2010年11月14日日曜日

石渡紀美詩集 1999-2009

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
明日。信用のならない、すてきなやつ。だけど、いつまでたっても今日しかなくって、明日なんて来たためしがなかった。石渡紀美「マザーレス マザーフリー」より
 
TKレビューに2度ゲスト出演してもらっている石渡紀美さんは10年来の友人で、初期の頃には、二人で武蔵野美術大の学園祭に呼ばれて朗読したときのお客さんが猫一匹なんてこともありました。
 
今年7月の東京ポエケットでお会いした際に「そろそろ作品まとめておいたら?」なんて話をしたのですが、それが今回プリシラ・レーベルから2冊の詩集となって発刊されるはこびとなりました。
 
メジャーデビューアルバムがいきなり二枚組ベスト盤みたいな感じになっていますが、過去十年間に書かれた膨大な作品群から厳選した、質・量ともに自信を持ってお勧めできる内容になっています。
 
猛暑の8月、下北沢のベトナム料理店で原稿をお預かりしてから、2か月程掛けて丁寧に装幀しました。画像だと伝わりづらいですが、表紙と本文の紙質にもとことんこだわっていることは、一度お手に取ってもらえればわかっていただけると思います。
 
発売は2010年11月23日(祝)東新宿 music bar LOVE TKO で開催され、石渡さんが主催者の一人で出演もする朗読イベント『まーまーま2』にて。その後、店頭販売予定。どうぞよろしくお願いします!
 
・石渡紀美詩集 1999-2009 上 つぎの十年
・石渡紀美詩集 1999-2009 下 あたらしいおんがく
 
2010年11月23日発売 各500円
著者 石渡紀美
装幀 カワグチタケシ
発行 プリシラ・レーベル
 

2010年11月6日土曜日

NHK音楽祭2010

11月ですね。11月は一年で一番好きな月。ツイードと図書館と落葉の11月。そして、11月に一番似合う音楽はブラームスだと思います。

というわけで、秋晴れの渋谷公園通りを上り、NHKホールまで。音楽祭2010、指揮アンドレ・プレヴィン、演奏NHK交響楽団、演目はブラームスの 交響曲 第3番 ヘ長調 作品90、交響曲 第4番 ホ短調 作品98の2曲です。

結構長生きした割に、もともと4曲しかないブラームスの交響曲ですが、いずれも異なるコンセプトを持つ名曲揃い。特に3番は大好きで、さっき数えたらこの曲だけでCDを9枚持っていました。

プレヴィン氏については、1970年代にロンドン響と録ったチャイコフスキーのバレエ音楽を愛聴しており、華麗で正確、輪郭クッキリという印象を持っていたのですが、40年の歳月が音楽に重厚さを加えていました。

1929年生まれのプレヴィン氏は81歳。足元が若干覚束なく、椅子に座っての指揮でした。テンポも幾分スローなものでしたが、オーケストラをよく歌わせて、巨匠オーラ全開。N響もこれによく応え、特に流麗で重層的な弦楽器の演奏はとてもブラームスらしくてよかったと思います。

席が前から2列めで、ちょうどヴィオラとコントラバスの前(というより真下)だったので、低音絃の響きを間近に体感することができたのも楽しかったです。

終演後、ロビーに緒川たまきさんが。とてもきれいでした。
 
 

2010年10月16日土曜日

クラシックへの扉

高い秋空に鱗雲が綺麗に拡がる土曜日の午後、隅田左岸のワイルドサイド、不思議タウン錦糸町へ。すみだトリフォニーホール新日本フィルハーモニー交響楽団の『新・クラシックへの扉 第9回 土曜午後2時の名曲コンサート』を鑑賞しました。

演目は、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ニ長調op.61と交響曲第6番ヘ長調「田園」op.68。あまたあるベートーヴェン作品のなかで特に軽快な曲調の2曲、指揮者は下野竜也、ソリストは徳永二男です。

このシリーズはチケットが1,500円からと、とてもお得なのですが、値段以上に楽しめました。ラ・フォル・ジュルネの影響なのでしょうか、安価なコンサートが増えることは喜ばしいことです。

演奏そのものもよかったのですが、無料のプログラムが女子のハンドバッグにも収まるA5サイズだったり、出演者一覧というステージ配置に演奏者名全員が記載されている紙が折り込まれていたりと、細かいところに気配りがあって、すばらしいなと思いました。

総じて木管の演奏が安定していて安心して聞けましたが、田園2楽章の重松希巳江さんのクラリネット演奏が美しかった、なんて言うことができちゃうわけですよ、出演者一覧があるおかげで。

毎月開催されるこのシリーズ、次は12月のボロディン、シベリウス、チャイコフスキーの回に行く予定。いまから楽しみです。
 

2010年10月10日日曜日

ききみみ

以前句会@フィクショネスでよくごいっしょさせていただき、いまは北九州で古本や檸檬を営んでいらっしゃる村田もも子さんから、東京でグループ展を開くご案内をいただきました。会場のギャラリー彦は西荻窪のぷあんのご近所。 東京リーディングプレスの編集スタッフをしていたころにさんざん通った街です。

会場に着くとアンティークの着物を着た町娘のような村田さん(左利き)が、2年前と変わらない、可憐な笑顔で迎えてくれました。

刈屋サチヨさんの鮮やかな色彩としっかりした描線のアクリル画、 志村雪菜さんのやさしい色調の絵具を直接段ボールに乗せた平面作品、そして村田もも子さんの俳句によって今回の『ききみみ』展は構成されています。

