今年も東京湾岸埋立地の金木犀が咲きました。小雨降る中、外苑前のTAMBOURIN GALLERYで開催中のイラストレーター夏目麻衣さんの個展『植物と冒険』にお邪魔しました。
夏目さんとは吉祥寺クワランカカフェで開催されたBOOKWORMで出会いました(実はそれ以前にもイベントで同席していたらしいのですが。)。そのときポートレートをスケッチしてくださいました。プリシラ・レーベル主催ライブのフライヤーに作品を使わせてもらったり、大変お世話になっています。
繊細な描線に優しい彩色が施された小品群が今回の展示の中心。『植物と冒険』と題された通り、ボタニカルと少年少女をモチーフに、異国情緒と甘酸っぱいノスタルジー、物語を感じさせる。観ていて気持ちの良い展示です。
「よく外国っぽいって言われるんですけど、もともと日本画出身なんですよね」と先日おっしゃっていましたが、輪郭線と上品で薄付きな色彩、空気遠近法を用いた空間構成に日本画の影響を感じます。
前後の予定が押して駆け足での鑑賞となってしまったことが大変心残りです。今回の展示作品では「花の子」「ロンド」「一角獣」、三文字タイトルの三作品が特に印象に残りました。
2018年9月23日日曜日
ノラバー日曜生うたコンサート
十五夜の前日、西武柳沢ノラバーへ。オツベルくんの音楽を聴きに行きました。
以前、みぇれみぇれと名乗っていた頃にSEED SHIPのPoemusicaで何度か共演して以来、折に触れて聴きたくなるとライブに出かけます。特に印象に残っているのは2015年の雨季、下北沢leteのワンマン。みぇれみぇれ名義でのラストライブです。
オツベルくんの普段の演奏は、アコースティックギターの弾き語りをベースに、ループマシンやKAOSSILATORなどのエレクトロニクスを上手に融合させて、近未来ノスタルジアとでもいうべきサウンドスケープを構築しています。
ノラバーのセットリストは細野晴臣の「三時の子守唄」のカバーからスタートしました。Waterlooギターをサムピックで。2曲目「ちゅうくらいの場所」以降はオリジナル曲。「窓を開けたらいつも雨だったの/膨らむ宇宙にあくびをひとつ」「好きな星を持って飛んでいくんだ/ほころびなんて僕が縫ってあげるよ」「月から君に手を振る//君の背中の羽も嫌いじゃない/長い長いはしごを伸ばせばそこに届くかな」「夏といえば/夏といえば/夏といえば/夏といえば……」。
マイクもアンプも通さない完全アンプラグドですが、そのことによって、ソングライティングの確かさと歌唱力、彼の音楽が持つ堅固な骨格が(もしかしたらそれはオツベルくんの本意ではないのかもしれないけれど)くっきりとした輪郭を持って伝わってくる。客席にミュージシャンが多いのもきっとそのせいだと思います。
ハーモニクス、ストライド、変則ライトハンド奏法までさりげなく織り込んだギタープレイには全国のギターキッズも驚かされるでしょう。
本編11曲のあとのアンコールでは一番好きな曲「緑の迷路」をリクエストしました。オツベルくんの呼びかけで客席の水ゐ涼さん(左利き)が重ねたコーラスも大層美しく、ドリーミィな時間をプレゼントしてもらいました。ありがとうございます。
以前、みぇれみぇれと名乗っていた頃にSEED SHIPのPoemusicaで何度か共演して以来、折に触れて聴きたくなるとライブに出かけます。特に印象に残っているのは2015年の雨季、下北沢leteのワンマン。みぇれみぇれ名義でのラストライブです。
オツベルくんの普段の演奏は、アコースティックギターの弾き語りをベースに、ループマシンやKAOSSILATORなどのエレクトロニクスを上手に融合させて、近未来ノスタルジアとでもいうべきサウンドスケープを構築しています。
ノラバーのセットリストは細野晴臣の「三時の子守唄」のカバーからスタートしました。Waterlooギターをサムピックで。2曲目「ちゅうくらいの場所」以降はオリジナル曲。「窓を開けたらいつも雨だったの/膨らむ宇宙にあくびをひとつ」「好きな星を持って飛んでいくんだ/ほころびなんて僕が縫ってあげるよ」「月から君に手を振る//君の背中の羽も嫌いじゃない/長い長いはしごを伸ばせばそこに届くかな」「夏といえば/夏といえば/夏といえば/夏といえば……」。
