2014年11月24日月曜日

天才スピヴェット

勤労感謝の日の振替休日は曇り空。シネスイッチ銀座で、ジャン=ピエール・ジュネ監督作品『天才スピヴェット』を観ました。

主人公は10歳の天才科学者T.S.スピヴェット(カイル・キャトレット)。米国西部モンタナ州の大草原にカウボーイの父(カラム・キース・レニー)、昆虫学者の母(ヘレナ・ボナム・カーター)、ミスUSAを目指す姉(ニーアム・ウィルソン)と暮らしている。二卵性双生児の弟(ジェイコブ・デイビーズ)を猟銃の暴発事故で亡くすが、失意のある日スミソニアン協会から一本の電話があった。永久運動機関の発明が認められたのだ。東部ワシントンD.C.の表彰式に出席するために家出したT.S.。アメリカ大陸横断の大冒険、そして一躍マスコミの寵児となる。

ジュネ監督初の3D作品はガジェット感溢れるチャーミングな佳作として永く愛されるでしょう。幼い子供を失った悲しみから立ち直れない家族はそれぞれの方向へ逃避の先を向けるのだが、それが先鋭化され過ぎコミカルで客席の笑いを誘う。主人公が貨物列車の無賃乗車とヒッチハイクの道中出会う奇妙な人々を、ドミニク・ピノンらジュネ映画の常連俳優たちが素っ頓狂に演じています。

「科学の地平を拡げるのは詩人の仕事だ」「無限なものがふたつだけある。宇宙と人間の愚かさだ」「水滴が素敵なのは最も抵抗の少ない経路を辿るから」。

主人公は自宅のテラスから固定電話までの道筋を複数想定してSWOT比較するような理屈っぽいところがあって、僕も彼ほどではありませんが、子供の頃はそんな傾向があったので、痛くも共感できました。また演じるカイル・キャレットが上手い。壊れてしまった方位磁針と鳥の骨格標本を手放すシーンの微妙な表情なんかもう大御所感すら漂わせています。

3Dも独創的です。場面転換の飛び出す絵本や登場人物の脳内がホログラム的に宙に浮くヴィジョン、蛍火、紙吹雪、振り子、連結器。観客を驚かすのではなく、思考や妄想にリアリティを与える目的で使われているように感じます。

ジュネ監督ならではのジャンクでレロトフューチャーなマシンや水の描写、斜め下方から表情のアップに迫るカメラワークも健在です。『アメリ』でファンになった人にも、『ロスト・チルドレン』や『エイリアン4』が好きな方にもお勧めします。

 

2014年11月20日木曜日

Poemusica Vol.34

11月も後半に入り、晩秋というよりは初冬の雨。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで "Poemusica Vol.34" が開催されました。今回のPoemusicaはSEED SHIP初登場のミュージシャン3組との共演と相成りました

成瀬ブルックリンさん。今年の春に佐賀から東京に活動の拠点を移しました。オフステージではメタルフレームの眼鏡が似合う物静かな青年。目元にいつも穏やかな微笑を湛え知的な印象です。ところがひとたびステージに上がると、ハイパーイテンション。セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、と店名だけをドラマチックに連呼するスタジアムロック「コンビニ」。知性故に見えてしまう虚無をゴージャスなエンターテインメントに転換する才能の持ち主です。

対照的にツカダコージさんはまっすぐな歌を唄います。長野県松本市出身。全国各地のストリートライブで鍛えられた声とギターは強く安定感があるが、瑞々しさを失っていない。七分丈のパンツにワークシューズ、ボタンダウンにボウタイ、というファッションで、とても礼儀正しく、差し入れで持って行ったドーナツの食べっぷりの良さといい、藤田悠治くんを思い出して、ちょっぴりしんみりしてしまいました。今日も地球のどこかで唄っているのかな。

真夏に吉祥寺BAOBABではじめて聴いた森田崇允さん。お願いしてその時と同じトリオ編成で出演していただきました。グルーヴィなガットギターのリフにヴァイオリンとボタン・アコーディオンが重なる心地良いサウンドはエキゾチックで時々ノスタルジック。すこし頼りなげなボーカルがそのゆらぎゆえにソウルフルに響くという奇跡的なバランス。濃密な音響空間を創造しています。また今回めずらしく出演者が全員男子でしたが、五島奈美子さん(Vn)の美貌と竹廣類さん(Acc)の愛らしさが華を添えてくれました。

僕は「無題(静かな夜~)」、"Unversal Boardwalk"より「十一月」、数年ぶりにカセットテープのブレイクビーツを使って「山と渓谷」、「ANOTHER GREEN WORLD」と先月ハロウィンの夜に書いた新作「線描画のような街」の5篇を朗読しました。

今回のPoemusicaはびっくりするぐらいお客様が少なかった。雨の平日夜で、とかもあるのかもしれませんが、集客面ではもっと知恵を絞っていかないといけないなと思います。そんな中でもパフォーマンスのクオリティは間違いなく高かったし、来てくださったお客様は本当に熱かった。心から感謝します!

