2014年12月29日月曜日

インターステラー

新たなカルトムービーの誕生。ユナイテッドシネマ豊洲クリストファー・ノーラン監督作品『インターステラー』を観賞しました。

近未来のアメリカ中西部穀倉地帯。度重なる砂嵐と飢饉。いずれ植物が絶え、酸素と食糧不足で人類は滅亡の危機に晒されている。軍隊は解体され、表向き活動を停止していたNASAが秘密裏に進めていた他銀河惑星への移住計画。引退後農業を継いだクーパー(マシュー・マコノヒー)は砂嵐が起こしたモールス信号に導かれて宇宙飛行士に戻ることに。

「幽霊は科学的じゃないな」「未知を認めるのが科学よ」。父娘の絆を描いた泣かせる話という体の予告編だが、ノーラン監督のオリジナルストーリーは実際には量子物理学と相対性理論に立脚する硬派SF。そのうえで、ひとりひとりの登場人物の信念も醜悪さもしっかり描いた重厚なヒューマンドラマが展開する3時間の大作です。

「愛は人間が発明したものじゃない。観察可能な"力"よ」。クーパーも宇宙船乗組員のブランド博士(アン・ハサウェイ)も氷の星に先行したマン博士(マット・デイモン)も、人類の種の承継という大義と、生き延びたい、家族や恋人と再会したい、という個々の欲望とのあいだで揺れる。そのさまが宇宙空間にあってあまりにも人間臭い。

テレンス・マリック監督の名作『天国の日々』を思わせるカントリーサイドの乾いた風景やアンティークな家具調度、ピックアップトラック、コンバイン。スタリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』の石版(タブレット)が、埃をかぶったノートPCや直方体の人工知能TARSに重なります。

氷の星はアイスランドの実景。CGを使わない昔ながらの特撮技術が画面にもアナログで豊かな質感を与えている。ロボットのTARSCASEが有能な上にチャーミングで、そのユーモアがともすれば重苦しくなりがちなテーマに人間的な温かみを加えています。

申し訳ないぐらい郷土愛のない僕ですが、地球には帰って来たいかも、と思いました。


2014年12月20日土曜日

おためしになって

ポップな実験演劇という趣き。大崎のIZUMO GALLERYで、セカイ三大美女 上演会#01「おためしになって」を鑑賞しました。セカイ三大美女は戯曲家2人とコント作家、書家の演劇制作ユニット。「三大」なのにメンバーは女性が4人。このあたりから既にズラしが始まっています。

上演された演目は4つ。『アングラ☆リーガル』は杜若ユウキさんの作。地下アイドルと弁護士のカップルがアイドルユニットの相方をプロダクションの悪徳社長から助ける話。

『コント 解散ライブ』はその後日談。誕生日なのに興味のないアイドルのライブに連れて来られたコールリーダーの彼女が、実は特殊な能力を持っていた。

『コント 決めて』はコールリーダーがバイトしている焼き鳥屋の屋上喫煙所が舞台。優柔不断極まりない男(コールリーダー)が実は国家の重要事項に関与していた。この2篇のコントはヲガタアコカさん作

そして最後に五郎丸ミドリさんが書いた『おつかれでぃー!』。アイドルユニットの片割れ(実は司法修習生)が先輩OLに居酒屋でくだをまかれる話。元彼が焼き鳥屋のもうひとりのアルバイト。メモワール。

ギャラリーの白い壁一面に貼られた松崎修子さんの書。「社長、契約書を見せていただいてもいいですか」「電車が来たから」等々。はじめはシュールな日めくり風味か、なぜ演劇ユニットに書家? という疑問はお芝居が進むにつれて氷解します。科白の断片なのです。それがテロップのような、でも視界に残り続けるので、変な感じを醸し出す。

それ以外にも半紙に書かれた文字が法律の条文や登場人物の内声を効果的に表す演出です。4つのストリーの登場人物が薄く絡み合って、ひとつの空気を創造する。主宰の五郎丸ミドリさんの安定した演出の手腕。役者陣では、白勢未生さんオフィスプロジェクトM)と堀晃大さん(3days)の熱演が光ります。

2時間の上演があっという間に終わる頃には雨も上がり、大崎駅までの帰り道、目黒川護岸の桜並木にクリスマスのイルミネーションがピンク色に輝いていました。


2014年12月18日木曜日

Poemusica Vol.35

日本列島を寒波が覆った今週ですが、東京は快晴です。師走の下北沢はいつにもましてにぎやか。Workshop Lounge SEED SHIPで "Poemusica Vol.35" が開催されました。

過去ソロの弾き語りでPoemusicaに出演している古川麦くん関口将史さんとのデュオで(画像)。ガットギターとチェロの柔らかく優しい音色のなかにもスリリングなインタープレイが加わって、12月の夜らしいスペシャルな演奏です。出演決定後すぐにリクエストしたMel Torme の "The Christmas Song" も麦くんのしっとりと滑らかな声にぴったりでした。

ピアニスト/コンポーザーのはらかなこさん。彼女もいつもはソロで出演してもらっていましたが、今回はミニドラムジャーマン山根ポテトさんと丁々発止のアンサンブルで会場の温度を一気に上げました。ピアノインストに打楽器が加わることで彼女自身が持っているクリスプで溌剌としたリズム感が前面に。会うたびに新しい魅力を見せてくれます。

そんな2組とは対照的に、ちみんさんがひとりで歌い始めると凛とした空気が徐々に広がり客席全体を静かに蔽います。人の声を聴いたときに感じる美しさや心地良さというのはどこからやってくるのだろう、と彼女ののびやかで陰翳の深い歌声を聴きながら、僕はずっと考えていました。研ぎ澄まされたその音楽は言葉を軽々と越えて、どこか深い、でも適切な場所にすっと落ちる。

