2019年3月31日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

花冷え。上石神井で各駅停車に乗り換えて西武柳沢まで。今月2度目のノラバー日曜生うたコンサートはマユルカとカナコの回でした。

昨年10月28日に同じ店で同じふたりの初共演を聴きました。ミュージシャンのmayulucaさんと舞台俳優の西田夏奈子さん。とあるアクシデントが発端で生まれたユニットが誕生要因解決後も続き、美しい音楽を奏でています。

mayulucaさんの現在の基本編成はギター弾き語り。一般的にはシンガーソングライターと呼ばれるスタイルだと思いますが、あえてミュージシャンと呼びたいのは、歌を書いて歌う、それはもちろんなのですが、ギターと声という最小単位のサウンドスケープの可能性を拡大する、それも品良く端正に。その意思をリスペクトし、また強く共感しているからです。

楽想が溢れて止まらないというタイプの作家ではない。日が暮れて朝までに僅かずつたまった雫がひとつぶ木の葉の端から草むらに落ちるように紡がれた歌をこれ以上ない丁寧さですっと差し出す。この夜披露された2コードの新曲はフォーキーな外見にもかかわらず、ハードコア、ミニマルミュージックを感じさせる。

夏奈子さんはその空気感を受け取り、ヴァイオリンと歌声を控えめに重ねることで遠近感と陰影が加わる。その硬質で淡い色彩を会場の光ごと味わうようなライブです。

店主ノラオンナさん手作りのノラバー弁当は蟹ご飯メインの春の御膳。うどの辛子和えのほろ苦さも春の味覚。乱反射する衣装のまま観客と並んでバーカウンターではしゃぐふたりにほっこりしました。

 

同行二人#卯月ノ朝

畏れ多くも自らを芭蕉と曽良になぞらえてオトナ系男子二人の詩の道行き。村田活彦カワグチタケシによる毎春吉例朗読二人会「同行二人」のお知らせです。

2010年春に深川から出発して谷中、白山、渋谷、吉祥寺。一昨年秋に深川に戻り再出発。昨年は田原町のセレクトブックストア Readin' Writin'さん。9回目の今年は、近頃なにかと話題の門前仲町に2016年秋オープンしたフリースペースchaabeeさんにて。

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同行二人#卯月ノ朝 
Dōgyō-Ninin#April_morning
A POETRY READING SHOWCASE Ⅸ

日時:2019年4月13日(土) 10時半開場 11時開演
会場:chaabee
   東京都江東区福住1-11-11 080-5409-5099
   https://www.chaabee11111.com
料金:1,500円(御飲物代別途)
出演:村田活彦a.k.a.MC長老カワグチタケシ

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chaabeeはヒンディ語で「鍵」の意。古い鉄工所をリノベーションしたお店で、初回2010年のそら庵さんに雰囲気が似ています。そしてはじめての午前開演。朝活。意識高い系です! 午後もゆっくり下町散歩を楽しめます。

ご予約はこちらのリンクから。皆様お誘い合わせの上、是非早起きしてご来場ください。お待ちしています!

 

2019年3月17日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

春分間近。だいぶ日が落ちるのが遅くなってきました。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサートmandimimiさん の回に行きました。

昨年10月に同じくノラバーで店主ノラオンナさんツーマンライブを聴いていますが、本格的な単独公演は、渋谷サラヴァ東京で開催された 1st EP "Unicorn Songbook: Journeys" リリース記念ライブ以来約1年半ぶり。マイペースな活動が彼女らしい。

3月17日はナット・キング・コールの誕生日ということで "unforgettable" を清楚にカバーしてスタートしました。

2ndセクションのテーマは「3月」。EPに収録されている "March On My Mind"、現在制作中の12ヶ月の花に寄せたフルアルバムからポピーの曲「わすれもの」、「世界が眠っているあいだ/星がまたひとつ消えた/それから水色の歌/空の向こうから聴こえた」と歌う勿忘草曲「永遠の水色」の3曲を。

女の子らしい華やかな話し声とは異なるすこしだけハスキーなアルトの歌声。ミディアム~スローナンバーで構成されたセットは、春霞のようにただようピアノと響き合い、儚く美しい。

3rdセクションのテーマは Platonic Love。2001年9月11日にニューヨークで起きたディザスターの当日はワシントン大学に通っていた、当時の割り切れない感情を数年後に振り返った作品群は神戸在住時に書かれたもの。9.11とPlatonic Love。そのミッシングリンクに強靱なアティテュードを感じさせます。

台湾生まれシアトル育ち東京在住のmandimimiさん。歌詞には英語、中国語、日本語が立ち替わり現れます。最も語彙が豊富なのは英語とのことですが、中国語ネイティブの方特有の日本語の弾力的なイントネーションがソングライティングにも反映しており、ヒーリングを超えるジャンピングボードとなっている。

最新曲 "MOONBEAM" まで全12曲、ファッション、ヘアメイクなどビジュアル面も含めてコンセプチュアルなライブ。終演後はガーリィな普段の姿に戻り、若い女子だらけのバーで、ノラさんのお料理を味わいながらおしゃべりが尽きない夜でした。

 

2019年3月16日土曜日

ピアニシモ、ラルゴ

土曜日の午後、開場直前の雨に降られた人たちが賑やかに石段を駆け下りて来る。小夜さん石渡紀美さん、弱小で、とにかく遅い二人の、小さな朗読会(自己申告ベース)『ピアニシモ、ラルゴ』が白山の老舗JAZZ喫茶映画館で開催されました。