マイクもアンプも通さない完全アンプラグドですが、そのことによって、ソングライティングの確かさと歌唱力、彼の音楽が持つ堅固な骨格が(もしかしたらそれはオツベルくんの本意ではないのかもしれないけれど)くっきりとした輪郭を持って伝わってくる。客席にミュージシャンが多いのもきっとそのせいだと思います。
ハーモニクス、ストライド、変則ライトハンド奏法までさりげなく織り込んだギタープレイには全国のギターキッズも驚かされるでしょう。
本編11曲のあとのアンコールでは一番好きな曲「緑の迷路」をリクエストしました。オツベルくんの呼びかけで客席の水ゐ涼さん(左利き)が重ねたコーラスも大層美しく、ドリーミィな時間をプレゼントしてもらいました。ありがとうございます。
2018年9月21日金曜日
3K12
暑さ寒さも彼岸迄と申しますが、朝晩は気温が落着き過ごし易くなってきました。皆様お元気でお過ごしでしょうか。
2000年に始めた3K朗読会がこの秋12回目を迎えます。前回から少し間が空きましたが、また3人揃って皆様にお目にかかれますことを大変うれしく思います。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3K12 ~3人のKによる詩の朗読会~
日時:2018/10/7(日)18時開場 18時半開演
会場:古書ほうろう 〒113-0022 東京都文京区千駄木3-25-5
03-3824-3388 http://horo.bz/
東京メトロ千代田線千駄木駅2番出口
入場料:1000円
出演:究極Q太郎、小森岳史、カワグチタケシ
特設サイト:https://note.mu/3k12
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
会場の古書ほうろうさんは、不忍ブックストリートの中心的存在。3K3(2001)、3K6(2003)、3K10(2005)で3度お世話になった3Kとはご縁の深いお店です。
芸工展2018の期間中で、金木犀香る谷根千界隈は賑わう時期。ご予約は不要ですが「行くよ!」と言ってもらえると俄然モチベーションが上がります。秋の下町散歩の終着点に3K12を選んでいただけましたら幸いでございます。
2000年に始めた3K朗読会がこの秋12回目を迎えます。前回から少し間が空きましたが、また3人揃って皆様にお目にかかれますことを大変うれしく思います。
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3K12 ~3人のKによる詩の朗読会~
日時:2018/10/7(日)18時開場 18時半開演
会場:古書ほうろう 〒113-0022 東京都文京区千駄木3-25-5
03-3824-3388 http://horo.bz/
東京メトロ千代田線千駄木駅2番出口
入場料:1000円
出演:究極Q太郎、小森岳史、カワグチタケシ
特設サイト:https://note.mu/3k12
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会場の古書ほうろうさんは、不忍ブックストリートの中心的存在。3K3(2001)、3K6(2003)、3K10(2005)で3度お世話になった3Kとはご縁の深いお店です。
芸工展2018の期間中で、金木犀香る谷根千界隈は賑わう時期。ご予約は不要ですが「行くよ!」と言ってもらえると俄然モチベーションが上がります。秋の下町散歩の終着点に3K12を選んでいただけましたら幸いでございます。
2018年9月16日日曜日
ウエノ・ポエトリカン・ジャム6
上野恩賜公園水上音楽堂、ウエノ・ポエトリカン・ジャム6 ~はしれ、言葉、ダイバーシティ~ (UPJ6)に出演しました。9月15日土曜日と16日日曜日、はじめての2DAYS開催です。前回は2009年のUPJ4。9年ぶりにウエノのステージに立ちました。
1日目の土曜日は朝から雨でしたが、13時台の谷川俊太郎さんあたりから雨が上がり、僕の出演時間にはすっかり日も暮れて。広いステージと客席。Anti-Trenchと鳥居さんというフレッシュな2組に挟まれて「無題(静かな夜~)」「水の上の透明な駅」「ANGELIC CONVERSATIONS」の3篇を朗読しました。いつも聴いてくださる方たちにも、初めてお会いしたみなさんにも、会場の隅々までしっかりと手渡すことができたと感じています。
