2011年2月27日日曜日

ふたつの声

初夏のような金曜日から、すこしだけ冬に戻った土曜日。マイクスタンドを担いで、山手線で日暮里まで。古書信天翁で開催された『信天翁倶楽部詩人の部Vol.0 ふたりの朗読会』を鑑賞しました。

3KからTKレビューと、10年来いっしょに朗読イベントを開催してきた小森岳史プロデュースのこの会には、これまた10年来のファンである飯田有子さんプリシラ・レーベルの盟友佐藤わこが出演。会場の信天翁さんは、谷中銀座商店街の入口、夕やけだんだんのすぐ上のビルの2階にある、夕陽のきれいな古書店です。

小森さんの紹介で、まず登場したのが佐藤わこさん。ゆったりとした、でも時々エッジの効いたMCをはさんで自作の詩を数篇朗読。1997年5月に江東区文化センターではじめて彼女の声を聞いたときの衝撃を、いまでもはっきりと思い出せます。小さな金属片がぶつかりあうときにたてるような美しい声の響き。そして正確な呼吸に裏打ちされた圧倒的な描写力。14年前と変わったところ、変わらないところ。当時横組みだった朗読テキストは、今回は縦組みになり、それが発声により安定感を与えていたように思います。

わこさんの詩には、食べものや食事のシーンがよく出てきます。それが、ディスコミュニケーションや戦争や殺戮を主題にした詩作品にも、光とあたたかみを与えています。

飯田有子さんは歌人です。短歌という定形のなかをこれだけ自由に行き来する人を他に知りません。容姿の美しさ、殊に口紅をつけていてもいなくても真っ赤な口唇は、腕利きの職人が細工したお菓子にも似て、内側から光を放っているよう。その口唇から発せられる声は、わこさんとは対照的に不規則に揺れ、その揺らぎが心地よく会場の空気を満たしていきます。

書店の本棚の背表紙に印刷されたタイトルが、隣の本と全く関連なく、しかも等価に並んでいる状態が好きだというアリコさんの羅列フェティシズム全開の演目。自作の短歌も、多和田葉子の短編小説も、ツイッターのTLも、徒然草も、アリコさんの内側では同階層にクラシファイされているのでしょう。

ひとつの事象を複数の視点から切り取ることで詩的現実を立ち上げようとするわこさん、多様な事象を事象のまま並列することを勇気を持ってやりきろうとするアリコさん。対照的なコンセプトとパフォーマンスが響き合い、冬から春に移ろう季節にぴったりな、美しい朗読会でした。

同じ古書信天翁さんで、ちょうど一ヵ月後の3月26日(土)に、村田活彦さんとカワグチタケシの朗読二人会『続・同行二人』を開催します。会場のすぐそばに、大きな染井吉野の古木があります。老朽化のため今年を最後に伐られてしまうこの桜が、来月の朗読会当日に咲いているといいな、と思っています!


 

2011年2月12日土曜日

猫の駅

積雪の予報が外れた三連休。銀座7丁目のギャラリーボザール・ミューで開催中のイラストレーター佐久間真人さんの個展『猫の駅』を鑑賞。

愛知在住の佐久間さんは、毎年この時期に東京で個展を開きます。去年うかがったときも雨が降っていました。

佐久間さんが描く猫の足跡のついた雪の風景が好きなので、ちょうど会場にいらしていたご本人に「雪が積もったら、絵によく合って素敵だったんですけどねー」と言ったら、「それだとお客様が来てくれませんからねえ」と笑っていました。

集英社の『青春と読書』の表紙が気に入って 一昨年、原画を購入して自宅の壁にかけています。佐久間さんは、毎回作品のスタイルが大きく変わるタイプの作家ではありませんが、作品自体の持つノスタルジックなトーンと相まって、その変わらなさも魅力のひとつになっていると思います。

この投稿の添付画像の個展のDMですが、たくさんの猫たちのなかに一匹だけネズミがいます。「カメラ目線のネズミを初めて描きました」と笑う佐久間さん。変わらなさのなかにも微小な変化を置いて、それが何年か後にはまったく違う作品群になっていくのかと、観ている僕もゆっくり時間をかけて楽しんでいきたいな、と思いました。

 

2011年2月6日日曜日

呼吸

立春を過ぎて、寒さがだいぶやわらぎました。二月最初の土曜の夜、下北沢のleteさんへ。triola弦楽コンサート"Resonant #3"を鑑賞しました。

昨年夏、ニュートロン東京で共演して以来、10月12月、今回と2ヶ月毎にtriolaを聴いていますが、毎回微妙に異なる表情を見せて楽しませてくれます。

昨年末の関西東海ツアーは連日連夜のハードな日程でした。また都内でも数々のステージをこなしていますが、それらを経て、アンサンブルが以前より更に強固なものになってきたように感じます。ブレークのタイミングひとつとってみても明らかに。たとえていうならば「対話」から「呼吸」へと。

以前のライブでは、波多野敦子さん(AB型)のヴァイオリンがとにかくタテノリで、手島絵里子さん(A型)のヴィオラが均した土台にガツガツとツルハシを打ち込んでいるような印象でしたが、今回の何曲かで波多野さんは、意識してか、無意識か、ところどころタメの効いたリズムも使いながら、より大きなグルーヴをつかもうと模索しているかのよう。

今回は歌ものも2曲。自作のワルツとバート・バカラックの"(They long to be) Close to you"。カーペンターズのヒット曲のカバーです。雨の日に外で遊べなくてすねている子どもみたいなヴァイオリンの音色とは打って変わって、波多野さんの歌声には不思議な包容力があります。息の多いウィスパーヴォイスでありながらソウルフル。そして、暖炉に当たりながら静かに本を読んでいるような、安定感のある手島さんのオブリガート。

波多野さんのバリシルクのサテンのカーゴ・スカートのマリンブルーと、手島さんの真赤なカットソーの色彩の対比の鮮やかさそのままに、肖像音楽をはさんで12曲が演奏されました。

次回leteのライブは3月19日(土)。波多野さんのソロアルバムのリリースパーティということで、ジャケットを手がけた染色作家吉田容子さんも加わって、いつものtriolaとは違うパフォーマンスが見られそう。楽しみです!