2024年2月25日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

菜種梅雨。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックmandimimiさんの回に行きました。

2月25日は、ニャンニャンGOの日ということで、CAT LOVERであるmandimimiさんはグレンチェックのパススリーブに小花の刺繍で縁取られたセーラーカラー、胸元に猫の顔が大きく刺繍された衣装。

セットリストのコンセプトは "Back To The Basics"。サラ・マクラクラン(カナダ)、伊能静(台湾)、ダンカン・シーク(アメリカ)、デミアン・ライス(アイルランド)etc.. マルチカルチュラルな環境で育った彼女の音楽的ルーツは多様ですが、共通点があるとすれば「優しさ」だと思います。

それらのカバー曲も、思春期を過ごしたシアトルの曇天から短い夏の間だけ覗く深い青空を歌う1st EP "Unicorn Songbook: Journeys"のリード曲 "Sapphire Skies" も、最小限のピアノの装飾音とゆったりとしたテンポでアレンジされ、クリスティナ・アギレラも Jungkook (BTS) もララバイに昇華する。アルトの歌声の子音が柔らかく吹き抜けて、ノラバーの窓のすぐ近くを通過する路線バスが雨を跳ね上げる音と調和し心地良く響く。60分の本編は9曲。各曲にまつわるエピソードを交えた進行もゆったりです。

そしてインターバル。ノラバー店主ノラオンナさんの心づくし、2月のノラバー御膳は、ポテトサラダ、大根油あげ巻、たまごやき甘いの、つくねたれ、きんぴらごぼう、菜の花からし和え、かぼちゃそぼろあんかけ、ほうれんそうととうふのみそ汁、梅ごはん。隣り合った初対面同士でも会話が弾む味。

30分のインスタ配信ライブ「デザートミュージック」。一日の終わりまで記憶に残っている前夜の夢を楽曲にする新プロジェクトから、親友と巨大な猫が草原で踊る "Pocketz Waltz" は心あたたまる四分の三拍子。

固めのノラバープリンとバニラアイス、ノラさんが一杯ずつ淹れる香り高いノラバーブレンドコーヒーが提供されて、配信が終わり一息ついたmandimimiさんとみんなで夜が更けるのも忘れ賑やかに過ごしました。

僕も4/28(日)にノラバーで朗読します。1ヶ月前の3/28(木)9:00amから予約開始です。あらためてSNS等で告知しますので、ご覧いただけましたら幸いでございます。
 
 

2024年2月12日月曜日

3K16 3人のKによる朗読会 第16回

建国記念の日の振替休日。La'gent Hotel Shinjuku Kabukicho Crospot CAFE & BARで開催した『3K16 3人のKによる朗読会 第16回』に出演しました。

会場のCrospot CAFE & BARさんは新宿歌舞伎町のどん詰まり。つい先日非合法の客引きが複数摘発された大久保公園の真向いで、高い天井まで届く窓から冬の午後の柔らかい日差しが注ぎ、落ち着いた雰囲気がありますが、ガラス1枚隔てた外はワイルドサイドです。

4. CLASSIFIED CONVERSATIONS

2000年に初めて開催した小森岳史究極Q太郎カワグチタケシによる3K朗読会の25年目ということで、前半は2000年前後に書いた作品と当時よくカバーしていた詩を朗読しました。

続くQさんは新詩集『ガザの上にも月はのぼる/道へのオード』から。社会的政治的イシューと日常の関わりや隔たりがいつもQさんの創作の動機。それは我々3人に共通する点もあるのですが、そのウエイトや現れ方が異なり、都度変化する。「現代詩人の使命とは携帯電話を持たないことである」は、ジム・ジャームッシュの映画『パターソン』をモチーフにした詩で、前日のライブで同作にインスパイアされたマユルカさんの「箱庭」を聴いた僕の内部で響き合いました。

小森さんは、自作詩に田村隆一ウィリアム・ブレイクを引用し「ジェットに乗ってどっか行きてえ」的に粗野な語り口を敢えて使用した初期作品のイメージとはギャップのある文学性を隠し持っている。これも我々の共通点といえるかもしれません。小森さんがルー・リードをブレイクビーツに乗せたa tribe called questだとしたら、僕はモンキーズをサンプリングしたDe La Soulの側に立ちたい、という違いはあるにせよ。この日朗読した僕の詩にはスピッツ伊勢正三の引用が含まれています。

7. 幾千もの日の記憶(究極Q太郎)
8. こんな時にまで言葉を探すしかないのだろうか(小森岳史)
9. Judy Garland

後半はQさんと小森さんの25年前の作品と自身の最近作を朗読しました。傾き始めた冬の陽を浴びてバーの高いスツールから脚をぶらぶらさせチーズケーキを食べるみなさんの姿に幸せな気持ちになりました。

