2019年8月31日土曜日

The Last Day Of Our Vacation

8月最後の日。白山JAZZ喫茶映画館にて「ノラオンナ小夜 The Last Day Of Our Vacation」を主催しました。

6月8日の夕暮れ時、BOOKWORM at Viscum Flower Studio が終わって、御徒町で乗り換えをしようとしていたとき、ノラさんからメッセージを受信しました。映画館さんに日程を伺ってみたところ、8月31日が可能とのこと。加えて絹子ママに「なら小夜ちゃんと一緒にどう?」とご提案をいただきました。

夏が大好きで、梅雨が明けた途端にもう夏の終わりが近づくのが悲しくなってしまうという小夜さん。夏休み最後の日にこれ以上ない組み合わせです。

ライブは通常のツーマンとはすこし異なる構成に。まずノラさんがジョージ・ガーシュインの "Summertime" のスキャットで静かに会場の空気を揺らします。朗読作品「詩集『君へ』」から「ばらあどばあさん」へのつなぎが序盤のハイライトでした。

そして小夜さん。夏が好きすぎて夏の終わりの詩が書けない、と言う。夏へのつぎつぎに扉を開いていく19篇の美しい断章。この長編詩の朗読を聴くのは十数年ぶり。門前仲町の交差点に籠もった暑熱を思い出しました。「放課後のあとの即興詩」の前のめりな焦燥感。ノラさんの「こくはく」の歌詞の朗読は、軽快なボッサのリズムで歌われる大人の恋の機微とは異なる少女の切実な感情が前面に出ます。

つづくパートの冒頭で歌われた当初セットリストになかったはずのノラさんの「こくはく」オリジナルバージョンとの対比も鮮やかです。

最後はノラさんのウクレレ弾き語りアルバム『めばえ』の(ほぼ)全曲演奏。主題と変奏を繰り返し、聖と俗とを往き来しながら、崇高な場所を指していくさまに、ジャズ喫茶での演奏にもかかわらず僕は J.S.バッハの『インベンションとシンフォニア』を思い出していました。

経験上、音楽とポエトリーの組み合わせは観客の求めるものの違いからか意外に難しいものだと感じていますが、アンケートでは好意的なご意見を多数いただきました。つきすぎずはなれすぎず、ちょうどいい関係性が提示できたのは、タイトルの "Our" Vacationに込めたように、出演者がたがいの作品とパフォーマンスをリスペクトしているからだと思います。暑いなかご来場のお客様、映画館さん、ノラさん、小夜ちゃん、素敵な夏の思い出をありがとうございました。

 

2019年8月18日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート


大潮の真夏日。郊外私鉄の明るい駅に降りる。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサート mayulucaさんの回に行きました。

バスの運転手さんに語りかける「出発」は、ライブの序盤に歌われることの多い曲です。運転手さんの答えは「どこかには行くだろうね」。その楽観的な声色とは裏腹に歌の主人公は知らない街に連れて行かれることに怯えている。と同時にかすかに期待もしている。

張り替えたばかりのスチール弦のブライトな響き。インテンポで安定感のあるギターに乗せて呼吸のように無理のない発声で歌われる微細な感情の揺れ。形容詞と別の形容詞のはざまに落ちた感情を掬い上げます。

「花ヲ見ル」「ほんとうのこと」「ひかりの時間」1stアルバムの収録曲が続き、祈り、聖性、アンセムというキーワードが脳内に浮かんでは消える。「きこえる」「熱風」「月の下 ぼくはベランダに」など、続く2ndアルバムのターンでは「温度を上げる曲を」と言っても、外見的には低体温で声を張ることもなく淡々と進んでいく。最新の3rdアルバムからは「彼と彼女のそれぞれ」「幸福の花びら」の2曲。「いろんな人がいろんな場所でひとりひとり何かをしている」というMCはマユルカさんのアティテュードそのものを表しているように思えました。

60分11曲というコンパクトながら、マユルカとしてのキャリアを振り返るクロニクルなセットリストでした。最近は俳優の西田夏奈子さんとのデュオ演奏聴く機会が続いていたのですが、ひさしぶりの完全ソロはまた別の淡い単彩の素描画のような味わいがあります。

8月、真夏のノラバー弁当は麻婆茄子ととうもろこしごはんがメイン。店主ノラオンナさんの手料理はいつも美味しく、ヤイヤー!と夜は更けてゆくのです。

9月、秋分の日の前日に、池ノ上の名店ボブテイルさんで、マユルカさん、西田夏奈子さんと共演します。ご都合つきましたら是非いらしてください。

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マユルカとカナコとタケシ

日曜昼下がりの地下
季節はずれの花
日常と非日常の間で
音楽と朗読がこっそりたゆたう
マユルカの音楽
西田夏奈子の声とヴァイオリン
カワグチタケシのポエトリーリーディング
90分のスペシャルライブです

2019年9月22日(日)
14:00open 14:30start
2000円 +DRINK ORDER

池ノ上ボブテイル
世田谷区代沢2-45-9 飛田ビルB1
https://ikenouebobtail.jimdo.com/
※ライブ終了後は通常カフェ営業になります。
   
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2019年8月14日水曜日

田園の守り人たち

にわか雨の真夏日。神保町岩波ホールグザヴィエ・ボーヴォア監督作品『田園の守り人たち』を鑑賞しました。

ガスマスクを装着したドイツ兵の夥しい死体が戦闘後の湿地帯に転がる俯瞰ショットで映画は幕を開ける。

1915年、第一次世界大戦下の北フランスの農村。寡婦オルタンス(ナタリー・バイ)の二人の息子コンスタンス(ニコラ・ジロー)とジョルジュ(シリル・デクール)、娘ソランジュ(ローラ・スメット)の夫クロヴィス(オリビエ・ラブルダン)は西部戦線に出征中。母娘で守る広大な小麦畑に期間契約で雇われた20歳のフランシーヌ(イリス・ブリー)がやってくる。

男たちは立ち替わり自宅に帰り、ひとときの休暇を過ごす。長男コンスタンスは小学校教師。ひさしぶりの訪れた勤務先で女性同僚教師が児童に朗唱させる「ドイツ野郎」を罵倒する詩に表情を曇らせる。次男ジョルジュは戦場に戻ってからもフランシーヌと文通で愛を深める。娘婿クロヴィスはどこか横暴な性格に変わってしまった。

女たちも不安定な感情を抱えきれないでいる。ソランジュはアメリカ兵に抱かれ、オルタンスは心から信頼していたフランシーヌを子供たちと家族の名誉のために切り捨てる。悲劇が重なるが、それでも種子は蒔かれ、麦の穂が刈り取られる。

フランス陸軍の空色の制服、女たちのインディゴ染めの野良着のブルーが美しい田園風景のなかでとてもよく映えます。

音楽は先頃亡くなったミシェル・ルグラン。『シェルブールの雨傘』のように映画全編を覆うものではなく、フランシーヌの運命の節目節目にポイントを絞って甘美な旋律と魅惑のオーケストレーションが寄り添う、ミニマルながら非常に効果的な扱いです。