2013年11月30日土曜日

Viola&Piano Duoconcert vol.4 "Casual Classic"

よく晴れた空に白い雲が浮かんでいます。11月最後の土曜日、山手線に乗って大塚へ。音楽堂 ano ano手島絵里子さんtriola蓮沼執太フィル etc.)、明利美登里さんの室内楽リサイタル Viola & Piano Duoconcert vol.4 "Casual Classic" を鑑賞しました。

このシリーズは2010年9月のvol.1から毎回聴いています。初回は生まれたて仔鹿のように震えていた手島さんが回を重ねるごとに堂々として演奏にも落着きを与えています。

クラシックから出発した演奏家が、オルタナティブを経由して、もう一度クラシックに戻ってきたときのアティテュード、グルーヴ、タイム感にはやはり現代的なアクチュアリティが存在する。そこが面白い。

"Casual Classic"とサブタイトルにあるとおり、今回はクラシックの有名曲や童謡、クリスマスソングなど、小品を中心とした構成でした。

・ドヴォルザーク 「家路より」
・中田喜直 「ちいさい秋みつけた」
・本居長世 「七つの子」
・山田耕筰 「赤とんぼ」
・マクダウェル 『忘れられたおとぎ話』 op.4
・モーツァルト 「トルコ行進曲」
・ピアソラ 「リベルタンゴ」
・シューマン 『こどもの情景』op.15より「トロイメライ」
・フランス民謡 「きらきら星」
・フォーレ 「エレジー」op.24
・シューベルト 『冬の旅』 op.89 D911より「菩提樹」
・シベリウス 『樹木の組曲』 op.75より「第5番 樅の木」
・ブラームス 『3つの間奏曲』 op.117 「第2番 変ロ短調」
・グノー 「アヴェ・マリア」
・スタイン 「レット・イット・スノー」
・トーメ 「ザ・クリスマスソング」
・チャイコフスキー 『四季』op.37より「12月 クリスマス」
・ウィリアムズ 『ヴィオラのための組曲』Group1
・アンコール 「聖しこの夜」

演奏者が終始無言で厳粛で張りつめた空気のホールコンサートと違って、気楽な雰囲気で、曲にまつわるエピソードやクリスマスの思い出などのMCもまじえたサロンリサイタルです。でも演奏技術はしっかりしたもので、今回は明利さんのピアノがジャジーで新鮮でした。「ヴィオラは秋の音色」っていう話もうなづけた(あ、ブラームスのop.117は僕には春のイメージです)。

シューマンやブラームスなどの日頃親しんでいる曲を現代的な解釈で聴けるのも楽しいですが、数少ない(?)ヴィオラソロ作品を毎回手島さんが発掘してきてくれるので、知らなかった音楽に触れることができるのもこのシリーズならでは。ヴォーン・ウィリアムズははじめて聴きましたが隠れた名曲でした。




2013年11月24日日曜日

日曜音楽バー『アサガヤノラの物語』

阿佐ヶ谷は駅から数分歩くと落ち着いた住宅街になります。そんな細い路地が交差する三角地に建つモルタルアパートの1階にあるBarトリアエズ。すっかり日が落ちた路地にその店の窓は柔らかい灯りをともしています。夏の終わりに切った髪を束ねたプリーツスカート姿のノラオンナさんが大きなガラスのドアを開けて迎えてくれました。

日曜音楽バー「アサガヤノラの物語」。銀座から阿佐ヶ谷に引っ越してからはじめての出演です。

 1. 無題(都市の末梢神経が~)
 2. Universal Boardwalk 2009-2010
 3. 腐敗性物質田村隆一
 4. 音無姫 (岸田衿子
 5. 水玉
 6. 花柄
 7. 新しい感情
 8. もしも僕が白鳥だったなら
 9. (タイトル)
10. ANGELIC CONVERSATIONS
11. METAPHORIC CONVERSATIONS
12. DOLPHINS
13. 秋のソナタ
14. スノードーム
15. We Could Send LettersRoddy Frame

今回ご来場者特典として、現在絶版になっているカワグチタケシ第一詩集『1996~1997』完全復刻版をご用意しました。上記セットリストの9~15はその詩集に入っている1996~1997年、つまりいまから16~17年前に書いた作品群です。10年以上朗読することのなかった詩もありますが、意外と普通に読めるものですね(笑)。

