一面の菜の花が春を告げる光の明るさ、トルチョ(5色旗)のたなびく荒涼とした山道、真っ白で壮大な雪山。読経以外の音楽もナレーションも一切挿入しないストイックな演出が人々と風景の美しさを更に際立たせます。

鳥葬は、遺体を包む純白の布と3人のチベット医僧の読経と禿鷲の飛翔により暗示されるのみです。おそらく中国政府当局の検閲が入っているのでしょう。4/4拍子主体で直線的な日本の読経と比較して、チベット経典のリーディングは6/8、5/8拍子の円環をイメージさせるドラッギィなビートが心地良いです。


2017年1月2日月曜日

ポッピンQ

今年も三賀日は映画館へ。一年の始まりを一人で暗闇で過ごす儀式のようなものです。2017年最初の一本に、ユナイテッドシネマ豊洲宮原直樹監督作品『ポッピンQ』を鑑賞しました。

主人公伊純(声:瀬戸麻沙美)は高知市立桂浜中学校陸上部の3年生。怪我を押して出場した100m走の引退試合で自己ベストを出せなかったことを後悔している。卒業式の朝、砂浜で「時の欠片」を拾ったことで異世界へ導かれる。

そこは時の谷。あらゆる並行世界の時間を司るポッピン族の国。時の種が失われたためキグルミに侵略されつつある。そこで出会ったそれぞれに鬱屈を抱えた中3女子5名。彼女たちがダンスを踊ることで世界を救うことができると長老は言う。

東映アニメーション60周年記念作品制作ということで、プリキュアシリーズとの関連性を指摘する声も多いようですが、予告編を観たときに、まど☆マギけいおんラブライブを混ぜたようなアニメなのかな、と思いましたし、本編を観た感想もだいたいそんな感じです。

制服⇒バイオスーツステージコスチューム、どれもカラフルかつ優しいトーンでまとめられ、主人公たちの同位体としてポッピン族は愛らしくいつでも彼女らを裏切らない。異世界の街並みや山脈の鳥瞰とカメラに向かって走ってくる伊純のクローズアップ。複雑な設定、異世界のルール。モーションキャプチャーと3DCGを駆使したバトルアクションとダンスシーンのダイナミックなカット割り。95分という尺に詰め込まれた情報量の多さには感心させられますが、主人公たちの鬱屈の掘り下げが浅く、気持ちの変化が急過ぎるように感じました。

しかしながら、その感情の揺れや感化され易さ、浅さ、そのものが思春期特有のスピード感ともいえるため、もしかしたら主人公たちと同世代もしくはもっと若い21世紀生まれの観客はきちんと感情移入できる作りなのかもしれません。冬休みなので、小学生の女の子とお父さんという組み合わせも客席に多く、何か心温まるものがありました。

そういうターゲティングであればジャストなのだと思いますが、「勇気のダンス」「奇跡のダンス」の2曲ともピート・バーンズDEAD OR ALIVE)追悼トリビュートかってぐらいユーロディスコ寄りのビートで振りも1980年代的です。続編が作られるのなら、高校生になった5人のダンスは更に高みを、一足飛びに渡辺直美レベルは無理でも、できればPerfumeあたりを目指してもらいたいものです。