谷川俊太郎、松永天馬(アーバンギャルド)、いとうせいこう is the poet、町田康。2日間の昼夜にそれぞれ登場した4組のヘッドライナーはもちろん、約40組のゲストは各々の持ち味を出していました。
1日目のゲストでは石渡紀美さんの軽快な凄味、文月悠光さんの揺れる佇まい、東直子さんのひたすらフラットな表現、初舞台とは思えない堂々としたパフォーマンスで魅せたセーラー服の歌人鳥居さん、ループマシンで分裂し統合する三角みづ紀さんの声。新橋サイファーも最高に楽しかった。オープンマイクでは、当日エントリー枠のキョウカさんと小夜さん、ラッパー多嘉喜さん。
2日目ゲストは、トップで清涼な風を吹かせたでんちゅう組、暁方ミセイさんの誠実さ、レジェンド花本武、和合亮一さんのウィット、totoさんの流れる水のようなフリースタイル、ジュテーム北村節。オープンマイクでは、当日枠の道山れいんさん(前日はゲスト出演)、どこかの谷のカバの妖精さん、yaeさん、等が特に印象に残りました。
客席で言葉を立て続けに浴びて疲れたら、ステージ脇の駐車場で行われている路上ポエトリースラムやMCバトルで気分を変えて。
僕的ベストアクトは、ゲスト部門では宮尾節子さん(画像)、オープンマイク部門 そにっくなーす、路ポス部門 木村沙弥香さんの1回戦、MCバトル部門はゆうまーるBP3回戦の長谷川さんです。
そして4人の司会者、1日目のyaeさん、ジョーダン・スミスさん、2日目の石渡紀美さん、猫道くん。いずれも素晴らしかった。石渡紀美さんのユルい呼びかけから拡がった「#子どもとUPJ6」ムーブメントも良い試みだったと思います。旗っていいよね。よって総合優勝は石渡紀美インダハウス!
全体的で雑な感想としては、「言葉である前に声であること」「人前に身体を晒すことに対して自覚的であること」が、詩を舞台表現として伝えるための重要なファクターだということです。
出演者としても観客としても2日間のお祭りを楽しみました。主催の三木悠莉さん、ikomaさん、大勢のボランティアスタッフのみなさん、どうもありがとうございました。
1日目の土曜日は朝から雨でしたが、13時台の谷川俊太郎さんあたりから雨が上がり、僕の出演時間にはすっかり日も暮れて。広いステージと客席。Anti-Trenchと鳥居さんというフレッシュな2組に挟まれて「無題(静かな夜~)」「水の上の透明な駅」「ANGELIC CONVERSATIONS」の3篇を朗読しました。いつも聴いてくださる方たちにも、初めてお会いしたみなさんにも、会場の隅々までしっかりと手渡すことができたと感じています。
谷川俊太郎、松永天馬(アーバンギャルド)、いとうせいこう is the poet、町田康。2日間の昼夜にそれぞれ登場した4組のヘッドライナーはもちろん、約40組のゲストは各々の持ち味を出していました。
1日目のゲストでは石渡紀美さんの軽快な凄味、文月悠光さんの揺れる佇まい、東直子さんのひたすらフラットな表現、初舞台とは思えない堂々としたパフォーマンスで魅せたセーラー服の歌人鳥居さん、ループマシンで分裂し統合する三角みづ紀さんの声。新橋サイファーも最高に楽しかった。オープンマイクでは、当日エントリー枠のキョウカさんと小夜さん、ラッパー多嘉喜さん。
2日目ゲストは、トップで清涼な風を吹かせたでんちゅう組、暁方ミセイさんの誠実さ、レジェンド花本武、和合亮一さんのウィット、totoさんの流れる水のようなフリースタイル、ジュテーム北村節。オープンマイクでは、当日枠の道山れいんさん(前日はゲスト出演)、どこかの谷のカバの妖精さん、yaeさん、等が特に印象に残りました。
客席で言葉を立て続けに浴びて疲れたら、ステージ脇の駐車場で行われている路上ポエトリースラムやMCバトルで気分を変えて。
僕的ベストアクトは、ゲスト部門では宮尾節子さん(画像)、オープンマイク部門 そにっくなーす、路ポス部門 木村沙弥香さんの1回戦、MCバトル部門はゆうまーるBP3回戦の長谷川さんです。
そして4人の司会者、1日目のyaeさん、ジョーダン・スミスさん、2日目の石渡紀美さん、猫道くん。いずれも素晴らしかった。石渡紀美さんのユルい呼びかけから拡がった「#子どもとUPJ6」ムーブメントも良い試みだったと思います。旗っていいよね。よって総合優勝は石渡紀美インダハウス!
