2022年2月26日土曜日

3K13 ~A POETRY READING MEETS 3K~

春の陽気。白山の名店JAZZ喫茶映画館にて3K13 ~A POETRY READING MEETS 3K~を開催しました。

新規感染者数は減少傾向にあるもののまだ予断を許さないなか、お越しくださいましたお客様、会場を提供してくださった映画館さん、どうもありがとうございます。おかげさまで良いライブになりました。

2000年に始め、途中12年のブランクを挟んで2018年に再開した、究極Q太郎(画像)、小森岳史、カワグチタケシの13回目の3Kは、帰る場所でありながら、数年ぶりに帰るとなんとも言えない気持ちになる、実家のような存在だと思います。

「人間は変わらないな」と小森さんがMCで言っていました。その通りでもあり、なくもあり。ただ、Qさんも小森さんも詩人として100%信頼に足る、その点は変わりません。両者とも新作の長編詩が素晴らしかった。小森さんのガルシア・ロルカ、Qさんのナボコフルー・リード、カバー朗読にもふたりの良さが出ていました。

僕のセットリストを記録しておきます。

2. 草上の昼食Janis Joplinに(新作)
4. 夜警Billie Eilishに(改題)
5. ダスティン・ホフマン(小森岳史)
6. ソラ アリマス(究極Q太郎)
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昨年末の「クリスマスの翌日に」につづき、制作中の連作詩「過去の歌姫たちの亡霊」からあらたに二篇披露しました。"それぞれが大切にしているであろうモノが美しくことばになった印象" といううれしいコメントを音楽をやっている友人からもらいました。終演後にビリー・ホリデイのレコードをかけてくれたマスター、ありがとうございます。

Qさんの「ソラ アリマス」は路地への視線がチャーミングでシンプルに好きな詩。今回のイベントフライヤーの写真をご提供いただいたますだいっこうさんの詩作品もご紹介しました。小森さんの「ダスティン・ホフマン」は記憶と対立について考察する散文詩。「個は対がなければ認識できない。国家が他の国家を通してでないと国家として存在できないように」という一節があり、今日読むべき詩として選びました。

また、クラマトルスク、ボリスピル、チュグエフ、ハリコフ、スムイ、マリウボリ、オデッサ、チェルノブイリ、キエフ。ロシア軍の攻撃を受けたと報道されているウクライナの地名を「虹」のコーダに織り込みました。

土地には固有の名称があり、ひとりひとりの暮らしがあります。動物も植物も鉱物も同じです。地名を声に出すこと、その声を聴き何かを感じてもらうこと、それも詩人の仕事だと僕は考えます。

 

2022年2月13日日曜日

ちょっと思い出しただけ

暖冬の一日。テアトル新宿にて松居大悟監督作品『ちょっと思い出しただけ』を鑑賞しました。

2020年7月26日、劇場の照明スタッフ照生(池松壮亮)は自室のソファで、スマートフォンのアラームで目を覚まし、観葉植物に霧吹き、猫に餌をあげて、ラジオのスイッチを入れ、ベランダで肩と腕をストレッチし、マスクをして仕事に出かける。

タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)は今日もJPN TAXIで都内を流している。この日最後の客はコロナでライブが中止になったミュージシャン(尾崎世界観)。トイレを借りるために停めた座・高円寺の公演が捌けた舞台で照生が踊っている。

次の朝が来ると2019年7月26日。照生はマスクをつけておらず、葉はクラウンに乗っている。7月26日は照生の誕生日。2020年からふたりが出会った2015年まで、時を遡るかたちで6年間の同じ7月26日を描く逆ボーイミーツガールストーリーです。

男女が出会い、恋に落ち、関係を深め、すれ違い、別れ、それぞれの人生を歩む。ふたりを取り囲む人たちは基本的に善良で、ふたりの関係に深い傷を与えることはない。映画が進むにつれ猫は子猫になる(かわいい)。大きな事件は起きませんが、ひねりのある構成が観客に投げかける問いがあります。

