2013年1月26日土曜日

東京家族

小春日和の土曜日。ユナイテッドシネマ豊洲で、山田洋次監督作品『東京家族』を鑑賞しました。小津安二郎監督(1903-1963)の代表作である世界的な名作映画『東京物語』(1953)の舞台を現代に移してリメイク。

原作の5人兄弟は3人兄弟に置き換えられ、次男も当然のことながら戦死していませんが、カメラワークや美術など、細部にわたって小津作品へのリスペクトに溢れた丁寧なつくりです。

特に小津映画の特徴もいえる台詞回しは、前の声に次の登場人物の声がけっして重ならないように細心の注意が払われており、また、カメラはほとんどの場面で台詞を言う役者の正面アップをとらえています。

役者の動きや発声も現在の基準からしたらあえてぎこちなく、古き良き日本映画を伝統を継承しています。デジタルよりはフィルム撮影が似合う。そのなかで、妻夫木聡の芝居だけがナチュラルに現代風ですが、浮いているわけではなく、山田監督がそこに込めた意味がよく伝わります。彼が住んでいる三角地のアパートの名前は「コーポ・エスポワール」、日本語で言ったら「希望荘」。

前時代の象徴みたいに厳格な父親(橋爪功)は、実の息子や娘よりも、長男の嫁(夏川結衣)や次男の恋人(蒼井優)と心を通わせる。肉親ならではのあれやこれやがない分、コミュニケートしやすいのか。すくなくとも表面的には。

坂の途中の美容室ウララを経営する長女滋子役の中嶋朋子が、ずけずけとものを言うがさつでカリカリしたおばさんという新境地に挑戦しとても上手く演じています。見ていて本当にイラッとする(笑)。

終盤にすこしだけ登場する隣家の女子中学生ユキ役のピチレモン専属モデルの荒川ちか。13歳の一所懸命な姿には心打たれました。

 

2013年1月21日月曜日

日曜音楽バー「銀座のノラの物語」

2010年末のタンバリンギャラリー以来、ひさしぶりにソロライブを開催することになりました。

リスペクトするミュージシャン、ノラオンナさんが日曜店長をつとめる銀座の裏通りにあるカウンターバー「ときね」にて。新しい詩集の先行リリースパーティも兼ねています。銀座でライブをするのは、2009年2月、教文館書店ウェンライトホールの "TUTU KALEIDOSCOPE REVUE"以来。4年ぶり。

晩冬の日曜夜に、生声の朗読とノラオンナさんの絶品手料理をお楽しみください!

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日曜音楽バー「銀座のノラの物語

日時:2013年2月24日(日) 17時開場、17時半開演、19時~バータイム
会場:ときね 東京都中央区銀座6-2-6 ウエストビルB2、
出演:カワグチタケシ
料金:5,000円
   ライブチャージ、おつまみ3品、スナック菓子3品、
   〆の一品(味噌汁、おかゆ、麺など)
   ハイボール飲み放題(ソフトドリンクもあります)
   以上全部込みの料金です。

   更にもれなく3月発売予定の新詩集『新しい市街地(仮)』
   “銀ノラ・スペシャルバージョン”のおみやげ付き!

*完全予約制、先着10名様限定の超プレミアム・ディナーショー!
 ご予約は nora_onna@hotmail.co.jp まで。お名前、人数、電話番号
 をお知らせください。

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5,000円はちょっと高いかな、とお思いかもしれませんが、ライブ観て、グッズ買って、食事して帰る、と考えればそうでもないですよね。とてもこじんまりした会場ですので、親密な雰囲気の会にできたらと思っています。終演後は、みなさんといろいろお話ししたいです。

完全予約制です。上のアドレスにお名前、人数、電話番号をお知らせください。席に限りがございます。ご予約はお早めに!

※2013/1/31追記:
おかげさまで本日(1/31)をもちまして、ご予約で満席となりました。どうもありがとうございます。明日以降はキャンセル待ちを受け付けいたします!


