2014年10月16日木曜日

Poemusica Vol.33

東京の気温が急に下がり、下北沢は金木犀が満開です。Workshop Lounge SEED SHIPで、33回目のPoemusica が開催されました。

ろとれとろさんはリハーサルに現われたとき三つ編みで、既に心臓を鷲掴みにされました(三つ編み、眼鏡、ほくろ、左利きは僕的最強萌え要素です)。曲と曲のあいだを詩語りでつないでいくスタイルが、ライブ全体に物語性を添える。ピアノのタッチが丁寧で柔らかく、良く通る優しい声質といいバランスです。

宮沢賢治が平成に生まれていたらきっとゲーム制作かポップミュージックをやっていたと思うんですよね。みぇれみぇれさん(画像)はそんなマルチでファナティックな才能と童心を併せ持つ文字どおりのアーティスト(芸術家)です。広瀬達也さんのコントラバスとデュオ。飄々とした歌声、誰にも容易に想像のつかないようなスペイシーなサウンドで、はじめて聴いた人たちを驚かせていました。

まっすぐでつやつやな髪にロリータ服が似合う橋爪ももさん。楽屋では可憐な美少女ですが、ひとたび歌い出すと声量のあるドスの利いた低音の巻き舌で業の深い歌詞を繰り出します。そして早口のMCはひたすら笑いを取りに行く。滑っても滑っても取りに行く。二重三重のトラップにくらくらしました。最後に歌った猫になった男の子が徐々に記憶を取り戻す歌「今は猫」。よかったな。

ここまでの3組ははじめてでしたが、アカリノートさんはPoemusica 4度目のご出演です。前後のアクトに対する気配りが細かくていつも助けられます。この日も僕の「希望について」の主人公が好きな歌という設定の「メロディ・フェア」。それから僕の詩にアカリさんが曲をつけた「風の生まれる場所」はふたりで演奏しました。歌がどこまでも遠く届く。その光の道筋が見えるような声です。

僕は"10月"と"観覧車"をテーマに「星月夜」「月の子供」「観覧車」「希望について」「風の通り道」の5篇を選んで朗読しました。また今回はちょっとだけチャレンジを。Poemusica全体のイントロダクションとエンドロールに自作詩の一部をカットアップして置いてみました。気づいた方は少ないと思いますが、自分としてはなかなかうまくできたと思います。

次回のPoemusicaは11月24日(木)。森田崇允Trioさんをお招きします。フィドル五島奈美子さん、アコーディオン竹廣類さんの強力コンボで。そして成瀬ブルックリンさんとツカダコージさん。どうぞお楽しみに!

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Poemusica Vol.34
日時:2014年11月20日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円・当日2,600円(ドリンク代別)
出演:森田崇允Trio *Music
    ~森田崇允(Vo/Gt)、五島奈美子(Vn)、竹廣類(B. Acc.)~
    成瀬ブルックリン *Music
    ツカダコージ *Music
    カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年10月11日土曜日

ジャージー・ボーイズ

秋晴れ。ユナイテッドシネマ豊洲で『ジャージー・ボーイズ』を観賞しました。1960年代の人気バンド The Four Seasonsのメンバーが実名で登場するブロードウェイ・ミュージカルをクリント・イーストウッドが映画化。実にクオリティの高いエンターテインメントに仕上がっています。

「この町から出て行く方法は3つだ。軍隊に入って殺されるか、マフィアになって殺されるか、有名になるか。俺らはあとの2つをやっている」。

米国ニュージャージー州の貧しいイタリア移民街。盗品売買で生計を立てながら、夜はクラブで仲間のニック(マイケル・ロメンダ)と演奏するトミー(ビンセント・ピアッツァ)が見出した奇跡的な美声と歌唱力を持つ16歳のフランキー・カステルッチオ(ジョン・ロイド・ヤング)は後のフランキー・ヴァリ。そこにインテリジェンス溢れるピアニストでソングライターのボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)が加わり、ゲイのプロデューサー兼作詞家ボブ・クルー(マイク・ドイル)と組むことで、バンドはスターダムを駆け上がる。

1951年の出会いから1990年のロックの殿堂入りまで約40年の物語ですが、細部が丁寧に描かれており性急な印象はありません。だらしなくて喧嘩っ早いギタリスト、天才肌のボーカリスト、知的でバランス感覚に優れたピアニスト、どんなトラブルも右から左に受け流すベーシストというバンドマンあるあるも、ひとりひとりのキャラが立ち過ぎるぐらい立っていてステレオタイプに陥っていない。

メンバーのモノローグがいちいちカメラ目線で(つまり映画館の客席に向かって)話しかけてくるのも面白い。映画に参加しているような錯覚。

作曲担当のボブ・ゴーディオ(The Four Seasons加入前に書いた"Short Shorts"は、タモリ倶楽部のオープニングテーマ!)を演じたエリック・バーゲンは商業映画初出演とは思えない落ち着きと瑞々しさを兼ねて備えています。

