2017年7月25日火曜日

正しいトゥクトゥクドライバーの選び方

薄曇りの日曜日。東京メトロ丸の内線に乗って。新高円寺STAX FREDへ。大越扶美子ワンマンライブ『正しいトゥクトゥクドライバーの選び方』に行きました。

大越扶美子とはシンガーソングライターmueさんの本名。昨年4月以降ライブ活動を休止して、数か月にわたり、インド、タイ、カンボジア、ラオス、ヴェトナムを旅した。その報告会的なライブです。

4月のバンドワンマンの祝祭的な高揚感から一転、リビングルームに親しい友人を招くホームカミングパーティのようなリラックスした雰囲気で進みます。

とはいえmueさんのことですから凡庸なものになるわけはなく。カバー以外はほぼ全曲が新曲という攻めのセットリストです。旅先での体験、出会った人たちをシンプルなコード進行とナチュラルな旋律で綴る。カバーもその曲が歌われた特別なシチュエーションの解説つき。「旅」というテーマに絞り込まれたことでMCと楽曲が有機的に結びつき、みんなでスライドを観ながら旅人の話を聞ているみたいな味わいがある。

新曲群では、旅にはあえてトラブルを期待したと言い「だってみんな安全が大好き」と歌う "Stormy Driving"、ラオスの子どもたちの挨拶 "ສະບາຍດ(サバイディー)"、ライブタイトルもなったトーキングブルーズ2部作「正しくないトゥクトゥクドライバーの選び方」「正しいトゥクトゥクドライバーの選び方」。

カバーではブラジリアンスタンダード"Tristeza"の伸びやかに澄んだハイトーン、はっぴぃえんどの「夏なんです」の抑制の利いた表現が特に印象に残りました。

バンドワンマンやショーケース的なブッキングはmueで、今回や「ガラクタの城」「同vol.2」のように素の自分を見せるテーマ性のあるライブは大越扶美子で、当面は行くのかな。4月11日に開催されたライブ『この新しい星で、一緒に遊ぼう。』のアンコールMCでは、活動名義を本名に変えるかどうか、客席も巻き込んでカオティックに逡巡した一幕があったのですが、このように落ち着いたことを喜ばしく思います。


2017年7月22日土曜日

パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち

渋谷東急Bunkamura ル・シネマ1で、マレーネ・イヨネスコ監督作品『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』を観ました。英国王立ロイヤルバレエ団露マリインスキー・バレエと並ぶ世界三大バレエ団のひとつ、パリ・オペラ座は、300年以上の伝統を持つ世界最古のバレエ団。"Backstage"の原題の通り、86分の上映時間のほとんどがガルニエ宮のドーム屋根の下のリハーサル室の光景です。

エトワールとは星の意。英国ではプリンシパル、イタリア語ではプリマ・ドンナとなりますが、センターを務めるトップダンサーたちがいかにして表現を極めていくのか、その過程を追ったドキュメンタリーフィルムです。

出演者は、ダンサー、コーチ、振付師、指揮者、演奏家、劇場スタッフ。公演とその準備に直接携わる人たちだけ。家族も友人も誰一人として画面には登場しない。

高い跳躍から着地するときに硬いトウシューズの底が木製のフロアに当たる音。ひとつのシークエンスを踊り終えた後のダンサーの荒い息づかい。コーチのアドヴァイスの大声。劇場スタッフたちの作業音。サウンドトラックはほぼリハーサル室のピアノの生演奏だけで、劇映画的なスコアは使用されていません。

ナレーションは一切なく、テロップも曲名と作曲家、振付師、ダンサーの名前のみ。何の説明もなく始まり、唐突に終わる。オペラとは異なり、バレエというのは言葉を発さない、言葉を用いないで情感を伝えることに傾注した表現形式であることとリンクしているように思えます。ところどころで挿入されるダンサーたちのインタビューの言葉と、何よりもその身体がすべてを語っている。

群舞のリハーサルに呼ばれたバレエ学校の子どもたちがエトワールを見つめる憧れのまなざしと「バレエはコード化された踊りですが、解放を加えることで現代性を表現するのがキーです」と言うマチュー・ガニオの言葉が印象的でした。

 

2017年7月16日日曜日

ノラバー生うたコンサート

なみだ色の日曜日。はじめて降りる駅、西武新宿線西武柳沢。富士街道の辻の五差路、伏見稲荷通りに2週間前にオープンしたばかりのノラバーは、とてもお世話になっているミュージシャンのノラオンナさんがはじめて持ったご自身のお店。

