2013年9月28日土曜日

Kitchen Table Music Hour vol.1

都営地下鉄三田線白山駅A3出口は坂の途中にあります。そこから石段を何段か下った右手がJAZZ喫茶映画館。初秋の午後、僕が主催するはじめての音楽オンリーのライブ"Kitchen Table Music Hour vol.1"がなごやかに開催されました。

僕が普段、自宅のキッチンテーブルで、本を読んだり、お菓子を食べたり、詩を書いたり、詩集の製本をしたりしているときに聴いている音楽を生演奏でお届けしましょう、というのがこのライブのコンセプト。初回はこの組み合わせしかない。まえかわとも子さんノラオンナさんに出演をお願いしました。実はこのふたり、今日がはじめましてだったのです。

まえかわとも子さん(左利き)。大磯から東海道線でやって来ました。なんとこの日のために、Kitchen Table Music Hour のテーマ曲を作ってきてくれて、これがリハーサル中のうれしいサプライズ。そして本番でもうひとつのサプライズ。オリジナル曲「冬の街」の間奏で僕が書いたソネット(14行詩)「」を朗読してくれました。自作曲もカバーも終始リラックスした演奏で、明るくチャーミングなキャラクターと相俟って、客席の空気を柔らかくほぐしました。

ノラオンナさん(画像)は冒頭4曲、「流れ星」「パンをひとつ」「今日は日曜」「タクト」の流れが特に素晴らしかったです。その間MCを挟まず、ウクレレの4本の弦の音と歌声だけでこれだけ濃密な音楽を奏でられる人がどれだけいるでしょう。拍手も忘れて聴き入る客席。曲と曲のあいだのわずかな静寂を壁に掛けられたたくさんの振り子時計のカチコチいう音がつなぎます。会場の響き、特性を短い時間で味方につけるそのスキルには驚ろかされます。

ふたりとも地声のキーは低いのですが、まえかわさんは輪郭のはっきりした陽性の声、ノラさんはすこしくぐもってざらついた感触の声。歌詞も、抽象的で自然描写を中心したまえかわさん、恋愛や人の心の襞を丁寧に掬い取るノラさん。と対照的なのですが、ふたりの音楽に共通するのは、言葉がくっきりと耳に届くことです。そして高く持続する集中力と音楽に対する信頼感。そんなところが好きなんだなあ、と歌を聴いていて気づきました。

客席の反応もとてもあたたかくて、アンケートを読むとみなさんに楽しんでいただけた様子。ほっとしました。ご来場のお客様はもちろん、気にかけてくださったみなさん、映画館のオーナー吉田ご夫妻、出演者のおふたり、どうもありがとうございました。会場にいた人たちのなかで、たぶん僕がいちばん幸福な時間を過ごしていました。

"Kitchen Table Music Hour"は、できればこのようなかたちで、半年に一回ぐらいのペースで続けていけたらなあ、と思っています。次回はまだ未定ですが、どこかでこのライブの告知を見つけたら、是非ともよろしくお願いします!

 

2013年9月21日土曜日

藤城清治 光のファンタジー

9月21日は賢治忌。宮沢賢治80年目の命日に故郷花巻を訪ねました。その折に東北新幹線新花巻駅から程近い宮沢賢治童話村に隣接した花巻市博物館で開催中の『藤城清治 光のファンタジー』を鑑賞しました。

藤城清治といえば、日本を代表する影絵作家です。小人やサーカスをモチーフにしたメルヒェンな作品は、CMや雑誌で誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

正直僕はメルヘンとか童話とか申し訳ないぐらい興味がなくて、宮沢賢治でも『銀河鉄道の夜』『グスコーブドリの伝記』以外はどうもピンとこない。もちろん『春と修羅』は大好きで(除く「無声慟哭」詩篇群)、それで忌日にゆかりの地を巡ったりしているわけですが。

