2018年3月30日金曜日

秘密の世界

金曜日の夜、都営地下鉄大江戸線と東京メトロ銀座線を乗り継いで外苑前まで。青山月見ル君想フで開催された高井息吹と眠る星座世界の秘密』レコ発ワンマンライブ「秘密の世界」に行きました。

ライブ1~2曲目はCD『世界の秘密』と同じく「うつくしい世界」「Carnival」。whisper to a scream。その声と歌う姿の生命力に圧倒される。ジョージ・ガーシュインからハロルド・バッドまで、ピアノ演奏の引き出しの多彩さとそれを自らなぎ倒していくようなテンション/エモーション。

眠る星座の3人、ドラムス坂田航さんラヴミーズ)、ベース新井和輝さんKing Gnu)、ギター君島大空さん。ゲストミュージシャンにトロンボーンNAPPIさん、SAXムラカミダイスケさん、チェロ佐藤空さんというアルバムのレコーディングメンバーを揃え。それぞれがフレッシュで自由で技術が確か。即興演奏をジャストで合せられるのは勿論、CDではピアノ弾き語りの「ゆらゆら」では先鋭的なHIPHOPのアーティストのようにあえて縦を外してグルーヴを組み立てる。新曲「Mr.yellow」の半音下降の男声コーラスは『オペラ座の怪人』へのオマージュか。

高井息吹さんの音楽性や歌詞に描かれる心象風景は本質的には耽美で、ある種の虚無や諦観をしっかりと見つめている。そして何より素晴らしくまた特異なのは、自身の耽美な世界観を反転させ光を捉えようとする強固な意志とそれを実現するためのジャンピングボードとして強靭な音楽的基礎体力を併せ持つところです。

だから、J-POPのヒットチャートに並ぶような表層的なポジティヴィティは欠片も示さないのに、演奏している本人たちも会場を埋め尽くしたオーディエンスも輝かしい多幸感に包まれ肯定されている。

Roland RD-700GX(デジタルピアノ)を離れハンドマイクで歌った「ハローグッバイ」と本編の最終曲「star light」。レコ発でありながらCD未収録の新曲がこの日のハイライトに感じられたのは、彼女、彼らが既に次のステージに到達していることに他ならず、その前途を眩しすぎる程に明るく照らしていると確信しました。

 

2018年3月24日土曜日

同行二人#台東区寿二丁目

吉例朗読二人会、村田活彦カワグチタケシの「同行二人」のお知らせです。畏れ多くも自らを芭蕉と曽良になぞらえてオトナ系男子二人の詩の道行き。

2010年春に深川から出発して谷中白山渋谷吉祥寺、西へ西へと進み。いろいろあって、一昨年秋に深川に戻り再出発。1年半ぶりの今回は、浅草に程近いお洒落タウン田原町のセレクトブックストア Readin' Writin'さんにて開催します。

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同行二人#台東区寿二丁目 A POETRY READING SHOWCASE Ⅷ
Dōgyō-Ninin #2nd Ave. Kotobuki

日時:2018年4月28日(土) 18時半開場 19時開演
会場:Readin' Writin' BOOK STORE
   東京都台東区寿2-4-7 03-6321-7798
   http://readinwritin.net/
   東京メトロ銀座線田原町駅1番出口左折、小松庵右折、
   レモンパイ洋菓子店手前左側
料金:1,500円(御飲物代別途)
出演:村田活彦a.k.a.MC長老カワグチタケシ

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Readin' Writin' BOOKSTORE さんは、清澄白河、馬喰町の次に来ると云われる注目スポット田原町に昨年4月にオープン、元木材倉庫をリノベーションした新刊書店です。大きなガラス窓から差し込む自然光に映える高い天井、広いロフトのある素敵なお店。棚作りも最高です。

3年ぶりの春開催に出演者ふたりとも張切っております。

ご予約は不要ですが「行くよ!」と言ってもらえると俄然モチベーションが上がります。オン・ザ・ロード・アゲイン。是非是非皆様お運びください!

 

2018年3月17日土曜日

TRIOLA a Live Strings Performance

聖パトリックの日の夕方、南口商店街は若者たちで賑わっていますが、通りを一本外れた静かな住宅街の入り口にその店はあります。下北沢leteへTRIOLA a Live Strings Performanceを聴きに行きました。

1曲目 "waves horn"、波多野敦子さん(作曲、5弦ヴィオラ)が登場すると手にしたのはヴィオラではなく、leteの木製の床に無造作に置かれた2機のトランシーバー。ホワイトノイズをヴィオラのピックアップに拾わせ、2機を近づけたり遠ざけたりしながらハウリング/共鳴させる。そこに重なる須原杏さんのメランコリックなヴァイオリンの旋律。ネオクラシカルとは一線を画すノイジーなアプローチはTRIOLAならでは。弦楽アンサンブルという形態をとりながら、そのアティテュードはノイズ/アンビエントを基調としたエクスペリメンタル・ミュージック。しかも体温と強靭なグルーヴがある。

三拍子のタンゴ「雨」。波多野さんの主旋律に対して杏さんの不等拍のリフは、メジャー/インディー問わず縦を揃えた音楽に慣れた耳には鮮烈に響く。緻密に作り込まれたスコアとそれをあえて逸脱するアーティキュレーション。音楽の心地良さは、甘美さや明晰さやメカニカルな精巧さとは異なる位相にも存在することを思い出させてくれます。

弓に張られた動物の体毛と樹脂が金属の弦に擦れるときに生じるノイズ。不協和音の美。木製の鳥小屋のようなleteと木製の共鳴胴を持つ二挺の弦楽器によるインスタレーションアートを鑑賞しているような感覚になりました。

