2014年5月25日日曜日

Viola & Piano Duoconcert vol.5

日曜日も晴れ。山手線に乗り換えて大塚へ。音楽堂 ano ano手島絵里子さん明利美登里さんの室内楽リサイタル Viola & Piano Duoconcert vol.5 を鑑賞しました。

ヴィオラの手島絵里子さんは蓮沼執太フィルの新譜リリースツアーを終えたばかり。triolaなどのオルタナティブなユニットの活動と並行して、オーセンティックなクラシック音楽の演奏会をピアノの明利美登里さんとともに定期的に開いてます。今回のテーマは「出会い、そして自由への旅立ち」。

シューマン 詩人の恋 op.48より 第1曲 素晴らしく美しい5月に
        おとぎの絵本 op.113
ブラームス ラプソディ op.79-1 ロ短調
        幻想曲集 op.116
         IV.間奏曲 ホ長調
         VII.奇想曲 ニ短調
ラフマニノフ プレリュード op.32-12 嬰ト短調
         プレリュード op.3-2 嬰ハ短調
ヒンデミット ヴィオラソナタ op.11-4

後半のふたりの作曲家の共通点は政変によってアメリカ合衆国に亡命したこと。ラフマニノフはロシア革命、ヒンデミットはナチスドイツ独裁時に。というようなMCを交えて、演奏会の雰囲気は和やかです。

半地下の小さな会場は観客で一杯です。ピアノとヴィオラのダイナミックな音圧が、集った全員の鼓膜を同時に震わせているさまを想像していました。

ヒンデミットは後期ロマン主義と無調性音楽の端境期の作家です。前世代に対するリスペクトと反感という端境期ならではの揺れる感じと、その環境下で自分の表現を極めようという意志の強さ、相反する要素がその音楽から滲んでいるようで面白かった。いままであまり気に留めていませんでしたが、もっと聴いてみようかなと思いました。

 

2014年5月24日土曜日

WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~

日差しのまぶしい土曜日の午後。ユナイテッドシネマ豊洲三浦しをん原作矢口史靖監督作品『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』を観ました。

大学入試に落ちた主人公平野勇気(染谷将太)は、カラオケ帰りに偶然目にした林業体験のパンフレットで微笑む美少女(長澤まさみ)に心を奪われ、ローカル線を乗り継いで研修プログラムに参加する。

テンポの良い映画です。集合研修中に仲間が脱落していくところや、ヒロインとの距離を詰めるところなど、普通だったらもっと時間をかけて描くと思いますが、矢口監督はそれをしない。主人公の内面を掘り下げないからストーリーがどんどん進む。そのスピード感がこの映画の一番の魅力です。

ニッチな世界にたまたま飛び込んだ主人公(たち)が、そこに自分の居場所を見出しやがて熱中していく、という物語の基本的な構造は同監督の『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』と同じですが、この2作と異なるのは同級生の仲間がいないこと。最終的に作品を発表することもなく、最後までドタバタと駆け抜ける。

樹木の深い緑色と相俟って、森林浴をしたような爽快な後味が残ります。土着的な山岳信仰とテクノロジーのバランス感覚も好印象。

そしてなにより強烈なのは林業の天才飯田ヨキを演じる伊藤英明の激マッチョな存在感です。画面に映るだけで可笑しい。『愛をください』(2000)とか『天体観測』(2002)などCX系のドラマに出ていた頃はこんな展開になるとは思ってもいませんでした。迷わず突き進んでもらいたいです。

 

2014年5月22日木曜日

Poemusica Vol.28

東京は初夏を通り越してもはや雨期です。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.28が開催されました。お昼前後の雷雨が、リハーサルの時間にはすっかり上がり、「晴れましたね」なんて話していたのに、開場とともに稲光、そしてバケツをひっくり返したような雨。下北沢駅で足止めされたお客様もいたのではないでしょうか。

今回共演したミュージシャン3組はみなさんギターの弾き語り。ソングライティングも演奏も歌声も三様で、このスタイルの幅広さを味わうことができました。

鳥井さきこさんはこの若さで、身の回りや別の街で起こったことを伝える吟遊詩人としてのフォークシンガーという役割を現代に継承しているひとりです。歌詞は叙事的な色彩が強く、心情をドラマチックに唄い上げるというよりも、出来事や感じたことを淡々と伝える。その歌詞と歌声はシンプルに研ぎ澄まされている。フラットな感触のなかにも、以前に増して解放感や柔らかさが加わり、聴き手の心により響くようになったと感じます。

今年に入ってライブの日は必ず雨が降るというちみんさん3月4月、今回とお会いするたびに髪が短くなり、ショートボブがよく似合っています。ソウルミュージックをベースにフォーキーなアジアンテイストを軽くまぶした旋律。派手さはなくてもチャレンジングでエレガントなギター。そしてすべての痛みや悲しみを内包し且つ、光に向かって手を差し伸べているようなあの歌声。真に美しい音楽を音楽そのものとして存在させる力を持つ人です。

小野一穂さん(画像)。成熟した大人のロックンロールをギターとハープと声で表現します。世界を切り取る視点が柔軟で優しく、苦しい状況や答えのない現実を唄うときでも、どこか楽観的な響きを帯びるのは、彼のあのすこしだけかすれた重層的で豊かな歌声のおかげでしょうか。繊細なアルペジオもゴリゴリとオーバードライブをかけたストロークも過剰になることなくコントロールされていて、それは一穂さんの育ちの良さを表しているように思えます。