そんな残念な賢治読者である僕でも、この作品群には圧倒されました。

展示はクロニクルになっており、1950~60年代のモノクロ作品群から。『西遊記』の『いかだに乗る悟空』。水面の波紋のグラデーションにまず驚く。微妙な濃淡と奥行を、何層にも貼り付けたトレーシングペーパーで表現している。その正確さ、美しさ。影絵の原画ですから、すべての作品が裏側から光を当てられ、内側から輝いているように見えます。

そしてトレーシングペーパーがセロファン紙に変り、以降はカラー作品になります。カミソリで数ミリ単位のすべてのパーツを切り、透明な台紙に貼り付けていく。それが描線を形成し、色彩と遠近法を生成する。と書いてしまうと簡単ですが、原画を仔細に注視すればそこには、偏執的なまでに構築された細部があります。自由なイマジネーションとそのヴィジョンを実現するために費やされる気の遠くなるような作業の手間と時間を思わざるを得ない。

初期の頃には真っ黒な横顔のシルエットに切り取られた白眼だけの表情でしたが、2010年以降に描かれた絵本『セロ弾きのゴーシュ』『風の又三郎』などの連作群では黄色人種の肌色と顔面の凹凸、皺や汚れまで陰翳だけで表現しています。80歳代後半になっても明らかに技巧が上がっているし、制作ペースがまったく落ちていない。

陸前高田、気仙沼、福島第一原発など、東日本大震災の被災地を描いた作品がプリントだったことが唯一残念でしたが、1960年代に劇団木馬座が上演した影絵劇『銀河鉄道の夜』の動く現物セットも楽しい、本当に充実した素晴らしいレトロスペクティブです。



2013年9月19日木曜日

Poemusica Vol.21

今年の中秋の名月は天文学的にも満月で、これが次に一致するのは8年後の2021年だそうです。多くの人たちが7年後のことを想像している傍で、8年後のことを考えるものいいかもしれませんね。そんな十五夜に下北沢 Workshop Lounge SEED SHIP にて "Poemusica Vol.21"が開催されました。

この2日後の9月21日は宮沢賢治が1933年に37歳で亡くなってから80年が経ちます。そこでオープニングに『銀河鉄道の夜第3稿から、主人公ジョバンニとブルカニロ博士のラストシーンの会話を朗読しました。

同じく宮沢賢治作詞作曲『星めぐりの歌』で、空気をそのまま引き継いで古川麦さん(画像)の演奏が始まりました。フルサイズのと子供用のショートスケールのと2本のガットギターを取り換えながら歌います。ギタリストとして、表現(Hyogen)Doppelzimmer など複数のプロジェクトでも活躍していますが、フォルクローレ、ルーツミュージックに対する深い愛情、確かな演奏力、けれん味の無い誠実なソングライティング、訥々とした歌声に、四半世紀前にはじめてLittle Creatures を聴いたときのようなわくわくを感じます。

つづいて音橙(おと)さん。ピアノ弾き語り。3ヶ月間のライブ休止明けということで、リハーサル中は「緊張する」を連発していました。ダークブラウンのニットワンピースからのぞく腕も脚も華奢で心配になっちゃうほどですが、本番はピアノも歌も実に堂々たるもの。ピアノの一音一音に込めたられた思い、途切れない集中力、澄んだ声、切ない歌詞、オーソドックスながら鮮度の高い旋律。その姿の美しさに、会場にいた多くの人たちが息を呑んで見とれていました。

僕の2番目の出番は満月にちなんで「月」の出てくる詩を3篇。「無題(静かな夜~)」、音橙さんの1曲目「あの夏の日」から花火の描写を受け取って「水の上の透明な駅」、「虹のプラットフォーム」。

そして、トリオアカシアーノさんの1曲目が「劇団プラットホーム」と、タイトル付けでつないでくださいました。歌劇団タンゴアカシアーノのアコースティック編成がトリオアカシアーノ。ボーカル立川亮さんが圧倒的な存在感で表現するのは、鉄道マニアの少年ゲイのコンビニ店員40代女子イメクラで甘えん坊に還る部長、などなど。ちょっとおかしな市井の人々。ピアノ田原亜紀さん、ウッドベース若山隆行さんの完璧な演奏に乗せて歌う姿は、フレディ・マーキュリーの歌唱力を持つブライアン・フェリーといった趣きでした。

さて、来月のPoemusicaは、体育の日。祝日ですので、いつも気になっていても平日はなかなか来られない、という方はチャンスです。この機会に是非。もうおなじみ唄子さん(超美人)はもちろん、1年ぶりに登場するRio Nakano くん(ガチでイケメン)のライブペインティングも楽しみです!