全体的で雑な感想としては、「言葉である前に声であること」「人前に身体を晒すことに対して自覚的であること」が、詩を舞台表現として伝えるための重要なファクターだということです。
出演者としても観客としても2日間のお祭りを楽しみました。主催の三木悠莉さん、ikomaさん、大勢のボランティアスタッフのみなさん、どうもありがとうございました。
2018年8月18日土曜日
未来のミライ
空が高く、風が心地良い。ユナイテッドシネマ豊洲で、細田守監督作品『未来のミライ』を観ました。
くんちゃん(上白石萌歌)は磯子に住む4歳男児。妹が生まれ、出版社勤務の母(麻生久美子)と最近フリーランスになった建築士の父(星野源)の関心を奪われて不機嫌。幼児退行で反抗しまくる。そこに未来から現れたセーラー服姿の妹(黒木華)の願いは、婚期が遅れるから今日中に雛人形を片付けてほしい、というものだった。
ト書きとでもいうべき現在の世界から、約15分毎に主人公くんちゃんのエモーションが臨界点に達するのをトリガーにして、過去や未来にタイムリープする5話オムニバスのような構成になっています。
第一話は中年男に姿を変えた飼い犬ゆっこ(吉原光夫)が、くんちゃんが生まれる前は自分がこの家の主役だったと告げる。第二話は植物館のドームで中学生になった妹の未来との出会い。第三話は傲慢で散らかし屋だった母親の少女時代(雑賀サクラ)へ。第四話は戦後間もなく曾祖父(福山雅治)に根岸競馬場跡まで馬とオートバイに乗せてもらう。第五話は十数年後の自身(畠中祐)に導かれ未来の東京駅で迷子に。
冬の日、息で曇らせた冷たい窓ガラスを掌で拭う冒頭のシーンから、ホワイトアウトした真夏の光線まで、現時点におけるアニメーション表現の到達点をさりげなく見せつけられます。最も興奮するのは、第五話の東京駅のホログラム化した時刻表とエピローグのファミリーツリー内部のインターステラー的デジタルアーカイブ感で、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』の上位互換として、僕が細田守作品に求めるのはそこなんだなあ、と実感しました。
上記過去作と異なるのは、タイムリープやバーチャルファイトの背景にあった切迫感が無いことで、今作ではあくまでも主人公の妄想を補強する役割に徹しています。その意味で描かれる世界が小さくなったという批判的な意見が出るのもきっと監督には想定内なのでしょう。
終盤に祖母(宮崎美子)の言う「そこそこで充分。最悪じゃなきゃいいの」という台詞は監督が実体験から得た育児論でもあり、今作以降の映画作法でもあるのだと思います。興業収入云々よりも、自分の身の周りのことを丁寧に精緻に描くのだ、という宣言と受け取りました。
くんちゃん(上白石萌歌)は磯子に住む4歳男児。妹が生まれ、出版社勤務の母(麻生久美子)と最近フリーランスになった建築士の父(星野源)の関心を奪われて不機嫌。幼児退行で反抗しまくる。そこに未来から現れたセーラー服姿の妹(黒木華)の願いは、婚期が遅れるから今日中に雛人形を片付けてほしい、というものだった。
ト書きとでもいうべき現在の世界から、約15分毎に主人公くんちゃんのエモーションが臨界点に達するのをトリガーにして、過去や未来にタイムリープする5話オムニバスのような構成になっています。
第一話は中年男に姿を変えた飼い犬ゆっこ(吉原光夫)が、くんちゃんが生まれる前は自分がこの家の主役だったと告げる。第二話は植物館のドームで中学生になった妹の未来との出会い。第三話は傲慢で散らかし屋だった母親の少女時代(雑賀サクラ)へ。第四話は戦後間もなく曾祖父(福山雅治)に根岸競馬場跡まで馬とオートバイに乗せてもらう。第五話は十数年後の自身(畠中祐)に導かれ未来の東京駅で迷子に。
冬の日、息で曇らせた冷たい窓ガラスを掌で拭う冒頭のシーンから、ホワイトアウトした真夏の光線まで、現時点におけるアニメーション表現の到達点をさりげなく見せつけられます。最も興奮するのは、第五話の東京駅のホログラム化した時刻表とエピローグのファミリーツリー内部のインターステラー的デジタルアーカイブ感で、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』の上位互換として、僕が細田守作品に求めるのはそこなんだなあ、と実感しました。
上記過去作と異なるのは、タイムリープやバーチャルファイトの背景にあった切迫感が無いことで、今作ではあくまでも主人公の妄想を補強する役割に徹しています。その意味で描かれる世界が小さくなったという批判的な意見が出るのもきっと監督には想定内なのでしょう。