波多野さんの「いろんな想いを込めて弾きたいと思います」というMCに導かれ演奏されたアンコールの"coral"。2011年4月に当時神楽坂にあったギャラリーうす沢(オーナーの臼澤裕二氏は津波で甚大な被害を受けた岩手県大槌町出身)でtriolaと共演した東日本大震災復興支援チャリティライブ re:generations(仮)で、この曲に乗せて「都市計画/楽園」をリーディングした僕にとっても特別なナンバー。

波多野敦子さんのソロアルバム "Cells #2" のレコ発が4/18(水)、次のTRIOLA a Live Strings Performanceは5/25(金)。いずれもleteで開催とのこと。楽しみです。



2018年3月11日日曜日

絵のない絵本

3.11から7年が経ちました。小田急線で下北沢へ。Workshop Lounge SEED SHIP で開催されたアンデルセン『絵のない絵本』全夜上演会の第二夜に行きました。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)はデンマークの童話作家。代表作は「人魚姫」「赤い靴」「マッチ売りの少女」。民間伝承に着想を得たグリム童話イソップ童話とは異なり、彼の作品はほとんどがオリジナルストーリーです。教訓的でなく、バッドエンドが多い。

絵のない絵本』は孤独な貧しい絵描きに月が毎夜語りかける33篇の物語。童話というよりも大人向けに書かれた短編小説集という趣きです。そのうち第16話「道化師の恋」から33話「五人兄弟」までを朗読と音楽と映像で構成した3時間弱のプログラムです。

ステージ向かって左から、西田夏奈子さん(朗読、ヴァイオリン)、shezooさん(ピアノ)、蔵田みどりさん(朗読、歌)、相川瞳さん(パーカッション)、加藤里志さん(サックス)。

33篇に1曲ずつshezooさんが手掛けたオリジナルスコアと3人(時々4人)の演奏は、全体のトーンとしては控えめですが、物語を際立たせるように時折強く響かせる。

写真には映っていませんが、西川祥子さんの映像は物語の最も印象的な場面を捉えています。古い洋書のページを線香で焼いて描く手法は、一見モノクロームですが、焦げや古紙のくすみがノスタルジックでエキゾチックな物語の表現に重層性を加えています。

複数の訳者による日本語訳のテキストが150年の歳月に濯がれた完成度の高いものとはいえ、観客の集中力を3時間途切れさせない朗読の技術は流石です。地の文と会話と、朗読と台詞と歌唱と、それぞれに異なるプロトコルがあると思うのですが、場面場面もしくは楽器演奏とのトータルバランスあるいは会場の空気を感じ、即興的に使い分けているという印象を持ちました。

「西の空にふたつの月が浮かぶ。ひとつは昼の月、もうひとつは夜の月」。西田夏奈子さんが白、蔵田みどりさんが黒の衣裳で、西田さんがうっすら霞んだ昼の月、蔵田さんが眩しい夜の月、という感じがします。重心が低く端正な響きの西田さんの声と名詞に関西のイントネーションが混じる華やかな蔵田さんの声の対比と重なりも面白かったです。




2018年3月4日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

急に気温が上がり、着て行く服を迷うほど。そんな沈丁花の香りが風に乗って届く3月4日ミシンの日、日曜日の午後。私鉄は郊外に向かいます。西武柳沢ノラバーで毎週開催されている『日曜生うたコンサート』にて、カワグチタケシ2018年春の朗読ワンマンライブでした。

直前までなかなかゆったりした予約状況だったのですが、前日当日にご連絡をいただき、ふたを開ければ満員御礼。皆様どうもありがとうございました!

 1. Here, There, And Everywhere / The Beatles
 2. Doors close soon after the melody ends
 3. 世界の渚
 4. コインランドリー
 5. チョコレートにとって基本的なこと
 6. バースデーソング
 7. 森を出る
 8. ケース/ミックスベリー(新作)
 9. 名前
10. スターズ&ストライプス
11. 永遠の翌日
12. 新しい感情
13. 観覧車
14. 水玉
15. 花柄
16. Thank You / The Pale Fountains

テーマは Winter into Spring。3月といえばどうしてもあの震災のことを思い出します。それで当初予定していなかった「バースデーソング」をセットリストに加えました。御来場特典の訳詞集 "sugar, hpney, peach +love4" に収録の10曲のうち2曲をオープニングとエンディングに置き。

「世界の渚」を5年ぶりに朗読しました。「ケース/ミックスベリー」はライブ2日前に出来たばかりの新作、「名前」「スターズ&ストライプス」「永遠の翌日」もまだ活字では発表していない作品です。

僕の書く詩はどちらかといえば硬質な語彙で、構成や音韻もある程度かっちりしているためか、ライブも割合ソリッドな空気感になることが多いのですが、今回は導入のトークからふんわり春らしい雰囲気を作ることができたように思います。MCでも言いましたが、ライブは出演者だけでなく、お客様もスタッフも全員で創る時間。「みんなに助けられて」とはよく聞く台詞ですが、今回ほどそれを実感したことはありません。

そしてノラバーといえば店主ノラオンナさんの素晴らしいお料理。ポテトサラダ、玉子焼き、大根油揚げ巻き。人気の定番メニュに加え、胡瓜の白胡麻おひたし、うどの酢味噌和え、菜の花ごはん。ほろ苦さって春の味覚だな、と思います。ハイボールも進み、楽しいおしゃべりが夜更けまで続きました。