日常における感情の機微をリアルにナチュラルに演じる主人公ふたりのお芝居が素晴らしいです。演出も丁寧過ぎず、ほどよく客観的、俯瞰的。クスっと笑えるシーンも多く。あらかじめ苦い結末が知らされているが故に過去がより輝く。

エンドロールに流れるクリープハイプのスポークンワーズ曲「ナイトオンザプラネット」の歌詞が映画の筋のままだな、と思ったのですが逆で、楽曲にインスパイアされた物語なんですね。更に元ネタになっている1991年のジム・ジャームッシュ作品の台詞の引用もあり、ブラウン管には若き日のウィノナ・ライダージーナ・ローランズ永瀬正敏のサイドストーリーもオマージュといっていいと思います。

「どこか行きたいけど、どこに行ったらいいかわからないじゃないですか。お客さんに決めてもらっていろんなところに行けるのがいいんですよね」という葉の台詞に喪失感と小さな希望を同時に感じました。

 

2022年2月12日土曜日

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ


1957年合衆国NY市。白人女性ジャーナリストから「黒人でいる気分は?」と訊かれたビリー・ホリデイアンドラ・デイ)は「ドリス・デイにも同じ質問できるの?」と答える。

さかのぼること10年。1947年マンハッタンのジャズ・クラブ「カフェ・ソサエティ」の専属歌手となった32歳のビリーは、米国南部の人種差別リンチ殺人を告発する楽曲「奇妙な果実」により、全米で盛り上がりを見せる公民権運動を扇動しているとみなされFBIにマークされていた。

映画のなかでビリーは麻薬不法所持容疑で4度逮捕されます。1度目はガチ。執行猶予のつかない13ヶ月の懲役刑。ビリーの恋人でもあった白人女優タルラ・バンクヘッドナターシャ・リオン)の尽力で刑期は短縮される。2度目は仕組まれた罠。違法収集証拠により不起訴を勝ち取ります。3度目はコメディ。4度目は純粋にスケープゴートとして。

社会活動家があらゆる面で清廉潔白である必要はない。が、大衆はそれを求める。故に、スキャンダルの標的になりやすく、FBIもそこを突きたい。黒人初の連邦捜査官となったジミー・フレッチャー(トレバンテ・ローズ)は黒人社会から裏切り者と目されているが、ドラッグがブラックカルチャーを崩壊させるのをなんとか回避させたいと考えている。ビリーのツアーバスを追尾するうち、バンドメンバーとも打ち解け、やがてビリーと恋仲になる。

全米ツアーの途中で草むらで小用を足そうとしたビリーが、リンチに遭い木に吊るされた黒人男性と泣き喚く家族に出会う描写がありますが、彼女は本質的にアクティヴィストであったのか、という疑問を僕は持っています。作品中で本人が語っているように、彼女のレパートリーは甘美でほろ苦いラブソングばかり、プロテストソングは「奇妙な果実」のみです。

ビリーに「プレズ(大統領・社長)」と名付けられ、音楽面で支え続けたレスター・ヤングテイラー・ウィリアムズ)の包容力が泣かせます。ビリー・ホリデイというプレッシャーのかかる役柄を圧倒的歌唱力でねじ伏せたアンドラ・デイはお見事。「奇妙な果実」より"All Of Me" が、劇伴含め耳に残ります。

 

2022年2月11日金曜日

ザ・ビートルズ Get Back:ルーフトップ・コンサート


1969年1月30日の朝、ロンドンのサヴィルロウ街にあるアップルレコード本社の屋上で行われたザ・ビートルズのゲリラ演奏はバンドとして最後のライブパフォーマンスになった。

もともとは1970年公開の映画『レット・イット・ビー』(マイケル・リンゼイ=ホッグ監督)のための撮影であったが、昨秋Disney+で公開された8時間のドキュメンタリー配信番組『ザ・ビートルズ:Get Back』のためにピーター・ジャクソン監督が再構成、デジタルリマスターした。その一部であるルーフトップ・コンサート部分がIMAXシアターで5日間限定上映されるということで、早起きして観に行きました。

