2017年9月24日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート

9月24日は「くるぶしの日」。金木犀の香る西武柳沢駅前の小径を抜けて、五差路に建つ庚申塚の右手にそのお店はあります。

はじめての場所で行うライブのぱりっとした新しい気持ちと肌に馴染んだ空気が同居するお店ノラバーは、銀座ときね『銀座のノラの物語』、阿佐ヶ谷Barトリアエズの『アサガヤノラの物語』を経て、リスペクトする音楽家ノラオンナさんがはじめて持ったご自身のお店です。

毎週日曜日の夜に一組のミュージシャンを招いて開催される『ノラバー日曜生うたコンサート』に出演しました。

 1. 保谷田村隆一
 2. 西武園所感 ( 〃 )
 3. 無題 (出会ったのは夏のこと)
 4. ANOTHR GREEN WORLD
 5. 離島/地下鉄を歩く
 6. Planetica (惑星儀)
 7. 山と渓谷
 8. 都市計画/楽園
 9. 名前(新作)
10. スターズ&ストライプス
11. 永遠の翌日 
12. 新しい感情
13. もしも僕が白鳥だったなら
14. 線描画のような街
15. 星月夜
16. 水の上の透明な駅

冒頭2篇は敬愛する戦後詩人、故・田村隆一をカバーしました。1960年、ノラバーのある保谷に1年だけ住まっていたことがあり、そのときに書かれた秋の詩と沿線の西武園ゆうえんちをモチーフに「詩で戦うな」というメッセージを込めた作品です。

以降は夏の終わりから秋を舞台にした自作詩を。中盤の3篇「名前」「スターズ&ストライプス」「永遠の翌日」はまだ詩集に収録していない新作です。生声がきれいに響いて、気持ち良く朗読することができましたが、いかがでしたでしょうか。

梨フライタルタル焼き茄子のおひたしさつま芋ごはん、etc.. お店が変わってもノラさんのお料理は素晴らしく、ライブのあとのお食事にハイボールが進みます。夜が更けかける頃に下北沢SEED SHIPのオーナー土屋さんもサプライズ登場して、カウンターを埋めたみんなで楽しいひとときを過ごしました。自分のライブをネタに初対面のお客様同士が話しているのを見るのは本当に素敵なこと。

特典でお配りしたCD-Rの "basement and windowpane" というタイトルは地下2階の銀ノラと壁一面の大きなガラス窓のアサノラから。今頃みなさんご自宅で聴いてくださっているのかな。それぞれの暮らしのなかにある詩と声を想像すると、ちょっと愉快でじんわり気持ちが温まります。

ワンマンならではの面白さ、発見、味わいがあった、とうれしい感想もいただきました。ご来場のお客様、いつも美味しいお料理と気持ちの良いおもてなしを提供してくださるノラオンナさん、ありがとうございました。また来年もこの場所でみなさんにお会いできたら幸いです。


 

2017年9月16日土曜日

VAMOS ブラジる!?

毎年9月に開催される『VAMOSブラジる!? ♪音楽で結ぶ中央線ブラジル化計画♪』は今年で6年目。そのうち4回に観客として参加しています。今回は阿佐ヶ谷、西荻窪、吉祥寺の6店で2日間、72プログラムが開催されたうち、4公演を聴きに行きました。

ひとつめは西荻窪COCO PALM で Banda Choro Eletrico。今日は、ベース沢田譲治さん、ピアノ堀越昭宏さん、ドラムス沼直也さん、フルート尾形ミツルさん、トロンボーン和田充弘さん衣山悦子さん、スルドちっちさん、パンデイロRINDA☆さん、パーカッションサム・ベネットさん伊左治直さん坂本真理さんの11人編成。流動的なユニットには複数のボーカリストが参加していますが、今回は完全インストゥルメンタルです。リーダーの沢田さんが言うにはフランク・ザッパマーラーのハイブリッド。かなりスペイシー。ブラジルの伝統音楽であるショーロから出発して気づいたらずいぶん遠くまで来ていた。

中央線に乗って阿佐ヶ谷へ移動。2軒目はJAZZバーSTACCATO、ボーカルわきちかこさん、7弦ギター尾花毅さん、パンデイロ宮澤摩周さんのトリオによるサンバセッションを聴きました。広いレンジとダイナミズムを持つ尾花さんのギターの存在感。わきさんの正統的な歌唱はメロディがすっと入ってくる。Banda Choro Eletricoの強過ぎる刺激を中和する、我ながらナイスセレクションです。