僕の出番は3回。はじめに故岸田衿子さんのクリスマスの詩「宿り木」と自作詩「チョコレートにとって基本的なこと」「新しい感情」。2回目は冬の詩3篇「」「舗道」「(タイトル)」。そして最後に、ちみんさんの「すべて」という曲にインスパイアされて書いた同名の「すべて」という詩を、ちみんさんご本人のギターに乗せて。そのまま彼女が歌いつないでくれました。

今回のミュージシャンは3組ともPoemusicaは3回目の出演です。僕としてはリラックスして接することができたのですが、彼らはそれぞれ初対面。お互いいい刺激になったようで、うれしく思います。

これで僕の2014年の詩のお仕事はおしまい。詩集を読んでくれた方々、朗読を聴いてくださったみなさん、素敵な出会いと再会に感謝します。おかげさまで充実した一年になりました。2015年最初のPoemusicaは1月15日。3周年ということで、スペシャルな回にしたいと思います。是非!

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Poemusica Vol.36 ポエムジカ 3周年
日時:2015年1月15日(木) Open18:30 Start19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円・当日2,600円(ドリンク代別)
出演:ノラオンナ(Vocal/Ukulele)
    アカリノート(Vocal/Guitar)
    The Letter(Vocal/Piano & Guitar/Chorus)
    三木聖香(Opening Act)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

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2014年12月14日日曜日

tico moon 「はじまりの鐘」リリースツアー~ファイナルコンサート~

会場のNAOT TOKYOは靴屋さん。ナチュラルで履き心地の良さそうなイスラエル産のレザーシューズを商っています。日の落ちた窓の下には隅田川がなみなみと水を湛えている。

tico moonはアイリッシュハープの吉野友加さんとアコースティックギターの影山俊彦さんのデュオです。7枚目のアルバム『はじまりの鐘』の1年間、全国36会場にわたるリリースツアーの最終日にお邪魔しました。

マイクスタンドに吊り下げられた小さなベルの音に導かれ、スローな3拍子の"predawn"で演奏が始まりました。短い休憩を挟んだ2部構成、アンコールの "Silent Night"まで全16曲。研ぎ澄まされ純度の高いふたりの音楽を堪能しました。

ハープの低音は、ソリッドな高音とは対照的にサスティンが長く柔らかで深みのある響き。ギターの低音弦も意図的にレガートで奏でられ、この2つの音が重なって会場全体を優しく蔽います。そこにかぶさる繊細なパッセージ。

ほぼ全曲がスローナンバーで、テンポを保つのも、空気を弛緩させないのも難しい構成だと思うのですが、まったく飽きることがなかったのは、彼らのアンサンブルにオルタナティブなグルーヴが内包されているからだと思います。

小さな白壁の会場全体をエレガントに響かせて、客席にいるひとりひとりが精巧なオルゴールの部品のひとつにでもなったかのよう。ただ椅子に座って目の前で紡がれる音に身を委ねているだけなのに、まぎれもなく音楽の創造に参加している感覚がありました。美しい体験をありがとうございます。

 

2014年12月7日日曜日

ノラオンナ・バラッドラリー VOL.30

音楽をスポーツにたとえるのは必ずしもしっくりいくことばかりではありませんが、ワンマンが長距離走、ブッキングイベントが中距離走だとしたら、このライブは100m走に匹敵するのではないかと思います。コンディショニングと集中力、使う神経と筋肉が違う。

のらっしー(O.A.)、水井涼佑唄子mayuluca松浦湊江村健アカリノート古川麦山田庵巳アサダマオ北山昌樹齊藤さっこほりおみわ倉谷和宏スーマー豊島たづみノラオンナ(出演順、敬称略)。

「~うたひとつ弾き語り17人による感謝祭~」という副題で、ノラオンナさんが声を掛けたキャリアもクオリティもある16人のシンガーソングライターが渾身の持ちネタを1曲だけ披露する一夜限りのショーを楽しみました。

生粋の歌謡曲育ちと公言して憚らないノラさんのことなので、この枠組みは『ザ・ベストテン』へのオマージュなのかもしれません。点数も順位もつきませんが、1曲で聴衆の心を捉えることに専心するという点において。

レースを走り終えたミュージシャンたちの達成感に満ちた表情にもそれが窺えます。ただ、競っているのは共演者ではなく、自分自身。そんな意味での緊張と弛緩と。それはソロプレーヤーがバトンをつなぐチームプレイでもあるのです。

故・大瀧詠一氏が最後のフルアルバムになってしまった『EACH TIME』発表後のインタビューで言っていたことを思い出しました。そのアルバムではピアニスト2人、ギタリスト4人をユニゾンで同録しています。ウォール・オブ・サウンズを構築する目的の他に、余計なアドリブを挟ませずに緊迫と充実を導き出すために。「ブースを出たミュージシャンたちが腕をぶんぶん振り回して、やり切ったって口々に言うから」と。

逆に、弾き語りというフォーマットは誰憚ることなく、自分のタイム感で空間を満たすことができる。しかし自由ゆえに高い技術と精神力が求められる。ノラさんはこの「1曲」という枠を当てることで出演者たちの「本気」を引き出したかったのかもしれません。

はじめてライブで聴いたみなさんもですが、特にPoemusicaやアサノラで接点の方々は僕にとっては自分の作品やパフォーマンスのクオリティを測る基準でもあります。彼らの作品に対して恥ずかしくない、きちんとしたものを創りたいと背筋が伸びる思いがしました。