やはりソロライブというのは、ちょっとだけ気持ちが入るというか。今回選んだ作品のひとつひとつに、選んだ理由がいつもよりすこし濃いめにあり、MCでそれを言ったり言わなかったりするのも楽しいものです。岸田衿子さんの「音無姫」は聴きにきてくれた11歳の美少年のために朗読しました。これもまた予約制ならでは。新作の「水玉」「花柄」もお披露目することができました。

ノラさんのお料理もハイボールもしっかりとしていながらやさしい味で、ライブ後のおしゃべりが弾みます。

銀ノラ2回と今回のアサノラと。2013年は3度のソロライブがありました。その3回をほぼネタかぶりなしでやり遂げた自分に乾杯。いつも気にかけてくださるみなさんのおかげです。どうもありがとうございます!

 

2013年11月21日木曜日

Poemusica Vol.23 "Muse Incarnation"

僕の暮らす埋立地の銀杏もすっかり金色になりました。ボジョレーヌーヴォー解禁の夜、下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで、Poemusicaが開催されました。

Poemusicaにはサブタイトルがつくときがあります。SEED SHIPのオーナー土屋氏がつけるのですが、この日は"Muse Incarnation"。「ミューズの化身」とでも訳したらいいのでしょうか。先月のPoemusicaの終演後、土屋氏から「次回は3人のミューズに、それぞれの音楽に合う詩を添えてもらいたい」というオーダーをもらいました。

YuReeNaさんは二十歳。先月まで武井ゆりなという名前で活動していたので、こちらをご存じの方が多いかも。1曲目はゲストボーカルにYOUYOU.さんを迎えて "TODAY" からスタート。2曲目からはひとりで。Celtic Womanのカバー"You Raise Me Up"。新曲のクリスマスソングも含め自作曲もクオリティが高く、ピアノの左手は複雑なシンコペーションを正確に弾きこなす技術を持っています。肌が真っ白で憂いのある表情の和風美人ですが、天性の明るさとテンションの高さでみんなを笑顔にします。

ざっくりと編んだ生成りのセーターで登場したさとう麻衣さん。眼鏡美人。すこし低めのソウルフルな声が耳に残ります。躍動感のある楽曲とか、演奏とか、歌唱とか、ステージングとかって言いますが、麻衣さんの場合は「声」そのものに弾力性があって躍動している。これはもう天賦の才です。もちろん努力を怠らずにいるのだと思いますが。開演前に楽屋でカップラーメンを食べている彼女とカーテンのすきま越しに目が合ったときのいたずらっぽい表情がチャーミングできゅんとしました。

3人目は小林未郁さん(画像)。ミューズという呼び名がこれぐらいしっくりくる人もなかなかいないと思います。眉の高さでまっすぐ切り揃えられた黒髪のボブ。小柄で(公式プロフィールによると150cm)華奢なスタイルをヴェルヴェットのワンピースに包んで、お人形のような姿ですが、曲調も歌詞もゴシックの極み。イタリア、ポーランド・ツアーから帰国したばかりということですが、ヨーロッパで人気が出るのがよくわかわります。表現力があるってこういうことなんだな、って思いました。自分の声を完璧にコントロールしています。

僕が3人のミューズに捧げた詩。長野出身のYuReeNaさんには「初雪」と「」。山荘を出て東京に帰ってくる男と山荘に残してきた人の詩。さとう麻衣さんには「舗道」「夕陽」「答え」。1曲目の歌詞に出てくる心臓の鼓動につないで。そして小林未郁さんに「Doors close soon after the melody ends」。

2011年12月29日に始まり、2年間毎月続けてきたPoemusicaですが、今年12月はじめてお休みします(そのかわりにSEED SHIPには12/29の年末フェスに出演します)。次回は1月19日。はじめての日曜日のお昼開催です。昼間のSEED SHIPは床から天井まである大きなガラス窓から太陽がさんさんと降り注いでとても気持ちの良い空間です。鳥井さきこさんと京都からの中村佳穂さんの出演が決定。詳細決定しましたらまたあらためて告知しますね。ふだん平日はなかなか足を運びづらい方たちにも是非いらしていただきたいと思っています!




