2022年1月30日日曜日

3K13

2022年になり、1月もあっというまに終盤です。すこし日が延びて、冬の寒さがピークを越えたように感じます。なかなか世の中が落ち着きませんが、そもそも世の中が落ち着いていたことがあったのか、という気にもなります。皆様お元気でお過ごしでしょうか。

究極Q太郎小森岳史カワグチタケシ、イニシャルKの3人による3K朗読会が3年半ぶりに開催されます。今回が13回目となりまして、この3人が揃ってライブができることをとてもうれしく思います。

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日時:2022/02/26(土)15時半開場 16時開演
入場料:1000円+1drink
会場:JAZZ喫茶映画館 〒112-0001 東京都文京区白山5-33-19
   03-3811-8932 http://www.jazzeigakan.com/
   ※会場の地図はこちら

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前回2018年10月に古書ほうろうさんの千駄木の旧店舗で開催した3K12は、2006年にワニラ(イシダユーリ嘉村奈緒小夜)をゲストに招いた3K11から12年のブランクがありました。今回は約3年半ぶり。2000年に3Kを始めたとき、僕はまだ35歳で「還暦まで続けます」と言っていましたが、全員が50代になり還暦が見えてきたところでちょっと欲が出てきました。

会場のJAZZ喫茶映画館さんは、石渡紀美さん小夜さんのプリシラレーベル出版物のリリースイベントやKitchen Table Music Hourなどカワグチタケシ企画の音楽ライブでお世話になっていますが、実は3Kははじめて。マスター手作りの真空管サウンドシステム、壁にはヌーヴェルヴァーグのポスターと沢山の振り子時計がチクタク鳴っている、リアルヴィンテージな名店です。

フライヤーデザインは今回も小森さん、我々3人の旧友でベルリン在住のますだいっこうさんが撮影した冬景色をフィーチャーしています。

新規感染者数が日々増えています。万が一のときは変更のご連絡ができるように、今回は予約制とさせていただきます。開催されるのなら行くよ! という方は rxf13553@nifty.com(カワグチタケシ)までご連絡ください。どうぞよろしくお願いいたします。

 

2022年1月18日火曜日

モンク・イン・ヨーロッパ


文字だけのシンプルなタイトルロールのあと、映画はリハーサルスタジオから始まります。空港から到着したばかりのセロニアス・モンク(1917-1988)は時差ボケで頭が回らない様子。ツアーマネージャーに「すこし眠ったほうがいい」と言われるが、ピアノに向かいリハーサルを進める。

ベン・ライリー(dr)とラリー・ゲイルズ(b)のリズムセクションに、ジョニー・グリフィン(ts)、チャーリー・ラウズ(ts)、フィル・ウッズ(as)、レイ・コープランド(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)の五管を擁したオクテット(八重奏団)による1968年の欧州ツアーを追ったドキュメンタリーフィルム。クラーク・テリー(tp)も1公演だけ吹きます。

公演地はロンドン、ストックホルム、コペンハーゲン、ベルリン、マインツ、ロッテルダムとクレジットされているが、映画中にはテロップ含め説明はなく、一切のナレーションもインタビュー映像のインサートもなく、場面はほぼ空港とリハスタとコンサートホール。58分間ひたすらスタイリッシュなモノクロ映像が流れ、帰国便の待合室でりんごを丸齧りするモンクの姿で唐突に終わる。

モダンジャズ界の奇人と呼ばれるセロニアス・モンク。『真夏の夜のジャズ』や『ジャズ・ロフト』でもその姿が垣間見られるが、主役に据えた一本でより一層伝わります。コンサート本番でもこれ見よがしに弾き倒すことはなく、メンバーのソロになるとピアノの前を離れステージ上をうろうろと徘徊する。

音数が少なく、イントネーションもアクセントも独特の奏法で、グルーヴのありかも掴みづらいところがあるモンクのピアノですが、演奏中の右足はかかとと爪先で常にフォービートを刻んでおり、確かな内的律動が存在することを映像が雄弁に語っています。

モンクが現れないリハーサルではチャーリー・ラウズと唯一の白人メンバーであるフィル・ウッズがアイデアを出し7人で研磨する。モンク・ミュージックかくあれかし、という強固な暗黙の了解がそこにはある。

緊迫感溢れる演奏シーンの連続のなか、ホワイエで地元メディアの割と適当な取材を受けるシーンやホテルのベッドにボーイを呼んでチキンレバーとマッシュポテトのルームサービスをオーダーする姿、同行した妻ネリーの天真爛漫なお洒落にほっとさせられました。

モノラル録音ですが、ヒューマントラストシネマ自慢のodessa vol+を通すと音圧感がすごいです。コンサート本編はもちろんですが、リハーサルの音質も負けていない。フィルムのサウンドトラックだけではなく、カメラに映らないところでオープンリールレコーダーが回っていたのではないかと思います。