そしてすぐ隣の駅ビルに入っているSoul玉Tokyoへ。カツヲスペシャル(画像)。カツヲは沢田譲治さんとボーカルまえかわともこさん(左利き)のデュオをベースにしており、今回はピアノ田尻有太さん(王子)、Banda Choro Eletricoからドラムス沼直也さん、トロンボーン和田充弘さんの2人を加えたクインテット。静寂。静謐さのなかに極限まで抑制されたグルーヴがひっそりと置かれている。5人から手渡される小さな音の重なりが美しく、その抽象性はある種の高みに到達しています。

でも、フルスロットルのまえかわさんも聴きたいよね。ということで最後は吉祥寺World Kitchen BAOBABで、THEシャンゴーズ。尾花毅さんが別のセッションに参加しており、まえかわともこさん、ギター中西文彦さん、パーカッション福井豊さんのトリオ編成。ガットギターにディストーションをかけてハウリング込みでループ。ノイズの奔流。カツヲの抑制美とは反対に、まえかわさんの歌はエモーショナルでパッショネート。自由過ぎる二人をアンアンブルに繫ぎとめる福井さんのカホン。立ち見も含めぎっしり埋まった客席も最後は「夜明けのサンバ」に大合唱で応える。アンコールではマツモニカさんが飛び入りし、座は一層盛り上がる。音楽の幸福な時間が生まれる場面に立ち会えた喜び。

ショーロ、サンバ、MPB、大なり小なりブラジル音楽の典型からはみ出したアクトを回りましたが、いずれもその狂騒的なリズムにはトラディショナルに対する確かな信頼とリスペクトが存在しています。それこそが2017年の東京でブラジル音楽を鳴らし、楽しむ意味だと、清々しい気持ちで中央線に乗り、帰途につきました。

 

2017年9月3日日曜日

パターソン

秋晴れの日曜日。ヒューマントラストシネマ有楽町ジム・ジャームッシュ監督作品『パターソン』を観ました。

舞台は現代、米東海岸ニュジャージー州の郊外パターソン市。月曜日の朝6時過ぎ、主人公パターソン(アダム・ドライバー)は目を覚ます。隣で眠る美しい妻ラウラ(ゴルシフテ・ファラハニ)の二の腕に口づけベッドを出る。シリアルを食べ、前夜妻が作ったサンドウィッチを提げて、市営バスの車庫に出勤する。

同僚の家族に対する愚痴を聞き、路線バスを定期運航させる。帰宅夕食後に愛犬マーヴィンの散歩がてらいつものバーに立ち寄りビールを1杯飲む。そんな平凡な平日が5日繰り返され、週末の休みを迎える。

出勤の途中で、始発バスの発車前に、休憩時間や退勤の道のり、思いつくままに詩をノートに書き留める。だがその作品はどこにも発表されたことがない。妻だけが高く評価している。

妻ラウラのエキセントリシティがパターソンの日常の平穏さを強調するが、繰り返される日々にひとつとして同じ日はない。バスの乗客が違えば会話の中身も違うし、バーの客の顔ぶれが変われば出来事も変わる。そのメタフォリックな存在として双子の兄弟姉妹が複数登場します。

ジャームッシュ監督ならではのオフビートなユーモアが随所にさりげなく置かれ、爆笑こそないもののクスッとさせられる場面がたくさんあります。そして主人公夫妻が一点の曇りもなくお互いを愛し、信じ、認め合っているのが、ファンタジーと知りつつも幸せな気持ちになります。

大学2年のときに靴下屋でバイトしていた当時のガールフレンドと渋谷のミニシアターで観た『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の格好良さとヘタレ感の同居は衝撃的でした。そして『パーマネント・バケーション』『ダウン・バイ・ロー』。あれから30年経って巨匠と呼ばれるようになってもジャームッシュ監督は変わらないなあ、と思いました。

それからウィリアム・カーロス・ウィリアムズアレン・ギンズバーグが同郷でパターソン出身だというのをこの映画で初めて知りました。 



2017年9月2日土曜日

ポエトリースラムジャパン2017秋 東京大会C

午前中の雨が上がった明るい土曜日の午後。西新宿芸能花伝舎で開催されたポエトリースラムジャパン2017秋 東京大会Cを観戦しました。毎年5月にパリで開かれるポエトリースラムのワールドカップ(フランスなのでクープデュモンド)の日本代表決定戦の地区予選です。

