2016年9月25日日曜日

VAMOS ブラジる!?

長い雨が上がり彼岸過ぎの東京に夏日が戻ってきました。毎年この時期、9月末のお楽しみといえば『♪音楽で結ぶ中央線ブラジル化計画♪ VAMOSブラジる!?』です。

阿佐ヶ谷から吉祥寺まで約6km。JR中央線沿線のラテン、ジャズ、ワールドミュージック系ライブハウスやカフェを巡るブラジル音楽縛りのライブサーキット、今年は7軒のお店で2日間、計84のアクトを電車で行ったり来たりしながら楽しめるというお祭りです。25日日曜日にふたつのライブにお邪魔しました。

まずは西荻窪駅から徒歩1分、COCO PALMBanda Choro Eletrico(画像)。流動的なメンバーのビッグバンドの今日のメンバーは、ベース沢田譲治さん、ピアノ堀越昭宏さん、ドラムス沼直也さん、フルート尾形ミツルさん、トロンボーン和田充弘さん衣山悦子さん、スルドちっちさん、パンデイロRINDA☆さん、トイピアノ伊左治直さん、ボーカルまえかわとも子さん(左利き)、ボーカル&パーカッション新美桂子さん、ダンス坂本真理さんの12人編成。

1曲目が終わって観客は唖然。ショーロはあくまでも名目上のもので、かなり異端に位置するエッジの効いたブラジル音楽です。むしろウェザー・リポートや後期のゴングなんかに近い。現代音楽とエスニックとジャズを遠心分離機にかけたみたいな演奏は、しかしシリアス一辺倒なものではなく、超高速パッセージを超絶技巧で繰り出すほどに笑える。実際RINDA☆さんはパンデイロを叩きながら終始笑顔です。

そして吉祥寺に移動して、World Kitchen BAOBABで、THEシャンゴーズ。もうひとりのギタリスト尾花毅さんは別の店に出演中ということで中西文彦さんまえかわとも子さん(左利き)のデュオで。前のアクトで中西さんと演奏していたパーカッション荒井康太さんが飛び入りで加わって、こんな偶発的なセッションもサーキットイベントならでは。

こちらは、まえかわとも子さんのレンジの広い歌声にパッションが解放されており、心揺さぶられました。中西さんはギターひとりだとこんなにも休符を活かした演奏をするんですね。これも発見。荒井さんがまた別の店に行くため途中退場すると、観客たちがテーブルや食器を叩いて応援し、最後はアンセム「夜明けのサンバ」の大合唱で締め。みんなが幸福な表情になりました。

ひとつのアクトが45分とコンパクトなので少々聴き足りなさはありますが、ショーケースとしてはちょうどいいし、投げ銭というのも気楽に足を運べる、素敵なイベントだと思います。未体験の皆様、来年は是非中央線で会いましょう!


 

2016年9月24日土曜日

声とギター と 声とウクレレ

谷根千のランドマークであり、誠実で明快なテーマ性を持つ新しい個人経営店舗の先駆けとしてある意味シンボリックな存在だった谷中ボッサさんが、昨日9月23日をもって12年半の歴史に一旦幕を下ろしました。

その翌日の今日、ボーナストラック、あるいはカーテンコール的なライブ『声とギター と 声とウクレレ』が開催されました。出演者は石塚明由子さんノラオンナさん。いずれ劣らぬ実力とキャリアを持つシンガーソングライターで、僕も普段から愛聴しているふたりです。

意外にもふたりは今回が初共演。それがこの多くの人に愛された名店のクロージングというのも何かのご縁でしょうか。ボッサさんの白い塗り壁を意識してかふたりとも白のブラウスを着て。

明由子さんは10年前の初出演(当時は2人組ユニットvice versaとして)から現在に至る各回のエピソードと当時の代表的な楽曲をクロニクル構成で。ノラさんはさざなみのようにかすかな音色のウクレレといつも通り静かな、でも気持ちの入った生声の響きで。それぞれの仕方で感謝と惜別の想いを伝えるように。