僕も何度も出演させてもらった「銀座のノラの物語」「アサガヤノラの物語」はいずれも日曜の定休日を借りてのライブ営業でした。ノラバーは、銀座ときねのダークな色調と阿佐ヶ谷Barトリアエズの大きな窓をミックスしたような落ち着く空間です。

今日の出演者はmayulucaさん。他のライブで何度か顔を合わせているのでひさしぶりな感じがしないのですが、昨年8月のアサノラ以来でした。開店を祝しての「出発」から一昨年高円寺の古書店Amleteronのライブで池永萌さんと共作した「朝の月」まで全14曲、約80分。カウンターだけの細長い店の演奏家から一番遠い席にもクリアに響き、ギターと歌声の繊細な表情がよく伝わってきます。

お店のすぐ前は2車線の通りで、ライブ演奏に生活音が程好くミックスされる。バスの運転手を歌うと路線バスが通過し、「笑い声が聞こえるところで(おひさまの居場所)」という歌詞をバックに女子中学生が笑いながら通り過ぎる。そんなグッドタイミング。

mayulucaさんの音楽はミニマルで精緻な構造を持ちながら同時に、あっけらかんとしたおおらかさと包容力がある。音の粒が淡く光を放ちながら夏の始まりの湿った夜の空気に溶け込んでいきます。

演奏後は6品のおかずと味噌汁のノラバー弁当をmayulucaさんもノラさんもみんな一列に並んで食べながらおしゃべり。mayulucaさんからの開店祝いのアルパカラベルのスパークリングワインが振る舞われ、夜が更けるごと座は一層に賑やかに。どのお料理も美味しかったですが、豚肉と玉葱だけ使ったシンプルなミニカレーライスが特に味わい深かく。木曜日に訪れてフルサイズをいただきたくなりました。

ノラバー生うたコンサート、僕の出番は9月24日(日)。どうぞよろしくお願いします。詳細はあらためてお知らせします。


2017年7月15日土曜日

フィクショネス詩の教室 @tag cafe 2017

今日も真夏日。梅雨が既に明けているんじゃないかという思うぐらい。下北沢の街は熱気に溢れています。フィクショネス詩の教室 @tag cafe 2017 を開催しました。

小説家藤谷治氏がオーナーの下北沢の書店フィクショネス2014年7月に惜しまれつつ閉店しました。2000年3月から閉店まで14年半続いた詩の教室で講師を務めさせていただきました。それから3年。当時の参加者のひとり杵渕里果さんが毎年7月にフィクショネス跡地と同じ街区のカフェを借りて、ワークショップを企画してくれます。

同窓会のようでもあり、且つ新しい方も毎年参加し、ひとつのテーブルを囲み、自作他作問わず好きな詩を持ち寄って意見交換する2時間。今日みんなで観賞した詩はこの12篇です。

谷川俊太郎「ニューヨークの東二十八丁目十四番地で書いた詩」
田村隆一頬を薔薇色に輝かせて
糸井重里「いいこ いいこ(GOOD GIRL)」※矢野顕子の歌詞
矢野顕子愛はたくさん(LOTS OF LOVE)」※同上
ウンベルト・サバ娘の肖像」「ぼくの娘に聞かせる小さい物語」「われわれの時間」「第一のフーガ(二声による)」※須賀敦子
・芦田みのり「パズル」
・ジュテーム北村「TQJ」
・谷川俊太郎「家族
・宮崎譲「やどかり」

僕は『俊読2017』のボーナストラック的に冒頭2篇を担当しました。同じ谷川俊太郎のまったく異なる作風の詩を選んだ方がいたり、偶然ふたりが同じ『ウンベルト・サバ詩集』から対照的な作品を持ち寄ったり。

普段なかなか知り合うことのない作者や作品に触れることができるのも、その作品が好きな人から愛情をもって紹介してもらえるのも、誰かが持ってきたはじめて聴く/読む作品の素敵なところや洒落た技巧を見つけて伝えるのも、ひとりで読書をしているだけでは味わえない。別の愉しみがあります。

現役のレッスンプロ(?)として受講料をもらい毎月教室を開いてた頃は、入念な下調べをして、合評は斬るか斬られるか、みたいな気持ちもありました。時間とともに詩とのつきあい方が変わり、当時の緊張感から解放されて、いまは詩との出会いをずっと素直に楽しめるようになりました。それは豊かなことだと思います。

参加者の皆様、tag cafeさん、そして杵渕里果さん、どうもありがとうございました。また来年も下北沢で会いましょう。


 

