梅雨の晴れ間という呼ぶには真夏過ぎる土曜日の午後。白山の名店、JAZZ喫茶映画館で。Pricilla Label presents 小夜1stアルバム『無題/小夜』リリースライブ「やがて、ひかり」が開催されました。
最近は詩集やエッセイ集など印刷物の出版ばかりでしたが、プリシラレーベルは1998年にポエトリーリーディングのカセットテープ制作からスタートした会社。前のエントリーでもご紹介した通り、10年ぶりのCDリリースに至ったのは「これを世に問いたい」と心から思えるものに出会えたからです。
とはいえ、小夜さんとは15年来の友人であり、ずっと信頼すべき詩人のひとりです。近年の彼女のパフォーマンスに、研ぎ澄まされた集中に加えて意識の拡がりが生れた。このタイミングで記録しておきたいと思いCDを制作しました。
ライブ前半はテーブルにマイクをセットした校内放送スタイルで(笑)、自作の詩と彼女が敬愛する詩人のカバーを半分ずつ。最初の詩の一行目から満員の会場の空気を掌握しました。僕はPAをしながら、小さくて泣いてばかりいた少女がいつのまにか大人の詩人に成長した姿に静かに感動していました。
後半は店の中心に立てたヴィンテージマイクの前、スタンディングで(画像)。CD『無題/小夜』の全7篇を収録順に。MCはほとんど挟まず、若干の手ぶりを加え、行間に壁時計の振り子の規則正しく柔らかな音色をたっぷりと響かせて。その声と姿は、客席の視線を一身に集めていました。
「ゆうべ/夜はふるふるとして/からだをきつくまるめたまま/部屋の隅に落ちていた」(ゆうべ、夜は)、「もう戻っては来られないかもしれないと/親指のはらで中指をさすった」(Re.)、「雲がうごくたびに遠い記憶が降りてきて彼女がみみもとに口を寄せる。くちびるのかたちがみみに伝わりわたしはひどく泣きそうになる。」(いつか、ひかりの)。
彼女の詩には、わかりやすいメッセージも、キャッチーなリフレインもない、たちどころに共感を得る種類の詩篇ではありません。でもそこにはリアルな皮膚感覚が存在します。それが声に出されることで震えを伴って人々の耳に届くときに再生される我々聴き手の触覚。その共感覚が会場の空気を満たす。
JAZZ喫茶映画館さんは特別なサムシングのあるお店。それは何十年ものあいだここで交わされた言葉や鳴らされた音楽たちが深く浸み込んでいるからだと思います。今日の朗読会もその歴史のヒトコマとなり、またこの場所にいたひとりひとりの記憶に刻まれる一日になったのではないかと思います。
CD『無題/小夜』は小夜さんのライブ会場のほか、千駄木の古書ほうろうさん、日暮里の古書信天翁さんの店頭でもお買い求めいただけます。弊社の社運を賭けた一枚でございます(笑)。是非!
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