僕は3人それぞれの呼び出しに詩を添えるような気持ちで朗読しました。鳥井さきこさんには宮沢賢治の「この森を通りぬければ」と自作の「離島/地下鉄を歩く」。ちみんさんに「雨期と雨のある記憶」。一穂さんには47年前のこの日が命日だったラングストン・ヒューズの「助言」「ブルース」「太鼓」を。

最後にみんなで英国トラッドの"The Water Is Wide"(鳥井さきこ訳詞)を演奏しました。鳥井さんのギター、ちみんさんと鳥井さんのボーカル、一穂さんのブルースハープ。僕も間奏にラングストン・ヒューズの「夢の番人」の朗読で参加しました。

あんなに激しく降った雨も終わる頃にはすっかり止んで、SEED SHIPを出たら、雲の切れ間に星が小さくまたたいていました。

次回のPoemusicaはもう来週。いおかゆうみさんを大阪から招いて、日曜のお昼に開催します。平日はなかなかね、っていう方も是非!

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Poemusica Vol.29
日時:2014年6月1日(日) Open 12:30 Start 12:50
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,300円(ドリンク代別)
出演: いおかゆうみ(大阪) *Music
      菅田紗江 *Music
      今泉沙友里 *Music
      カワグチタケシ *PoetryReading

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2014年5月4日日曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014 ②

今日もお天気。『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014』 2日目はピアノのプログラムを2つ聴きました。

■公演番号:231 ホールB5(カフカ) 11:00~ ブラームス16のワルツop.39シューマンの主題による変奏曲op.23ハンガリー舞曲第11番第21番
クレール・デゼール(ピアノ)、エマニュエル・シュトロッセ(ピアノ)

連弾というのは幸せな光景だなと思います。最前列のチケットが取れたのですが、ステージを囲みU字型に配置された客席の演奏家の真後ろで、1台のピアノに向って並ぶふたりの背中を眺める格好。これがよかった。ブラームスに連弾の曲が多いのは、クララ・シューマンの隣で弾きたかったからに違いない。ときおり触れるふたりの肩。男性ピアニストの右手と女性ピアニストの左手が交差するときに女性の脇下に男性の腕が通る。クララが中音域のスローで甘い旋律を弾くとブラームスにしなだれかかるように作曲されている。そんな発見がありました。しかも変奏曲の主題は彼女の夫の作品からという屈折。ブラームスってなんかかわいいな。

■公演番号:273 よみうりホール(ダ・ポンテ) 15:00~
ブラームス:3つの間奏曲op.117
シューマン交響的練習曲op.13
仲道郁代(ピアノ)

ビックカメラ有楽町店7階のよみうりホールは1957年竣工。曲線を活かしたスペイシーで昭和感溢れるたたずまいは新しいコンサートホールにはない味わいがあります。「3つの間奏曲」はブラームスのピアノ曲のなかで一番好きです。シューマンの夭折から30数年後、息子を亡くしたクララを慰めるために作曲されたララバイ。クラシックの演奏会としてはめずらしくMCが入り、ピアニスト自ら解説しました。ヒューマンエピソードだけでなく、和声の特徴と表現について演奏者としてしっかりとした考えを述べているのに好感を持ちました。

明日もフェスは続きますが、僕のLFJ2014はこれでおしまいです。今年も楽しませてもらいました。どうもありがとうございます。また来年会えますように。


2014年5月3日土曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014 ①

憲法記念日。9条! 東京メトロ有楽町線に乗って、有楽町東京国際フォーラムへ。GW恒例のクラシック音楽フェス "ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2014"。今年で10回目ということで、例年のようにひとつのテーマを設けていません。僕はベートーヴェンの室内楽、ブラームスとシューベルトのピアノ曲を選びました。

■公演番号:123 ホールB7(ゲーテ) 14:15~15:20 ベートーヴェン弦楽四重奏曲第11番ヘ短調op.95「セリオーソ」弦楽四重奏曲第7番ヘ長調op.59-1「ラズモフスキー第1番」
プラジャーク弦楽四重奏団

結成1972年、チェコのべテランカルテット。いぶし銀の技が光る。40年以上ずっといっしょに演奏しているだけあって、タイム感が完全に揃っています。室内楽を間近に聴くとメンバーのキャラクターや関係性が見えてきます。上機嫌なトム・ウェイツといった感じの風貌のチェロ奏者ミハル・カニュカ氏がムードメイカー。アクションも大きい。

■公演番号:184 よみうり大手町ホール(プルースト) 16:15~17:00
シューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調D960
アダム・ラムール(ピアノ)

今年3月に完成したばかりの新しいホールです。アダム・ラムール氏は猫背のイケメン。アーティキュレーションが独特で、その演奏姿勢と相俟って、グレン・グールドを思わせます。遺作ソナタを弾くにはまだ若いなあ、と思いましたが、シューベルトって31歳で亡くなってるんですよね。いまのラムール氏とほとんど変わらないんじゃないでしょうか。

■公演番号:137 ホールB5(カフカ) 21:30~22:45
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調op.59-2「ラズモフスキー第2番」弦楽四重奏曲第10番変ホ長調op.74「ハープ」
プラジャーク弦楽四重奏団

交響曲やピアノソナタみたいにキャッチーなサビがないためとっつきにくい印象のベートーヴェンの弦楽四重奏曲ですが、視覚的な面白さもあるので是非ライブで観てもらえたらと思います。サッカーで言ったらディフェンダーのマークの受け渡しとか、ダイレクトパスをつないでゴール前に迫るとか、そんな感じのやりとりが随所にあります。そして、響いてくる音楽は間違いなく美しい。

明日はブラームスの日です。それではまた、ごきげんよう。