台北の小学校の卒業式、6年生代表の答辞と仰げば尊しの合唱から映画は始まる。台湾の新学年は9月からなので、卒業式の翌日に夏休みが始まります。
小学校を卒業した冬冬(王啓光)と幼い妹の婷婷(李淑楨)は、父(楊徳昌)とともに、母(丁乃竺)の病室を訪ねる。消化器系疾患の手術をする夏休みの間、銅羅で病院を営む母方の祖父(古軍)の家に兄妹は預けられる。迎えに来た叔父(陳博正)は、別の駅で恋人(林秀玲)を見送る間に電車を逃し、冬冬と婷婷はふたりきりで銅羅駅に降り立つ。叔父を待つ間、台北から持参したラジコンカーで遊んでいた冬冬は地元の子どもたちとすぐに打ち解け、ラジコンカーを亀と交換する。
台湾ニューシネマの旗手であり、その後多くの国際映画祭の常連となる巨匠で、2023年に引退した候孝賢監督の1984年作品のデジタルリマスター版のリバイバル上映です。
思春期手前の少年が田舎で出会う同世代や大人たちから受け取り、また自身でつかみ取る何か、言葉では形容しがたい経験と認識を優しく描いています。子どもたちが都会のおもちゃ欲しさに一様に亀を差し出したり、川遊びで仲間外れにされた腹いせに婷婷に服を流され下半身に芋の葉を巻いて全速力で帰宅したり、叱られて正座させられたままうつぶせに眠ったり、笑えるシーンも多々ありますが、おそらく知的障害を持つ若い女性ハンズ(楊麗音)の存在が物語に豊かな陰影をもたらしている。懐かしくも心温まるバケーションムービーです。
『台湾巨匠傑作選2024』で観たエドワード・ヤン(楊徳昌)監督の『台北ストーリー』は、候孝賢監督が主演していましたが、本作は逆にエドワード・ヤン監督が主人公兄妹の父親役を演じています。
母親の病気により田舎暮らしをする子ともたち、幼い妹が見つからず家族総出で探すシーンなど、いくつかのエピソードは1988年公開の『となりのトトロ』に影響を与えていそうです。エンドロールで山田耕筰作曲の「赤とんぼ」が流れると一気に山田洋次感が出ました。
0 件のコメント:
コメントを投稿