2014年9月6日土曜日

犬猫

昨日と今日は東京に夏が戻ってきました。東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅の長いエスカレーターに運ばれて地上へ。ブックカフェESPACE BIBLIOで、井口奈巳監督の『犬猫』8mm版を鑑賞しました。

同棲をある日突然解消したスズ(塩谷恵子)は中学からの旧友ヨウコ(小松留美)と木造平屋で同居することに。ふたりは昔から仲が悪い。いつも同じ男子を好きになってしまうから。

人のセックスを笑うな』『ニシノユキヒコの恋と冒険』の井口監督がアマチュア時代の2000年に撮ったこの8mm映画は、2005年に自身の手でリメイクされており、その35mm版ではスズを藤田陽子、ヨウコを榎本加奈子が演じているそうです(すみません、観てません)。

8mmと35mm、あるいは、自主映画と商業映画。予算や技術の違いはもちろんですが、演技に関しても違いがあって、商業映画は作られた自然さ、たとえて言うならば、デジタルリヴァーヴのルームシミュレーションみたいな感じがあると思うんですよね。

この8mm映画は、主役ふたりの演技がとてつもなく無添加です。画面に時折登場する犬や猫に匹敵するほどに。1年半という長い期間、毎日朝から晩まで撮っていたということで、そこには作為や意図が当然あるわけですが、演技の反復によってある種のオートマティズムが生まれ、結果的にOKテイクのナチュラルさを生んでいるのではないでしょうか。

井口監督のカメラは低い位置から対象を捉えます。そして斜めの画角や斜線が強調される。十字路を対角線の位置から撮ることで、分岐点に見せる手法。雨に打たれるクローバーの群生や朝露のついた蜘蛛の巣の長回し。光の移ろいを丁寧に見せます。

エンディング近く、雨が急に降り出して、スズが黒いタンクトップとボクサーショーツ姿のまま洗濯物を取り込むシーンの鉛筆みたいに可憐な脚線美。

終映後、井口監督と主演の塩谷さんが登壇して、大島依提亜氏を聞き手に40分程のトークがありました。映画撮影の技術的な側面についての話が中心でしたが、僕も普段から内面や観念よりも「方法」について考えて創作する傾向が強いので、監督の話には共感するところが多かった。

最後に客席の若くて愛らしい女の子から「この映画で言いたかったこと、テーマは何ですか?」という質問が出て、おいおい、この流れでそこを聞く? と思いましたが(笑)、まっすぐに答えた井口監督が格好良かったです。


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