2023年4月30日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

雨上がり。二週続けて西武柳沢へ。『ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック』に出演させていただきました。コロナ以降、有観客では2023年1月8日に続き2度目の出演です。

ご来店のお客様、デザートミュージックの配信をご視聴いただいたお茶の間のみなさん、おいしいお料理と楽しいおしゃべりでおもてなししてくださったノラバー店主ノラオンナさん、あらためましてありがとうございました。

3.
5. SAD SONG(悲しい唄)
8. 白木蓮
11. 水玉
12. 花柄

「カワグチタケシ春の朗読」というサブタイトルをノラさんにつけていただいたので、本編前半は春の詩を中心にセットリストを組みました。「星影のステラ」と「君の瞳に恋してる」は今回のご来場特典に制作したカワグチタケシ訳詞集 "sugar, honey, peach +Love 5" から、フランク・シナトラフランキー・ヴァリの名曲を。また今年のワンマンライブでは生誕百年の田村隆一の詩作品を毎回一篇朗読しています。

60分のセットの後はお楽しみノラバー御膳の時間です。今月はたけのこごはん中心に春らしい全九品。お食事しながら楽しくおしゃべりしていると、あっという間に1時間経って、インスタライブ「デザートミュージック」の時間が来てしまう。


こちらは前回のノラバーご来場特典カワグチタケシ小詩集『過去の歌姫たちの亡霊』から6篇朗読しました。画面の向こうにも届いていたら幸いでございます。

実は当日フィジカルコンディションが100%ではなくて、前半は少々抑え気味のパフォーマンスをしましたが、終盤に向けてしっかりギアを上げることができました。人前で朗読をするようになって25年程経ち、自身の状態を客観視してペース配分できるぐらいには成長したのかな、と思いました。と同時に朗読という行為は身体表現なのだな、とあらためて認識する機会にもなりました。

ライブのあとはデザートにノラバープリンとバニラアイスのハーフ&ハーフ、ノラバーブレンドコーヒーの香り高く、1月に続けてご来場いただいたお客様、ひさしぶりのお客様、はじめてのお客様とノラさんと他愛のない話をして夜は深まっていきました。

 

2023年4月23日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

明るい夕方。西武柳沢へ。『ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックmayulucaさんの回に参加しました。

ノラバーの黒い扉を開けると一昨日素晴らしいライブを披露した店主ノラオンナさんが笑顔で出迎えてくれました。窓の外は夕暮れ。mayulucaさんがギターを爪弾き歌うのを麦チョコとピーナツをつまみながら聴く。

セットリストの前半に置かれたコロナ禍に書かれた楽曲たち。「鳥ならよかったな/あなたのうちに飛んでいける」(希望の朝)、「あなたに会いたい/同じ空気を吸いたい」(あなたにとって光とは)、「滑稽なほど私じたばたしていたの/ごめんねなんにも悪くない」(箱庭)。

あらためて歌詞に耳を傾けるとストレートなラブソングに聴こえてきます。mayulucaさんの従来の楽曲は描かれている対象をすこし離れた場所から息をつめて観察しているようなところがあり、観察の対象は時に自分自身だったりもするのですが、絶妙なその距離感が図らずも可笑しみを生んでいると思っていました。

ライブ後半に演奏したミニマルなリフ主体の構築的な楽曲群と並べると、この3年間の世界の変化がmayulucaさんに及ぼしたゆらぎとそれを自身の表現スタイルに取り込むゆるぎなさを同時に感じます。

ノラオンナさんの「梨愛」のカバーを含む12曲1時間のライブのあとは演奏家とオーディエンスが一列にカウンターに並んでノラバー御膳を食べる。4月の献立は桜の塩漬け乗せたけのこごはん。ポテトサラダ、大根油あげ巻、だし巻き卵、ポテトコロッケ、きんぴらごぼう、さばみりん、小松菜からし和え、豆腐とわかめの味噌汁。