2013年1月19日土曜日

映画 鈴木先生

快晴の土曜日、東京メトロで銀座一丁目まで。丸の内TOEI②で『映画 鈴木先生』を観ました。2011年春クールにテレ東系プライム枠で放送された武富健治の漫画が原作のドラマの映画化です。

鈴木先生(長谷川博己)は三鷹市立緋桜山中学校2年A組担任の国語教師。黒縁眼鏡とループタイが似合う爽やかイケメン。妻麻美(臼田あさ美)は妊娠中だが、クラス一の美少女小川蘇美(土屋太鳳)に性的妄想を抱くという新しいタイプのアンチヒーローを演じています。

Lesson11と銘打たれた劇場版のストーリーは生徒会選挙を軸に進みます。小川蘇美が生徒会長に当選し「まず第一に公約通り先生と生徒の恋愛を自由とします!」と宣言する映画冒頭の妄想シーン。そして実際の選挙では同じ2Aからふたりが生徒会長に立候補してしまう。そのうちのひとり出水正(北村匠海)の出馬は、生徒会選挙制度そのものに異議申し立てするための行動だった。そして投票の日、別の意味で学校教育に疑問を持つひきこもりの卒業生(風間俊介)が小川蘇美を人質に立てこもり事件を起こす。

「全員参加で公正な選挙」という学校が決めたスローガンは正しいのか。「少数派でもがんばればなんとかなることなら僕らは絶望したりしません。社会の不条理を生徒に教えるための選挙ですか?」。昨年末の衆議院選挙の結果を見て同様の感慨を持った方も多くいるのではないでしょうか。

立てこもった卒業生の「学校では正直にまじめにと教わった。そんなものは社会で何の役にも立たない。まじめな人間は淘汰され、ずる賢いやつが成功する」という主張。それに対して「学校は不良や問題児に手間をかけ、手のかからない普通の生徒の摩耗の上に成り立っている」と共感を示す鈴木先生はスタンガンに倒れてしまう。

キサラギ』『リーガル・ハイ』を手掛けた古沢良太の緻密な脚本が冴え、すべてのシーンが見逃せないスリリングな展開。鈴木先生のモノローグ中心の前半、モノローグが消え表情とアクションで見せる終盤の対比も見事です。

そしてヒロインを演じる土屋太鳳の透徹したまなざし。「冷静な自分を演じているだけ」「壊れることを自分に許しちゃ駄目!」と言うときの毅然とした美しさには、鈴木先生でなくとも恋してしまうでしょう。まだ17歳の彼女には、武井咲剛力彩芽らの次の世代の中心的存在となる大器の予感がします。



2013年1月17日木曜日

Poemusica 新年スペシャル!

三日前に積もった雪がまだ残る下北沢南口を通り抜けて。Workshop Lounge SEED SHIPにて"Poemusica 新年スペシャル!"が開催されました。新年にふさわしい、まるで福袋みたいに盛り沢山で楽しいライブになりました。

出演者はこれまでのPoemusicaで最多の6組。僕も面識のある方ばかりで、リラックスしたなかにも、それぞれ個性全開のパフォーマンスを聴かせてくれました。

市川セカイくんは高知出身。昨年末にSEED SHIPの忘年会ライブではじめて会いました。確かな音程の澄んだ歌声は完璧にコントロールされ、抒情的でストーリー性のある歌詞をよく引き立てます。ギターの腕もしっかりしていて、6本の弦をひとかたまりの音塊として心地良くきれいに響かせる技術を持っています。ジョン・レノンの"Imagine"を短調に乗せた新曲も良かった。

