2015年4月29日水曜日

マジック・イン・ムーンライト

昭和の日の東京は晴天。丸の内ピカデリーウディ・アレン監督作品『マジック・イン・ムーンライト』を観ました。

舞台は世界恐慌前夜の好景気に沸く1928年の南仏コートダジュール。人気マジシャンのスタンリー(コリン・ファース)は、親類筋のセレブ母子に取り入るミネソタ出身の霊能者ソフィ(エマ・ストーン)のトリックを見破るために雇われる。敵対し、またそれぞれに婚約者がいるふたりが次第に惹かれ合っていく。

普通のコメディを上手に作っちゃったなあ、という印象。最近作でいえば「ミッドナイト・イン・パリ」や「ローマでアモーレ」みたいに、ウディ・アレン作品には、緻密で神経質な演出と名優たちの本気の芝居に支えられ、絶望感すら漂わせる振り切れた笑いをどうしても求めてしまいます。

海岸線をオープンカーでドライヴ中に突然の雨に打たれ、天文台で雨宿りする。主人公たちがはじめて心を通わせるシーン。ソフィ「宇宙の何が怖かったの?」、スタンリー「サイズ」。

気の利いた科白が随所にちりばめられているし、ヒロイン役のエマ・ストーンの大きなブルーの瞳は魅力的です。とにかくよく食べ、セーラーカラーのブラウスもシースルードレスも似合う。

ヒロインに求婚するセレブ息子ブライス(ハミッシュ・リンクレイター)がキャラ的には一番面白くて、隙あらば"You Do Something To Me"、"Thou Swell"などジャズの名曲をウクレレ弾き語りでヒロインに捧げます。

「君が僕に何かした/何か僕を惑わすような/教えてそれは何?/催眠術か何かなの?」と歌うコール・ポーターの"You Do Something To Me"は映画のメインテーマにもなっており、歌詞がストーリー全体を象徴するような感じで効果的に使われています。ウディ・アレン作品としてはいつものことですが、上映時間が90分台というのも大変良いと思いました。

 

2015年4月26日日曜日

TRIO

春というよりもはや初夏。赤坂Casa Classicaで、明利美登里さん(ピアノ)、竹前景子さん(ヴァイオリン)、手島絵里子さん(ヴィオラ)のクラシック室内楽コンサート "TRIO" でした。手島さんは最近は蓮沼執太フィルに加え、F.I.B Journal Getto Stringsにも参加するなど、ポップミュージックのフィールドでも活躍していますが、今日は純粋なクラシック音楽の演奏会です。

明利さんと手島さんのデュオは別の会場で何度か聴いていますが、そこにヴァイオリンが加わる。サイドにまわったときの手島さんのヴィオラは実に手堅い。コレクティヴでカラフルなアンサンブルを楽しみました。

ヴァイオインとヴィオラの2人で演奏したバルトークの「民謡と舞曲による7つのデュオ」が面白かったです。いまでこそクラシック音楽と呼ばれますが、19世紀のヨーロッパでは最先端の実験的クラブミュージックだったんだろうな、と。そのことは、他に演奏されたモーツァルトの「ケーゲルシュタット・トリオ K.498」にも感じました(こちらは18世紀)。

いまクラブでDJがプレイする音楽の最良の一部が、10年後にはノスタルジックなカフェミュージックに変容するように、時代のフィルタを通過し200年が経った。そしてアカデミズムからはみ出したカジュアル・クラシック。

Casa Classicaは食事を楽しみながらクラシックの生演奏を聴けるお店です。なのでしんと静まり返ったコンサートホールとは違い、フライパンで油がはぜる音や、食器の触れ合う音や、ひそひそ声の会話が演奏に混じります。今日聴いた室内楽の名曲が、ウィーンやブダペストやブエノスアイレスで初演されたときもきっとそうだったはずです。そういうクラシックの楽しみ方があるのはとても素晴らしいことだと思います。

 

2015年4月18日土曜日

ジヌよさらば ~かむろば村へ~

午後から風が強くなりました。休日らしい休日にするようなことをしてから、日没の頃に出かけて、ユナイテッドシネマ豊洲松尾スズキ脚本・監督作品『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』を観ました。