スタートは「ノイエ・ムジーク~パラドクシカル」。紀美さんの詩をふたりで朗読します。ユニゾンとも輪読とも違う。ひとりが主旋律を読み、キーフレーズにもうひとりがコーラスやカウンターメロディを控えめに添える。

小夜さんのすこし鼻にかかった甘い声、紀美さんのゆったりとたゆたうような抑揚。はじかず溶け合わずな対比が奥行きと陰影を作る。あえてマイクで増幅しないことでナチュラルで心地良い遠近感が生まれる。

次にじゃんけんで負けた紀美さんからソロで9篇を朗読。「まだ誰の鼓膜もふるわせない声が/誰かののどをいためている」(声)。このソネットをはじめ、現在制作中の新詩集に収められる小品を中心に。

小夜さんのソロパートは過去作から最近の作品まで網羅した長編詩をレトロスペクティブ的な構成で。

短いインターバルを挟んで、紀美さんの「みんなのうた」、小夜さんの「各駅停車」、同じ詩を異なる声で2度ずつ朗読する後半。このパートは殊に朗読を聴く愉しみが凝縮されていると感じました。最後はふたりの共作と連詩を3篇。

いろいろな聴き方があっていいと思うのですが、僕の場合は言葉の意味やストーリーやメッセージよりなにより、声として、音として、朗読を聴いているのだなあ、と気づきました。音階や拍節という音楽的な形式から解放された純粋な声を聴きたくて朗読会に足を運ぶ。

今回フライヤーデザインやモギリをさせてもらって、御予約のお客様ひとりひとりのお名前を確認したりしたのも楽しかったです。

 

2019年3月9日土曜日

ヨーゼフ・ボイスは挑発する

春一番。アップリンク渋谷アンドレス・ファイエル監督作品『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』を観ました。

ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)は西独のアーティスト。戦後現代美術界のスターのひとりです。意外に遅咲きで、フルクサスに参加し名を知られるようになったのは1962年、40代に入ってから。それから1986年に64歳で亡くなるまで、当時のフィルム、ビデオ映像、スチル写真と親交のあった作家たちの現在のインタビューによって構成されたドキュメンタリー映画です。

僕がボイスの作品に生で触れたのは1990年代初頭。軽井沢のセゾン現代美術館でした。1997~98年に故・黒沢美香氏のカンパニーの若手ダンサーたちが主催したパフォーマンスイベント『森のポリフォニー』に参加したときに、会場になったカスヤの森現代美術館にも作品が展示されていました。

作品のフォーマットとしてはレディメイドに近いのですが、もっと人肌や土の匂いを感じさせるようなところがあります。厚手のフェルトや獣脂を使うのは、第二次世界大戦中ドイツ帝国空軍で戦闘機パイロットをしていたときにソ連軍機に撃墜され、不時着した草原で土着のタタール人が介抱してくれた際、体温保持のため身体に獣脂を塗られフェルトの毛布で包まれた体験から来ていると自ら語っています。

フェルトの中折れ帽、フィッシングベスト、白シャツ、リーバイスというテンプレで自己をキャラクター化、虚像化しました。フィルムには妻と2人の子が写りますが、生活者として、夫として、父親としての姿を見つけることができません。家族に科白がないせいかもしれないです。

事実として知っていたことでも、その時代の空気を直接的に伝える映像を観ると印象が変わります。テレビの討論番組で声を荒げて自説を主張し続けても最終的には笑いに落とす。直接民主制を標榜し、緑の党の創設に尽力するが国政選挙前に老害として切られる。

「挑発(米国の大学のディベートでは "sensation")は必要だ。挑発することによって対話が始まる。私の社会彫刻は対話の道具なのだ」。トリックスターだとか、なにかとコントラバーシャルな面が強調されて伝わっていますが、実のところは誰よりもコミュニケーションを重んじ、人間の善意を信じていた。ボイスの人間性が伝わる映画でした。


2019年3月8日金曜日

TRIOLA

金曜の夜、満員の京王井の頭線に乗って。下北沢leteTRIOLAの演奏を聴きに行きました。

TRIOLAは、波多野敦子さん(作曲、5弦ヴィオラ)と須原杏さん(ヴァイオリン)による弦楽アンサンブル。杏さんのボウイングによる「キラル11」のイントロの一音目から圧が強く、重心の低いグルーヴ感も僕が聴いたTRIOLAのなかでは一番でした。

2曲目「ミラーボールの暴走」冒頭部分の脱臼感のあるデコンストラクティブなアンサンブルも強烈で、耳に入ってくる空気の振動を頭のなかで組み立て直すような、従来のクラシック音楽にはないエクスペリメンタルな感覚。

7年ぶりの2nd(そして現体制になって最初の)アルバム "Chiral" の発売を3/22に控えているということでlete限定の先行販売があったのですが、ライブの構成もアルバムの曲順に沿って、1曲毎にコメントを添えて演奏するという進行です。

いままで数字で識別されていた楽曲にタイトルがついて、アルバム全体としてストーリーが構成されました。スペイシーなピーター・グリーナウェイといった趣向の物語もさることながら、物語を凌駕する音楽自体の豊かさが溢れるライブでした。

アルバム未収録の2曲、"waves horn" のノイズから立ち上る優美な旋律、 "Yellow Boys" の細かい点を穿ち続けていつのまにか面を構成しているような不可逆性。カオスとリリカルと幻聴。TRIOLAのライブには「音楽って体験だな」と実感させられる何かがあります。