2011年最初に劇場で観た映画は、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、渋谷ユーロスペースにて。年のはじめに良い映画を観ました。
1990年に41歳で自殺した作家、佐藤泰志の遺作となった『海炭市叙景』は、作家の故郷函館をモデルにした海炭市という架空の町を舞台とする18編の連作短編小説集。そのうちの5編「まだ若い廃墟」「ネコを抱いた婆さん」「黒い森」「裂けた爪」「裸足」を中心に物語を再構成して152分の映画にしています。
閉鎖される造船所の作業員、再開発のため立ち退きを迫られる老女、妻の不貞に苦悶するプラネタリム職員、家庭崩壊しているガス屋の若社長、売れない浄水器のセールスマン。登場人物のいずれも、小さな街のなかで、孤独で、失敗を繰り返し、前途が見えず、それでも生き続けるしかない。救いのない暗い話ですが、鑑賞後には不思議と豊かでさっぱりした感触が残ります。
おそらくそれは、ロケ地函館の、フィルム撮影され、すこしざらついた美しい風景と、だめな登場人物たちを「いいんだよ。大丈夫だよ」と見守るようにやわらかく包み込むジム・オルークの音楽の力が大きいのでは。 ラストシーンの路面電車を中心にかすかに交錯する登場人物たちの人生、そして老猫グレコの背を撫でる老女の皺々の手のアップに、エレピ、アコギ、ビブラフォンが重なって、登場人物たちも、観ている僕も、大きな赦しを得たような感じがしました。残念ながらサウンドトラック盤は出ていないようですが、音楽の断片が聴ける予告編はこちら。
役者では、失業した造船所員の妹役を谷村美月が好演。若い女優さんですが、すくない台詞とわずかな表情の変化で多くを伝える力を持っていると思います。 それと、加瀬亮は作業服姿がものすごく似合う。「ありふれた奇跡」といい、「おとうと」といい。
僕が佐藤泰志の存在を認識したのは二年前。福間健二が1990年(佐藤泰志の没年)に出した詩集『地上のぬくもり』を読んで。『海炭市叙景』の18の章題は、親友であった福間健二の詩のタイトルから採られていると小学館文庫の解説で福間さん本人が書かれていました。僕の持っている三冊の詩集には収録されていませんでしたが、「まだ若い廃墟」という素晴らしいタイトルの詩を是非読んでみたいものです。
そんなこんなで、2011年。どうぞよろしくお願いします!
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