雨のウェンズデイ。表参道ブラジル料理の名店PRACA11(プラッサオンゼ)へ。先月下北沢SEED SHIPのPoemusica Vol.26で共演したちみんさんのワンマンライブを聴きに行きました。
Poemusicaではギター弾き語りでしたが、この日は、ピアノ野本晴美さん、フィドル大久保真奈さん(John John Festival)、パーカッションokyonさん(ex.musey etc..) という女子4人編成。雨の歌からはじまりました。ときおり弾き語りをはさんで、2ステージ、約2時間で16曲をゆったりと演奏します。
ちみんさんの歌声は、温かみがあって、正確で、おだやかなのに、力強い。それは豊かに耕された牧草地のよう。なのになぜだろう、その向こう側に時折風の吹きすさぶ荒涼とした地平を僕は見てしまうのです。それは彼女が通ってきた道なのでしょうか。
たとえば「茶の味」というマイナースウィングでは「私はきれいな手でお茶を淹れる」と歌います。ここだけ聴けば何気ない歌詞なのですが、彼女のエモーショナルな声に乗ると、きれいに洗う前のその手はどれだけ汚れていたのだろう、なぜ汚れたのだろう、泥? 血? と際限なくイマジネーションを喚起させられるのです。
そんなふうに美しく鋭利な断面を持つ音楽を、一夜限りのバンドメンバーがやわらかな空気で包んで、丁寧に客席に差し出していました。特にokyonさんのパーカッションがすごかった。確信犯的にエッジを排除した不規則さでかすかなアクセントを刻む。ゆるふわグルーヴ。音楽の芯を掴むっていうのはこういうことなんだな、と思いました。
ちみんさんがひとりで弾き語りしたフィッシュマンズのカバー曲も、シンプルな旋律の良さを引き出す見事な手腕に感心しました。
5月22日に下北沢SEED SHIPで開催されるPoemusica Vol.28に、ちみんさんの出演が決まっています。この日は再び弾き語りで。その歌声が僕のなかにどんな景色を映し出すのか。とても楽しみです。
2014年4月30日水曜日
2014年4月29日火曜日
そこのみにて光輝く
昭和の日。ヒューマントラストシネマ有楽町で、故・佐藤泰志原作、呉美保監督映画『そこのみにて光輝く』を観ました。上映後、ゴールデンウィークで浮き足立つ街に出たときに感じるスクリーンとの温度差にめまいを覚える。
真夏の函館。採石場の爆破事故で部下を亡くし無為な生活を送る佐藤達夫(綾野剛)は、パチンコ屋でライターを貸したことがきっかけで、仮釈放中の陽気なヤンキー拓児(菅田将暉)と知り合う。拓児が家族と暮らす海辺のバラックで出会った姉の千夏(池脇千鶴)は安い娼婦だった。
救いのない物語。拓児と千夏と両親が暮らす家の物干し竿には洗濯物のとなりにコンブが干してある。貧困とセックスと暴力。負のスパイラルから抜け出すことを諦めかけた者たちが関わることで生まれる衝突。
スクリーンの中に何か「救い」を見出そうと無意識のうちに目を凝らしてしまう。拓児が育てる小さな花鉢は山で抜いてきたホタルブクロ。真夏なのに咲き誇る紫陽花のブルー。そして達夫の部屋にある十数冊の文庫本とCDプレーヤー。そこに本と音楽があるということ。夜明けの光り。
この映画に描かれたようなぎりぎりの生活を送っている人たちはおそらく、この映画を観ないし原作小説も読まないでしょう。観るとしたらもっと豊かな暮らしを描いたハリウッド映画に違いない。その事実と矛盾を自分のなかで消化するすべをいまの僕は持っていません。
呉美保監督の前作長編『オカンの嫁入り』は僕には残念でしたが、この映画ではリアルで重厚で緊張感の途切れない見事な演出をしています。そして主役の3人が素晴らしい。草を食むキリンのようにうなだれた綾野剛の首筋、池脇千鶴の背中と二の腕のたっぷり感、菅田将暉の笑顔の明るさ。絶望的な環境にあってもかすかな品を失わない役者の肉体に希望を見つけました。
真夏の函館。採石場の爆破事故で部下を亡くし無為な生活を送る佐藤達夫(綾野剛)は、パチンコ屋でライターを貸したことがきっかけで、仮釈放中の陽気なヤンキー拓児(菅田将暉)と知り合う。拓児が家族と暮らす海辺のバラックで出会った姉の千夏(池脇千鶴)は安い娼婦だった。
救いのない物語。拓児と千夏と両親が暮らす家の物干し竿には洗濯物のとなりにコンブが干してある。貧困とセックスと暴力。負のスパイラルから抜け出すことを諦めかけた者たちが関わることで生まれる衝突。
スクリーンの中に何か「救い」を見出そうと無意識のうちに目を凝らしてしまう。拓児が育てる小さな花鉢は山で抜いてきたホタルブクロ。真夏なのに咲き誇る紫陽花のブルー。そして達夫の部屋にある十数冊の文庫本とCDプレーヤー。そこに本と音楽があるということ。夜明けの光り。
この映画に描かれたようなぎりぎりの生活を送っている人たちはおそらく、この映画を観ないし原作小説も読まないでしょう。観るとしたらもっと豊かな暮らしを描いたハリウッド映画に違いない。その事実と矛盾を自分のなかで消化するすべをいまの僕は持っていません。
呉美保監督の前作長編『オカンの嫁入り』は僕には残念でしたが、この映画ではリアルで重厚で緊張感の途切れない見事な演出をしています。そして主役の3人が素晴らしい。草を食むキリンのようにうなだれた綾野剛の首筋、池脇千鶴の背中と二の腕のたっぷり感、菅田将暉の笑顔の明るさ。絶望的な環境にあってもかすかな品を失わない役者の肉体に希望を見つけました。
2014年4月17日木曜日
Poemusica Vol.27
