初夏のような金曜日から、すこしだけ冬に戻った土曜日。マイクスタンドを担いで、山手線で日暮里まで。古書信天翁で開催された『信天翁倶楽部詩人の部Vol.0 ふたりの朗読会』を鑑賞しました。
3KからTKレビューと、10年来いっしょに朗読イベントを開催してきた小森岳史プロデュースのこの会には、これまた10年来のファンである飯田有子さんとプリシラ・レーベルの盟友佐藤わこが出演。会場の信天翁さんは、谷中銀座商店街の入口、夕やけだんだんのすぐ上のビルの2階にある、夕陽のきれいな古書店です。
小森さんの紹介で、まず登場したのが佐藤わこさん。ゆったりとした、でも時々エッジの効いたMCをはさんで自作の詩を数篇朗読。1997年5月に江東区文化センターではじめて彼女の声を聞いたときの衝撃を、いまでもはっきりと思い出せます。小さな金属片がぶつかりあうときにたてるような美しい声の響き。そして正確な呼吸に裏打ちされた圧倒的な描写力。14年前と変わったところ、変わらないところ。当時横組みだった朗読テキストは、今回は縦組みになり、それが発声により安定感を与えていたように思います。
わこさんの詩には、食べものや食事のシーンがよく出てきます。それが、ディスコミュニケーションや戦争や殺戮を主題にした詩作品にも、光とあたたかみを与えています。
飯田有子さんは歌人です。短歌という定形のなかをこれだけ自由に行き来する人を他に知りません。容姿の美しさ、殊に口紅をつけていてもいなくても真っ赤な口唇は、腕利きの職人が細工したお菓子にも似て、内側から光を放っているよう。その口唇から発せられる声は、わこさんとは対照的に不規則に揺れ、その揺らぎが心地よく会場の空気を満たしていきます。
書店の本棚の背表紙に印刷されたタイトルが、隣の本と全く関連なく、しかも等価に並んでいる状態が好きだというアリコさんの羅列フェティシズム全開の演目。自作の短歌も、多和田葉子の短編小説も、ツイッターのTLも、徒然草も、アリコさんの内側では同階層にクラシファイされているのでしょう。
ひとつの事象を複数の視点から切り取ることで詩的現実を立ち上げようとするわこさん、多様な事象を事象のまま並列することを勇気を持ってやりきろうとするアリコさん。対照的なコンセプトとパフォーマンスが響き合い、冬から春に移ろう季節にぴったりな、美しい朗読会でした。
同じ古書信天翁さんで、ちょうど一ヵ月後の3月26日(土)に、村田活彦さんとカワグチタケシの朗読二人会『続・同行二人』を開催します。会場のすぐそばに、大きな染井吉野の古木があります。老朽化のため今年を最後に伐られてしまうこの桜が、来月の朗読会当日に咲いているといいな、と思っています!
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