食事しながら楽しい会話で一気にやわらいだ空気の中でデザートミュージックの配信ライブが始まる。2015年に書いた歌詞のメロディを忘れて新たな曲をつけ直したという新曲「アネモネ」。すこし時間が余ったのでというので、mayulucaナンバーで僕的最高ハイパーチューン「流浪の日々」をリクエストして歌ってもらいました。ありがとうございます。

配信のあとはノラバープリンとバニラアイス、挽き立てのノラバーブレンドコーヒー。おしゃべりは更に続き、柳沢の夜は更けていきました。

 

2023年4月21日金曜日

ノラオンナ57ミーティング 「ひとりとは」

夏日。吉祥寺STAR PINE'S CAFEで開催された『ノラオンナ57ミーティング「ひとりとは」』に行きました。

開演予定時刻を数分過ぎてステージと客席の照明が落ちる。舞台上のスツールに腰かけた白い肩を淡い灯りが照らし、ノラオンナさんが真っ暗な観客席に向かって語りかける。そしてスキャット。2曲目は「君とデート」、「詩集君へ」の朗読から「梨愛」へ。

4月21日はノラオンナさんのデビュー記念日。この日に開催されるライブは毎年趣向を凝らしショーアップされたもので、フルバンド弦楽三重奏など編成も色とりどり。今年はサブタイトル「ひとりとは」の通り、彼女の原点ともいえるひとりウクレレ弾き語り(ときどきアカペラ)です。

ノラさんの音楽に初めて触れてから十数年が経ちます。当時弾いていたのはソプラノウクレレ。その歌声が風だとしたら、小さく爪弾かれるウクレレの弦の音は花びらのようでした。テナーを経て現在はバリトンウクレレを演奏することが多くなり、花びらは枝に、幹に。「少しおとなになりなさい」を聴きながら、奏法やタイム感の変化に積み重ねた時間を感じます。

デビュー盤の1曲目に収められている「流れ星」は1オクターブ上げて歌われ、「めばえ」の澄み切ったファルセットにつながる。「パンをひとつ」「ないものみえないもの」「風の街」「やさしさの出口で」「都電電車」「やさしいひと」と次々に紡がれるGood Melodies。甘くノスタルジックで包容力があり、すこし残酷。コンサートというよりも一人芝居、一幕の音楽劇を鑑賞したような充実感が残りました。

アンコールでは、現在準備中という新譜の共同制作者外園健彦さんが加わって、ノラさんのスキャットにガットギターで芳醇で艶やかな和声を添え、ウクレレのミニマリズムから離れた大きな展開の音楽が会場を包み込みます。次回作と来年4月21日の20周年公演がますます楽しみになりました。

 

2023年4月11日火曜日

ごめんね。仲直りをしよう。

4月の夏日。吉祥寺MANDA-LA2にてmue22周年ワンマンライブごめんね。仲直りをしよう。』にお邪魔しました。

地下の会場に降りるとBGMに懐かしいRon Sexsmith1st Albumがかかっている。いつものように下手から登場したバンドメンバーが定位置について、mueさんがピアノに向かい「話のつづき」で始まります。

4月11日はmueさんが弾き語りソロアーティストとして初めてステージに立った日。2002年以来同じ日に開催されるアニバーサリーライブに僕は2013年から毎年通っていますが、昨年はスケジュールが合わず泣く泣く断念。2年ぶりのmue musicに心躍りました。

4曲目の「Angry Man」からはギターに持ち替える。毎年少しずつ変わるメンバーの演奏も楽しみ。今年は2021年の『大きなひとつの丸の中で、行ったり来たり。』と同じ、タカスギケイさん(g)、市村浩さん(b)、熊谷太輔さん(dr)。パーマネントなバンドではないのに一体感のあるグルーヴが会場を満たします。

特に今回は二部構成の後半の立ち上がり、ブラシをスティックに持ち替えた熊谷大輔さんがプリミティブなアフリカンビートを叩き出す「赤」と、一転してビートレスなアンビエントサウンドに寓話的な歌詞を乗せた「大きな流れを作る」の対照的な2曲は新境地でした。