若葉の頃。よく晴れて気温が上がった木曜日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusica Vol.27が開催されました。
古川麦くんは昨年9月のVol.21以来、二度目のPoemusica出演です。ガットギターの演奏技術が確かで、オリジナル曲のちょっと面白い和声進行も小刻みで複雑なパッセージも几帳面に弾きこなすのですが、歌声には青さと成熟が同居している。その絶妙なバランス。音楽そのものにスピード感とグルーヴがあるから飽きさせない。「音楽は風みたいなもの」と語っていたのが印象的でした。
朝香智子さん。普段は自身のバンドINUUNIQやソロミュージシャンのサポートピアニストとして活躍していますが、今回はレアなソロ演奏で。スケール感のある演奏で、かつ一音一音の粒立ちがくっきり聞こえます。ヒグチアイさんとの共作曲を歌ってくださいました。ヒグチさんのシャープな切れ味とは違う柔らかい声で、曲本来の持つ繊細な優しさが全面に出ていました。ボーカルが本業じゃない人の唄う歌の良さです。そこに初期衝動を聴くからでしょうか。
ここ数年よくライブに行ったり、銀ノラやアサノラでお世話になっているので、僕はひさしぶりな感じがしませんが、ノラオンナさんがPoemusicaに出演するのは2012年3月以来。冒頭、僕の詩「風のたどりつく先」を朗読してくださいました。この詩は2012年秋に開催されたアカリノートさんの企画ライブ「あのかぜのゆくえ」のために書き下ろした作品です。ぐっときました。いつも変わらぬ集中した演奏で、今夜ならではの風を届けてくれました。
最後はアカリノートさん(画像)がにぎやかに、そしてしっとりと締めました。彼と僕の共作曲がふたつあります。「メロディ・フェア」はアカリノートソロ演奏で。「風の生まれる場所」には僕も参加させてもらいました。この歌と「風のたどりつく先」と三部作として書いた「風の通り道」の一部も間奏に乗せて朗読しました。腰まで伸びた髪を去年切ってさっぱりした見た目になりましたが、声はますます届くようになったように思います。
僕はそれ以外には「ホームカミング」、宮沢賢治の「告別」、そしてビージーズの「メロディ・フェア」について書いたショートストーリー「希望について」を朗読しました。全体を通して、何本かの糸がからまったりほどけたりしながら風になびいているような、そんなライブになりました。
次回のPoemusicaは5月22日(木)。ポエジー溢れる夜になるのは必至。
是非いらしてください!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Poemusica Vol.28
日時:2014年5月22日(木) Open 19:00 Start 19:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,300円(ドリンク代別)
出演:小野一穂 *Music
ちみん *Music
鳥井さきこ *Music
カワグチタケシ *PoetryReading
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古川麦くんは昨年9月のVol.21以来、二度目のPoemusica出演です。ガットギターの演奏技術が確かで、オリジナル曲のちょっと面白い和声進行も小刻みで複雑なパッセージも几帳面に弾きこなすのですが、歌声には青さと成熟が同居している。その絶妙なバランス。音楽そのものにスピード感とグルーヴがあるから飽きさせない。「音楽は風みたいなもの」と語っていたのが印象的でした。
朝香智子さん。普段は自身のバンドINUUNIQやソロミュージシャンのサポートピアニストとして活躍していますが、今回はレアなソロ演奏で。スケール感のある演奏で、かつ一音一音の粒立ちがくっきり聞こえます。ヒグチアイさんとの共作曲を歌ってくださいました。ヒグチさんのシャープな切れ味とは違う柔らかい声で、曲本来の持つ繊細な優しさが全面に出ていました。ボーカルが本業じゃない人の唄う歌の良さです。そこに初期衝動を聴くからでしょうか。
ここ数年よくライブに行ったり、銀ノラやアサノラでお世話になっているので、僕はひさしぶりな感じがしませんが、ノラオンナさんがPoemusicaに出演するのは2012年3月以来。冒頭、僕の詩「風のたどりつく先」を朗読してくださいました。この詩は2012年秋に開催されたアカリノートさんの企画ライブ「あのかぜのゆくえ」のために書き下ろした作品です。ぐっときました。いつも変わらぬ集中した演奏で、今夜ならではの風を届けてくれました。
最後はアカリノートさん(画像)がにぎやかに、そしてしっとりと締めました。彼と僕の共作曲がふたつあります。「メロディ・フェア」はアカリノートソロ演奏で。「風の生まれる場所」には僕も参加させてもらいました。この歌と「風のたどりつく先」と三部作として書いた「風の通り道」の一部も間奏に乗せて朗読しました。腰まで伸びた髪を去年切ってさっぱりした見た目になりましたが、声はますます届くようになったように思います。
僕はそれ以外には「ホームカミング」、宮沢賢治の「告別」、そしてビージーズの「メロディ・フェア」について書いたショートストーリー「希望について」を朗読しました。全体を通して、何本かの糸がからまったりほどけたりしながら風になびいているような、そんなライブになりました。
次回のPoemusicaは5月22日(木)。ポエジー溢れる夜になるのは必至。
是非いらしてください!
