2016年7月27日水曜日

TRIOLA a live strings performance

梅雨明け前夜の水曜夜。下北沢leteへ。4月のリリース以来楽しみにしていた、実に3年8ヶ月ぶり、2012年11月以来のTRIOLAのライブです。前回最後に観たのも同じくleteで。そのときとはメンバーが変わり、小文字から大文字表記になった新生TRIOLAです。

作曲、編曲と以前はヴァイオリンを弾いていた波多野敦子さんが5弦ヴィオラに持ち替え、そしてASA-CHANG&巡礼のメンバーでありSEKAI NO OWARIをはじめとしたメジャーシーンの仕事も多く手掛ける須原杏さんが新たにヴァイオリニストとして加わりました。

波多野さんのソロ作「13の水」、triolaの1st "Unstring, string"、ライブでよく聴いたtriola後期作品、ソロとデュオのインプロヴィゼーション、新生TRIOLAの新曲、各々2曲ずつ(ボーカル曲は「Close to you」と「青いトカゲ」)。アンコール含め12曲の構成は、このユニットの来し方行く末を示しているよう。

波多野さんの口から出るのは「ハードコア」「グルーヴ」といったおよそ弦楽アンサンブルからは遠い言葉たち。変拍子を多用しゴツゴツしたリフに東欧/中近東寄りの哀愁を帯びた旋律が絡む以前のtriolaのスタイルから、メロディアスな要素を排し、より抽象的で細密なモザイク画のように9本の弦が緻密に響き合う2つの新曲がスリリングでした。

3曲の即興演奏。それぞれ、ロングトーン、プレストのパッセージ、ピチカートをサンプラー・ループマシンにより反復させて、ノイジーに不協和音を重ねていく剛腕は波多野音楽の真骨頂。ヒーリング的なネオクラシカルミュージックとは対極のエッジは更に研ぎ澄まされている。

新編成ではじめてのライブということもあり、アンサンブルとしてはまだこれから熟成されていくところだと思いますが、その荒削りささえも音楽の魅力に変えてしまう。

2010年に画家足田メロウさん個展のオープニングではじめて共演し、東日本大震災直後のざわついた時期に何度も通ったleteのtriolaライブ。アップデートされたTRIOLAをまたあらためてフォローしていきたいと思います。

 

2016年7月23日土曜日

古川麦 7inch "Seven Colors" 発売記念ワンマンライブ『七七七』

7月下旬、涼しい土曜日。渋谷7th FLOOR古川麦 7inch "Seven Colors" 発売記念ワンマンライブ『七七七』」に行ってきました。

弾き語りソロ、関口将文さんノラオンナさんとのデュオ、弦楽トリオ、ちみんさんannieくんのトリオ、表現(Hyogen)港ハイライトなど、いろいろな編成の麦くんのライブを聴きましたが、リズムセクションが入るフルバンド編成は実は初めてでした。

コーラスをループさせたジャジーなアレンジの "Coming Of The Light" からソロで3曲、ピアノ谷口雄さん(ex.森は生きている)、ウッドベース千葉広樹さんKinetic)、ドラムス田中佑司さん(ex.くるり)の強力なバッキングを得て、更にチェロ関口将文さん(JA3POD)、ヴァイオリン田島華乃さんが繊細な色彩を添える。

段階的に演奏者が増えていくストップメイキングセンス形式で、ラストの"Seven Colors"まで全14曲90分の本編に、宮沢賢治の「星めぐりの歌」、初めて作った曲「Summer Song」のアンコールという構成。そして会場DJをつとめた藝大の同級生KAZUHIRO ABOさんに促され小沢健二の「大人になれば」で客席は大盛り上がりでした。

メンバー間の信頼関係の深さが音楽に如実に表れている。部室で男子たちが先輩後輩混じってわちゃわちゃしている僕の好きな感じもあり、唯一の女子である華乃さんが「これだから男子って、、」みたいな感じで若干距離を置いて大人っぽく見守る姿もまた一興。

トレードマークのハットと眼鏡はあえて避けたのか。麦くんが元から持っている誠実さも几帳面さも知性も小生意気な青さもバンドサウンドによってフィジカルに躍動する。7th FLOORのステージのレッドカーテンから連想させる、たとえばヴェガスのショーに出しても全く見劣りしないぐらい、音楽そのものの力で満員の観客を魅了する一流のエンターテインメントに仕上がっています。

