2010年10月16日土曜日

クラシックへの扉

高い秋空に鱗雲が綺麗に拡がる土曜日の午後、隅田左岸のワイルドサイド、不思議タウン錦糸町へ。すみだトリフォニーホール新日本フィルハーモニー交響楽団の『新・クラシックへの扉 第9回 土曜午後2時の名曲コンサート』を鑑賞しました。

演目は、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ニ長調op.61と交響曲第6番ヘ長調「田園」op.68。あまたあるベートーヴェン作品のなかで特に軽快な曲調の2曲、指揮者は下野竜也、ソリストは徳永二男です。

このシリーズはチケットが1,500円からと、とてもお得なのですが、値段以上に楽しめました。ラ・フォル・ジュルネの影響なのでしょうか、安価なコンサートが増えることは喜ばしいことです。

演奏そのものもよかったのですが、無料のプログラムが女子のハンドバッグにも収まるA5サイズだったり、出演者一覧というステージ配置に演奏者名全員が記載されている紙が折り込まれていたりと、細かいところに気配りがあって、すばらしいなと思いました。

総じて木管の演奏が安定していて安心して聞けましたが、田園2楽章の重松希巳江さんのクラリネット演奏が美しかった、なんて言うことができちゃうわけですよ、出演者一覧があるおかげで。

毎月開催されるこのシリーズ、次は12月のボロディン、シベリウス、チャイコフスキーの回に行く予定。いまから楽しみです。
 

2010年10月10日日曜日

ききみみ

以前句会@フィクショネスでよくごいっしょさせていただき、いまは北九州で古本や檸檬を営んでいらっしゃる村田もも子さんから、東京でグループ展を開くご案内をいただきました。会場のギャラリー彦は西荻窪のぷあんのご近所。 東京リーディングプレスの編集スタッフをしていたころにさんざん通った街です。

会場に着くとアンティークの着物を着た町娘のような村田さん(左利き)が、2年前と変わらない、可憐な笑顔で迎えてくれました。

刈屋サチヨさんの鮮やかな色彩としっかりした描線のアクリル画、 志村雪菜さんのやさしい色調の絵具を直接段ボールに乗せた平面作品、そして村田もも子さんの俳句によって今回の『ききみみ』展は構成されています。

色彩豊かなふたりの絵画に並んで村田さんの作品は、一句ずつリングメモにプリントされて、ピンで壁に留められています。視覚的には紙の白とインクの黒しかないのですが、俳句ひとつひとつの言葉に、それぞれの季節の温度や湿度、光と影、音や匂いが感じられて、小さなギャラリーの空間に、一見控えめではありますが、確かな陰影を添えています。句会@フィクショネスで選んだ句もいくつかあり、懐かしい気持ちになりました。

 夕闇の白木蓮宇宙此処にあり
 彼の宙へ交信してをり時計草
 ほの温きアスファルト背に流星夜
 黒猫がビロード纏う星月夜

村田さんの地動説的なコンセプトの句が好きです。タイトルの『ききみみ』は昔話の「聞き耳頭巾」から採ったそう。その頭巾をかぶると動物や鳥の言葉が理解できるというお話です。同時リリースされた文庫サイズの句集『ききみみ手帖』もチャーミング。イラストを刈屋さん、編集と装丁を志村さんが手がけています。 東京では、千駄木の古書ほうろう、下北沢フィクショネスで発売中とのこと。

同級生三人のグループ展は明日まで開催。三連休の最終日、訪ねてみてはいかがでしょう。素敵に甘酸っぱい気持ちになりたい方には特におすすめです。

 

2010年10月9日土曜日

十三人の刺客

ユナイテッドシネマ豊洲で、三池崇史監督作品『十三人の刺客』を鑑賞。 雨だし、公園でお弁当ってわけにもいかないので、映画でも。という軽い気持ちで観に行ったのですが、圧倒されました!

1963年の工藤栄一監督、片岡千恵蔵主演映画を役所広司主演でリメイク。 人物造型、心理描写、衣装とメイクアップのリアリズム、スピーディで簡潔な演出と息をもつかせぬアクション、照明、カメラ、音声、いずれも高水準で、しかも調和のとれた150分間の極上痛快時代劇エンターテインメント。 残虐なカットも多数ありますが、しっかりとしたストーリーのなかに必然性を持って組み込まれているので、目を背けることができませんでした。

武士の生き方、死に方なんていうのには、まったく共感できるものはありませんが、そのあたりを伊勢谷友介演じる木賀小弥太にさりげなく代弁させる念の入りよう。恐れ入りました。オリジナル版では山城新吾が演じていたというこの小弥太というキャラ。山でうさぎや昆虫を食べて暮らしている野生児なのですが、斬られても斬られても蘇る、妖精のような存在で、物語に不思議な深みを添えています。

ラスト30分以上に及ぶ殺陣。このシーンにBGMを重ねて盛り上げず、人の声と刀の音だけで構成した音声で、戦闘のリアルさ、刀傷の痛みがよく伝わってきます。市村正親松本幸四郎平幹二郎のベテラン勢、悪役の稲垣吾朗、みんなよかったですが、特に松方弘樹の俊敏で華やかな殺陣はさすがの貫録でした。

それから、古田新太。戦隊モノでいえば食いしん坊イエロー役。時代劇だとやっぱり槍の使い手ですよね。

オリジナル版もぜひ観てみたいです。
 

2010年10月3日日曜日

共鳴/残響

雨の予報が外れて秋晴れの日曜日の夜、下北沢のleteさんへ。楽しみにしていたtriolaのワンマンライブ"Resonant"を鑑賞しました。

伝統的なロマの音楽を思わせる哀愁を帯びた旋律とゴリゴリとしたリフに近未来的なアナログ機器が発するオーガニックなノイズがせめぎ合う美しい音楽。古い木造家屋のような会場全体が共鳴して、あたかもジョセフ・コーネルの箱作品の内部に迷いこんだかのようでした。

十代の頃はパンクバンドでドラムを叩いていたという波多野敦子さんのヴァイオリンは完全なタテノリ。そこにクラシックの正確なタイム感を持つ手島絵里子さんのヴィオラが絡み、その僅かなズレが強力なグルーヴを生み出します。

その姿はまるで、繊細で自由奔放な妹(波多野さん)を見守る優雅で落ち着いた姉(手島さん)という、理想の姉妹像を見るよう。見て聞いて、幸せな気持ちになりました。

次のワンマンライブは12月8日水曜日に同じく下北沢leteで。その後、関西ツアーも計画中とのこと。もっと大勢の人に体験してもらいたい音楽だと思います。