来月のPoemusicaはクリスマスバージョン。1年のしめくくりに相応しい最高のブッキングをしていただきました。レアなクリスマスソングが聴けるかも。年末の慌ただしい時期ではありますが、是非皆様お誘いあわせの上ご来場ください!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

Poemusica Vol.35 ポエムジカ*詩と音楽と聖なる夜に
日時:2014年12月18日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,400円・当日2,700円(ドリンク代別)
出演:古川麦(Guitar/Vocal)+関口将史(Cello)
    ちみん(Guitar/Vocal)
    はらかなこ(Piano solo)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2014年11月9日日曜日

マダム・マロリーと魔法のスパイス

霜月。小雨と小雨のあいだに時々晴れ間が覗く日曜日。角川シネマ有楽町で、ラッセ・ハルストレム監督作品『マダム・マロリーと魔法のスパイス』を観ました。

インドのムンバイでレストランを営んでいた家族が、政変の煽りを受けて暴徒に店を焼かれてしまい、ヨーロッパに移住する。ワゴンのブレーキ故障で天啓を受けた父親(オム・プリ)がインド料理店を開いたのは、マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)が経営する一流フレンチレストランの真向かいだった。

勃発する料理バトル、インド料理店の次男ハッサン(マニッシュ・ダヤル)とフレンチのスーシェフで八重歯がチャーミングなマルグリット(シャルロット・ルボン)の淡い恋。ハッサンはフレンチの非凡な才能を示し、レイシストがインド料理店に放火したのがきっかけになり、村道を渡ってライバル店に移籍する。

ハルストレム監督、いつのまにか巨匠になったんだなあ。スピルバーグ製作のディズニー映画ということで、目まぐるしい展開ですが、完成度の高い青春エンターテインメントになっています。演出はコメディタッチで、恋が成就すれば花火が上がり、ライバル心を燃やす表情をオーヴンの炎が赤く照らす。そんな大袈裟な照明や音楽と相俟って、ベテラン役者ふたりの丁々発止の応酬に、客席では何度も笑いが起きていました。

原題は "The Hundred-Foot Journey"。道路を挟んで30m先にある異文化への旅。安定(=停滞)したコミュニティに異分子が漂着し、軋轢を起こしながらも周囲と融和していく、というのは「ギルバート・グレイプ」「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」「砂漠でサーモン・フィッシング」などと共通する。ハルストレム監督のテーマなのでしょう。

「料理は生きものの命を奪う。料理することで幽霊が生まれる」。という、ハッサンに料理を教える亡き母の科白がありましたが、幽霊方面に物語を展開させても面白かったんじゃないかと思います。

2014年11月6日木曜日

Banda Choro Eletrico live @PRACA11

冬至前日、秋の一番最後の小雨の夜。ブラジル料理の名店、表参道PRACA11(プラッサオンゼ)へ。ベーシスト/コンポーザーの沢田穣治さん率いる大編成コンボ "Banda Choro Eletrico" のライブを聴きに行きました。

"Kitchen Table Music Hour vol.3" でもお世話になったまえかわとも子さん(左利き)。The Xangos、カツヲ、たきびバンド、まえまえから、ソロと彼女が現在関わっているプロジェクトはこれでコンプリートしたことになるのかな。どれも違って、しかもハイクオリティな音楽です。

スルド(ブラジルのジャンベ的な主にキック担当)ちっちさん、パンデイロ(見た目タンバリン)RINDA☆さん、その他打楽器(コンガ、クイーカ等)渡辺亮さん、3人のどっしりとしたブラジリアングルーヴ。そこに乗せるうわもの、ギター馬場孝喜さん、ピアノ堀越昭宏さん、フルート尾形ミツルさんの3人はジャズ由来。と、ここまでならまあ無くはない(とはいえ演奏スタイルは相当アブストラクトだが)。

更に沢田さんの8弦ベースと伊左治直さんのトイピアノというダブル倍音攻めが加わることで、自由でいびつな音像が創造される。そのアナーキズムはとても楽しく美しい。あえて喩えるとしたら、ピエール・ムーラン時代、トリプルパーカッション編成のゴングか。

ショーロという、一説によるとディキシーランドジャスよりも古いブラジル音楽に基盤を置きながら、そこで表現される音楽はハイパーフューチャリスティック。中盤のトイピアノのソロはこのうえなくドープでした。伊左治さんて、現代音楽の作曲家なんですね。YouTubeに上がっているピアノ曲も詩的です。

まえかわさんの歌声も倍音成分多め。インストゥルメンタル曲ではフルートとギターとの3声でスキルフルなスキャットを、ボーカル曲では生来の無邪気さでフロアを沸かせます。ゲストに若きウクレレの巨匠Rioくん(変声期)が加わり、沢田さんの還暦サプライズで終盤はお祭り状態へ。実験的でスリリングなインタープレイとダイナミックな高揚感を同時に体現した素晴らしいライブでした。