約60分の映画の冒頭15分はヒストリー紹介です。1956年に当時16歳のジョン・レノンが15歳のポール・マッカートニーを誘ってザ・クオリーメンを結成、14歳のジョージ・ハリスンが参加し、ザ・ビートルズになり、地元リバプール最高のドラマーリンゴ・スターが加わる。独ハンブルグ時代、1963年のレコードデビュー、世界的成功、1966年のツアー休止、レコーディングアーティストとして芸術性と名声を同時に極める。

ルーフトップコンサートの本編で演奏されるのは"Get Back" "Don't Let Me Down" "I've Got a Feeling" "One After 909" "Dig a Pony"の5曲で、"Get Back"は3回、"Don't Let Me Down"と"I've Got a Feeling"は2回繰り替えされます。

僕自身は、物心ついたときには既にバンドは解散していましたし、オリジナルアルバムは一通り聴いて、好きな曲がいくつもありますが、"Let It Be" はさほど愛聴するアルバムではなく、"Get Back" のギターソロってジョージじゃなくてジョンが弾いていたのね、とこの映画で知る程度のライトなファンです。

IMAXの大画面、高音質の大音量で聴くザ・ビートルズの4人とエレピのビリー・プレストンの演奏にはフレッシュな弾力性があり、この頃って不仲で一触即発なんじゃなかったっけ、というぐらいバンド演奏の楽しさに溢れている。レッド・ツェッペリンキング・クリムゾンも既にデビューしていた1969年におけるロックンロールの在り方という問いに対する彼らなりの答えがそこにあるように感じました。

騒音の苦情を受けてロンドン市警の制服警察官2名が制止に来ます。まだ頬の赤い若い警官のなんともいえない表情が印象的です。ビートルズの音楽が好きな気持ちと公務を果たさねばならない責任との間で葛藤しているように僕には思えます。

映画撮影時、ジョン・レノンとリンゴ・スターが28歳、ポール・マッカートニー26歳、ジョージ・ハリスン25歳。同時に撮影されたアルバム "Let It Be" のジャケットの顔写真はどう見てもアラフォー以上です。ザ・ビートルズの7年間が良くも悪くもどれだけ濃密な時間だったのか、思いを馳せずにはいられませんでした。

 

2022年2月6日日曜日

鹿の王 ユナと約束の旅

日曜日。ユナイテッドシネマ豊洲にて安藤雅司宮地昌幸監督作品『鹿の王 ユナと約束の旅』を観ました。

強大な軍事力によって東乎瑠(ツオル)帝国に併合された隣国アカファ王国。飛鹿(ピュイカ)を操る最強部隊「独角」の頭ヴァン(堤真一)は、妻子を伝染病で失い、捕虜となって地下の岩塩坑で強制労働に従事していた。

山犬の群れが岩塩坑を襲い、噛まれた者は黒狼熱(ミツツァル)で命を落としたが、独房に入れられていたヴァンと孤児ユナ(木村日翠)だけが生き残り、ピュイカに乗って逃走する。

その噂を聞いた若き医術師ホッサル(竹内涼真)は生き残った二人が黒狼熱の抗体を持っていると仮説する。ツオルが雇ったプロの追跡者サエ()とともにヴァンとユナを探す旅に出る。

2015年の本屋大賞を受賞した上橋菜穂子長編ファンタジー小説のアニメ化はコロナ禍により完成が約半年遅れ、結果的に現実世界の感染症拡大と物語が一部リンクするようなことになりました。文庫本4巻、1000ページ超の物語を2時間の尺に収めたことで、上橋作品の特徴のひとつでもあるディテールはどうしても失われてしまう。なかでも美味しそうなことこの上ない架空の料理と食事シーンの割愛は残念です。オタワル深学院院長トマソルやサエの父で跡追い狩人の頭マルジも登場しません。