2013年11月9日土曜日

シダの群れ3 港の女歌手編

気づけば長い付き合いになっていました。東京アンダーグラウンドシーン最高のエンターテイナーとしてリスペクトするエミ・エレオノーラさんに誘われて、彼女が音楽を担当している岩松了脚本演出の舞台『シダの群れ3 港の女歌手編』を、渋谷東急Bunkamuraシアターコクーンで観賞しました。

訳あって組織に属さないヤクザ森本(阿部サダヲ)は密航に失敗し、港町のナイトクラブ「スワン」に流れ着く。そこには世界で勝負することを夢見る中年の歌手ジーナ(小泉今日子)がいた。スワンを仕切るのは暴力団都築組。その若頭結城(小林薫)に密輸の手伝いを依頼される森本。都築組の上位組織大庭組の幹部清水(豊原巧輔)。ジーナのマネージャー山室(吹越満)。この5人を軸に物語が進みます。

敵対する組織間の抗争、組内の上下関係と跡目争い、裏切り、スパイ、寝返り、銃撃戦。自ら好んで組織の論理に縛られているように見える男たちに対して、女たちはそれぞれ自分の足でしっかり立ち、踊り、歌う。男たちのなかで唯一組織にコミットしない森本は何処にも馴染むことができない。

ジーナ「最高でしたって何よ! 私のステージはいつでも最高。最低のときも最高なの。それは私が私だからよ!」

森本「走り出したときのまま走り続けないと気が済まない性分でね」

結城「言葉ってものは吐くだけじゃない。吐かれた者の反応ってものがある」

登場人物の相関関係が複雑なうえ、敵味方が入れ替わり続けるストーリーなので、芝居の進行に沿って充分に理解することは困難です。僕は幕が開いてしまえばあとは流れに乗ってしまえというほうなのであまり気になりませんでしたが。また、シリーズ第3作ということもあり、舞台には登場しない人物の名前がいくつか科白のなかに現れます。ライバル組織の構成員だったり、長年のファンだったり。これが舞台の内と外を繫ぐ回路となり、物語に不思議な拡がりを付加しています。

エミ・エレオノーラさん(作曲・ピアノ)と2管のクインテットはスワンのハコバンという体裁で、小泉今日子さんが唄う3曲の挿入歌(1曲は豊原巧輔さんとのデュエット)と劇伴のほぼ全てを生演奏しています。レニー・トリスターノばりのクールでアブストラクトなジャズからGROUPみたいに即興性の強いジャムセッションまで。エレガントに洗練された演奏は、音大で現代音楽を学び、1980年代には銀座の最高級クラブでラウンジピアノを演奏していたエミさんのスキルが遺憾なく発揮され、ともすれば湿っぽくブルージィに流れがちな任侠劇をワンランク上のエンターテインメントに押し上げています。

シアターコクーンでの公演は11月30日まで。その後、大阪シアターBRAVA!(12/6~15)、北九州芸術劇場(12/21~23)へ。クリスマスまで続きます。

 

2013年11月3日日曜日

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語

曇り空の日曜日、ユナイテッドシネマ豊洲で、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』を観ました。

前作から1年(オリジナルのテレビシリーズからは2年半)。魔法少女たちのその後ということになりますが、実は主要な登場人物5人のうち3人は戦闘中に死亡、主人公まどか(画像中央奥)は「円環の理」となって概念化、残されたほむら(画像中央手前)が荒廃した世界でひとり闘い続ける、というのが前作のエンディング。

ところが新作では魔法少女が5人揃って学園生活を送っているシーンから始まります。そして夜な夜な力を合わせて華麗に敵(ナイトメア)を倒しています。そのなかで、ほむらひとりが「私達の闘いってこれでよかったんだっけ?」と疑問を抱いている。

それは仮想された街に魔法少女たちを閉じ込める罠だった。

「あなたはこの世界が尊いと思う? 欲望よりも秩序を大切にしている?」という問い。世界中の魔法少女たちの運命を救う「円環の理」よりも強い「愛」によって、ほむらは宇宙を崩壊させてしまう。「愛」は美しく優しいいだけではなく、嫉妬も独占欲も含んでいるから。

現代日本のアニメーション技術が世界最高レベルであることは間違いなく、その粋を極めたダイナミックかつ繊細な映像美で魅せますが、ストーリーは混沌を極め、カオスを収拾しないまま映画が終わります。挑戦的な問題作。もう一度仔細に検証してみたくなる。はたして次作が製作されることはあるのでしょうか。