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Poemusica Vol.22
日時:2013年10月14日(月・祝) Open 18:00 Start 18:30
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円 当日2,500円(ドリンク代別)
出演: 中田真由美 *Music
    唄子 *Music
    Minako *Music
    9×9 *Music
    Rio Nakano *Live Painting
    カワグチタケシ *PoetryReading

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2013年9月14日土曜日

VAMOS ブラジる!?

2013 第2回 VAMOS ブラジる!? ♪音楽で結ぶ中央線ブラジル化計画♪』に、今年は The Xangos が参加するとあって、これは見逃せないと出かけました。

このイベントは、荻窪、西荻窪、吉祥寺の6店舗を会場とし、9月14日(土)13時から翌15日(日)22時まで、1時間刻みで出演者が入れ替わり、約100公演が繰り広げられます。すべてドリンク代のみの投げ銭制で、観客は気になる演奏者をチェックして各会場をはしごするという楽しいフェスです。

オルタナ・ボッサ・トリオ The Xangos は、ギターの中西文彦さん、7弦ギターとバンドリンの尾花毅さん、ボーカルのまえかわとも子さん(左利き)の3人組。湘南方面を中心に活躍していて、都内のライブは本数が少なく貴重です。この日は14時から西荻窪のブラジルカフェ"copo do dia"、16時から吉祥寺の"world kitchen BAOBAB"の2公演があり、両方に行ってきました。

"copo do dia"のThe Xangos はメロウでカジュアルな佇まい。明るい午後の住宅街を行きかう人たちを背景に、ここちよいリズムで聴かせます。ふたりのギタリストは、表現は控えめながら抑制の効いた演奏をしましたが、ボーカルのまえかわさんはどこまでも自由。旋律を自在に羽ばたかせ、その高低差に軽いめまいを覚える。

約40分の演奏が終わり、会場の外に出ると尾花さんがいたので「BAOBABも行きます」と伝えると、「次はドッカンといきますよ!」と笑います。西荻窪から吉祥寺まではJR中央線で一駅。西荻の可愛らしいお店をいくつか覗きながらゆっくり移動しました。

"world kitchen BAOBAB"では、尾花さんの言葉通り、グルーヴマシンと化したThe Xangos でした。三人それぞれの演奏が逸脱と収斂を繰返しながら、ぎりぎりのところでバランスを取るスリリングな音楽。満員の客席を完全に掌握していました。ライブは演奏者だけでなく、会場全体が作る空間そのものだというのがThe Xangosを観るとよくわかります。

サーティーワンのアイスクリームを食べながら、次に向かった吉祥寺のジャズバーSTRINGSで聴いた行川さをりさん(vo)と前原孝紀さん(g)のデュオも、細部まで行き届いたテクニックとエモーションの表現に優れた完成度の高い素晴らしい演奏でしたが、これに比べてThe Xangos のごつごつした音の塊、破天荒な疾走感は明らかに異形で、オルタナの名に恥じないものでした。

まえかわとも子さんはソロのギター弾き語りもいいんです。是非こちらも!

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カワグチタケシ presents "Kitchen Table Music Hour vol.1"

日時:2013年9月28日(土) Open 15:00 Start 15:30
出演:ノラオンナ(歌とウクレレ)
    まえかわとも子(歌とギター)
会場:JAZZ喫茶映画館
    〒116-0013 東京都文京区白山5-33-19
    03-3811-8932 http://www6.ocn.ne.jp/~eigakan/
料金:無料(1drink order)+投げ銭 
※会場の地図はこちら

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