終盤に祖母(宮崎美子)の言う「そこそこで充分。最悪じゃなきゃいいの」という台詞は監督が実体験から得た育児論でもあり、今作以降の映画作法でもあるのだと思います。興業収入云々よりも、自分の身の周りのことを丁寧に精緻に描くのだ、という宣言と受け取りました。
2018年8月17日金曜日
追想
8月とは思えない湿度の低さ。TOHOシネマズシャンテでドミニク・クック監督作品『追想』を鑑賞しました。
イアン・マキューアンが2007年に発表した小説『初夜』(原題: On Chesil Beach)を原作者自身が脚色し、シアーシャ・ローナン主演でBBCが映画化した作品です。
チェジル・ビーチは英国南部のリゾート地。1962年初夏、エドワード(ビリー・ハウル)とフローレンス(シアーシャ・ローナン)はEメジャーのブルース進行について語り合いながら足元の不安定な玉砂利を踏んで長い海岸線を歩いて行く。ふたりは海の見えるホテルで新婚初夜を迎えようとしている。
歴史学者を目指すエドワードは労働者階級。母親(アンヌ=マリー・ダフ)は事故で脳に損傷を負い奇行を繰り返す。妹は双子。弦楽四重奏団の第一ヴァイオリン奏者フローレンスは経営者の長女。ボーダーのワンピースにピースマークの缶バッジをつけている。大学の反核兵器集会で出会ってお互いに一目惚れ。初恋同士だった。
出会った日にタンポポの花を摘んでフローレンスに贈るエドワード、河畔のピクニック、夏休みのエドワードのバイト先のクリケット場に最寄駅から11キロ歩いて会いに来るフローレンス、随所に挿入される恋愛時代のエピソードがどれも甘美で輝かしく、新婚初夜のぎこちない二人の緊張感を際立たせる。
小さな失敗を許し合うことができず結局6時間しか続かなかった結婚。お互いのコンプレックスを気づかうことができないばかりか、自分自身のこともよく理解していない若さ、幼さ故のすれ違い。そこはさっさと謝っちゃえよ! と何度画面に向かって思ったことか。でもそれは歳月を経て得たもので同じ年頃の自分を想うと痛い記憶は多々あります。
水平線を目一杯活かすロングショットを多用したイギリス映画らしい静謐な画面構成。モーツァルト弦楽五重奏曲第五番ニ長調K. 593を基調としながら、チャック・ベリーからT.REXまでロックンロールナンバーを散りばめたサウンドトラックが不変の愛と時代の移ろいを象徴している。そしてシアーシャ・ローナンは明るいブルーのセットアップが似合って大変美しいです。
イアン・マキューアンが2007年に発表した小説『初夜』(原題: On Chesil Beach)を原作者自身が脚色し、シアーシャ・ローナン主演でBBCが映画化した作品です。
チェジル・ビーチは英国南部のリゾート地。1962年初夏、エドワード(ビリー・ハウル)とフローレンス(シアーシャ・ローナン)はEメジャーのブルース進行について語り合いながら足元の不安定な玉砂利を踏んで長い海岸線を歩いて行く。ふたりは海の見えるホテルで新婚初夜を迎えようとしている。
歴史学者を目指すエドワードは労働者階級。母親(アンヌ=マリー・ダフ)は事故で脳に損傷を負い奇行を繰り返す。妹は双子。弦楽四重奏団の第一ヴァイオリン奏者フローレンスは経営者の長女。ボーダーのワンピースにピースマークの缶バッジをつけている。大学の反核兵器集会で出会ってお互いに一目惚れ。初恋同士だった。
出会った日にタンポポの花を摘んでフローレンスに贈るエドワード、河畔のピクニック、夏休みのエドワードのバイト先のクリケット場に最寄駅から11キロ歩いて会いに来るフローレンス、随所に挿入される恋愛時代のエピソードがどれも甘美で輝かしく、新婚初夜のぎこちない二人の緊張感を際立たせる。
小さな失敗を許し合うことができず結局6時間しか続かなかった結婚。お互いのコンプレックスを気づかうことができないばかりか、自分自身のこともよく理解していない若さ、幼さ故のすれ違い。そこはさっさと謝っちゃえよ! と何度画面に向かって思ったことか。でもそれは歳月を経て得たもので同じ年頃の自分を想うと痛い記憶は多々あります。
水平線を目一杯活かすロングショットを多用したイギリス映画らしい静謐な画面構成。モーツァルト弦楽五重奏曲第五番ニ長調K. 593を基調としながら、チャック・ベリーからT.REXまでロックンロールナンバーを散りばめたサウンドトラックが不変の愛と時代の移ろいを象徴している。そしてシアーシャ・ローナンは明るいブルーのセットアップが似合って大変美しいです。
2018年8月16日木曜日
カメラを止めるな!