「この村ではなんでも解決する。但し自分の想ったようには解決しないけどな」「人間は面白いな。何をやっても上手くいかないのに、何かやらずにはいられないんだから」。

地銀で融資渉外担当をしていた高見武晴(松田龍平)は、勤務先の吸収合併により融資先中小企業の取り立てに回ったことで、金アレルギーになってしまい、お金を使わない生活を目指して限界集落寸前のかむろば村に移住してくる。変な村人たちと出会い、彼らのペースに巻き込まれていく。スラップスティックコメディ。

貨幣経済、高齢化、過疎、女子高生売春、等の所謂社会問題を笑いに変えて、と思いきや、物語は村の神なかぬしさん(西田敏行)の登場から、村長(阿部サダヲ)の過去を巡る抗争へ、次第にカオティックな展開に入り収拾がつかない。映画の前半と後半で主人公が交代し、監督のコントロールの外へ暴走してしまっています。

荒川良々村杉蝉之介伊勢志摩皆川猿時近藤公園ら、大人計画の面々。なかでも阿部サダヲ演じる村長の所作がいちいち粗雑で可笑しい。松たか子二階堂ふみ中村優子、3人の女優のそれぞれ違った色気をストレートに捉えた演出。特に、松たか子の二の腕のたっぷり感にはヤラれました。

 

2015年4月16日木曜日

Poemusica Vol.39

数日降り続いた春の雨が止んですっきりと晴れた木曜日の夜。下北沢 Workshop Lounge SEED SHIPで39回目のPoemusicaが開催されました。

今回は関西色の強いメンバーでした。大阪のオトザイサトコさんはピアノ弾き語りで、オープニングアクトとは思えない程の重厚できらびやかな音楽を聴かせてくれました。深いビブラートで短調をゴージャスに歌い上げるのが定番ですが、スローバラードもロマンチックで美しいです。

落合大喜さんは三重出身。4月から東京に本拠地を移しました。ガットギターのコード感が独特で、声のレンジが広くてきれい。思春期の鋭敏な自意識とそれを客観的に描くことのできる自己相対化能力の高いソングライティング。少年っぽい瑞々しさも持ちながら、Bert JanschNick Drakeのように老成した音楽性も兼ね備える逸材。今後もフォローしていきたいです。

ピアノ・インストの大関麻子さん(左利き)は仙台出身東京在住。ウッドベースとドラムスを加えたトートリオとしても活動しています。優しいタッチのアンビエント系ピアノといっていいと思うのですが、時折挟まれるジャジーな展開、クラシカルな響きもあり、それを絶妙なバランス感覚でざっくりまとめる。前後のアクトからの影響を即興的に自分の音楽に取り入れていく。瞬発力を感じました。

accaさん(画像)は今回僕がお声掛けして大阪から来てもらいました。ピアノもギターも歌声も繊細でとても丁寧。少女性と大らかさが奇跡的に同居した音楽です。歌詞の出発点は内省に基づくものですが、対話や語りかける姿勢が必ずあって、語尾を控え目な半疑問形に響かせるのも心地良く。小さくて愛らしい笑顔とふと見せる大人びた表情のコントラストも魅力的です。

僕は、オープニングに「」、"Unversal Boardwalk"より「四月」、大喜くんの前に「くだらない休日の過ごし方」(ブレークビーツ+)、大関さんのピアノに先週書いた「森を出る」「希望の駅」、accaさんの「便り」に応えるような気持ちで「無重力ラボラトリー」。春の詩を6篇朗読しました。

来月はなんと40回目のPoemusicaです。mueさんみぇれみぇれ君という「み」始まりの間違いないふたり(笑)の出演が決まっています。他の出演者も決まり次第お知らせしますので、どうぞお楽しみに!