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Poemusica Vol.28
日時:2014年5月22日(木) Open 19:00 Start 19:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
yoyaku@seed-ship.com
料金:予約・当日2,300円(ドリンク代別)
出演:小野一穂 *Music
ちみん *Music
鳥井さきこ *Music
カワグチタケシ *PoetryReading
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2014年4月11日金曜日
その形から飛び出せ
葉桜の候。吉祥寺MANDA-LA2で開催されたmueさんの活動13年記念感謝祭ワンマンライブ『その形から飛び出せ』に行きました。
ステージに近い席で聴きました。ループマシンを導入した1曲目の途中からmueさんは尋常でない発汗で、大丈夫かな、と思っていました。案の定体調最悪とのこと。そして3曲目では機材トラブルでPAからギターの音が出ない。
満員の観客を前にして、普通ならパニックになりそうなところを逆に、客席の一体感を作ることに向ける。それも言葉ではなく、音楽で。愛らしい容姿からは想像がつかない度量の大きさを感じました。
mueさんの音楽を言葉で説明するのは難しい。オリジナル曲ではオープンチューニングのギターをガシガシ弾くかと思えば、アンコールで披露された「トレイントレイン」のカバーのサビのベースラインなんか複雑過ぎてどうなっているのか何度聴いてもわからない。それに象徴されるように、多面的でエッジの深い構造を持つ音楽でありながら、シンプルで無理のない旋律とあの温かくて柔らかい歌声ですべてを心地良く包み込んでしまう。
ステージ後半の「ジャンピングジャックフラッシュ」「サティスファクション」「悪魔を憐れむ歌」「無常の世界」と続くストーンズメドレーで完全に流れを掴んで、そこから2曲のアンコールまで、冒頭のアクシデントなど微塵も感じさせない見事な演奏でした。
昨年同日のワンマンライブは、ドラムス、ベース、チェロが入ったカルテット編成でしたが、今年は2時間、全曲をmueさんひとりで演り切りました。確かに舞台の上には小柄な女の子がひとりいるだけですが、実は、PAやモギリやキッチンスタッフや、もちろんわれわれ観客たちも、みんなでひとつの大きな音楽を奏でていたのではないでしょうか。
ステージに近い席で聴きました。ループマシンを導入した1曲目の途中からmueさんは尋常でない発汗で、大丈夫かな、と思っていました。案の定体調最悪とのこと。そして3曲目では機材トラブルでPAからギターの音が出ない。
満員の観客を前にして、普通ならパニックになりそうなところを逆に、客席の一体感を作ることに向ける。それも言葉ではなく、音楽で。愛らしい容姿からは想像がつかない度量の大きさを感じました。
mueさんの音楽を言葉で説明するのは難しい。オリジナル曲ではオープンチューニングのギターをガシガシ弾くかと思えば、アンコールで披露された「トレイントレイン」のカバーのサビのベースラインなんか複雑過ぎてどうなっているのか何度聴いてもわからない。それに象徴されるように、多面的でエッジの深い構造を持つ音楽でありながら、シンプルで無理のない旋律とあの温かくて柔らかい歌声ですべてを心地良く包み込んでしまう。
ステージ後半の「ジャンピングジャックフラッシュ」「サティスファクション」「悪魔を憐れむ歌」「無常の世界」と続くストーンズメドレーで完全に流れを掴んで、そこから2曲のアンコールまで、冒頭のアクシデントなど微塵も感じさせない見事な演奏でした。
昨年同日のワンマンライブは、ドラムス、ベース、チェロが入ったカルテット編成でしたが、今年は2時間、全曲をmueさんひとりで演り切りました。確かに舞台の上には小柄な女の子がひとりいるだけですが、実は、PAやモギリやキッチンスタッフや、もちろんわれわれ観客たちも、みんなでひとつの大きな音楽を奏でていたのではないでしょうか。
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