美しく正確なギターのパッセージはバンドのグルーヴに溶け込んでしまいますが、それを聴きたいときはソロやデュオのライブに行けばいいし、むしろそういった意味でも多彩な才能を確認したライブでした。


2016年7月22日金曜日

南国恋情

梅雨明け間近の涼しい夕方、ゆるやかな坂を上って下って外苑前のTAMBOURIN GALLERYへ。『森宏の個展2016「南国恋情」』にお邪魔しました。閉廊間際の時間に着いたにも関わらず、歓待してくださってありがとうございます。

小さなスピーカーから流れる島唄。入り口にはオリオンビールの提灯と椰子の鉢。壁一面を埋め尽くす夏の光景。作家森宏さんのサービス精神に溢れる楽しい展示で、とても幸せな気持ちになりました。

パンチラ、パンモロ、胸の谷間、脇乳と思春期男子目線が潔く痛快です。クローズアップだけでなく、大勢の食事風景があったり、真夏の日差しに輪郭が滲んだ南島の樹木があったり。特にギャラリーの壁面上方をぐるりと囲んだ午睡のパノラマは壮観です。

21世紀の東京のゴーギャン。エロを基調としながら、じめじめとしたものになっていないのは、明確なコンセプトと確かな技術に裏打ちされているから。迷いがなく正確な描線、明るく健康的な色使い、繊細なタッチ、ウィットに富んだコラージュ。そして時間とともに移ろう光を捉える眼。

昼間の日向を明瞭な色彩で描く一方、正午過ぎのビーチは眩しく緩ませる。柔らかく斜めの早朝の日差し、宵闇の深さと温度を持つ電球の輝き。ノスタルジックで幸福な夏の空気。

タンバリンギャラリーさんを訪れたのは2010年12月のワンマンライブ以来。療養中だった共同経営者のイラストレーター永井宏さんはその後お亡くなりになられましたが、あの冬の夜の賑わいを夏の絵を眺めながら思い出しました。

展示は明日7/24(日)まで。雨期の東京に咲いた170葉の夏の光をきっとお楽しみいただけると思います。東京メトロ銀座線ユーザーのみなさん、是非!


2016年7月18日月曜日

声ノマ 全身詩人、吉増剛造展

真夏日、晴天。東京メトロ東西線15000系に乗って竹橋へ。東京国立近代美術館で『声ノマ 全身詩人、吉増剛造展』を鑑賞しました。

存命中にこれだけの規模のレトロスペクティブが開催される詩人が今の日本に存在していること。教師や研究者、翻訳家、小説家、随筆家など、他の生業を持たずに、詩一本で暮している数少ない人。それが吉増さんだということに驚かされる。

僕の自宅近くのイオンに以前入っていたブレンズコーヒーで、いつも午前中に執筆していらして、休日に買い物に出かけるとご挨拶していた間柄なので、「その競技のことはよく知らないけれどご近所さんなので応援しています」的な気持ちがなきにしもあらずなのです。本当は同業者なのですが。。

「声ノート」の展示が特に印象に残りました。暗い部屋の中央に2列で並べられた、ゆうに1000本以上はあると思われるカセットテープ。民謡や相撲甚句、落語、ジャズ、ポップミュージック、歌謡曲、イタコの口寄せ。最も本数が多いのがメモがわりに自らの声を吹き込んだテープ。今ならスマホのボイスメモを使うところですね。

天井から十数基の小型スピーカーが等間隔に吊るされており、その先に別々のポータブルカセットレコーダーがつながっている。スピーカーの真下に立つとレコーダーに語りかける吉増さんの言葉が聴こえ、位置を外れると、意味を失った複数の声が、まるで群れをなす蛙の鳴き声のように響き合って聞こえる。

1990年代以降の作品は、手稿の判読すら困難で、意味や物語ではなく感応そのものを表現しているように思えます。大詩人(例えばエリオットとかオーデンとか)といって想像されるような「ばーん!」「どかん!」「ドヤァ!」みたいな詩ではなく、小鳥のさえずりみたいな詩。吉増さんの声自体も、コアのない、どちらかといえば不安定で、か細い声です。それがこれだけリスペクトされているということ自体、とても日本的なのかもしれません。