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Poemusica Vol.40 ポエムジカ*詩と音楽の夜

日時:2015年5月21日(木) Open18:30 Start19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,200円・当日2,500円(ドリンク代別)
出演:mue(Vocal/Guitar/Piano)
    みぇれみぇれ(Vocal/Guitar)
    カワグチタケシ (PoetryReading)
    and more

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2015年4月12日日曜日

日曜音楽バー「アサガヤノラの物語」

風はまだすこし冷たいけれど、ひさしぶりに朝からすっきり晴れた日曜日。阿佐ヶ谷Barトリアエズ 日曜音楽バー「アサガヤノラの物語」にて、ひさしぶりの単独公演を開催しました。

この日たくさんのライブの中から僕を選んでくださったお客様、それぞれの場所で気にかけてくれたみなさん、いつも美味しいお食事と居心地の良い空気を作ってくれる日曜店主ノラオンナさん、ありがとうございました!

限定10席の小さな会場で生音のライブですから、お客様から何もかも見えてしまう。どれだけ丁寧に作品を手渡せるか、その一点にのみ心を砕いて朗読しました。

 1. IfBread
 2. 無題(薄くれない色の闇のなか~)
 3. Doors close soon after the melody ends
 4. チョコレートにとって基本的なこと
 5. 観覧車
 6. 水玉
 7. 花柄
 8. 希望の駅(新作)
 9. 森を出る( 〃 )
10. 線描画のような街
11. すべて
12. 新しい感情
13. スノードーム
14. 君住む街角On The Street Where You Live

以上14篇で約60分のプログラムです。10名様限定の完全予約制ゆえ、どなたがいらっしゃるのか事前にわかります。ひとりひとりのお顔を思い浮かべながらセットリストを構成しました。お客様のプライバシーもございますので(笑)、ここでつぶさには申し上げられませんが、たとえば。

先々週同じ「アサガヤノラの物語」でmayulucaさんの歌を聴いて書いた「森を出る」には彼女の「きこえる」という曲の歌詞の一節を引用しています。また、前日の素晴らしいライブmueさんがカバーしていたスタンダードナンバー "On The Street Where You Live" の歌詞を早起きして翻訳しました。

ご予約特典の冊子、カワグチタケシ訳詞集第2弾 "sugar, honey, peach +love2" からはブレッドの1971年のヒット曲「イフ」を。スペイシーでロマンチックなラブソングです。

終演後にはいつものようにノラさんの小粋なアイデアと丁寧な手仕事が詰まった美味しいお料理を楽しんで、みんなの会話も弾んで。心躍る春の夜はそんな風にして更けていきました。

 

2015年4月11日土曜日

なんにもないになる

今年も4月11日は吉祥寺で。MANDA-LA2で開催されたmueさんの活動14周年ワンマンライブ『なんにもないになる』に行ってきました。毎年同じ日に同じ場所で歌うこと。シンプルなタスクですが、どのライブでも何かしら必ずチャレンジするmueさんのこと、退屈なものになるわけがありません。

一昨年はドラムス、ベース、チェロとのカルテット編成、一転して昨年は完全ソロ。今回はタカスギケイさん(g)、muupyさん(per)、伊賀航さん(b)、橋谷田真さん(dr)とクインテット。

バンドの抑制されたクールなグルーヴに乗せるmueさんの歌声がいつになく力強く、歌詞がストレートに届く。「こうして待ち続ける時間にも世界は動いている」(くもの糸)、「明日になればどんなことだってただひとつの話」(ほんとうの夢をおしえて)。

彼女の歌詞は何気ない生活雑感を描いているようで実はところどころにリアリスティックな時間論、空間論がちりばめられている。内面的な逡巡から離れる瞬間のちょっとだけ身体が浮かぶような感じを、ラフなセッション風でありながら全く隙の無い成熟したバンドサウンドが上手に掬い上げて表現しています。

めずらしいハンドマイクスタイルでウッドベースとギターをバックに歌い上げた2曲のジャズスタンダード、"Spring Can Really Hang You Up The Most"、"On The Street Where You Live"は、2月のカバーライブ"sugar, honey, peach +love" を更に発展させたmueさんの新しい魅力を発見してときめきました。

「なんにもないってことは、なんにでもなれる。だからみんなもなんでもやってみよう!」。うん、僕もそうしよう! と前向きな気持ちになりました。