島崎智子さん。孤高のシンガーソングライター。昨年8月にもPoemusicaでご一緒させていただきました。MCを一切はさまず、次々に繰り出される名曲たち。ピアノも独特。右手は少女のようにリリカルなのに、左手は柔らかく包容力がある。歌詞は純粋で切なくて、歌声は不安定。不安定ゆえに聴き手の心の深いところに届くという至芸。神々しささえ感じます。演奏を終えて楽屋に戻ってきた島崎さんをつい「やさぐれ乙女」って呼んじゃった(笑)。

平井真美子さんとは2ヶ月連続3度目の共演です。抜群の安定感と表現力、瑞々しい透明感。ピアノソロのインストゥルメンタルですが、「銀河鉄道」といい、新曲の「回転木馬」といい、その音楽の情景喚起力に会場にいる全員が圧倒されました。素顔の平井さんはとても人懐っこくて愛らしい方。SEED SHIPで撮影されたこのレッスン風景を見てもらえば、彼女の素の魅力が伝わるんじゃないでしょうか。ブログの文章もチャーミングです。

小野一穂さんとはちょうど一年前、最初のPoemusica以来。一穂さんの音楽は、ギター演奏も歌も本当に丁寧で、一音一音に込めるものの大きさ、深さがちょっと尋常じゃないです。歌詞も、無駄な単語や間に合わせの言葉が無くて、どこまでも潔い。そのうえ声が良い。声からアルファ波が出てる、というのは、一穂さんのPV「退屈な歌」を監督したLittle Woodyの談。後半はそのLittle Woodyのベースとgnkosaiのカホンが加わり、厚みを増して。

Little Woodyの新作は羊毛パペットのカップルが登場するコマ撮りアニメ。彼のバンドLiquidレコ発ライブにも出ていたPHONO TONESの"Her Red Bicycle"のPV。なにもいうことないです。YOUTUBEを観て、きゅんきゅんしちゃってください! ※先月上映した『バラバラになったバラ』もYOUTUBEにUPされています。こっちもかわいい!

僕は先月に続き、真美子さんに伴奏をお願いして、今回は「無題(薄くれない色の闇のなか~)」を朗読。詩を細部まで丁寧に解釈して、美しいピアノピースを作ってきてくださいました。それからここ数年取り組んでいる歌詞の翻訳から一篇。Fairground Attractionの"Allelujah" を一穂さんのギターに乗せて。後半は一穂さんが唄ってくれました。おふたりの才能とミュージシャンシップに感謝!

そして最後は出演者全員で。グランドピアノの椅子に並んで座ったふたり(高音:平井真美子さん、低音:島崎智子さん)の姿がもうかわいらしくて、島崎さんのフリースタイルぶりが可笑しくて。

こんな具合に幕を開けた2013年のPoemusicaです。そして次回2/21(木)。なんと僕が超リスペクトしているミュージシャン/舞台女優/ドラァグクイーンであるエミ・エレオノーラさんが出演濃厚(笑)とのこと。もはや予測不可能なPoemusicaを今年もよろしくお願いします!


 

2013年1月5日土曜日

生誕100年 松本竣介展

東京がこの冬一番の寒さを記録した土曜日。用賀駅から砧公園を抜けて世田谷美術館へ。『生誕100年 松本竣介展』を鑑賞。評判にたがわぬ充実した展示でした。

東京生まれ岩手県花巻育ちの松本竣介は、13歳のときに病気で聴覚を失い、画家を目指す。成人後は東京下落合に拠点を移し、短い生涯に多彩な画風の作品を残した。

というようなことはまあ美術館のサイトを見れば書いてあるわけですけれど。作品自体もちろん感動的なのですが、それ以上に彼の芸術観に打たれました。

「何よりも建物の立つてゐるといふことが僕にとつて最も大きな魅惑なのだ」。「今の、僕のメチエーが、建物が必ず持つてゐるその線と、形体に共感を得たに過ぎない。この中に生活の必然はあるのだ」。