ご来場のお客様、会場をご提供いただいたCrospot CAFE&BARさん、音響機材を担当し会場設営・撤収をしてくださった藤本敏英さん、どうもありがとうございました。また地上のどこかで3K17を開催したいと思います。その際は皆様どうぞよろしくお願いいたします。


2024年2月11日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

建国記念の日。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックマユルカとカナコの回に行きました。

日中よく晴れて2月としては暖かな夕方。カナコさん鼻笛をフィーチャーした 「3am」 からライブはスタートしました。続く「覚悟の森」ではフクロウの鳴き声を鼻笛で真似ています。僕はこの曲に真昼でも鬱蒼とした森をイメージしていたのですが、深夜の森を前に立ちつくすという解釈もありですね。

この日のドレスコードはネイビー。客席の落ち着いた色合いも作用していたのかもしれません。続く「ほんとうのこと」「チャイム」は1stアルバムから。マユルカさんの淡々としたメロディに控えめに添えるカナコさんのコーラスが美しい。

「日曜の夜はいつも何から逃げるのか、向かうのかわからないまま歌い出すんだ君は、やになっちゃうな」と歌う「日曜日」。まさに日曜の夜に。ドロップDのブロックは「箱庭」に続き、セットリストの前半で歌うことの多い「出発」をいつになくスローなイントロで本編最終曲に。

ミニマルで落ち着いたテイストのマユルカさんの音楽にカナコさんの鼻笛、ヴァイオリン、コーラスで色彩と奥行きが加わります。ヴァイオリンのレガートやピチカートはあくまで品良く。大学の先輩であるカナコさんが、後輩マユルカさんの音楽を尊重しつつ、内在するユーモアやハーモニーを表に引き出す役割をしています。

ノラバー店主ノラオンナさんの丁寧な手仕事とアイデアの詰まった2月のノラバー御膳を出演者と観客みんなでおいしくいただくあいだも笑いが絶えません。

インスタ配信ライブのデザートミュージックは「きこえる」で再開しました。定員7名という少人数予約制ならでは「あの人はこの曲かな、と考えて作るオーダーメイドのライブ」というマユルカさんのMCに深くうなづく。2曲のカバー演奏は思い切りはっちゃけて、最後の最後は「アネモネ」でしっとり締める。起承転結のあるいいライブでした。

僕も4/28(日)にノラバーで朗読させていただきます。昨年12月から各所で出演した5ヶ月連続ライブのしめくくりです。1ヶ月前の3/28(木)9:00amから予約開始となりますので、あらためてSNS等の告知をご覧いただけましたら幸いでございます。


2024年2月10日土曜日

レディ加賀

薄曇り。新宿ピカデリー雑賀俊朗監督作品『レディ加賀』を観ました。

主人公樋口由香(小芝風花)は売れないタップダンサー。上京して8年がんばったが、仕事といえばスタンドイン(代役)ばかり。老舗旅館の女将を務める母(檀れい)が倒れたと仲居頭からの報に、北陸新幹線に乗ると隣席の観光プランナーの花澤譲司(森崎ウィン)から缶ビールを勧められる。加賀温泉駅に着く頃には、由香はまともに歩けないほど酔っぱらってしまった。

都会で挫折した主人公が一念発起して若女将たちのタップダンスチームを作り、その過程で見舞われるトラブルや親子の確執を解決して、傾いた温泉街の再興に奮闘する。町おこし映画のテンプレートをしっかりなぞったストーリーですが、プロットがことごとくユルいです。

まず温泉街が寂れて見えない。由香の実家である旅館ひぐちも幼馴染あゆみ(松田るか)が若女将のいしざきも、団体も個人もそこそこ予約が入っており、庭園や旅館も手入れが行き届いている。由香がダンサーを諦め女将業に天職を見出す過程が描かれていない。タップダンスチームを編成するのはジョー(花澤譲司)の思い付きだが、途中から若女将たちがみんなで決めたことにすり替わっている。

と万事そんな具合なのですが、そういうユルさも含めてご当地ムービーとして僕は楽しめました。最初は気乗りしなかったメンバーたちが徐々にのめり込んでいく様は『シコふんじゃった』や『スウィングガールズ』みたいな青春感があるし、ラストの花火のシーンはいろいろを帳消しにして感動を誘います。大御所なのにカメオ的な篠井英介さんは地元出身なんですね。撮影後ですが、能登半島地震の影響もある加賀が舞台で、劇場収益の一部が石川県に義援金として寄付されます。