毎年このライブの締めくくりを飾る名曲「東京の夜」には空間的な広がりのあるイントロダクションが付加され「目を閉じて、想像してください。宇宙、地球、日本、東京、吉祥寺、MANDA-LA2」というフィッシュマンズへのトリビュートともとれるMCを乗せて、我々観客の分散した思考を一気に集中させる繊細な大技を繰り出す。

「不和じゃないと曲にする必要がない」と言うmueさんですが、春の日差しのように暖かく明るい歌声が客席に届くとき不和がポジティブに反転して、会場は多幸感に包まれる。このマジックが味わえるのは1年に1度だけ、と思っていたら、7/11(火)にMANDA-LA2で同じバンドセットによるライブが開催されると発表が。とても楽しみです。

 

2023年4月10日月曜日

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー


ゆうり(丞威)まこと(濱田龍臣)の神村兄弟は冴えない孫請けの殺し屋。殺し屋協会の下請け仲介業者赤城(橋野純平)の指示ミスでターゲットを取り違えギャラがもらえず、台東区にいる凄腕の殺し屋二人を消せばアルバイトから正規雇用に昇進できるという不確かな情報を得る。

その二人、杉本ちさと(高石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)は5年分のジムの会費の未払い369万円の請求書を受け取る。殺し屋わくわく保険パックの滞納もかさんでいる。15時までに振り込まないと更に延滞金が加算されると言われ、銀行の窓口に並んでいると覆面の強盗が居合わせた客と行員たちを拘束する。支払期限に間に合わないと焦ったちさととまひろは協会の規則を破って強盗二人を制圧し、謹慎処分を受ける。

プロフェッショナルなスキルを持つ若い女子の殺し屋が主人公の映画は近年ではカレン・ギラン主演の『ガンパウダー・ミルクシェイク』、橋本環奈主演『バイオレンスアクション』を観ました。比較して本作は、コメディ色が強い一方、アクションシーンは生身でリアル、CGやスローモーションに頼らず、テンポよく、演出にメリハリがあって、あっという間に上映時間が過ぎていきました。

殺し屋にも日常がある。ちさととまひろのグダグダな会話劇が楽しい。百均のラップが上手く切れず「安いラップはゴミ」とちさとがまひろにキレるシーンで客席が沸く。謹慎中に日銭を得るためにパンダと虎の着ぐるみで商店街の福引の客引きをする二人。ちょっとしたいさかいがあり、着ぐるみのまま蹴り合い殴り合うシーンはコメディ面でもアクション面でも映画史に残るのではないでしょうか。

殺し屋協会の組織やシステムも理解できました。特殊清掃(死体処理)担当主任田坂(水石亜飛夢)の絶妙なウザさ、その後輩でTHE NORTH FACEが似合う宮内さん(中井友望)の可愛さと男気に魅了されました。

どうやら次回作もありそうなので、とても楽しみです。

  

2023年4月9日日曜日

トリとロキタ

復活祭。ヒューマントラストシネマ有楽町にてジャン=ピエール・ダルデンヌ&リュック・ダルデンヌ監督作品『トリとロキタ』を観ました。

舞台は現代。ベルギー第五の都市、ベルギーワッフルとダルデンヌ兄弟の故郷リエージュ。カメルーンから地中海を渡ってきた少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)は就労ビザを取得するために入国管理官の審査を受けている。弟トリ(パブロ・シルズ)のことを訊かれたロキタの視線は泳ぎ、言葉に詰まり泣き出してしまう。

ベナン共和国ウエメ川の支流の村の生まれで、不吉な子どもが入る施設から脱走したトリは、難民船で出会ったロキタと血縁関係はないが、同志愛を超えた強い姉弟愛で結びついている。就労ビザを得られず合法的な職に就くことができないロキタは料理人ベティム(アルバン・ウカイ)に雇われ、麻薬の取り引きに関わっている。

