2022年1月2日日曜日

ディア・エヴァン・ハンセン


舞台は現代のニューヨーク州郊外。ハイスクール3年のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は、うつと社会不安障害で投薬を受けている。クラスにも馴染めず「離れて見ている僕/変われるだろうか」と歌う。部屋の壁にレディオヘッドベン・フォールズのポスターを貼っています。

エリソン公園でインターン中に木から落ちて骨折した左腕のギプスに唯一サインしてくれたコナー・マーフィー(コルトン・ライアン)は薬物依存で暴力的なクラスの嫌われ者。

セラピーの宿題で書いた「ディア・エヴァン・ハンセン」で始まる自分への励ましの手紙をコナーに奪われる。コナーが自死したときポケットに入っていた手紙を読んだ両親は、エヴァンを死んだ息子の親友だと勘違いする。自身の気の弱さと遺族の悲嘆を前にエヴァンはそれを否定することができず、クラスメイトやSNSを巻き込む大事になっていく。

2017年のトニー賞を受賞したブロードウェイミュージカルの映画化です。配達員に言う適切な言葉がわからないからUber Eatsを頼めない主人公エヴァン。空気を読めずに失敗することを何より恐れる十代の姿は日米共通だと思います。

そんなエヴァンが亡きコナーの言葉としてはじめて本音を言えるようになる。それは嘘から始まったが、周囲を感動させ、ムーブメントを起こし、密かに恋心を抱いていたコナーの妹ゾーイ(ケイトリン・デバー)と気持ちが通じ合う。

現実とは違い、映画のなかでは嘘は必ず明かされ、主人公はなんらかの罰を受け、事態の収拾を観客から求められる。本作では意識高い系のクラスのリーダー、アラナ(アマンドラ・ステンバーグ)がコナーを忘れないために果樹園を再興するクラウドファンディングを立ち上げます。そのことでコナーの両親は救われるので、発端が嘘であっても、良い結果は否定したくないな、と思いました。それよりも、死んだ途端に故人を善人枠に入れる世間の風潮には反発を感じるし、遺族全員が善良とは限らない。コナーの家族も嘘を望んだのではないでしょうか。

ミュージカル映画ではありますが、豪華絢爛な群舞や大合唱はこの映画にはありません。基本はアリアで、特に主人公エヴァンの怯えや不安を表現したベン・プラットの歌唱は見事です。また、エヴァンがジャレット(ニック・ドダニ)と書いたコナーとの偽のEメールのやりとりのシーンのデュオ歌唱とダンスは楽しく、メールの書き直しを楽曲のアレンジに落とし込む演出は新しかったです。

 

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