僕が以前編集スタッフをしていたポエトリーリーディング情報のフリーペーパー "TOKYO READING PRESS" で2007年に行ったインタビューが図録に掲載されています。小森岳史と僕がインタビュアー、発行人の斉木博司が撮影を担当した、みぞれ降る午後、銀座伊東屋の喫茶スペースで、2時間超の刺激的な時間。あちこちに飛びまくる話を苦労して掲載原稿にまとめたのを思い出します。

展示は8月7日(日)まで。入館しなくてもミュージアムショップには無料で入れますので、図録だけでも是非お手に取ってご覧ください。P.202に載っています。



2016年7月16日土曜日

フィクショネス詩の教室 @tag cafe 2016

連日の猛暑からすこしだけ解放されて、今日の東京は過ごしやすい気温です。2014年7月の閉店まで14年半、下北沢の書店フィクショネスで続けた詩の教室のエキストラトラックが今年もtag cafeさんで開催されました。

ご参加の皆様、企画してくれた杵渕里果さん、tag cafeさん、ありがとうございました。

今回も昨年同様、自作他作問わず好きな詩を数編ずつみんなで持ち寄って、その素晴らしさをプレゼンし、基本全員で褒め称える、というスタイルです。

逸見猶吉報告(ウルトラマリン第一)
ジャック・プレヴェール灯台守は鳥たちを愛しすぎる高畑勲
北村太郎おそろしい夕方
村田活彦オルゴール
エミリー・グロッショルツ地上の星早川敦子
小西とっこ「波は私が立てました」「本当の詩を読んだ夢を見た」
谷川俊太郎世代

等々、全部で22篇が紹介されました。詩の教室の講師を長年やってきましたが、当然のことながら読んだことのない詩のほうが多いわけで、世界中にはじめて出会う詩作品が溢れています。あるいはひっそりと少数の誰かに大切に読まれ、あるいは静かに息をひそめて誰かに見つけてもらうのを待っている。

自作の詩も歌詞も素敵な作品に触れることができ、特にジュテーム北村氏の新作(なのかな?)「pretty things」の瑞々しいボーイミーツガールにはときめきました。

かつて書店フィクショネスに通ってくれたOBOGだけでなく、初参加の方がいたのもうれしかったです。読み方も解釈もさまざまで面白い。意味を議論することも、技巧を味わうこともできる。言葉と文字と声だけでこんなにも豊かなメディアになれる。詩っていいな、楽しいな、と思います。

何年後になるかわかりませんが、次回がまた巡ってきますように。


2016年7月9日土曜日

ころがる余白

飯能のギャラリーで詩の個展をするので一緒に朗読をしませんか、というメッセージを森本千佳さんからいただいたのは昨年末。その後、熊本で大きな地震があり、チャリティ公演にしようという話になりました。

森本千佳さんの旧姓は井口さん。元々下北沢の書店フィクショネスの常連で、2000年に詩の教室を始めたときから数年、熱心に通ってくださいました。とても素敵な詩を書かれ、僕が教えることなど何もなかったにも関わらず。

その後、東京から埼玉、そして2年前に熊本県天草に引っ越して、すこし疎遠になっていましたが、この日十数年ぶりに再開しました。真白なカバーオールに濃紫のカーディガン。楚々としていながら時折いたずらな少女のように瞳が光る。長い長い空白が一瞬にして埋まりました。

展示された詩作品はタイポグラフィの要素の濃いヴィジュアルポエトリー。ご主人が手がけたという額装と相俟って、シンプルな造形と大きな余白のバランスがとても詩的です。

詩の教室で持参した自作詩を一篇読んでもらったことは何度もありましたが、千佳さんの朗読をこれだけまとまった数聴くのもはじめてでした。いくつもの小さなガラス片が軽くぶつかりあうような声の響きが心地良く、熟練した朗読ではないのですが、丁寧に生活を掬った作風によく合っていました。

事前に千佳さんからいただいた「距離」というテーマに沿って選んだ40分のセットとアンコールは下記の通りです。

 1. ANOTHER GREEN WORLD
 2. チョコレートにとって基本的なこと
 3. 無重力ラボラトリー
 4. ボイジャー計画
 5. 星月夜
 6. バースデーソング
 7. 無題(青空を飛ぶ鳥と鳥を~)森本千佳
 8. Planetica (惑星儀
 9. 距離
10. 都市計画/楽園
en.