2017年7月9日日曜日

第21回TOKYOポエケット

真夏日。名古屋場所初日。都営地下鉄大江戸線で両国まで。江戸東京博物館で開催された『第21回TOKYOポエケット』にプリシラ・レーベルのブースを出店しました(TOKYOポエケットとプリシラ・レーベルのあらましについてはこちらこちらをご参照ください!)。

本人のつもりとしてはいつまでも青二才感が満載なのですが、数回抜けてはいるものの1999年の第1回からずっと参加しているプリシラ・レーベルは気づけばすっかり老舗になっていました。

プリシラ製品をお買い上げいただいたお客様にももちろん大感謝です。いまごろ世界のどこかでお楽しみいただけていたら幸いでございます。毎年接客販売に注力して、せっかくの詩人のみなさんとの交流がなかなかできず、不義理も多々ありましたが、今年は新作がなかったのと、近年弊社で作品制作をした小夜さん石渡紀美さんがお手伝いに来てくれたので、他のブースもゆっくり拝見し、ご挨拶ができました。

お隣が東京荒野さんと詩人類さんで、俊読2017でもお世話になった桑原滝弥さんやリーディングの第一線で長く活躍している馬野ミキさんたちと楽しく過ごしました。2000年代初頭からフィクショネス詩の教室に通っていた懐かしい生徒さんとも再開し、出会い直しの一日でした。

リーディングゲストのおふたり。URAOCBさんの硬質なフロー、技術とパッションが拮抗した高密度のアクト。暁方ミセイさんの朗読はシンプルでオーソドックスながら素直な発声と真摯で丁寧な表現が美しかった。自分もかなり昔にゲストとしてステージに上がったことがあるのでアレですけれど、パフォーマンスがつまらないと「早く終わって売らせてくれ」ってなっちゃうんですが、今年は2組ともクオリティが高く集中して聴けました。

続けるって本当に大変で尊いこと。主催のヤリタミサコさん川江一二三さん、モギリ死紺亭柳竹さん、バウンサー乗越たかおさん(舞踏評論家)にビッグアップ。いつもありがとうございます。


 

2017年7月5日水曜日

TRIOLA a live strings performance

夕立が上がった水曜夜。下北沢leteへ。TRIOLA a live strings performance波多野敦子さん(作曲、5弦ヴィオラ)と須原杏さん(ヴァイオリン)の現体制で再始動後、1周年となる5回目のワンマンライブにお邪魔しました。

珊瑚虫の産卵をイメージし、浅瀬に差す陽光のたゆたいを描いたようなスローナンバー "CORAL" から始まったライブは、2曲目以降怒涛の新曲ラッシュ。2012年3月の triola presents "Resonant #7" のレビューで「はじめて披露されたふたつの新曲のうち、『新曲2』とだけ紹介されたインストゥルメンタル・ナンバーの逸脱ぶりがすごかった」と書きましたが、その「新曲2」が初期の習作に思えるぐらい、現在のTRIOLAの音楽は充実した逸脱感に溢れています。

ヴァイオリンとヴィオラという弦楽器2棹のみによる生演奏は、エフェクターこそ使用しているものの、あくまでも味付け程度で、leteのサイズだと基本的には生音の存在感が強いのですが、にもかかわらず、急発進、急加速、急停止の繰り返しにより立ち現れる感触は、ノイズ/インダストリアル、テクノ/エレクトロニカ、ミニマル/アンビエント。緻密で硬質な波多野さんのスコアをどこまで有機的且つ柔軟に再構築するか、踏み外すぎりぎりのエッジを模索するようなスリルがあります。

以前のtriolaのワンマンでは、肖像音楽といって、観客のひとりのプロフィールを聴いて即興演奏をするコーナーを時々設けていました。今回は客席からお題をもらい、杏さんの先導でリアルタイムでアンサンブルを組み立てるという枠があり、「桃」「金魚」「暑い」の3曲がその場で創られ空間に消えていきました。

そのプロセスを間近に聴くと、杏さんはどちらかというとフレ―ジングから、波多野さんはヴォイシングからアプローチしているのが特徴的でした。かつての中近東/東欧寄りの哀愁漂うメロディも素敵でしたが、「金魚」のオリエンタルな旋律を聴くと、東アジア的な曲調も現在のTRIOLAには似合うんじゃないかな、と思います。

波多野さんが「部屋着姿」、杏さんが「すっぴん」と言う、会場限定CD-Rのスタジオテイクは繊細且つ丁寧に配慮が行き届き、ワイルドな縦乗りのライブ演奏とはまた異なる魅力がありました。