俳優の松本穂香さんが女子SPA!の連載コラム『銀幕ロンリーガール』で、感動作、傑作と呼ぶのが憚れる、というような書いていましたが、僕も同感です。最小限の説明で抑制の効いた脚本演出、ドキュメンタリータッチの冷徹なカメラワーク、人種的社会的マイノリティの現実を多面的な視点で問題提起する本作は映画としての完成度も最上級ですが、それ故に鑑賞者を傍観者に留めない強度があります。

トリの機転で大麻栽培施設から逃げ出したロキタは山道でヒッチハイクしようとする。高級車が停車するが、あまりに切迫したロキタの表情に怯えウィンドウを上げて走り去ってしまう。その白人中年女性ドライバーに自分が重なる。僕は常々善人でありたい、困っている人を助けたいと願っていますが、身なりのいい困っている人には手を差し伸べたとしても、顔中あざだらけで片足をひきずって汗だくの見るからにヤバそうな相手だったら、自分と同乗者の身の安全を優先してしまうと思います。それを偽善と言い切れるのか。観る人によってポイントは異なると思いますが、そのような現実を自分事として直視させられる。

イタリアンレストランでチップを稼ぐためにトリと歌う、亡命中にシチリア島のパメラに教わった「東方の市場で2ソルディで父さんがねずみを買った/猫がやって来てねずみを食べた/犬が来て猫を嚙んだ/父さんが犬を棒で叩いた」という童謡は、人権意識の高い現代西欧社会においても弱肉強食ピラミッドが存在し、底辺の者は負のスパイラルから抜け出せないことの象徴か。

工場で隔離労働させられることになり、SIMカードを抜かれたロキタがまずそうな冷凍弁当をレンジで温めて食べる食卓に置くスマートフォンの待ち受け画面のトリの笑顔が切ないです。

トリの賢さと優しさ、画面の物理的な明るさが、本作の救いと言えましょう。良い映画を観ました。
 

2023年4月2日日曜日

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

日曜日。ユナイテッドシネマ豊洲にてダニエルズダニエル・クワンダニエル・シャイナート)監督作品『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観ました。

舞台は現代の合衆国西海岸、春節の前日と当日。中国系移民エヴリン(ミシェル・ヨー)はコインランドリーの経営者。税務申告のために膨大な領収書と格闘している。優しいが頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)に離婚申請書を提示され、中国から呼び寄せた父ゴンゴン(ジェームズ・ホン)は認知症、一人娘のジョイ(ステファニー・スー)が同性愛者であることを受け入れられない。

米アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞、7部門を受賞した本作。何度も観た予告編は賞を獲るような映画とは思わなかったのですが、マルチバースとカンフーアクションという組み合わせに魅力を感じました。実際に観てみると滅法面白い。近年の作品賞受賞作品では『ムーンライト』(2016)、『グリーンブック』(2018)、『パラサイト』(2019)にも共通するマイノリティが主要キャストの作品であり、2011年のカンヌ受賞作テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』のコメディ版ともいえましょう。

平凡な移民一家が耳に端末を装着するとマルチバース(並行宇宙)を行き来して、世界を救済するための闘いに巻き込まれる。人生の節目で異なる選択をした自分たちが生きる別の人生は華やかで甘くほろ苦く、実生活ではいつもイライラしているエヴリンが優しく落ち着いている。

「『正しさ』とは臆病者が考え出した小さな箱。私はその窮屈さを知っている」と言うジョブ・トゥパキは善悪や目的を持たないマルチバースにおける破壊神。娘ジョイの姿をしている。主人公エヴリンが、対峙するジョブ・トゥパキと税務監査官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)を赦し、抱擁することで争いを終わらせる。異文化の存在を肯定し包摂する姿が、トランプ政権下で分断されたアメリカの理想を取り戻したいアカデミー会員たちの心に響いたのだと思います。

様々なかたちの機能不全家族とその修復もしくは終焉を描いてきたアメリカ映画をアジア目線で戯画化した、ドビュッシーの「月の光」が随所で効果的に響く本作品は意外にも感動作でした。