24名の選手の中から優勝した大島健夫さん、準優勝道山れいんさん、会場賞三木悠莉さんの3人が素晴らしいパフォーマンスで全国大会に駒を進めました。おめでとうございます。

東京大会Bではプリシラレーベルから詩集を出版している石渡紀美さんが優勝しました。今回は同じくプリシラメイツの小夜さん(画像)がエントリーしているということで、3年前に始まったこの大会を初めて観戦するために、廃校の音楽室をリノベーションした会場に向かいました。

審査員は客席から無作為に選ばれた5人が対戦毎に入れ替わります。反権威主義が徹底されたスーパーフラットなルールですから、選手と審査員の相性によって、特に初戦は採点が左右される。今日の傾向としては、家族や郷愁など身近なテーマ、シンプルなレトリックの作品とフラットで明瞭な発声のパフォーマンスが得点を集めていたように思います。

シンタックス/ロジック的にはやや難解で皮膚感覚にぐいぐい訴えてくるような三木悠莉さんの作品はそのなかでも異彩を放っており、僕は最も惹かれました。TASKE氏は残念ながら初戦敗退でしたが彼が本質的に持つ異物感が今回はとても良い方向に出ていました。勝負が賭かることで動く選手たちの一所懸命な表情が皆違って美しかった。

会場スタッフもよくオーガナイズされており、選手と観客の心情に寄り添う猫道くんの安定感のある司会進行はプロフェッショナルなクオリティで、今回一番の感動。

主催者の村田活彦氏とは長い付き合いで、毎年1回『同行二人』という朗読会を続けています。彼がこのスラムイベントを始めたいと言い出した超初期の頃、いまやカリスマ書店員となった花本武くんと3人で豊洲の中華料理店で大層呑んだ4年前の夜を思い出しました。当初はいろいろな批判や問題もあったと聞きますが、多くの協力者を得て気持ちの良いゲームに育ててきたんだなあ、という感慨がありました。

声や言葉というものは、単一的な序列をすり抜けて個人を屹立させ、時には連帯させるツールになるべきだと僕は考えます。日本一の詩人を決めるとかではなく、声と言葉の可能性を示す諸相のひとつとして、これからも続いていけばいいし、このやり方に納得いかない人は自分なりのスラムなりコンペティションなりを起こして、結果的にいろんな尺度や価値感が併存していけばいいんじゃないかな、と僕は思います。


 

2017年9月1日金曜日

CUICUIのICHIGEKI ~9.1はキューでキュイキュイ~

すこし湿った初秋の金曜日の夜、下北沢へ。CLUB Queで開催されたCUICUIの企画ライブ『CUICUIのICHIGEKI ~9.1はキューでキュイキュイ~』。昨年結成し今年2月のデビューライブの印象も鮮明なCUICUI。9月1日をCUICUIの日に決定しました。

今日が3度目のライブ。僕が観るのも3度目です。もともと力のあるメンバーによるバンドですが、ライブを重ねるたびにアンサンブルはより強固に、しかも結成当初のフレッシュネスをまったく損なうことなく、更に尖っているように感じます。

ボーカル&キーボードERIE-GAGA様のメロウでちょっと捻じれたポップセンスとベース&ボーカルAYUMIBAMBIさんの破天荒なプレイとキャラのせめぎ合いを瑞穂玲(ルィスィリュー)さんの手数の多いドラムスが豪快にまとめ上げる横で、リーダーでギターのマキ・エノシマさんは終始シューをゲイズしている。

リツイート!」「ダンゴムシダンゴムシ」「心情書き留めるみたいな孤独とはいつからか仲良くできなくなった」「イイネ!が止まらない」「僕にはカレーがあるからね」「虫除けスプレー」。洗練されたメロディに乗せる歌詞は遊び心とリアリティの狭間を攻める面白さ。

メンバーそれぞれの好みや別ユニットでの音楽性とはすこしずつ異なるCUICUIというポップな枠組みを各々が心から楽しもうというアティチュードが演奏する姿から伝わってきます。ロックンロールにはユーモアが必要だ、と言ったのはバディ・ホリーでしたっけ? キュートさと格好良さとの絶妙なバランスはまさにバンドマジック。

オープニングアクトのジャバラガールズに始まり、キスできればそれでいいしスtokyo pinsalocks と 90's NEW WAVEテイストの濃厚な一癖ある女子デュオ(+サポート)を並べたラインナップも良かったです。いいしスHITOMIさんのプリント基盤直挿しノイズマシン。tokyo pinsalocksのハウス調の曲は往年のJESUS JONESみたいでした。