色彩豊かなふたりの絵画に並んで村田さんの作品は、一句ずつリングメモにプリントされて、ピンで壁に留められています。視覚的には紙の白とインクの黒しかないのですが、俳句ひとつひとつの言葉に、それぞれの季節の温度や湿度、光と影、音や匂いが感じられて、小さなギャラリーの空間に、一見控えめではありますが、確かな陰影を添えています。句会@フィクショネスで選んだ句もいくつかあり、懐かしい気持ちになりました。

 夕闇の白木蓮宇宙此処にあり
 彼の宙へ交信してをり時計草
 ほの温きアスファルト背に流星夜
 黒猫がビロード纏う星月夜

村田さんの地動説的なコンセプトの句が好きです。タイトルの『ききみみ』は昔話の「聞き耳頭巾」から採ったそう。その頭巾をかぶると動物や鳥の言葉が理解できるというお話です。同時リリースされた文庫サイズの句集『ききみみ手帖』もチャーミング。イラストを刈屋さん、編集と装丁を志村さんが手がけています。 東京では、千駄木の古書ほうろう、下北沢フィクショネスで発売中とのこと。

同級生三人のグループ展は明日まで開催。三連休の最終日、訪ねてみてはいかがでしょう。素敵に甘酸っぱい気持ちになりたい方には特におすすめです。

 

2010年10月9日土曜日

十三人の刺客

ユナイテッドシネマ豊洲で、三池崇史監督作品『十三人の刺客』を鑑賞。 雨だし、公園でお弁当ってわけにもいかないので、映画でも。という軽い気持ちで観に行ったのですが、圧倒されました!

1963年の工藤栄一監督、片岡千恵蔵主演映画を役所広司主演でリメイク。 人物造型、心理描写、衣装とメイクアップのリアリズム、スピーディで簡潔な演出と息をもつかせぬアクション、照明、カメラ、音声、いずれも高水準で、しかも調和のとれた150分間の極上痛快時代劇エンターテインメント。 残虐なカットも多数ありますが、しっかりとしたストーリーのなかに必然性を持って組み込まれているので、目を背けることができませんでした。

武士の生き方、死に方なんていうのには、まったく共感できるものはありませんが、そのあたりを伊勢谷友介演じる木賀小弥太にさりげなく代弁させる念の入りよう。恐れ入りました。オリジナル版では山城新吾が演じていたというこの小弥太というキャラ。山でうさぎや昆虫を食べて暮らしている野生児なのですが、斬られても斬られても蘇る、妖精のような存在で、物語に不思議な深みを添えています。

ラスト30分以上に及ぶ殺陣。このシーンにBGMを重ねて盛り上げず、人の声と刀の音だけで構成した音声で、戦闘のリアルさ、刀傷の痛みがよく伝わってきます。市村正親松本幸四郎平幹二郎のベテラン勢、悪役の稲垣吾朗、みんなよかったですが、特に松方弘樹の俊敏で華やかな殺陣はさすがの貫録でした。

それから、古田新太。戦隊モノでいえば食いしん坊イエロー役。時代劇だとやっぱり槍の使い手ですよね。

オリジナル版もぜひ観てみたいです。
 

2010年10月3日日曜日

共鳴/残響

雨の予報が外れて秋晴れの日曜日の夜、下北沢のleteさんへ。楽しみにしていたtriolaのワンマンライブ"Resonant"を鑑賞しました。

伝統的なロマの音楽を思わせる哀愁を帯びた旋律とゴリゴリとしたリフに近未来的なアナログ機器が発するオーガニックなノイズがせめぎ合う美しい音楽。古い木造家屋のような会場全体が共鳴して、あたかもジョセフ・コーネルの箱作品の内部に迷いこんだかのようでした。

十代の頃はパンクバンドでドラムを叩いていたという波多野敦子さんのヴァイオリンは完全なタテノリ。そこにクラシックの正確なタイム感を持つ手島絵里子さんのヴィオラが絡み、その僅かなズレが強力なグルーヴを生み出します。

その姿はまるで、繊細で自由奔放な妹(波多野さん)を見守る優雅で落ち着いた姉(手島さん)という、理想の姉妹像を見るよう。見て聞いて、幸せな気持ちになりました。

次のワンマンライブは12月8日水曜日に同じく下北沢leteで。その後、関西ツアーも計画中とのこと。もっと大勢の人に体験してもらいたい音楽だと思います。
 

2010年9月26日日曜日

アーリー・オータム

秋晴れの日曜日、JR横須賀線で東京駅から1時間、逗子駅で京急バスに乗り換えて15分。森戸神社の参道にあるcafe griotさんで開催されたフリースタイルのオープンマイクBOOKWORMに参加しました。

少し早く会場に着いたので、浜辺を散歩。以前このあたりに室矢憲治さんが住んでいたころ何度かお宅にお邪魔したり、海の家OASISでポエトリー・リーディングをさせてもらったりと懐かしいところ。1997~1998年ごろのお話です。

以前のBOOKWORMに関するエントリーでも、この会は不思議な符合が生れることがある、と書きましたが、今日は「リチャード・ブローティガン」「ジェームズ・ブラウン」。cafeの2階のくつろげるスペースの開け放った窓からは子どもたちの歓声と時折トンビの鳴き声が。

どのお話も面白く、興味深く聞けましたが、遠藤コージさんの久々の今月のボブ・ディラン「スペイン革のブーツ」、青柳拓次さんのお嬢さんが舞台に上がってきてしまう話などが特に印象に残りました。そして言葉だけでなく、音楽が聴けるのもこの会のステキなところ。今回はひさしぶりに聴いたポスポス大谷さんの喉歌、よかったです。

僕は、生前森戸に住んでいた詩人堀口大學(1892-1981)が訳したフランスの詩人ジュール・シュペルヴィエル(1884-1960)の「無神」という作品を紹介しました。犬を二匹連れて宇宙をさまよう人の詩です。