時折吹く風に夏が後半に入ったのを感じます。TOHOシネマズ日比谷で上田慎一郎監督作品『カメラを止めるな!』を観ました。
元浄水場の廃墟でインディーズのゾンビ映画を撮影中。「君に死が迫ってる。本物の恐怖があったか? 出すんじゃなくて、出るんだ!」。一所懸命な主演女優(秋山ゆずき)の芝居に切れる監督(濱津隆之)。仲裁に入るメイクさん(しゅはまはるみ)。主演俳優(長屋和彰)と女優は恋人同士。そこに本物のゾンビが現われパニックに。
昨年11月の公開時の上映館は新宿K's cinemaと池袋シネマロサという渋めのミニシアター2館のみ。現在は全国180館以上に拡大し、僕が観た回も1000席以上の大箱が満席でした。この夏最大のヒット作と言ってもいいでしょう。
こういうコアな拡がりを見せる作品って、近年はタイムラインだけでお腹一杯で、怒りのデスロードもズートピアもバーフバリも観ていない残念な僕ですが、この映画を観ようと思ったのは、たまたまTOKYO MXの情報バラエティ番組に監督が出演しているのを観て、そのあまりに楽しげな様子に心打たれたからです。
そして実際作品も楽しかったし、登場人物たちのポンコツさに大爆笑して、家族の物語にちょっとだけホロっとして、前半の「え、ここは笑うところ?」みたい微妙なシーンも後半見事に伏線回収され、最後はすっきりしました。
ヒロインは白のタンクトップとか、ホラー映画の定型もしっかり押さえられていて、いやむしろテンプレがあるがこその自由度というか、予算も含め、映画制作に関わるすべての制約を裏返しにする情熱とスピード感がある。撮影は8日間で終えたそうです。
卒業制作の低予算映画で世界的ヒットになったといえば、ジム・ジャームッシュ監督の『パーマネント・バケーション』を思い出します。あるいは映画製作にまつわる悲喜劇を多数撮ったフェリーニやウディ・アレン。上田監督もいずれそんな風になっていくのかな、と思います。
元浄水場の廃墟でインディーズのゾンビ映画を撮影中。「君に死が迫ってる。本物の恐怖があったか? 出すんじゃなくて、出るんだ!」。一所懸命な主演女優(秋山ゆずき)の芝居に切れる監督(濱津隆之)。仲裁に入るメイクさん(しゅはまはるみ)。主演俳優(長屋和彰)と女優は恋人同士。そこに本物のゾンビが現われパニックに。
昨年11月の公開時の上映館は新宿K's cinemaと池袋シネマロサという渋めのミニシアター2館のみ。現在は全国180館以上に拡大し、僕が観た回も1000席以上の大箱が満席でした。この夏最大のヒット作と言ってもいいでしょう。
こういうコアな拡がりを見せる作品って、近年はタイムラインだけでお腹一杯で、怒りのデスロードもズートピアもバーフバリも観ていない残念な僕ですが、この映画を観ようと思ったのは、たまたまTOKYO MXの情報バラエティ番組に監督が出演しているのを観て、そのあまりに楽しげな様子に心打たれたからです。
そして実際作品も楽しかったし、登場人物たちのポンコツさに大爆笑して、家族の物語にちょっとだけホロっとして、前半の「え、ここは笑うところ?」みたい微妙なシーンも後半見事に伏線回収され、最後はすっきりしました。
ヒロインは白のタンクトップとか、ホラー映画の定型もしっかり押さえられていて、いやむしろテンプレがあるがこその自由度というか、予算も含め、映画制作に関わるすべての制約を裏返しにする情熱とスピード感がある。撮影は8日間で終えたそうです。
卒業制作の低予算映画で世界的ヒットになったといえば、ジム・ジャームッシュ監督の『パーマネント・バケーション』を思い出します。あるいは映画製作にまつわる悲喜劇を多数撮ったフェリーニやウディ・アレン。上田監督もいずれそんな風になっていくのかな、と思います。
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