明由子さんが今朝作ったという新曲「谷中ボッサ」とラストの「Ohシャンゼリゼ」のカバーの2曲をふたりで演奏し、満員の客席のコーラスも加わって、あたたかくなごやかに名店の最後を飾りました。

僕がはじめて谷中ボッサさんで朗読したのは2006年12月(そう、明由子さんの同期です)、藍かすみさん主催のsyfte.のイベントp-cafeでした。2008年2月には2度目のp-live。このときボッサさんではFIESTA ARGENTINA!の開催中で、サッカーアルゼンチン代表の水色のジャージを着てホルヘ・ルイス・ボルヘスの詩を朗読しました。帰り道、谷中墓地に雪が積もっていて、ブエノスアイレスは今頃は真夏だな、と思ったのをよく憶えています。

そして昨年、2015年2月22日にはmueさんとラブソング縛りのツーマン・カバーライブ"sugar, honey, peach +love"。とてもスイートな真冬の夜でした。どれも深く記憶に残るライブです。

谷中ボッサさんは長野県松本市に居を移して2016年11月から営業再開します。しえさん、ともみさん、いづみくん、大変お世話になりました。松本にも遊びに行きます。どうか変わらずお元気で!



2016年9月23日金曜日

TRIOLA a live strings performance

雨が上がって湿度の高い金曜日の夜。下北沢leteへ。波多野敦子さん(作曲、5弦ヴィオラ)と須原杏さん(ヴァイオリン)の2人による最小単位弦楽アンサンブルTRIOLAを聴きに行きました。メンバーチェンジして再起動後、2回目のa live strings performanceです。

前回7月のセットリストには旧triola時代のボーカル曲が2曲ありましたが、今回はオールインストで、現在の編成になってから作られた新曲も数多く演奏され、創作の充実期を迎えているのが伝わってきます。

波多野さんの書く曲には、ポップミュージックのAメロ、Bメロ、サビも、クラシック音楽の第一主題、変奏、第二主題、展開部という構成も無く、多少のリフレインは存在するものの、総じてフリーフォームです。小刻みなパッセージから発展して大きなうねりに変化し、調性や拍子を変えながら進んでいく様は、粘液の流動や細胞の増殖と死滅をクローズアップで眺めているような感じに近い。

特に無題の新曲群は更に抽象度が増しています。緻密に設計されたスコアに則り演奏されるインテリジェントな音楽が演奏家の身体を通過しフィジカルに解き放たれる瞬間が随所にあり、あたかも一瞬の凪に深海に差す一筋の光明のように感覚が開く。そこにこのデュオのライブ演奏の魅力があります。

須原杏さんのヴァイオリンの多彩な音色。かすれた溜息から澄んだコロラトゥーラ、生真面目な面に時折見せるユーモアの欠片が大変チャーミングです。そして波多野さんのソロ曲でループマシンを駆使して紡がれるノイズは、FrippEno の"No Pussyfooting" のような美しさ。

前回聴いたときからわずか2ヶ月で厚みを増したアンサンブル。波多野さんがバックに回って縦乗りのリフを刻むとき、湿った木箱のような会場を共振させる音像の強さに、杏さんが正確なボウイングで応える。

leteのライブ限定で未発表の新曲CD-Rを毎回発表していくとのこと。次回のa live strings performanceは12月1日。年明けには正規盤のレコーディングと、とても楽しみです。



2016年9月19日月曜日

エル・クラン

敬老の日の東京は雨。2日続けて恵比寿ガーデンシネマへ。2015年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞、パブロ・トラペロ監督作品『エル・クラン』を観ました。

1983年サン・イシドロ。アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)はプッチオ家の三男二女の長男でラグビー・アルゼンチン代表チームのポイントゲッター。父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)は軍事政権下で情報管理官だったが民主化により失脚し、息子たちと誘拐を犯し身代金で生計を立てている。アルゼンチン人なら知らない者のない実話に基づくストーリー。

同時代のブエノスアイレスを描いた仏作家カリル・フェレのクライムサスペンス『マプチェの女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだばかりだったので、アルゼンチンの軍事独裁政権とELN(民族解放戦線)がいかに残虐で腐敗にまみれたものであったか、ある程度の知識があったのですが、そういった前提なしに物語の背景を理解するのはなかなか難しいかもしれません。