原作未読だと、ファンタジー世界の架空の国名、地名、組織、職業など、一聴して耳慣れない言葉が多くあると思われますが、物語のコアは失われていない。僕は2013~2015年頃、小説といえば上橋菜穂子しか読んでいなかった時期があり、詩集『ultramarine』(2015)のエピグラフに引用した程です。

実力のあるアニメーターを多く起用した作画は人物描写も動物たちも風景描写も素晴らしく、秋から冬、そして春へと移り変わる季節を富貴晴美の荘厳な劇伴に乗せて美しく表現しています。声優陣では竹内涼真が予想外に上手でした。

 

2022年2月1日火曜日

ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ


英国ウェールズの農村モンマス、1963年。牧場主の息子、チャールズとキングスリーのウォード兄弟はバンドを結成し、自宅でレコーディングする。録音したテープとオープンリールデッキを持って意気揚々とロンドンのEMIのオフィスを訪ねるが、ジョージ・マーティンにデビューを断られる。レコード会社が出してくれないのなら、自分たちでを作ればいい。これが発端。DIY。

父親の所有する広大な農園の家屋のひとつをレコーディングスタジオに改造する。壁の吸音材は豚の飼料の麻袋。はじめは地元の音楽仲間の練習や録音をしていたが、レスター出身のプログレバンドSPRINGが居候のように長逗留したことで、滞在型録音スタジオという従来になかったモデルに商機を見出す。

ブラック・サバスホークウィンドモーターヘッドクイーン、1970年代の名盤たちがロック・フィールドで生まれた。都会の喧騒とレコード会社の干渉から離れ、音楽制作に集中できる環境。ドラッグもやりたい放題。養豚と酪農を継続していて和む。家族経営のアットホームなおもてなしで評価を得て、本格的なマルチトラック施設を2部屋に増設。豚舎をリバーブルームに改造した。

1980年代はエレクトロポップの流行により、経営は若干下り坂だったが、1stアルバムの制作をロンドンから移したスコットランドの片田舎出身のシンプル・マインズが向かいのスタジオを覗きに行ったらイギー・ポップが "SOLDIER" のレコーディング中、全身赤でキメたデイヴィッド・ボウイがハイネケンと巨大なチーズを持って登場し、その場のノリでシンプルマインズがイギーのバックコーラスをすることになったり。

ロックフィールドが隆盛を極めた1990年代、経営者兄弟はBMWに乗っていました。ロックフィールドに来て3年間何もしていないらしい、と聞いた地元マンチェスターの先輩ザ・ストーン・ローゼズを"Wonderwall" 制作中のオアシスリアム・ギャラガーが訪ねるエピソード。ブー・ラドリーズザ・シャーラタンズなど、1997年のUKアルバム年間トップ10のうち7枚がロック・フィールドで制作されたという。1970年生まれのベリーマン監督はこのあたりがリアルタイム世代なのでしょう。プロデューサーのジョン・レッキーにも尺が割かれています。

現在は乳牛の世話をしながら、録音スタジオと並行して、貸別荘とワークショップの事業展開もしているとのこと。85分というコンパクトなフィルムに各世代のブリティッシュロックのレジェンドが次から次へと登場しますが、主役はスタジオとウォード一家です。1987年に兄弟が袂を分かち、隣接する農園に兄チャールズが別のスタジオを新設する。映画では「考え方の違い」というキングスリーのコメントのみ。どんな確執があったのか聞いてみたかった。

酒とドラッグの武勇伝に事欠かない過去のロックスターたちと比べると、しんがりを務めるColdplayはクリーンでスマートでロマンチック。ホームビデオが普及する1980年代以前のスタジオ映像はほぼ静止画ですが、切り絵のアニメーションがチャーミングに補完しています。ロックフィールド発で初のNo1ヒットで且つ現代では忘れ去られているACEの "How Long?" がエンドロールというのもアツい。この映画を観るまでアメリカのバンドだと思っていました。