「距離」という詩は2000年に制作したカセットテープ "at St. Alban's Church" に収録し、その後詩集には掲載していない詩で、朗読したのも15年ぶりぐらいです。きっとこの日のために静かに出番を待っていたのでしょう。千佳さんの作品も一篇、詩集『新しい関係』から無題の詩をカバーさせてもらいました。

「今日も誰かの誕生日ならきみの誕生日を毎日にしたい」(森本千佳/バステト)、「今日も見知らぬ誰かの誕生日/惑星は公転軌道上の/去年と同じ場所に戻ってくる」(カワグチタケシ/バースデーソング)。うれしい偶然の符合が随所にあり。

そしてボーナストラック的に、ご来場のMC長老こと村田活彦さんが登場し、マツコ会議でも朗読した詩「オルゴール」を披露して、華を添えてくれました。

会場は西武池袋線飯能駅からほど近く、詩人宮尾節子さんが地元の仲間たちと営むギャラリー食堂「厩戸」さん。実はここが別の名前のお店だった頃、7~8年前でしょうか、一度朗読させていただいたことがあります。キュートな女性スタッフさんたちが提供するお食事もコーヒーも大変美味しかったです。



2016年7月3日日曜日

アサガヤノラの物語

梅雨明け前だというのに東京は猛暑日になりました。阿佐ヶ谷駅前のロータリーは真夏のアスファルトとガソリンの匂い。それでも住宅街をしばらく歩くと、静かに澄んだ空気のその店があります。

先週 Poemsica Vol.48で約2年ぶりに共演したリスペクトする音楽家ノラオンナさんが毎週末にBarトリアエズで開いている日曜音楽バー『アサガヤノラの物語』。普段は弾き語りのワンマンライブをブッキングしていますが、3週間のインターバルを置いたこの日はカワグチタケシのポエトリーリーディングの回でした。

ご来場の皆々様、それぞれの持ち場で気に留めてくれていた方々、いつも気配りのあるおもてなしと美味しいお料理を用意してくださるノラさん、どうもありがとうございました。セットリストは下記の通りです。

 1. We’re All AloneBoz Scaggs
 2. 無題(薄くれない色の闇のなか~)
 3. 雨期と雨のある風景
 4. ホームカミング
 5. Universal Boardwalk
 6.
 7.
 8. 観覧車
 9. 新しい感情
10. すべて
11. 水玉
12. 花柄
13. The Rain SongLed Zeppelin

テーマは雨期。雨の描写の入っている自作詩を11篇とご来場者プレゼントのカワグチタケシ訳詞集 "sugar, hpney, peach +love3" から雨の歌を2曲、歌詞を朗読しました。読み始めた18時過ぎには明るかった街路が次第に暮れて、1時間後に読み終わる頃に僕らは夜の入り口にいました。今年は空梅雨で、当日も晴れでしたが、すこしでも雨期の気分を味わってもらえたなら幸いです。

他のライブにはないアサノラ独特の空気が好きです。僕の言葉と声を聴くためだけに集まっていただけるのがうれしいことですし、みなさん本当に真剣に聴いてくださっているのが朗読している最中にじわじわ伝わってきて、それは内面的コール&レスポンスと呼んでもいいくらい。

そして、ライブが終わって素敵なお食事が供されるときに、ふっと緩む空気。そのコントラストもアサノラの魅力。観客としては来月8/7のmayulucaさんの回にお邪魔する予定ですが、僕の次の出番は真冬かなあ。どうぞお楽しみに。

さて、次の週末は飯能で詩人、宮尾節子さんが共同経営するお店で、震災チャリティライブです。詩作品のギャラリー展示はなかなかめずらしいと思います。お時間の許す方は是非いらしてくださいね。

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森本千佳個展「ころがる余白
熊本地震被災地支援朗読ライブ

日時 2016年7月9日(土) 19:00開演
会場 ギャラリー食堂「厩戸」埼玉県飯能市仲町13-4
   042-978-7589 http://umayado.hatenablog.com/
料金 1500円+1オーダー ※入場料は熊本地震の被災地に寄付します。
出演 森本千佳、カワグチタケシ

森本千佳さんは熊本県天草在住。「言葉をかたち」でとらえ、「詩を絵で描く」方法を実践しているユニークな詩人の展覧会。作品の展示期間は7月6日(水)~10日(日)です。

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