普通の感覚では、誘拐した人質を家族6人が暮らす自宅の一室に監禁するという事態が異常に思われるのですが、監督のインタビューによると、主犯アルキメデスは罪の意識を持っていなかった、という。軍事政権下で利権を貪り豊かになった富裕層が、政権が揺らぎ始めるとみるや資産を海外に移し始め、国力が低下する。そのことに義憤を感じ、金持ちから高額の身代金を詐取しようと義賊的な志で誘拐を重ねる。その犯行の過程で多くの命が失われる。

当時のアルゼンチンの司法制度もぐだぐだにユルくて酷いです。共犯の疑いのある被疑者を当事者の求めに応じて同じ檻に収監するわ、拘留中に家族や恋人に直接接触させるわ、挙句の果てには、アルキメデスは無期懲役で服役中に司法試験に合格して弁護士の国家資格を取得したという。

El Clanはスペイン語で「一族」の意。家族の結びつきの強固さはラテン世界ならではのものかもしれませんが、昨今の日本の絆至上主義ともいえる空気に違和感を持ってしまうのは、同族的、単一的な価値観が大義を得たときにファナティックな行動に向かうことに対して本能的な恐怖を感じるからでしょう。

手ブレとフォーカスアウトを意図的に多用したカメラワークがクールなのと、CCRThe KinksDavid Lee Ross等、アッパーなビートの効いたサウンドトラックのおかげで後味は悪くない。むしろ爽快です。

 

2016年9月18日日曜日

グッバイ、サマー

嵐の予感のする初秋の日曜日、恵比寿ガーデンンシネマミシェル・ゴンドリー監督作品『グッバイ、サマー』を観ました。

女の子によく間違えられる左利きの美少年ダニエル(アンジュ・ダルジャン)が午前6時のアラームで目を覚ますシーンから映画が始まる。淹れ終えた紅茶のティーバッグはテーブルに直置き、ビスケットを浸して食べ二度寝。午前7時にセットしたアラームで再び目覚める。

母親(オドレイ・トトゥ)には「あなたは特別」と言われるが「特別なんかでなくていい。でもみんなと同じだとムカつくんだ」と答える。転校生のテオ(テオフィル・バケ)と、はぐれ者同士、スクラップを集めて家型自動車を自作し旅に出る。中2と中3の間の夏休みの冒険物語。露出オーバー気味の画面に思春期の自意識と二度とない輝きがキラキラと焼きつけられている。バカ男子ポンコツ・ロードムービーです。

「個性っていうのは型じゃないだろ。自分の選択や行動によって決まるんだ」。

原題はMICROBE et GASOIL。主人公二人のあだ名です。 ミジンコとガソリンみたいな感じ。MICROBEはマクロビオティックとも掛けているのかな。スピリチャルな自然志向に嵌った意識高い系の母親が「今日からうちは菜食」と宣言する。

そもそも、オーガニック、マクロビはプラマイゼロ。それ自体が人体に対して何かプラスの効果があるわけではなく、非オーガニック、非マクロビにより害されるものを回避する手段なのだと思います。主張すればするほど、自らの良さを伝えるよりも、相手の欠点を挙げて追い詰めてしまいがち。

ポスターには「ミシェル・ゴンドリーの自伝的青春ストーリー」と書かれています。「自伝的」が宣伝文句として成立するのは、作家自身の体験に立脚したリアリティにより重きを置いて作品を評価する層が一定以上存在するということ。僕は逆に、作家のイマジネーションの逸脱ぶりや荒唐無稽さを求めたい。

そういう意味でこの作品は、随所にゴンドリー監督らしい現実離れしたおかしなところがあって、そういう辻褄の合わなさも、赤いフェイクレザーのジャケットに学校ジャージにおっさんぽい革靴という80's的なテオの衣装や髪型の絶妙なダサさも、全部ひっくるめて中2的で素晴らしいなあ、と思いました。