君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」はフランキー・ヴァリのソロシングルですが、ボブ・ゴーディオとボブ・クルーが、娘をドラッグ禍で失ったフランキーを慰めるために書いた歌。僕ら80'sディスコ世代にはBoys Town Gangカバーバージョンのほうが馴染みがあります。あの狂騒的な中にも底知れない悲しみを湛えた音楽にはそんな誕生の背景があったんですね。



2014年10月10日金曜日

風の舞

もう15年以上お世話になっているというのに、JAZZ喫茶映画館で映画を観るのははじめてです。ここのマスターはドキュメンタリー映画を撮っているのですが、その先輩格にあたる宮崎信恵監督の2003年作品『風の舞』の一夜限りの上映会に行ってきました。

昨年亡くなった詩人塔和子さんは1929年愛媛県生まれ。12歳でハンセン病に罹り、83歳で亡くなるまで瀬戸内海に浮かぶ小さな島の療養所大島青松園で暮らした。H氏賞に3回ノミネートされ、1999年には高見順賞を受賞しています。病いや謂われのない差別に対して声高に叫ぶことはなく、明快で新鮮な語彙で淡々と生を綴っています。

非常に感染性の低いウィルスでありながら、外見に大きなダメージを与えることから、らい予防法と根強い偏見により、多くの自由を奪われた状態で隔離されたハンセン病患者。現在では薬物投与で完全に治癒します。その過酷な生活と解放の歴史、そしてひとりの詩人の足跡を描くドキュメンタリー作品です。

「1日に3つ書けることもあれば、1つも書けないこともある。詩の神様は気まぐれやね。でもその気まぐれが魅力的なのね」。

映像で一番印象に残ったのは教会のシーンです。ハンセン病療養所には必ず各宗派の寺院が設置されている。それは政策的な意図を持つエスケープポッドだったのかもしれませんが、祈りを捧げる患者たちの姿は美しく、高い窓から射し込む陽光に救いを見ました。

上映後、小夜さん(画像)が塔さんの作品を朗読しました。映画の中の吉永小百合さんの安定感のある朗読とはまた違って、塔さんのテクストの裏側にある呼吸の揺れ、不規則な律動を浮かび上がらせるような素晴らしい朗読でした。

最後に監督のトークで、晩年の塔さんの人間臭いというにはあまりにも生々しい一面が垣間見られました。天才とは実生活においてはかくもはた迷惑な存在なのか。繊細で美しい作品群の通奏低音としてのディーモン。だからこそ作品の美しさが際立つのかもしれません。

タイトルになっている「風の舞」とは、かつて島中に打ち捨てられていた患者の遺骨を集めて制作された巨大な円錐状のモニュメントの名前です。

 

2014年10月5日日曜日

アジア オーケストラ ウィーク2014

神無月。強い雨が降っていますが、東京オペラシティは京王線初台駅地下コンコースに直結しているので快適です。アジア オーケストラ ウィーク2014の初日公演を聴きに行ってきました。

ホーチミン市交響楽団
指揮 チャン・ヴォン・タック
ヴァイオリン グエン・フー・グエン
ド・ホン・クァン/オーケストラのための夜想曲「こだま~いにしえからの~」
チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲ニ長調
ベートーヴェン交響曲第7番イ長調作品92

ド・ホン・クァンは1956年ハノイ生まれ。今日演奏された曲は、繊細な弦楽が調整と無調性の間を幻想的に漂い、ハープがベトナムの伝統的な旋律をなぞる。そして時折戦火を想像させる打楽器のフォルテシモが響く、というドラマチックなものでした。英題は "Nocturne for Orchestra Echo From The Past"。

チャイコフスキーのコンチェルト。ソリストのグエン・フー・グエン氏は小柄で、そのせいかときどき音量が足りないように感じることがありましたが、難曲を正確に弾きこなしていました。というより、オケの音が全体にデカかった。でも僕みたいにポップミュージックに慣れた耳にはこれぐらいが心地良いです。

ベートーヴェンの7番は、第1楽章は『のだめカンタービレ』、第2楽章は『陽の当たる教室』で使われています。ホーチミン市立オペラハウスに所属しているこのオケには、ベトナム人らしい几帳面さがあり、またそれを自らの美点として誇りに感じていることが演奏から伝わってきて爽快です。

そしてアンコールのマスカーニカヴェレリア・ルスティカーナ」の可憐な美しさといったら! 細かいミスはライブにはつきものですし、アラを探したらキリがないですが、僕にはとても楽しめました。女性楽団員の衣装が全員黒のアオザイというのもよかった。

ベルリンやウィーンから見たらトーキョーもホーチミンもたいして変わらない。でも、それぞれの街にオーケストラがあって、人々に音楽を聴く喜びを提供しているというのはとても素敵なことに思えます。それは宮廷から大衆に音楽を譲渡したいと願ったベートーヴェンが描く理想の世界だったんじゃないでしょうか。

このライブイベントのことは今回初めて知りましたが、公益法人日本オーケストラ連盟の主催で2002年から毎年開催されているそうです。公演プログラムによると過去15ヶ国48団体を招聘しているとのこと。是非また来てみたい好企画です!