なにより主演の小芝風花さんが一所懸命です。出づっぱりで心配になるぐらいですが、最近作では『波よ聞いてくれ』と『あきない世傳 金と銀』の途轍もない振れ幅。今回の役柄はちょうどその真ん中あたりの感じです。

 

2024年2月9日金曜日

夜明けのすべて

大福の日。ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場三宅唱監督作品『夜明けのすべて』を観ました。

「一体私は周りにどんな人間だと思われたいのか」。藤沢美紗(上白石萌音)は重いPMS(月経前症候群)に十代から苦しめられ、生理前になるとイライラし感情をコントロールできなくなる。新卒で入社した企業で上司にキレ、どしゃ降りの夕方に駅前のベンチでずぶ濡れで横たわり警察に保護される。処方された薬で会議準備中に眠ってしまい、そのまま退職した。

数年後、再就職したのは子供向けの顕微鏡や望遠鏡を作る町工場。そこで異常に不愛想な後輩社員山添孝俊(松村北斗)が入社する。いつも炭酸水を飲んでいる山添くんのペットボトルのキャップを開ける音にブチギレ、怒鳴り散らす藤沢さん。

そしてバトンは渡された』の瀬尾まいこの原作を『ケイコ、目を澄ませて』の三宅唱監督が撮った本作は、『ケイコ、目を澄ませて』と同じく16mmフィルムが使用され、柔らかい光に満ちています。

「男女間であっても苦手な人であっても助けられることがある」。過呼吸の発作を起こした山添くんを自宅まで送った藤沢さんが「もしかしてパニック障害?」と尋ね、自らも持病を明かす。電車と理髪店に恐怖心を抱く山添くんの髪を藤沢さんが切って失敗して山添くんが大爆笑する。この2つのシーンで距離を詰め互いの理解者になるが、友だちや恋人にはならない。「山添くん」「藤沢さん」と呼び合う距離感がちょうどいい。共通の過去を持つ大人二人、町工場の社長(光石研)と山添くんの元上司(渋川清彦)が優しい。山添くんの恋人(元?)役の芋生悠さんも抑えた良いお芝居をしています。

「夜明けは多くの命を生んだが、夜は地球の外にも世界があると教えてくれた」という終盤の台詞は、苦境に立つからこそ他の人の痛みにも寄り添うことができる、という監督からのメッセージに聞こえました。

 

2024年2月4日日曜日

コット、はじまりの夏

立春。ヒューマントラストシネマ有楽町コルム・バレード監督作品『コット、はじまりの夏』を観ました。

舞台は1981年のアイルランド。主人公コット(キャサリン・クリンチ)は9歳。畜産業を営む両親と3人の姉と1人の弟との暮らしは貧しい。

酒好きでギャンブル依存の父(マイケル・パトリック)、家事と子育てで疲れ切った母(ケイト・ニク・チョナナイ)。内向的過ぎて学校にも馴染めないコットは、母の出産のため、夏休みの間、車で3時間の子どものいない酪農家の親戚夫婦アイリン(キャリー・クロウリー)とショーン(アンドリュー・ベネット)の家に預けられる。

「家に秘密があるのは恥ずかしいことよ。この家には秘密はないわ」。幼いコットに安全な環境を提供する優しいアイリンとは逆に、不器用なショーンは牛舎から黙って抜け出したコットを心配し強く叱責してしまう。萎縮するコットが座るキッチンテーブルに黙ってクリームビスケットを置く。そっとポケットにしまうコット。お互い言葉を交わさずとも優しさ溢れるこのシーンからコットとショーンの関係性が転換します。

コットに与えられた部屋には機関車の壁紙。アイリンとショーンには幼くして亡くなった息子がいた。アイリンからそのことを知らされていなかったことでまた黙り込むコットを夜の海辺に連れ出したショーンの「沈黙はいい。多くの人が沈黙の機会を逃したことで、多くのものを失った」という台詞がいい。ゲール語の原題は "AN CAILÍN CIÚIN"(英訳は "THE QUIET GIRL")です。

田園風景、井戸の張り詰めた水面、徒長した干し草、牛舎に差す陽光、北国の短い夏の自然描写が美しい。初めて郵便受けに手紙を取りに行くために木漏れ日の並木道を全力疾走する少女のスローモーションが伏線となりラストシーンの深い余韻につながる。ゲール語の柔らかな響き。繰り返される日常でも一度しかない夏。監督も主演も本作が長編デビューですが、第72回ベルリン国際映画祭の国際ジェネレーション部門グランプリ受賞も納得の名画でした。