 

2016年9月11日日曜日

君の名は。

NY、ワシントンDCで起きた大規模な自爆テロ攻撃から15年が経った今日。東京は細かい雨が降ったり止んだり。ユナイテッドシネマ豊洲新海誠監督作品『君の名は。』を鑑賞しました。

1200年ぶりの彗星がまもなくやってくる2013年9月のこと。カルデラ湖畔の小さな町の町長の娘で神社に住む女子高生宮水三葉(声:上白石萌音)が、ある朝目覚めると、都立高校に通う男子立花瀧(声:神木隆之介)と身体と精神の組み合わせが入れ替わっている。

大林宣彦監督の『転校生』をはじめ、入れ替わり物語は多々ありますが、きっかけにフィジカルコンタクトを伴わず、且つ短期的可逆性が生じるものは目新しいのかな、と思います。なにより主人公ふたりが最後の最後まで出会わないのと、地理的な距離に加えて、時間軸のギャップが設定を重層的にしています。

会わないけれども、クラウド上(もしくはモバイル端末内)で情報共有することで、入れ替わりの事実を徐々に受け入れ、生活になるべく支障がないように気をまわすのが現代的。美濃太田行の電車に乗るシーンがあるので、三葉の暮らす町はJR高山線沿線でしょうか。オープニングの雲を割いて落下する流星群から、ラストの階段(目白台?)まで、風景描写は終始美しく、物語は儚い。

劇中RADWIMPSの音楽をはじめてまとめて聴きましたが(4曲ほぼフルサイズでかかります)、いい声ですね。「君の名をいま追いかけるよ」という主題歌の歌詞。2004年に書いた「」という詩で似たレトリックを使用しております。

エンドロールにプロデューサーとしてクレジットされている市川南氏は卒業後一度も会っていませんが学習院大学の同学年で、僕がいた現代詩研究会とは部室が斜向いの映像文化研究会出身です。美少年だった市川くんもいまや東宝の取締役。『シン・ゴジラ』の製作も手掛けているので、この夏はさぞ大忙しだったことでしょう。

2016年9月3日土曜日

GORAKU GOKURAKU

北沢八幡神社例大祭の宵宮、下北沢は細かい天気雨。鈴なり横丁の裏手の坂の途中にあるライブバーCIRCUSへ。UN-JAMI presents GORAKU GOKURAKUUN-JAMI と hotel chloe のツーマンライブに行きました。

ボーカルのひろたうた君のソロは東京でも何度か聴いていて、去年は Poemusica Vol.38 に出演してもらったのですが、大阪を拠点とするhotel chloe(画像)は、バンドとしてはこの日が東京初ライブ。これは見逃せません。

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団天才バンドなどでも活躍中のドラマーテシマコージさんが加入して4人組になり、2nd フルアルバム"THIS BAND" をリリースしたばかりのバンドサウンドは、ソロ弾き語りのフォーキーで微細な襞とは趣きの異なるロックンロールを体現しています。

ひろたうた君は僕基準でいう男子ミュージシャンの完全体。一聴して彼と判る特徴的なハスキーボイスは所謂美声とは違いますが、歌詞が実に良く届く。ブルースハープも上手で、ゲストのUJさんのテナーサックスとのソロ交換では客席の温度が一気に上がりました。そしてバンドメンバーから次々に明かされる天然エピソード。演奏中もMCもオフステージも終始キュートな愛されキャラ。

主催のUN-JAMI の見事に削ぎ落とされ無駄なく整理された演奏に比べると、アンサンブルにところどころガチャガチャしたところがありますが、それすらもチャーミングに聴かせてしまう勢いがある。

UN-JAMIさんのライブは2度目かな。ウッドベース&ボーカル、ギター、サックス、パーカッションのジャグ・カルテットでブルース/スウィングを基調に、サンバやカリプソ、サルサ等、ラテンのリズムもさりげなく取り込んだパーティミュージック。転換時にはモンキーレンチによるユルいマジックショー。ザッツ・エンターテインメント。こんなにも客席に笑顔が溢れているライブはひさしぶりでした。