 

2022年1月16日日曜日

クライ・マッチョ

晴天。ユナイテッドシネマ豊洲クリント・イーストウッド制作監督主演映画『クライ・マッチョ』を観ました。

1980年、合衆国テキサス州。二歳馬の試合で五連覇という伝説的な記録を持ちながら、落馬して負った怪我が原因で引退したロデオスターのマイク・マイロ(クリント・イーストウッド)は、酒と薬に溺れていたが、妻と息子を交通事故で失い、質素な暮らしをしていた。

そこにかつての雇い主ハワード・ポーク(ドワイト・ヨアカム)が訪ねてくる。ニューメキシコシティに行って、別れた妻レタ(フェルナンダ・ウレホラ)から息子ラフォ(エドゥアルド・ミネット)を連れ戻してほしいという依頼をマイロは受ける。

路上で暮し闘鶏の稼ぎで生計を立てる13歳のラフォをマイロは見つけ、年の差78歳のふたりの珍道中が始まる。

イーストウッドは91歳、本作品で監督40作目。同監督の近年の名作『グラン・トリノ』(2009)や『ジャージー・ボーイズ』(2014)と比較すると人物造形が甘くプロットに綻びがあり演出も緩いですが、ほのぼのロードムービーとして、エンターテインメントとして成立しているのは流石です。

携帯電話もGPSもまだない1980年という時代設定も効いています。砂漠でピクニックしていたら車を盗まれたり、たまたま逃げ込んだ安食堂の女主人(ナタリア・トラヴェン)といい雰囲気になって、雨宿りした礼拝堂に朝食を届けてくれたり、ロデオの腕を活かして野生馬を調教していたら住民たちがこぞって動物を診てもらいに来てドリトル先生みたいになったり。レタの用心棒(オラシオ・ガルシア・ロハス)に追われているのにとにかくのんびりなんですよね。

ラフォの相棒である闘鶏のマッチョがいい芝居をしています。アクションシーンやカーチェイスをここが見せ場とばかりにだらだら引っぱらず、秒で終わらせるのはとてもいいと思いました。


2022年1月2日日曜日

ディア・エヴァン・ハンセン


舞台は現代のニューヨーク州郊外。ハイスクール3年のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は、うつと社会不安障害で投薬を受けている。クラスにも馴染めず「離れて見ている僕/変われるだろうか」と歌う。部屋の壁にレディオヘッドベン・フォールズのポスターを貼っています。

エリソン公園でインターン中に木から落ちて骨折した左腕のギプスに唯一サインしてくれたコナー・マーフィー(コルトン・ライアン)は薬物依存で暴力的なクラスの嫌われ者。

セラピーの宿題で書いた「ディア・エヴァン・ハンセン」で始まる自分への励ましの手紙をコナーに奪われる。コナーが自死したときポケットに入っていた手紙を読んだ両親は、エヴァンを死んだ息子の親友だと勘違いする。自身の気の弱さと遺族の悲嘆を前にエヴァンはそれを否定することができず、クラスメイトやSNSを巻き込む大事になっていく。

2017年のトニー賞を受賞したブロードウェイミュージカルの映画化です。配達員に言う適切な言葉がわからないからUber Eatsを頼めない主人公エヴァン。空気を読めずに失敗することを何より恐れる十代の姿は日米共通だと思います。

そんなエヴァンが亡きコナーの言葉としてはじめて本音を言えるようになる。それは嘘から始まったが、周囲を感動させ、ムーブメントを起こし、密かに恋心を抱いていたコナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)と気持ちが通じ合う。

現実とは違い、映画のなかでは嘘は必ず明かされ、主人公はなんらかの罰を受け、事態の収拾を観客から求められる。本作では意識高い系のクラスのリーダー、アラナ(アマンドラ・ステンバーグ)がコナーを忘れないために果樹園を再興するクラウドファンディングを立ち上げます。そのことでコナーの両親は救われるので、発端が嘘であっても、良い結果は否定したくないな、と思いました。それよりも、死んだ途端に故人を善人枠に入れる世間の風潮には反発を感じるし、遺族全員が善良とは限らない。コナーの家族も嘘を望んだのではないでしょうか。

ミュージカル映画ではありますが、豪華絢爛な群舞や大合唱はこの映画にはありません。基本はアリアで、特に主人公エヴァンの怯えや不安を表現したベン・プラットの歌唱は見事です。また、エヴァンがジャレット(ニック・ドダニ)と書いたコナーとの偽のEメールのやりとりのシーンのデュオ歌唱とダンスは楽しく、メールの書き直しを楽曲のアレンジに落とし込む演出は新しかったです。