2014年8月2日土曜日

思い出のマーニー

ジブリ映画は夜の最終回に観るのが好きです。ユナイテッドシネマ豊洲米林宏昌監督作品『思い出のマーニー』を鑑賞しました。

杏奈(声:高月彩良)は札幌在住、ショートカットの中学1年生。幼い頃両親を事故で亡くし、施設で暮らした後に里親(松嶋菜々子)に引き取られたが、自分にも周囲にも同化できないでいる。夏休みのすこし前、呼吸器系疾患の転地療養で訪れた釧路湿原で金髪の美少女マーニー(有村架純)と出会う。

「またわたしを探してね。それから誰にも言わないで。約束よ」、「自分の絵を描いてもらったのは初めてよ。わたし今までに会ったどの女の子よりあなたが好き」。

干潮時には歩いて渡れる湿地帯の向うの洋館で夜な夜な繰り広げられるパーティはさながらグレート・ギャツビーのよう。しかしその館は実は廃墟であり、夜にだけ現われる人々はゴースト。シャイニング。あるいは女子たちの集団的無意識が生んだ幻想か。

岸辺にキャンバスを広げる老婦人久子(黒木瞳)、第3の少女さやか(杉咲花)の登場により解き明かされるのは、杏奈の記憶に遠く刻まれた祖母の物語。杏奈は彼女自身を祖母の物語の中に入れてしまった。

鉄道が湿原を割って進んでいく冒頭の俯瞰シーンから、郵便局への近道を行くときに夏草の鋭い葉が裸の脛を擦る感触、足裏を滑らせる水藻、古いガラスに歪んで見える室内、鉛筆削りのカッターが芯に当たるとき、すいかに包丁を入れる瞬間の微かな抵抗感。

映画前半はフィジカルな、特に皮膚感覚に訴えるような描写がとても丁寧で心地良いです。ああ、夏ってこういう感じだった、と。反面、物語が動き出す後半は演出がいささか性急な印象を受けました。高畑勲の繊細な描線や、宮崎駿のメカニカルな動作の面白さはありませんが、夕方から夜にかけての湿原の風景はとても美しい。月明かりに照らされるボート。

丘の上、曇り空の下の煉瓦造りのサイロ。下草が強い風になびき、やがて雨が降り始める。これは幼少時より僕の夢にしばしば現れるモチーフです。

 

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