カワグチタケシの詩には「風景」は描写されているけれど「人間」が描かれていない、と。どちらかというと批判的なトーンで言われることがあります。「人間」が「自然」と言い換えられる場合も。でも僕は、風景を描写することはそこに加わった人の手の痕跡とその思いを描くことだと思っています。また、自分の内面だってひとつの風景に過ぎないと考えています。ですから、美術館の壁に掲げられた松本竣介の言葉のいちいちに共感し、強く頷いたわけです。

画風の変遷はおおまかにいうと、ジョルジュ・ルオーみたいな太い輪郭線と厚塗り⇒ピカソの青の時代に似た色彩と直角の構図の風景画⇒人物と背景のパースが狂ったマルク・シャガールのような透明感のある画面⇒思索的な表情を持つ人物画⇒工場地帯や空襲の焼け跡など、メカニカルで暗褐色の風景画⇒キュビズムの手法を取り入れた具象と抽象のミクスチュア、といった感じ。どの時期にも共通する画面の静謐さはまるでニック・ドレイクの音楽を聴いているかのよう。

聴覚障害のため第二次世界大戦には従軍せず、妻子を疎開させて、崩壊していく首都を描いた松本竣介。戦局が悪化すると、庭の土の中に絵具や画布を埋めて隠したという。その行為自体が戦争の終結を信じて、且つ、強く望んでいた故のものでしょう。昭和のはじめの東京の街角をスナップした白黒写真も素晴らしかったです。

1948年に松本竣介は36歳で病死しました。「四十才になつたら詩集を出す」と友人に語っていたそうです。



2013年1月3日木曜日

フランケンウィニー

新しい年になりました。2013年もよろしくお願いします。正月三賀日には映画館の暗闇でひとりの時間を過ごすのが、ここ数年のならわしになっています。というわけで、ユナイテッドシネマ豊洲にてティム・バートン監督のディズニー映画『フランケンウィニー』を観ました。

米国郊外の町ニュー・ホーランドに暮らすヴィクター・フランケンシュタインは科学が好きで内向的な男子。自分で特撮映画を撮っています。ある日クラスメイトのフシギちゃん(英名:Weird Girl)の飼い猫が彼のイニシャル"V"型のうんちをしたことで「あんたの身になにか起きるわよ」と予言される。そして、ヴィクターが打ったホームランボールを追いかけた愛犬スパーキーは車に轢かれて死んでしまう。

両親には慰められるが「心の中なんていやだ。いつもいっしょにいたい」と、雷の夜、ヴィクターはスパーキーの死体をペット墓地から掘り起し、稲妻から電気ショックを与えて蘇生させることに成功する。そのことを知ったクラスメイトたちが、次々に死んだ動物たちを生き返らせる。

急進的なコンセプトで理科の授業を行いPTAから学校を追われるジグルスキ先生が、去り際にヴィクターに言います。「科学に善悪は無い。使い方次第だ。だから我々は慎重にならなくてはいけない」「誰もが科学の恩恵に浴している。だが、みんな問いを嫌う」。

愛情をもって蘇生させられたスパーキー以外の動物たちは、みな巨大化して邪悪なモンスターになり、町を破壊し始める。そのこと自体が文明批判にもなっています。スパーキーは切る前のたくあんみたいな顔だし、ティム・バートン描くキャラクターたちはディスニー映画としては異形ですが、 映画が進むにつれて日野日出志似の彼らがとても愛おしく感じられます。また、全編に流れるダニー・エルフマン(ex.Oingo-Boingo)のオーケストレーションも古き良き時代のB級ホラー映画へのオマージュとなっていて素敵です。

モノクロで3Dというアンバランスさもティム・バートンらしい。その色調とあいまって控えめながら効果的に画面に奥行を与えています。主人公の隣人でヒロインのエルザ・ヴァン・ヘルシングの声はウィノナ・ライダー。彼女の歌声をスクリーンで聴いたのは『17歳のカルテ』(1999)以来かも。精神病院の廊下でギターを弾いてアンジェリーナ・ジョリーと"Downtown"を唄うシーンがとても好きでした。